Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
深い森の中に一軒の山小屋がある。そこに近寄る人は居らず、荒れ放題に見える。ところどころ崩れ、屋根も剥がれているその小屋には、今二人の人間がいた。
「はあ。ここまで来たのはいいけど、どうしようかな。まあ、目的は達成できたんだし、あとは帰るだけなんだけど、こっからだと遠いしなあ……」
「…………遠いって、何?」
「……ここまで知識がないのか。うーん、本当にどうしようか」
少年は一人呟くが、答えは帰ってこない。傍らにいる少女はあまりにも知識が乏しく、連絡するために持たされていた携帯電話は先の戦闘で破壊されてしまっている。
帰る場所は分かっているのが一応の救いだろう。少年が使う魔術には長距離を移動できる魔術がないので、一気に帰るということは出来ないのだが。もしあったとしても、海を越えなければならないのでそう簡単なことではない。
「とりあえず今日はここに泊まるしかないかな。
「『いま』の……『まじゅつ』?」
「ん? あ、そうだよ。そうだ、ボクの名前教えてなかったね。ボクはツェーン。よろしく」
「『わたし』は…………『0255号』」
ツェーンの名乗りに対して、少女は0255号と名乗った。それは、少女の
「番号による名前……か。ボクも似たようなものだけどね。そうだ! ボクが君に名前を付けてあげるよ。うーん、君がよく使う魔術って何?」
「……『かぜ』」
「風か。じゃあ、君はこれからソラだ。ソラ・チェラーシス」
「『ソラ』。……わかった。『おれい』、『なに』かしないと」
初めて笑顔を見せた少女は、幾何学的な模様の浮かんだ目でツェーンを見る。何かを見ているのだろうが、ツェーンにはそれが何かは分からない。少なくとも、自分には見えないものを見ているのだろうということしか分からない。
「リク」
「ん?」
「『あなた』の『なまえ』。リク」
「ありがとう。じゃあ、ボクはこれからリク・チェラーシスと名乗ろう」
今までソラに向けていた仕事をしている時のような冷たい目から、同年代の少年のような暖かい目に変わったのがソラには分かった。
◆
結局一晩中帰ってくることのなかったキャスターは、夜明けごろになってようやく帰ってきた。既に士郎は朝食の支度を始めており、キャスターが帰ってきたことに気付いた。
「あー、えっと、キャスターだよな。昨日はありがとうな。朝飯作ってもらっちゃって」
「気にしなくていいよ。それに、あれぐらいなら時間もかからないしね。……あ、琴音ちゃんの部屋はどこ? 昨日ほったらかしにしちゃったから会いに行かないと」
『その心配はいらないよ、リクくん』
特徴的な声が聞こえ、振り向くと、居間に琴音が居た。髪の毛がぐしゃぐしゃだが。
「あー、とりあえず琴音ちゃん、髪をどうにかしたほうがいいと思う。ちょっと見苦しい」
『うん。自分でも分かってる。でも、その前に言うことがあるんじゃないのかな?』
何やら妙な威圧感を出している琴音にキャスターは逆らえない。士郎はとばっちりを受ける前にさっさと台所に向かい、朝食の準備の続きをしている。
「う……、すみませんでした」
プレッシャーに負けてキャスターが土下座する。しかし、それでも怒りは収まらなかったのか、それともお仕置きなのか、琴音は土下座しているキャスターの上に座った。
特に重いわけでもないが、なんとなく精神的に攻撃されているような気がするキャスター。琴音が無言なのもそれに拍車をかけている。
何分経ったのか分からないが、士郎が様子を見に来て声を掛ける。
「琴音? さすがに可哀想だから許してあげろよ」
『ふふふ……』
しかし、琴音は不気味な含み笑いをするだけだ。その眼は語っている。「じゃあ、士郎が代わりになる?」と。そんな意図を的確に読み取った士郎は、それ以上言うこともできず、すごすごと引き下がる。
