Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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Fate/stay night
Phase.1


 

 

 10年前までは住宅街であったこの場所は、突如として発生した大火災によって壊滅的な被害を受け、その後市民公園へと変わった。

 

 昼間などは、子どもたちで賑わっている公園であり、まだ深夜とは言えないこの時間にも人はいる。しかし、今日に限っては、二人しかいない。

 

 その内の一人、桜卯琴音は公園内のとある場所で、融かした宝石を用い魔術陣を描いていた。一般人が見れば、変人認定されるような光景ではあるが、元々この辺り一帯には人払いの魔術を掛けてあるので、問題はない。

 

 残る一人である間桐慎二は、その行為を手伝うわけでもなく、ただ見ていた。

 

『よし。これで完成かな。ねえ、慎二君。こんな夜にまで付き合わなくてもよかったんだよ?』

 

 どこか普通の声とは違うように聞こえる声が慎二に向けて発せられる。

 

「何を言ってるんだ? 琴音を一人にできるわけがないだろう? それに僕だって魔術師だ。サーヴァントの召喚を見てみたいしね」

 

『あ、うん、そう。じゃあ、もうちょっと離れててくれる? もしかしたら危ないかもしれないから』

 

「分かった」

 

 慎二が魔術陣から十分に離れたのを確認すると、琴音は手に持っていた本を魔術陣の中央に置き、目を閉じて詠唱を唱え始める。

 

Dico(告げる).

 Tu es tantum sub(汝の身は我が下に),

 fate est tua fistula(我が命運は汝の剣に).

 Sequiturin loco ad Sanctum Grail(聖杯のよるべに従い),

 hanc(この意),

 si hac administrarione vivere usque(この理に従うならば応えよ)

 

 歌っているかのような詠唱に、慎二は鳥肌が立っているのに気づく。琴音が発する言語の意味を慎二は理解できない。彼は魔術師の家系ではあるが、魔術を使えない。そのため、既に学術名などにしか用いられないラテン語を聞き取ることはできない。

 

Hic sacramentum(誓いを此処に).

 Quis longe facti sumus omnium bonorum(我は常世総ての善と成る者),

 quis longe facti Simus mali distant(我は常世総ての悪を敷く者)

 

 完成された詠唱は、それだけで一つの芸術である。その言葉の響きは、魔術とは何の関係もない人にすら、何らかの感情を呼び起こすような、そんな旋律を奏でる。

 

 そして、琴音が思い浮かべるのは、一人の人物。10年前に、『魔法』を自分に初めて教えてくれた少年。黒い髪に黒い目をして、どこか悲しげな感じがしていた少年。

 

 彼にもう一度逢いたい。その思いを胸に、定められた最後の一節を読み上げる。

 

Septem caelum induit in potentia verbum tuum tres magna(汝三大の言霊を纏う七天),

 ex circuli de deterrence(抑止の輪より来たれ),

 nos defensores in statera(天秤の守り手よ)!』

 

 詠唱は完成した。あとは、彼が出てくるのを待つだけ。琴音はゆっくりと目を開け、魔術陣の中央に立っている人物を見る。

 

 そこには、あの時から少し成長した、彼の姿があった。

 

「問おう、君、というよりも琴音ちゃんがボクのマス」

 

 そのサーヴァントは最後まで言うことができなかった。その途中で、琴音が飛び込んできたのだ。

 

『……リク君! ずっと、ずっと逢いたかった!!』

 

「大きくなったね、琴音ちゃん。泣いちゃだめだよ。最後まで続けてから。…………さて、もう一度」

 

 リクと呼ばれたサーヴァントは一度咳払いをして、再び言い直す。

 

「問おう、汝が我がマスターであるか」

 

『私があなたのマスター、桜卯琴音。これからよろしく』

 

「ボクはキャスターのサーヴァント。よろしく」

 

 契約が完了したことにより、右手の令呪が紅く輝く。

 

「さて、ボクを()()()()()で呼べるくらいに成長したんだね。さすが!」

 

『あ、ありがとう。……でも転移魔術は使えないよ?』

 

「まあ、あれが使えちゃったら色々問題になるだろうし、いいんじゃない? ところで、あそこにいるのは?」

 

 キャスターが指差した先には、空気と化していた慎二の姿があった。

 

 サーヴァントの召喚に見惚れていたのだろうか、ぼんやりと虚空を見つめているようにも見える。

 

『慎二君はね、私の……あの……その……』

 

 琴音は顔を紅くしながら下を向いてしまった。その反応から答えを察したキャスターは、ニヤニヤした笑みを浮かべる。元々悪戯好きであるキャスターは琴音にそっと耳打ちをした。

 

『あ、……あわわわわわ……Ventus, quis cecinit(風よ、彼を吹き飛ばして)!』

 

 琴音の顔は更に紅くなり、照れからなのか、無意識に魔術を発動させ、キャスターを吹き飛ばそうとした。だが、不意打ちであってもそこはサーヴァント。魔術を見切り、吹き飛ばされることは無かった。

 

