Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
『さて、士郎? 申し開きはある?』
家に帰ってきて琴音はすぐに士郎を正座させ、問い詰める。家を出る前に決して一人ではサーヴァントと戦わないようにと言っていたのだが、案の定士郎はセイバーが居るとはいえ戦い始めてしまった。これでは折角協力体制を敷いているというのに意味がない。
そして、魔力の高鳴りに気づいて行ってみればセイバーは蹴り飛ばされ士郎は絶体絶命。怒るのも無理はないだろう。
「あのー、琴音? もう許してあげたら?」
『ダメ。凛ちゃん、士郎の突撃癖はそんな簡単に治るものじゃないの。いい機会だから矯正しちゃおうか』
「誰が突撃癖だよ!?」
『士郎よ。ああ、もう! イライラするわね! 自覚がないのがこれほど面倒くさいとは思わなかったわ……』
かれこれ一時間このようなやり取りが繰り返されている。いつ琴音が爆発するかビクビクしている凛と正座している士郎とセイバー。そして、それを面白そうに眺めるキャスターという図が出来上がっている。ちなみにアーチャーは屋敷の屋根で警戒に当たっている。
それでも見ているのは流石に飽きたのかキャスターが口をだす。
「ねえ、琴音ちゃん。ボクが幻術でも見せて強制的に叩き込もうか?」
『それでもいいかと思えてきちゃう。でも言っちゃったら意味ないよ?」
不穏な雰囲気を感じ取ったのか士郎は土下座に移行する。
「悪かった。次からは気を付けるよ」
『一応信じてあげる。でも次そんなことしたら本当に幻術コースだからね』
「ああ。もうしないさ」
「ようやく次に進めるわね。士郎、相手は自分をライダーって言ったのよね?」
士郎への説教が終わったので凜が話を進める。その内容はライダーについて。凛の方ではサーヴァントにもマスターにも出会わなかったので特に話すことはないのだが、協力関係にある今は情報の共有が重要だ。それに結界と思わしきものが仕掛けられていたというのは見逃すことができない。
「ああ。自分でライダーだって言ってた。それに結界は魂食いのためのものだって言ってたぞ」
「魔術を使えるってことは厄介ね。それに結界を使えるほどっていうことは少なくとも近代の英霊ではなさそうね。キャスター、あなたの見立ては?」
「そう外れてはないと思うよ。あの術式はギリシア式だからそっち方面だと思う。あの結界は基点を全部壊さないといけないタイプだから明日あたりにでも学校に行って壊した方がいいかもね」
『そこまで分かるの?』
「これでもキャスターだからね」
そういうキャスターの顔は自信に満ちている。自身の分析に絶対の自信を持っているのだろう。しかし、セイバーにはその顔が違って見えた。自らのスキルである直感が何か違うと訴えかけている。漠然としたものだが、それが気になった。
「キャスター、あなたはもしかして真名にも予想がついているのではないですか?」
「うん。でも言わない。もしかしたらそれこそが向こうの狙いかもしれないし、そう思って対策立ててたら真逆でこっちがピンチなんてのは嫌だからね。確定するまで真名は考えなくてもいいと思うよ」
『まあ、令呪一画使うくらいだしね。それくらい警戒してもいいのかな』
キャスターの考えに同意する琴音。言葉は発しないが、凛も同じ考えのようだ。
確かにあのタイミングで令呪を使わなければライダーは重傷を負っていただろう。しかし、それが消滅にまで繋がるのかと言われれば果たしてそうであったのだろうか。
セイバーは見た目に傷は無くとも、数十メートル蹴り飛ばされた後である。流石に全開時と同じ攻撃は出来ていなかった。琴音が見たステータス上はライダーの敏捷値はA。傷を負っていても地形を利用すれば十分逃げられる。
『ま、とりあえずそのことはあとにして、あの結界を消さなきゃいけないんだよね』
「当たり前だ。魂喰いなんて許されるわけがない」
「え? 魂喰いって悪いことなの?」
士郎が魂喰いは許されないと言って、それに驚いたキャスター。それが思わず声に出ていたのかその場にいる琴音以外から強い視線を浴びる。
「そんなの当然だろ! 自分だけのために人を犠牲にするなんて許されていいわけあるか!」
「人を犠牲にしない人なんていないよ。それに誰が魂喰いされようと君には関係ないでしょ? 魔力が足りないのなら何処かから取ってくるのは当たり前だよ。見知らぬ人がどうなろうと知ったことじゃない。ボクはボクの大切な人を守れればそれでいいんだから」
「違うッ! そんな犠牲の上に守られたって誰も嬉しくなんかない! 人を犠牲にしてそれがいいはずはないんだ!」
「何を熱くなってるの? それは君の主観でしょ? 君とボクは違う。生きていた時代も、考え方も、環境も、何から何まで違う。それに、『犠牲の上に守られたって誰も嬉しくなんかない』? それがどうしたの? 誰かを犠牲にしなくちゃ誰も守れないよ」
憤怒の表情を浮かべる士郎に、キャスターは更に言葉を重ねていく。
「人を犠牲にしたくないんだったら、何で君はここにいるの? 世界には聖杯戦争よりも多くの人が犠牲になる争いはいくつも起こってる。だったら何でそれを止めようとしないんだ? こんな平和な日本にいて、君は何をしてるんだ?」
「それは……」
「見知らぬ人が犠牲にされるのが許せないんだったら、今すぐ救って見せなよ。こうしている間にも何人死んだんだろうね。それと変わらないさ。ただその数字上に何人か追加されるだけのことだよ」
「お前、本当に人間なのか!? 英霊ってのは人を救ったからなるんだろ! だったら---」
