Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
日は沈み、辺りは月明かりに包まれている。鬱蒼と茂った森は来訪者を拒絶しているようにも見える。そんな森の中心にあるアインツベルンの日本での本拠地にキャスターは侵入していた。
先ほど結界を潜る際に侵入を感知されないように仕掛けを施したがおそらく見つかっているだろう。それを念頭にキャスターは歩を進める。
「こっちだね」
分かれ道でも少しも迷うことなく目的である少女のいる方角へ向かうキャスター。目に魔力を集中させ視力を上げているのか瞳が僅かに発光している。彼の眼には既にアインツベルンの居城が見えていた。向こうから直接持ってきたとされるその城は明らかに日本とは不釣り合いである。たまたま目撃した一般人が幽霊でも見たかのように話すのも当然だろう。
やがてキャスターは何の妨害もなく居城へとたどり着いた。
今感じ取れるだけでも数十の魔術的なトラップが仕掛けられているが、その一切を無視して扉に手を掛け押し開く。
年を経た木の門は独特の音色を立て開く。
その先の豪華なエントランスには既に臨戦態勢のバーサーカーとマスターであるイリヤスフィールの姿があった。
「御機嫌よう、キャスター。わざわざ倒されに来てくれるなんて優しいのね」
「ボクこそきちんと城で出迎えてくれるなんて思ってなかったよ。本当だったら直接転移してこようと思ったんだけどね、レディーには準備の時間も必要だと思ってさ」
「あら、そうなの。おかげさまで準備は万端よ。さあ、行きなさい、バーサーカー」
「――■■■■■ーーーッ!」
◆
キャスターがバーサーカーと戦い始めたころ、士郎が帰宅した衛宮邸で作戦会議が開かれていた。
「士郎、違和感感じてる?」
「ああ。一昨日辺りから変だとは思ってたんだ。これってやっぱりキャスターなのか?」
「そうでしょうね。こうしている間にもほんの少しづつだけど力が奪われていってるわ。おそらく魂喰いに似た結界でも張っているんでしょう」
学校を休んだ二日間、不自然な疲れを凛は感じていた。ほんの僅かではあるが、いつもと同じ魔術の鍛錬をした際に魔力の消費が増えていたのに気付いた凛はその原因を考えていた。
どこかに自らの力が吸収されていく感覚。それを感知することに集中し、今でははっきりと自覚できている。
「この冬木でそんな規模の結界を使って魔力を集めるとしたら、位の高い霊地が必要になる」
「で、それってどこなんだ?」
「恐らく柳洞寺でしょうね。この冬木にある霊地の中で一定以上の力を持つのは、柳洞寺、アインツベルンの本拠地の森、十年前市民会館のあった広場、あとは遠坂家の敷地くらいよ。その中で一番確率が高いのは柳洞寺。他はキャスターが陣地とするのには都合が悪いわ」
「そういえば一成もここ何日かは柳洞寺に帰ってないらしい。何でも本殿の建て替え工事をするとか言ってたな」
今日の昼間の会話を思い出す士郎。一成が珍しく弁当を持ってきていなかったので聞いてみると、そういうことらしい。
「決まりね。今夜私たちは柳洞寺に行くわよ。これ以上放置しておくとキャスターは集めた魔力で魔法級の魔術を使い放題になってしまうわ。あんまり好きな手じゃないんだけど、琴音を人質にでもして止めさせないと大変なことになるわよ」
「ああ。で、作戦はどうするんだ?」
「私が前に出ます。私の対魔力でしたらあの程度の魔術は私の身に届きません」
「セイバー、お願いね。私と士郎は琴音を探すわ。アーチャーは私たちの護衛。キャスターは転移魔術を使うから、琴音の近くにいつ現れてもおかしくないわ。頼んだわね」
「了解した。セイバーの方は一人でもいいのか?」
「問題ありません」
「本人がそう言うんだし大丈夫よ。さ、行くわよ」
大まかな作戦を立て行動に移す士郎と凛。柳洞寺までは歩いていくしかないが、その道中ほかのサーヴァントと出会わないとも限らない。警戒を怠ることなく彼らは進んでいった。
◆
エントランスで始まったキャスターとバーサーカーの戦いは既にその場を城外に移していた。
キャスターから放たれる多種多様な魔弾、それを障害とも思わずに最短距離で詰め寄ってくるバーサーカー。エントランスという限られた空間では不利と見たキャスターは転移魔術によって外に出ることでその不利を無くし、森という自然の壁を使って遠距離から攻撃を仕掛けている。
どこから襲ってくるかわからない魔弾に対処するためにバーサーカーはマスターであるイリヤスフィールの側を離れることが出来ず、イリヤスフィールも自身に降りかかる魔弾を防ぐためにバーサーカーを動かすことが出来ない状況だ。
「いつまで耐えられるかな?」
時々声を掛けてくるキャスターは挑発とも取れる言葉を発しているが、未だバーサーカーを窮地に追いやることが出来ていない。魔弾はバーサーカーの守りを突破できていないのだ。
だからこそ、イリヤスフィールはバーサーカーを動かせないことに苛立っているものの、その表情には余裕の色がある。
拮抗状態はこのまま長く続くと思われたが、それは呆気なく破られた。
キャスターの魔弾の一つがバーサーカーに傷を付けたのだ。
