Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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Phase.3

 

 

「……寝ている君に言っても何も変わらないのは分かってる。でも、やっぱり僕は自分が許せないんだ。あの時、強引にでも君を振り向かせてはいけなかった」

 

 月明かりに照らされた部屋の中で、一人の男性が寝ている少女に懺悔をしている。少女の腕の中には、意識を失ってなお離すことのなかった一冊の本が抱かれている。

 

「…………僕のことを恨んでくれたって構わない」

 

『恨むなんてこの子がするはずないじゃない』

 

 今まで男性の声しかしなかった部屋に、女性の声が響く。目を凝らすと、月明かりに照らされている本が薄らと光を放っていた。

 

「君は?」

 

『私はSORA。この本に宿る……うーん何ていうんだろう? 分霊? 魂の欠片? まあ、そんな感じ』

 

「魔術師か?」

 

『厳密には違うけど、まあ、間違いってもない。この子は聖杯戦争でキャスターのマスターだったから。で、私はキャスターに造られた存在』

 

「この子が、マスターだったのか。道理で見つけられないわけだ。……この子が優しいことは知ってるよ。決して僕を恨むようなことはできないような、ね。でも、僕には責任がある」

 

『責任ねえ。じゃあ、一つ、私に教えて。聖杯は願いを叶えたの?』

 

「……わからない。あの火災が願いの結果なのか、あふれ出した泥のようなものの結果なのかがわからないんだ」

 

『ふーん。でも、あの火災程度が願いだったとしたら、かなり魔力に余剰分が出そうだね。すぐにでも次の聖杯戦争が始まるかも』

 

 どこか訳を知っているような声色だが、顔が見えないので判断のしようがない。そもそも、その声自体もどこから聞こえてくるのか分からない。360度どの方向からも聞こえてくるのだから。

 

「もし、そうなったとしても、僕にはもう打つ手はない。大聖杯のもとに仕込んだ仕掛けも60年の周期を見越したものだしね。それに、僕自身もそう長くはない」

 

『だったら、君の力を残せばいい。私がこの子を導く。使い方を間違わせることなく』

 

「僕の力は血塗られた力だ。そんなものこの子に与えるわけにはいかない」

 

『でも、その血塗られた力のおかげで、君はいままで生きながらえてきた。その事実は覆ることはないでしょ』

 

「どうしてそこまで僕の力にこだわる? 君が力を与えればいいんじゃないか?」

 

『……それが、この子の望みだから。幼いながらこの子は魔術がどういったものなのか知ってしまった。この子はこの年で既に立派な“魔術師”なんだよ』

 

 しばらく、沈黙の時間が続いた。聞こえるのは、幼い少女の穏やかな寝息だけ。

 

「……分かった。僕の持つ魔術刻印をこの子にあげよう。あの子には適応しなかったしね」

 

『今すぐじゃなくていいよ。私が実体化して刻印の移行ができるようになるまではあと2ヶ月くらい必要だからね』

 

「そうか。それと、土蔵のなかにアレも残ってる。できれば使ってほしくはないけど、使わざるを得なくなった時に使ってくれ」

 

『分かった。絶対に使い道を誤らせないよう約束する。だから、この子のことは任せて』

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

「傷口が塞がってる……?」

 

 一夜明けて回復した士郎は自分に傷がないことを不思議に思っていた。琴音が必死に回復魔術を掛けていたのは覚えているのだが、そのおかげなのだろうか。士郎は上手く回らない頭でそう結論付けた。

 

 ともかく、昨夜に大怪我をしたとはいえ回復しているのなら学校に行かねばならない。幸い、制服は二着持っていたので問題は無かった。

 

 取り敢えずは朝食を作らなければと自分を奮い立たせリビングへと向かう。琴音は料理が出来ないのだ。きっと座って待っているのだろうと思っていた。

 

 しかし、いざ到着してみるとテーブルの上には料理が並び、なぜか凛も一緒に食事を摂っていた。

 

「お……おはよう。なあ、これ、誰が作ったんだ?」

 

『キャスターだよ。もう動いても大丈夫なの?』

 

「大丈夫。なんか痛みもないし。琴音がやってくれたのか?」

 

『私じゃないよ? 勝手に治っていったの。キャスターは何か知ってるみたいだったけど教えてくれなかったし』

 

 回復魔術を掛けたのは琴音ではないらしい。それどころか勝手に治っていったとはどういうことだろうか。士郎はそれを疑問に思い、キャスターの姿を探すが、どうにも見当たらない。

 

「なあ、琴音。キャスターはどこ行ったんだ?」

 