 このまま観察を続けていてもいいのだが、取り敢えず甘いものが食べたくなったキャスターは琴音を落ち着かせ、話を進めることにした。

 

「からかって悪かったよ。で、これからどうする? 多分まだサーヴァントは全騎揃ってないよ?」

 

『……じゃあ、いったん帰ろっか。一応士郎には慎二君の家に行くから帰りは遅くなるって言ってあるし……』

 

「じゃ、さっさと行こう。ボクは甘いものが食べたい」

 

 未だ固まったままの慎二を引きずりながら、琴音とキャスターは近くにあるコンビニに向かった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 衛宮士郎は頭を抱えていた。

 

 学校と自宅でのランサーの襲撃をどうにか乗り切った士郎は、目の前のセイバー、そして遠坂凛の説明を聞き、ようやくこれが聖杯戦争であることを理解した。

 

 切嗣から聖杯戦争というものがあるということは聞いてはいたが、周期が違う。それに、未熟な魔術師である自分が選ばれたのは何故なのか理解できなかった。

 

 加えて、今の時刻。今まで通りであれば、もうそろそろ琴音が帰ってくる時間である。琴音は凛と友人であるので特に説明はいらないだろうが、セイバーに関してはどうすればいいのだろうか。それに、琴音は自らが魔術師であることを士郎と慎二以外には明かしていない。帰ってくるなりいきなり魔術を使うようなことはないだろうが、凛に魔術師であることがバレてもいいのだろうか?

 

 そんな考えが、士郎の頭の中を占めていた。

 

「ねえ、衛宮君。私の話聞いてた?」

 

「あ、いや……悪い。全然聞いてなかった」

 

「あ、そう。そういえば琴音は居ないの?」

 

「もうそろそろ帰ってくるはずなんだが…………」

 

 そんな話をしている時だった。玄関が開く音が聞こえ、琴音が帰ってきた。

 

『ただいまー。……って、あれ? 凛ちゃん?』

 

「あら、お帰りなさい、琴音。それより、その声は何?」

 

『あー、ごめんね、凛ちゃん。言うの忘れてた。私、魔術師なんだ』

 

 士郎が悩んでいたことをあっさりと告白してしまう琴音。士郎は今まで悩んでいたのは何故だったのかと項垂れている。

 

 そこへ、更なる混乱を招く人物が入ってきた。

 

「お邪魔しまーす。あ、琴音ちゃん、これどこに置いとけばいい?」

 

『んー、取り敢えずテーブルの上にでも置いといてー』

 

 両手にレジ袋を提げたキャスターが堂々と姿を現し、凛の顔が引き攣る。

 

「ね、ねえ、琴音。あれって、サーヴァントよね?」

 

『うん。ていうことは、凛ちゃんもマスターなんだ。…………もしかして、士郎も?』

 

「ええ。で、今から戦う?」

 

『やだ。今日は疲れたから』

 

 疲れたからという理由で戦闘を拒否する琴音。元々戦う気のなかった凛は少しだけ安堵した。流石に二連戦はキツイのだろう。

 

 そして、件のサーヴァント、キャスターは、セイバーとの対面を果たしていた。

 

「あ、久しぶりだね、セイバーさん」

 

「あなたは、キャスター!? なぜここに!?」

 

「何でって……まあいいや。で、お菓子食べる?」

 

「……いただきます。どうやら今日は戦う気ではないようですし、私もあなたの性格を少しは知っています。どうせ今日はお菓子が食べたいから、といった理由なのでしょう?」

 

「正解! ま、戦うかどうかはマスター次第だけどね。あんまり兄妹で戦ってほしくないってのも理由かな」

 

 本当に敵同士なのかと疑いたくなるような会話をしながら、キャスターとセイバーはお菓子を食べる。そこに、お互いのマスターから声がかかった。どうやら、教会に行くようだ。

 

「面倒だなぁ…………よし、転移魔術で行こう! みんなこっち来てー」

 

 全員が近寄ったのを確認すると、キャスターは手を打ち鳴らし、魔術陣を敷設する。その展開速度は、さすがはキャスターのサーヴァントといったところか。

 

「凛ちゃん、教会を強く思い浮かべて。じゃないと、どっか変なところに飛んじゃうからね」

 

「分かったわ。……それにしても凄いわね。転移なんて魔法レベルのを簡単に使うなんて」

 

『うーん、やっぱり私には使えなさそうだなー』

 

「行くよ! transitus(転移)

 

 まるでその場には誰もいなかったかのように、魔術陣ごと彼らは消えていった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

「相変わらず出鱈目な能力だなあ、おい」

 

 黒い空間に声が響き渡る。誰の姿もないのに、声だけが聞こえる。

 

「しっかし、まあ、俺のクラスをやるっていったのに、結局正規のクラスに収まるとか、まあ、アイツらしいけどな」

 

「ま、そうでなきゃ面白くないよな」

 

「さあ、早く俺を壊してくれよ。ここにいるのも飽きちまったんだから」

 

「頼むぜ、ツェーン」

 

 

 

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