それをきっかけとして次々にバーサーカーに傷を負わせるキャスター。バーサーカーの強靭な肉体に無数の傷が刻まれていく。だが、傷が付いたからといってキャスターが有利になった訳ではない。多少は動きに影響は出るだろうが、一撃でも喰らえば致命傷になりかねない状況は変わっていないのだ。
だからこそキャスターは未だ姿を隠し続けたまま雨霰のように魔弾を降らす。威力ではなく、足止めを目的とした魔弾を使いながら、隙を伺い続ける。
いったいどれくらいの時間が経ったのだろう。絶え間なく降り注ぐ魔弾はイリヤスフィールの時間感覚を狂わせていく。一秒が一分に、一分が一時間にも感じられる。
「
キャスターは再び待機させていた魔弾を解放し、間断なく攻撃を続ける。一体どこにそれほどの魔力を持っているのか分からないほど攻撃は継続している。
決定打こそないものの、サーヴァントであるバーサーカーはともかく、長時間攻撃に晒されているイリヤスフィールの精神は限界に近づいていた。気づけば、何を命じたのかバーサーカーはイリヤスフィールの盾になりながら少しづつ前進を始めている。魔弾の攻撃はほぼ正面から来ているとはいえ、そこにキャスターが居る保証などない。
前に進むたびに弾幕は激しさを増していく。それが近づいている証拠と信じ、進み続ける二人。城から離れたところにある木々のあまり生えていない場所に着くと、今まで二人を襲っていた魔弾は無くなった。そして、その場所の中心にはキャスターの姿があった。
「…………ようやく見つけたわ……やっちゃいなさい、バーサーカー!」
「ん? ここまで来るなんてすごいね。あの弾雨を潜り抜けてきたんだ。ご苦労様。じゃ、死んで」
軽く口にした言葉に対応するようにバーサーカーの首が落ちた。それでも歩みは止まらない。
「■■■■ーーーーッ!」
首から上が無くなってもなお手にした斧剣を振りかぶるバーサーカー。それに対しキャスターはただ一言告げる。
「
一つの命を犠牲とした一撃を転移魔術によって易々と躱すキャスター。その一撃で力を使い果たしたのかバーサーカーはその場に倒れこんだ。しかしそれも束の間のこと。先ほど落とした首はいまや元通りの場所にあり、魔弾によって傷付けられたはずの肉体も回復している。
「無駄よ。バーサーカーは一回殺したくらいじゃ死なないわ」
「知ってるさ。宝具『
言葉と共にキャスターは足を踏み鳴らす。そこを中心としていくつもの魔術陣が浮かび上がっていく。それらは複雑に絡み合い、連動し一つの魔術陣を作り上げていく。
「ま、この魔術なら一回くらい殺せるかな。
魔術陣の中心から焔が噴き上がり渦を巻く。その渦の中に囚われたバーサーカーは直径が狭まっていく中で焼き尽くされていく。
バーサーカーの保有する蘇生魔術を二つも使わせた大魔術はその熱の余波だけで木々を炎上させる。上昇していく温度に耐えきれなくなったのかイリヤスフィールの意識は朦朧としていく。
大魔術の行使が終わると、その場には満足に動くことのできないバーサーカーと、意識を辛うじて保っているイリヤスフィールの他には誰もいなかった。そう、キャスターの姿さえ。
朧げな意識の中でイリヤスフィールはキャスターの言葉を辛うじて聞き取れた。
「マスターが危ない」
と。
◆
途中、何の妨害もないまま柳洞寺に到着した士郎たちは、寺に続く長い階段を昇り切り、正門の前に居た。そこから伺うことのできる中の様子は士郎の記憶にある柳洞寺と一変していた。
まず、荘厳だった本殿がない。それどころか、僧たちの寝所すら跡形もなく消えていた。その代わりに、ちょうど本殿のあった位置に小屋が建っていた。
そして、空気。あまり魔術に詳しくない士郎ですら異常を容易に感知できるほどの空気の重さ。纏わりつくような感覚を覚える。
最後に、少し離れた所に居る人影。
その人影が士郎たちに話し掛ける。
「意外と早かったじゃねーか。アイツも予想外だろうよ。ま、どうなろうとオレのやることは変わらねえけどな。
虚空から一本の剣を取りだしそれを突きつける格好をとる人影。その立ち姿はまさしく
「ここは私が。コトネのほうは任せました」
セイバーはそう言うと、人影の方へ一目散に駆けて行く。一瞬の後には斬り合いを始めていた。
それを脇目で見ながら士郎たちは小屋の方へと向かう。途中、いくつかの妨害があったが、それにはアーチャーが対応し無傷で小屋に辿り着いた。
あまり時間は掛けられないのですぐさま探知魔術でトラップの有無を調べる。結果は『有』。地水火風四属性への迎撃術式に、魔力吸収陣、警報陣、
だからといって諦めるようなことはしない。魔術の基点を何故か見抜くことのできる士郎の能力を活用し、基点をアーチャーに破壊させる。その要領で次々とトラップを無効化していき、ついには全49個のトラップの無効化に成功した。
セイバーの方を見れば、人影は防戦一方であり決着がつくのも時間の問題のようだ。
一回大きく深呼吸をし、扉に手を掛ける。
「何をしているのかな?」
冷や汗が噴き出る。あと一歩という所で見つかってはいけないものに見つかってしまった。動くことを拒否している肉体を無理やり動かし振り返ると、そこには。
「まったく早すぎやしないかい? ねえ、琴音ちゃん」
『そうだね、キャスター。まあ、凛ちゃんだし』
これから救出するはずだった琴音と。
「さて、ボクの計画を始めようか」
殺気を抑えようともしないキャスターの姿があった。