そして、この体勢は何故か泊まっていた凛に言われるまで続いた。
ようやく許してもらえたキャスターが立ち上がり大きく背伸びをする。意外なところで琴音のドS性を見ていしまった凛は何やら考え込んでいるようだが、ひとまず朝食が出てきたので食べることにする。
『ねえ、リクくん。聖杯戦争のマスターって変な夢見たりするの?』
「なんでボクに聞くの? ボクには分からないよ。だってマスターじゃないし」
『じゃあ、凛ちゃん。そういうことってあるの?』
「あるわ。令呪を通して繋がっているマスターとサーヴァントはお互いの過去を夢で見たりすることがあるらしいわね。もしかして、見たの?」
『うん。内容は秘密だけど』
あっさりと見たと肯定する琴音。さすがに夢の内容は、自らのサーヴァントの真名や弱点につながる可能性があるということは分かるので言うことはないが。
キャスターは琴音がどんな夢を見ていたのかも実は分かっているので、語られなくて良かったと思っている。なにせ、いろいろと分かってしまうようなものだったのだ。それに、自分以外に語られるというのは恥ずかしいという思いもある。
「ああ、そういえば昨日ランサーと戦ったよ」
『え? じゃあ、あの時の魔力消費はそれ?』
「うん。向こうも本気じゃなかったし、ボクも本気で相手はしてないけどね。えーと、特徴は全身青で紅い槍、あと好戦的ってとこかな」
「あ、ソイツ俺を襲ってきた奴だ」
「キャスター、それなら真名も分かってるわ。クー・フーリン。セイバーが真名解放の一撃喰らったからそこから特定できたのよ」
「ふーん。じゃ、宝具はゲイ・ボルクか。……また相性が悪い」
宝具の効果を知っているのか、少し落ち込むキャスター。元々最弱のサーヴァントとよばれるキャスタークラスなのだから、相性が悪い相手も多い。特に三騎士と呼ばれるクラスにある対魔力は最大の壁である。
基本的にキャスタークラスは裏でコソコソやるようなクラスなので、今回のように堂々と表で戦うキャスターにとって、聖杯戦争を勝ち抜くことはかなり厳しい。
更に、前回と違ってマスターの友人が他サーヴァントのマスターであるということも条件を厳しくしている。前回のバーサーカーのマスターのように暗示を掛けて操ることもできないのだ。サーヴァントである以上、自らのマスターに嫌われては満足に戦うことすらできない。
『まあ、真名が分かってる分対処はしやすいから。でも、問題はバーサーカーだよね』
「ヘラクレス、でしたか。半神半人ですから対神宝具があればいいのですが……。それに、私の一撃を受けても何事もなかったかのように立ち上がってきました。あれは宝具の効果なのでしょうか」
「うーん、多分宝具だと思うわ。逸話通りなら、十二の試練に関連した宝具だと思う。たとえば、潜り抜けた試練の武勇十二通りとか、そんな感じの」
『それってかなり厳しいんじゃない? 毒とか有った気がするし』
琴音が心配しているのは、逸話にあるヒュドラの毒のことだ。ヘラクレスがその毒を使い次々と功績を立てていったのは有名である。
「でも、狂化した状態で使えるかな? 基本的に矢として使ってた気がするし、アーチャークラスじゃないからそこまで気にしなくてもいいんじゃないかな? と、もうそろそろ準備しないと学校に遅れるんじゃないの?」
キャスターに言われ時計を見ると、確かにいい時間になっていた。身だしなみを整えてから来た凛と違って琴音は何もしていない。髪も爆発したままだ。慌てて洗面所に向かう琴音。
それを見ながらキャスターは考える。セイバーからすれば、その表情は何か悪だくみをしているような顔だったのだろう。少し警戒しながらキャスターを見ている。そんなことに気付くはずもなく、キャスターは自分の考えを練り上げていった。