「黙れ」
今までの雰囲気が一変し、辺りは濃密な殺気に包まれた。ただ黙っていたセイバーも瞬間的に臨戦態勢に入いり、見張りをしていたアーチャーまでが姿を現した。それほどまでキャスターの雰囲気は変わっていた。
本気の殺気を一身に浴びてしまった士郎からは歯の根が合わないのか細かくガチガチという音が聞こえ、直接向けられているわけではない凛も辛うじて平静の表情を保っているが、立ち上がったその足は僅かに震えている。そんな中、琴音だけは唯一変わりは無かった。
「ボクは人間だ。彼女も人間だ。英霊なんてしらない。死んでしまえばいい。ヒトなんて要らない。世界なんてどうなろうと構わない。ボクは人間。彼女も人間。人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間……」
「何よ!? いったいどうなってるの!?」
凛が悲鳴に近い声を上げるが、誰も答えを返すことが出来ない。マスターである琴音ですら、その迫力に呑まれてしまっている。士郎に至っては座っていることすらままならない。英霊であるセイバーやアーチャーこそ何の問題もないように見えるが、特にセイバーは内心焦っていた。
前回の聖杯戦争序盤、狂ったように大規模魔術の中で笑い転げるキャスターを映像ではあるが見ているのだ。あの時の魔術をこの場で使われてしまえば、ここにいる人間は一人残らず蒸発してしまうだろう。何せ、自らの宝具で迎撃せざるを得なかったのだ。前回よりステータスが下がっているセイバーではマスターである士郎を逃がすのが精一杯だろう。
「…………そう。ボクも彼女も人間。ああ、そうだね、ソラ。初めからそうすれば良かったんだ」
誰かと会話しているキャスター。そして同時に魔術陣が浮かび上がる。
「
キャスターの十八番である転移魔術。それを使ってキャスターと琴音はどこかに消えていった。
残された士郎たちは呆然としていた。いきなり激怒し、そして何処かへ行ってしまったキャスター。琴音も連れて行ってしまった。凛はおそらくもうこちらと協力することは無いだろうと思った。むしろ、完全に敵対してくるだろう。
だが、いつまでも呆けているわけにはいかない。キャスターが何処に向かったのかは知らないが、敵に回ったと考えるのが妥当だ。ならば、対策を考えないわけにはいかない。琴音はリクと呼んでいたが恐らく真名ではない。それはアーチャーに確認済みだ。最も、アーチャーは記憶喪失らしいのだが。
「士郎、いつまでもそうしていないで頭を切り替えなさい。恐らくこれでキャスターは敵に回るわよ」
「…………あ、ああ」
「もういいわ。セイバー、何か知ってること無い?」
「キャスターは前回の聖杯戦争にも参加していました。真名は分かりませんでしたが、宝具なら分かります」
「宝具は分かるのに真名が分からないの?」
「ええ。何故だかは分かりませんが。彼の宝具は3つでした。『
凛は少し考え込む。その場にいたアーチャーが微妙な顔をしているのだが、それには誰も気づいていない。やがて、考えが纏まったのか口を開く。
「取り敢えずキャスターは保留にするしかないのが現状ね。どこに行ったのか分からないんだし。……アーチャー? どうしたのよ」
アーチャーが気になったのか凛が声を掛ける。
「ん? ああ、セイバー、一ついいか?」
「何ですか、アーチャー」
「その宝具を使った時キャスターは何か言ってなかったかね?」
「確か、『人の負の願いの結晶』みたいなことを……」
「そうか。凛。キャスターの真名が分かったぞ」
◆
キャスターが転移してきたのは、10年前寝床としていた柳洞寺だった。
「ごめんね、琴音ちゃん。こんなあ演技をさせちゃって。取り敢えず探知できない様に眠ってもらうね。
琴音に魔術を掛け、強制的に眠らせたキャスターは次にこの柳洞寺を工房とすべく細工を始める。
「んー、まずは僧たちが邪魔だな。
キャスターが魔術を使うと、柳洞寺で生活している人はフラフラと夢遊病のように正門から出て行く。境内に自分と琴音以外がいなくなったのを確認すると、キャスターは自らの陣地作成スキルを使い工房を作り上げていく。前回は魔術師ではないマスターであったためランクが低かったそれも、今ではAランクだ。工房どころか神殿レベルのものまで作り上げることが出来る。
「
次々と層を重ね強固になっていく柳洞寺の結界。現代魔術師ではその結界を構成する一部でも再現できれば優れているとまで言われるようなものが出来上がっていく。
そして最後に琴音の周囲に結界を敷く。
「
穏やかな寝顔の琴音に声を掛け部屋を出て行くキャスター。その顔は、先ほどまでとは打って変わり穏やかなものだった。
『リク、これからどうする?』
「そうだね。アイツは最後にしようか。聖杯がどんなものなのか見せつけてね。差し当たっては、アーチャーかな。今頃はボクの真名も分かっているだろうし」
『そうかなあ? あくまで彼が見たのはそういうことがあったっていう記録でしょ?』
「いいや、覚えてるよ。彼は『正義の味方』だからね……」
そう言ったキャスターの顔は皮肉の笑みを浮かべていた。
◆
「何とか上手くいったようじゃな。令呪一画分の価値があったというものよ」
「そうですね。お爺様、次はどうしましょうか」
「うむ。そろそろいつもの日課に言ってくるがよい」
「では、明日からそうします。おやすみなさい、お爺様」
「ああ、おやすみ。…………桜」
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