Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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ACT.2

 

 

「んー。よく寝た。それにしても、あの金ぴかな人、強かったなー」

 

 『悪魔』は昨夜の出来事を思い出しながら呟く。

 

 昨夜、『悪魔』は特に意味もなく街をぶらついていた。そんな中、一際大きな家を見つけた。しかも、そこからはいいにおいがする。だが、『悪魔』の経験上このような場所は大抵罠が仕掛けられているはずなので、立ち入ることは出来なかった。それでも諦めきれなかった『悪魔』は、霊体化したまま周囲をうろついていた。

 

 だが、そのうち使い魔の気配が立ち込め、『悪魔』はようやくここが聖杯戦争に関わる場所だと気付いた。

 

 聖杯に託す望みがある以上、『悪魔』は無闇にこの場所に近づくことは危険と判断、使い魔を放ち観察することにした。

 

 そして行われたのが、サーヴァント同士の戦い。いや、戦いとは呼べないのかもしれない。なぜなら、一方的に侵入者であるアサシンが倒されたからだ。多数の武器を射出して戦うスタイルから、『悪魔』はその『金ぴか』をアーチャーと仮定することにした。

 

「でも、あの人多分王様だよね? 王様って大体金ぴかだもんね。そういやどうやって気配遮断してるアサシンを見つけたんだろう? ま、いっか。……さーて、今日はどこに行こっかなー」

 

 頭を切り替えた『悪魔』は、今日の目的地を考える。自らのマスターである龍之介を『喰らった』ことにより、行動指針を自分で決めなければならない。『悪魔』はそのことにおいてのみ悔やんでいた。魔力自体は自らのスキルで補えるため、マスターの存在が場合によっては邪魔になるとさえ考えていたのだが、やはり明確な行動指針は必要だと改めて認識する。

 

「そだ。今日は昼間だし、街の中心まで行ってみようかな。おいしいものもあるだろうし。それに、早く憑代(よりしろ)考えなくちゃね。いくら魔力はいっぱい合っても、憑代ないと消えちゃうみたいだし」

 

 とりあえずは今日の行動を決めた『悪魔』は、寝床である柳洞寺から出て行くのであった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 冬木市は地方都市である。外国人も多いこの都市であるが、ここまで目立つ外国人は初めてなのではないだろうか。長い銀髪の女性と、それに仕えるかのような男装の麗人。特に店に入るわけではないが、歩いているだけで俄かに街が活気づいていく。

 

 なぜ注目されているのか見当もつかない、もしかしたら注目されているとは気づいていないかもしれない彼女たちは、いつも通り振る舞う。それがかえって彼女たちを目立たせているのだが。

 

 だが、彼女たちは一般人ではない。この度の聖杯戦争の参加者なのだ。長い銀髪の女性は、御三家のひとつ、アインツベルンの女性、アイリスフィール。男装の麗人は、サーヴァントであるセイバー。彼女たちが普通に出歩いているのも、作戦の内なのである。

 

「アイリスフィール、本当にこのようなことで大丈夫なのですか?」

 

「大丈夫よ。それに、私だって観光したいんですもの」

 

 ……作戦なのである。実際、手がかりが何もないため、このような行動をとっているサーヴァントがいる可能性もあるのだが、アイリスフィールとセイバーは未だ敵サーヴァントには遭遇していない。そもそも聖杯戦争は夜に行われるため昼間から出歩いているサーヴァントは居ないと言ってもいいだろう。

 

 と、セイバーが何かに反応する。

 

「アイリスフィール、サーヴァントです。姿は見えませんが、おそらくこの群衆の中に紛れ込んでいるものと思われます」

 

「わかったわ。でもこの場所では戦闘は出来ないわね。広い場所に行きましょうか」

 

 二人は街中で戦うことを避け、海岸沿いにある倉庫街へと向かうことにした。そこに至る道中、魔力の塊が遠ざかっていくのをセイバーは感じた。

 

「着いてきませんね。どうやら向こうはこちらに気が付いていなかったようです」

 

「それならいいわ。無闇に戦うなって切嗣にも言われてるし」

 

「そう、ですか。…………アイリスフィール、またサーヴァントです。どうやら先ほどとは違うみたいです」

 

 セイバーが見た方向には、誰もいなかった。だが、セイバーが声を掛けようとしたとき、何もない場所から敵サーヴァントが姿を現した。霊体化を解いたのだろう。

 

「ふん。俺に気付いたか。今日一日で俺に挑もうという輩はお前一人だ。では、始めるとしようか」

 

 敵サーヴァントは二本の槍を手に持っている。その槍には呪符が巻かれているが、おそらく宝具なのだろう。その銘が分からないようにしているに違いない。そしてそれは呪符を剥がしてしまえば真名が割れるということでもある。

 

 そして、『槍』。このことから、敵サーヴァントはランサーであることが覗える。しかしそれだけでクラスを特定することはできない。槍に偽装した杖の可能性もあり、ライダーの握る武器であってクラスとは関係ないかもしれないのだ。

 

 そこまで考えてセイバーも何かを握る。そこには何も存在していないように見える。だが、構えを取ったということは、何かしらの武器を持っているのだろう。

 

「行くぞ!!」

 

「来い!!」

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 セイバーとランサー(仮)が戦い始めたころ、『悪魔』は同じ倉庫街にいた。先ほどセイバーが感知したのはこの『悪魔』であり、当然『悪魔』もセイバーに気付いていた。だが、まるで誘うかのようなセイバーの行動に乗るはずもなく、あえて遠回りしてこの倉庫街にやってきたのだ。