◆
夜、穂群原の校庭に三人の人影があった。セイバーと士郎、そして、自らライダーと名乗った髪の長いサーヴァント。
事の始まりは、士郎が学校の近くを通りがかった時に何かに反応したことだ。それが魔術的反応であったこともあり、士郎は躊躇いもなく踏み込んでいった。そして、校庭にでると、一人のサーヴァントが居たのだ。
「ふふ。よくこの結界の基点に気付きましたね。今日仕掛けたばかりですが、見直しが必要なようです」
「結界? それはどんな効果なんだ」
「シロウ、そんなことはライダーを倒してしまえば問題はありません」
「効果が気になりますか。そうですね、魂喰いの結界ですよ」
士郎は魂喰いと聞いてもピンとこなかった。しかし、セイバーには思い当たることがあったのだろう。その顔には怒りの表情が浮かんでいる。
「シロウ、魂喰いとはその名の通り、人間の魂を魔力とする外道です。放っておいては危険です」
「な!? ……セイバー、あいつを倒すぞ」
「分かっています!」
士郎の声に応え、セイバーは一気に駆け出す。二回三回と剣を振るいライダーを後退させていくが、対するライダーも鎖のついた短剣を使いその身への攻撃を許していない。
一際大きな一撃の後、ライダーは大きく距離を取る。その顔には、一筋の傷がついていた。
「不可視の剣……厄介ですね。しかし、対処法はあります」
そう言ったライダーは、先ほどの短剣をセイバーではなく士郎の方へ投擲する。士郎の方へ投げられるとは思ってもみなかったセイバーはそれを防ぐために移動する。その隙を狙い今度はセイバーに向けて短剣が投擲される。
ギリギリで士郎への攻撃を防ぎ切ったセイバーは無理をして避けるが、完全に体勢が崩れてしまったところを狙ったライダーの蹴りが命中する。
「セイバー!!」
「サーヴァントの心配をしている暇はありませんよ」
セイバーを蹴るのとほぼ同時に投擲された短剣が士郎に迫る。完全に気を取られていた士郎に自らの魔術を発動させる余裕は無かった。来るであろう痛みに備えるが、それは一向に来ない。
おそるおそる士郎が目を開けると、目の前に銀色の壁があった。
『まったく、士郎は危なっかしいんだよ。もし私が居なかったら死んでたよ?』
そう言うのは、この銀色の壁を作り上げた琴音。士郎は知らないが、この銀色の壁は降霊科随一の天才と呼ばれたケイネス・エルメロイ・アーチボルトが使った
水銀によって作られた壁は、至近距離でのクレイモア地雷や自動小銃ですら防ぐほどの速さと硬さを誇っているが、琴音はそこまでの練度に至っていないので、角度をつけ短剣を逸らすように使った。
そして、琴音がいるということはそのサーヴァントであるキャスターもいるということである。
「
風と火の魔術により、大きく後退を余儀なくされるライダー。ある程度距離が離れたところで琴音の展開した
キャスターの魔術によって地面は大きく抉れ焦げたような跡もある。蹴り飛ばされたセイバーも既に戦線に復帰し、キャスターと共にライダーを追い詰めていた。
「セイバーさん! 行くよ!
「行きます!」
キャスターが魔術を使って体勢を崩したところにセイバーの一撃が迫る。しかし、それが当たることは無かった。
セイバーの一撃が当たる直前にライダーは忽然と姿を消したのだ。霊体化ではない。完全にこの場から消え去っていた。
『令呪を使ったのかな。そうじゃないと説明できないしね。さ、士郎帰るよ。相手に令呪を一画使わせただけでも十分な戦果だよ』
「あ、ああ。ありがとうな、琴音」
『気にしないで。今は共闘関係なんだから。リクくん、お願い』
「りょーかいっと。
例の如くキャスターの転移魔術によって帰宅する士郎と琴音。
そして、この戦闘を影で見ていたものに誰一人気づくことは無かった。