『わかんない。朝ごはん作ったら散歩に行くって言って出かけちゃった』

 

「そっか」

 

 琴音も士郎も互いに家族を失い、もう失いたくないと思っている。そんな雰囲気が出ていたのだろう。凛は朝食を少し早めに食べ、いったん帰る準備をする。

 

「琴音、衛宮君。私は一旦家に帰るわ。ああ、今日は学校休みなさい。念のためにね」

 

「ああ、分かった」

 

『あ、凛ちゃん。私が魔術師だってバレちゃったんだし、この際だから言うね。多分私だったら凛ちゃんのお母さん治せるかもしれない』

 

「ほ……本当!?」

 

 凛の母親は、10年前の第四次聖杯戦争の際に酸欠による障害を負った。そのせいで、脳からの伝達信号に障害が発生し、意識の混濁及び下半身の麻痺症状が出ている。医学では治療が不可能でも、魔術でなら可能になる場合もある。特に、琴音の得意とする系統が回復・治癒であるため、その可能性も高い。

 

『多分。今までの私だったらできないかもしれないけど、今はキャスターもいるし。彼、治癒魔術が得意じゃないって言ってるけど、理論は知ってるから、それで大丈夫だと思う。もちろん、凛ちゃんにも手伝ってもらわないといけないけど』

 

「……それがわかっただけでもいいわ。でも、この話は聖杯戦争が終わったあとね」

 

『わかったよ、凛ちゃん。キャスターには理論残しといてって言っておく』

 

「ありがと」

 

 優雅にお礼を言った凛は、少し浮かれたような足取りで自宅へと向かっていった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 一方、朝食を作って家を出てきたキャスターは、霊体化して昨夜の戦闘の跡地に来ていた。

 

 目的はバーサーカーを連れたアインツベルンの魔術師の魂の匂いを覚えること。匂いさえ覚えてしまえばある程度の範囲内に相手が入ってくれば感知できる。

 

「やっぱり匂いは変わらない、か。感情があって、個性があっても人形である時点で同一の存在ということか」

 

『リクが悩むことは無いわ。あなただって被害者なんだから』

 

「違う。ボクは加害者だよ。彼らからしてみればね」

 

『そんなことはない! リクがいなかったら私は……』

 

「ありがとう。でも、ボクは自分の罪から逃げない。じゃないとランスロットに言ったことが嘘になっちゃうからね」

 

 見えない声との対話が終わり、静寂が訪れる。教会墓地であるこの場所に朝早くから訪れる者などほとんどいない。元々静かな場所ではあるが、昨日の戦闘によって地面は裂け、墓石もいくつか壊れてしまっており荒れ果てているため、立ち入り禁止の看板が掲げられていることも一因だろう。

 

「さすがにこれは直したほうがよさそうだね。……Move manet O terra, postulamus(地よ、我が求めるまま動け)

 

 実体化したキャスターの魔術に呼応するように地面の裂け目が塞がり、抉れた跡も元に戻っていく。それは、あたかも時間が巻き戻っているかのような光景だった。

 

 5分後にはすっかり元に戻った地面があった。さすがに墓石を元に戻すことはできないのか散らばってしまった欠片を集めているだけだが。

 

 魔術の行使が終わってからもしばらくの間キャスターはその場から立ち去ることはなかった。

 

 その表情からキャスターが何を思っているのかはわからない。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 結局放課後になってもキャスターは帰ってこなかった。

 

 念のため学校を休んだ士郎が姿を見ていないというのだから本当だろう。おそらく琴音が呼びかければすぐにでも現れるのだろうが、特に差し迫った用事があるわけでもないので、自然に帰ってくるのを待つことにした。

 

 琴音はいつも通り水を操って魔術の鍛錬をしている。コップ一杯程度の水だが、文字を作ったりいくつかに分けたりと色々なことをしている。

 

「本当に魔術師だったのね」

 

『凛ちゃん、信じてなかったの? サーヴァントだって召喚したんだよ?』

 

「あー、確かにそうだけどさ」

 

『信じてくれなかった凛ちゃんにお仕置きだね。Ventus, inflantur(風よ、吹き上げて)

 

「ちょっ、何を!?」

 

 凛を中心に少し強めの風が吹き上げる。当然、凛の履いているスカートは捲れ上がるわけで……。

 

『ふむ。赤か』

 

「…………」

 

 そして、偶然にもそれを見てしまった士郎は首が鳴るほどの勢いで後ろを向く。だが、その行動は見ましたと言っているようなものだ。そして、それに気づいた凛は無言で士郎に近づき、腹に一発拳をぶち込んだ。

 

「……ぐっ…………」

 