 

「うわー、流石だね。ボクじゃ一瞬でやられちゃうよ。あっちの男の人はランサーだろうけど、女の人は何だろう?」

 

 遠い場所から観察しているため、『悪魔』からは、槍を二本持ったランサーと思われるサーヴァントが何も持っていないサーヴァントに打ち込めていないように見える。使い魔を飛ばすという手もあるのだが、『悪魔』が放つ使い魔は、『友だち』であるため、荒事には近づけたくないらしい。

 

 と、そこで『悪魔』は何かを見つけた。『悪魔』の視線の先には、銃を持った女性がいた。こんな場所に隠れるようにしている以上聖杯戦争の関係者だろう。

 

「ねえ、おねーさん。なんで銃持ってるの?」

 

 急な問いかけに女性は振り向こうとするが、一向にそれは出来ない。まるで何かで縛られたかのように身体を動かすことが出来ないのだ。

 

「あ! もしかして聖杯戦争の参加者?」

 

「…………」

 

 『悪魔』の問いかけに反応を返さない女性。それでもめげることなく『悪魔』は話し掛ける。

 

「うーん、でも魔力そんなに感じないんだよなぁ。じゃあ、協力者かな?」

 

「…………」

 

「もう! 何か喋ってよ! じゃないと、読心しちゃうよ? 知られたくないヒミツとかあるでしょ?」

 

 少しの沈黙のあと、ようやく女性が言葉を発する。

 

「あなたは誰ですか」

 

「あ! やっと喋ってくれるんだ! ボクはね、キャスター。おねーさんは?」

 

「私は、傭兵です」

 

 あっさりと自分のクラス名を明かす『悪魔』改めキャスター。対して女性の返答は短い。

 

「んー、せめて名前くらいは知りたいなー。…………あ! ボクのマスターのこと心配してるの? だったら大丈夫だよ! ボクにマスターはいないから」

 

「信用できません」

 

 そこで、ザザッという機械音とともに、男性の声が聞こえる。

 

『舞弥、どうかしたのか?』

 

「いえ。問題ありません」

 

 会話の相手が依頼主なのだろうか。早々に会話を切り、悟らせまいとする。

 

「へえー。舞弥さんっていうんだ。ねえ、舞弥さん、拘束解いて欲しい?」

 

「……解く気はないのでしょう?」

 

「ひどーい。じゃあ、解いちゃえ!」

 

 コンビニでの一件と同様に、キャスターが足を踏み鳴らす。すると、今まで舞弥を拘束していたものが完全に消え去り、解放される。そして、キャスターは舞弥の眼前に移動する。その動きは隙だらけであるが、何かしようとする気が起きない。

 

「うん、これでよし。さあ、舞弥さん、お菓子食べよ」

 

 どこからともなくお菓子を出し、それを舞弥に勧めるキャスター。だが、キャスターというクラス名を聞いた舞弥は、そこに何かしら仕掛けられているのではと疑い、それを口にすることはない。

 

 だが、お菓子を食べていても、キャスターの目は、常に戦場の方を確認している。それを間近で見ている舞弥は、余計に疑うこととなる。

 

 そんなことを知る余地もないキャスターは次々と舞弥にお菓子を勧める。

 

「ねえ、これは? あ、こっちでもいいよ! ……もしかして、お菓子嫌いだった?」

 

 少々涙目になりながら問い掛けるキャスター。舞弥は決してお菓子嫌いというわけではないのだが、それを勧めるのがキャスターであるという一点のみでお菓子を食べることを拒んでいた。それでも、見た目は幼いキャスターの涙目には、少々心を動かされたようで、視線がお菓子の方へと向く。だが、自制心を働かせ、ここは戦場であると自分に言い聞かせながら、誘惑を撥ねつける。

 

 実は、このやり取りも、無線を通じて切嗣に聞かれているのだが、当の切嗣は、その会話内容に少し呆れている。以前の切嗣であれば、戦場で呆れるということはなかっただろう。やはり自分は魔術師殺しになりきれていない。そのことは自身がよく知っている。それを改めて確認するのであった。

 

 そんなことも知る余地はなく、キャスターは舞弥にどうしてもお菓子を食べてほしいのか、誘惑を続ける。

 

「あ、これおいしー! ねえ、いらないの?」

 

「要りません」

 

 再び断ったところで、急にキャスターの調子が変わった。

 

「ふーん。そう。じゃあ、もういいや。あっちで戦ってる()()()()()のことも分かったし、切嗣っていう人がマスターってことも分かったし」

 

「な……ッ!? なぜそれを!? まさか……読心術!」

 

 舞弥が答えに辿り着いたその時、戦場から太い声が聞こえてきた。

 

『聖杯に招かれし英霊は、今! ここに集うがいい。なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!』

 

「ふふふ。ここまで言われちゃボクも行かなくちゃね。ま、ボクは英霊なんかじゃないんだけど。じゃあね、おねーさん。人の言うことを信じちゃいけないんだよ?」

 

 舞弥が再び口を開く前に、キャスターは姿を消していた。そこには、食べ散らかされたお菓子と、未開封のケーキが置いてあった。

 

 それには目もくれず、しかし確りとケーキを確保しながら舞弥は自分の失態を切嗣に報告するのだった。

 

 

 

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