「わ、忘れなさい!!」

 

「ゴメン! 分かった! 分かったから! 忘れるから!」

 

 土下座しながら、もう一発は殴られたくないと士郎は必死に謝る。それを見て笑っている琴音だったが、そもそものきっかけを作ったのは彼女である。凛から怒りの矛先を向けられるのはもうすぐだ。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 キャスターは海岸にある倉庫街を歩いていた。

 

 10年前、自分が初めてキャスターとして大規模な術式を使った、ある意味思い出の場所。実はキャスターは、前回の聖杯戦争で使用した場所を巡っていたのだ。アインツベルンの城は結界が新しくなったのか諦めなければならなかったが他の場所はもう見終わっている。

 

「あれだけ大きい魔術使ってもさすがに10年も経ったら痕跡は残ってないみたいだね」

 

『そりゃそうでしょ。なんだっけ、確か魔術は秘匿されるべし、だっけ?』

 

「そう。魔術は知る人が増えれば効力が落ちるからね。やっぱりそういうところの知識に疎いよね、ソラは」

 

『しょうがないじゃない。知る機会が無かったんだから』

 

 誰もいない倉庫街に二人分の声と、足音が聞こえる。本来であればまだ人がいるはずであるが、既にこの辺り一帯に人の気配はない。

 

「さて、人払いはもういいかな。……出てきなよ。どのサーヴァントだか知らないけど」

 

 その声に呼応するように、一人の男性が姿を現す。全身を青に包み、槍を手に持っている。既に臨戦態勢のようだ。

 

「ランサーかな。じゃ、始めますか!」

 

 キャスターはその言葉とともにお得意の転移魔術で一気に間合いを取る。しかし、相手は全サーヴァントで最速といわれるランサークラス。あっという間に離れていた間合いも近づいていく。

 

Per ignem, et murum(炎よ、壁となれ)

 

 キャスターは慌てることなく炎でできた壁を作り視界を遮る。この程度の妨害など気にも留めないランサーは、槍を揮うことで炎を掻き消した。しかし、炎の先にキャスターの姿は無い。

 

 ランサーが気配を感じ振り向くと、そこには何発もの火球を浮かべたキャスターの姿があった。ランサーが駆けだすと同時に火球も放たれ、その全てが複雑な軌道でランサーに迫る。それを紙一重で躱しながら進むランサーだったが、キャスターの姿が不意に揺らぐ。

 

 一つ舌打ちをしてランサーはその場から大きく飛び退いた。

 

 次の瞬間には、いくつもの火球が合わさった巨大な火球が先ほどまでランサーがいた場所に当たり、爆炎が辺りを包む。

 

「蜃気楼だっけか? なかなかやるじゃねえか」

 

「ありがとう。でも、()()のボクを見つけられるかな?」

 

 爆炎が晴れ、視界が開けた。そこにいたのは、何十人ものキャスター。おそらくこの中の一人が本物か、もしくはどこか別のところに隠れているのだろう。普通なら少しは焦りを感じるような場面なのだが、逆にランサーは強敵との出会いに興奮していく。

 

「おもしれえ。見つけ出してやるよ!」

 

 そういってランサーは一番近くにいたキャスターに切りかかる。だが、そこに手ごたえは無く、霞のように消えていく。

 

「次! 次!」

 

 どんどんキャスターを消していくランサーだったが、それでもキャスターに焦りの色は見られない。

 

「いくら倒しても無駄だよ。いくらでも増やせるんだから」

 

 その言葉通り、先ほどまでに倒した数の倍以上のキャスターが現れる。

 

「こりゃすげえ。初めて見たぜ」

 

 よりいっそうの喜色を浮かべるランサーだったが、その表情も一瞬にして曇った。

 

「あ? 撤退だ? 今からいい所だってのによ! ……はいはい。分かったよ。…………あー、済まねえ。帰らなきゃいけなくなっちまった」

 

「そう? じゃいいよ。大丈夫。後ろから襲ったりはしないから」

 

 そう言って姿を現したキャスターはランサーの真上にいた。しかも何故か逆さまで。

 

「そこにいたのかよ……。じゃ、また今度やろうぜ」

 

 ランサーは霊体化しその場を離脱していった。おそらく今日の戦闘のことをマスターに報告するのだろうが、キャスターは特に心配はしていない。

 

 なぜなら、火の魔術は()()()()なのだから。

 

「運動したら甘いもの食べたくなっちゃった。コンビニ寄って帰ろっと」

 

 霊体化せずに歩き出すキャスター。10年前に破壊された倉庫街はまたしても同一人物の手によって破壊されたのだった。

 

 

 

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