Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
夢を見ていた。
◆
ある町の教会の地下に一人の男がいた。彼はその教会の人間を殺害し、その血を利用して“魔術陣”とかつて呼ばれていた幾何学的な図形を描いている。その傍らには女性物の衣服や装飾品、そして遺骨と思わしきものが雑多に置かれていた。
そして、陣の中心には柩が置かれている。中身を窺い知ることはできないが、厳重に封じられていた痕跡として至る所に鎖が巻き付いており、柩自体にも不可思議な文字が刻まれている。
「……これだけ揃えたんだ。失敗するはずがない。臆病な本家の人間や低能な兄に出来なくても俺なら出来る。…………もう一度、お前に会うため……」
独り言を呟きながら男は準備を進める。図形を描き終わると、衣服や装飾品を柩の周りに並べていく。そして最後に骨を砕き柩に振りかけた。
「行くぞ!」
男は少し離れた場所にある装置を作動させる。それに連動し図形が起動する。徐々にその大きさを増していった図形はやがて町をすっぽりと覆い尽くすほどになった。
地下から起動しているため一般の人には見つかることはないが、専門の者であれば気づいているだろう。しかしそれはもはや問題ではない。どうせこの図形が本来の役割を果たすころには跡形も残っていないのだから。
そして、図形は役割を果たし始めた。まず初めは教会に近い場所。突然歩いていた人が倒れ始め、それに駆け寄ろうとした人も一歩も踏み出せずにその場に倒れこんだ。倒れた人たちに最早息はない。その現象は拡大した図形の端に達するまで加速度的に広がっていった。
「はははははは、成功だ! 見たか! 本家の臆病者ども! 愚鈍な愚兄! 俺こそが“魔術師”だ!」
成功を確信し男は笑い声をあげる。その口を吐いて出てくるのは罵詈雑言の類だ。この町の住人に対する言葉は露程も出てこない。
「さあ、仕上げだ。俺の愛しい妻よ。目を覚ませ!」
男は柩に向かって呼びかける。返答はないが、代わりに棺の蓋が落ちた。
そこから顔を出したのは、白銀の髪に紅い目、中性的な顔立ちをした10歳前後の姿だ。
「…………誰だ、お前! 俺の儀式は完璧だった! なぜ妻じゃない! 何が間違っていた!」
その姿を見て男は絶叫する。こんなのは違う、と繰り返し、目の焦点も合っていない。
「妻の遺品を使った! 骨を使った! なぜこれで魂が再生しない! その柩に入っていたのは魂を扱う“魔法”だろう!? 貴様はいったい誰だ!」
返答はない。どこを見ているのか分からないその紅い目は真実誰も見ていない。目の前の光景を認識すらしていない。
「クソッ! 死…………ね…………?」
懐に持っていたナイフで殺そうと一歩を踏み出したところで男は止まった。否、止まらざるを得なかった。
不意に痛みを感じ足元を見る。
しかし、
「アアアアアアアアアアアァァァァァアアア!!」
それを認識した途端、男は絶叫した。その声にも反応はない。しかし、一歩ずつ男との間合いを詰めている。
「……有りえない、有りえない有りえない有りえない有りえない有りえない有りえない有りえない有りえないッ! これが“魔法”だと!? 『
喚く男の脳裏にある日の光景が浮かぶ。
『この柩には我らの先祖が残した“魔法”の素体が封じられているのだ。決して開けてはならぬ』
『どうしてですか?』
『これは被検体名“ツェーン”。
『完成しすぎたってどういうことですか?』
『聖杯戦争の失敗から我らは他家の力を借りずに聖杯を作ることを目指した。だが英霊や令呪といったシステムは御するのに難がある。それ故、単独で魔力を貯蓄できるようにしたのだ。“アインス”から“ノイン”までは膨大な魔力に耐えられなかった。そして、以前の聖杯の欠片を使ったこれは耐えられたのだ』
『じゃあ成功したんですね』
『いや、失敗だった。あまりにも素体の容量を強化しすぎたため、要らぬものまで貯めてしまったのだ。魔力には
『それで?』
『これはな、“悪”の概念を取り込み、その名の通りに害を与え始めた。完成しすぎた故に狂ってしまったのだ。だからこれは決して開けてはならぬ』
「そうかよそういうことかよ! お前、この町全ての“悪”の概念を取り込みやがったな! 最悪だ! いや最悪なのは俺の方か……こんなもんの封を解いちまったんだからな…………だが簡単には行かせねえ! たとえ足が無くともお前をもう一度封じてみせる! 俺が原因なら、俺が封じるのが筋だか」
「
男は最後まで言うことはできなかった。いつの間にか近くまで寄っていた影に呑みこまれてしまったからだ。もうそれを止める者はいない。
そして。
世界に“悪”が生まれた。
◆
私は夢を見続ける。
◆
『わたし』は『しらな』い。『そと』の『けしき』も、『おや』の『かお』も。
『わたし』は『しって』いる。『まじゅつ』のことを。『ひと』の『みにくさ』を。
だから、こんな『ひび』も『いつもどおり』だ。
『わたし』は『いつもどおり』、『けんきゅうしゃ』に『つれられ』て『へや』をでる。『ひとつ』も『まど』が『なく』て、ずっと『けいこうとう』の『ひかり』が『ついて』いる『まっしろ』な『へや』が『わたし』の『へや』。『しょくじ』は『きまっ』た『じかん』に『とどけられ』る。
『わたし』は『あるく』。
『いつも』と『かわらない』『いし』で『でき』た『ろうか』を『あるく』。『あるく』。『あるく』。
『くつ』を『はいてい』ない『わたし』の『あしのうら』は、『いし』の『つめたさ』を『つたえ』てくる。『きょう』は『すこし』『しめって』いるみたい。
『あるき』、『あるき』、『あるいて』『ついた』のは、『しゅじゅつしつ』という『ばしょ』。
『わたし』に『いたいこと』をする『ばしょ』。
『ひと』が『わたし』の『からだ』を『すきかって』に『いじくる』『ばしょ』。
『ひと』が『いっ』た。『わたし』には『そよう』があるらしい。でも『わたし』には『いみ』が『わからない』。『そよう』という『ことば』の『いみ』を『しらない』し。
ああ、『きょう』も『いつも』の『いたい』ことが『はじまる』んだね。
ああ、『きょう』も『わたし』は『いきて』しまっている『こと』を『じっかん』させられるんだね。
そして、『きょう』も『わたし』の『からだ』には『もよう』が『きざまれ』ていくんだね。
『きょう』は『どこ』だろう。『め』かな。『のど』かな。
ああ――――『し』って『らく』になるのかな。
『わたし』は『め』を『さまし』た。『いつも』の『へや』だ。『なにひとつ』『かわってい』ない。『ためし』に『まじゅつ』を『つかっ』てみても『なにも』『かわらない』。
『きのう』は『どこ』だろう。『きょう』は『どこ』だろう。『あした』は『どこ』だろう。
『わたし』の『からだ』は『もよう』で『いっぱい』。もう『あいて』いる『ばしょ』なんて『からだ』の『なか』にしかない。
そして。
『きょう』もまた『けんきゅうしゃ』が『やって』きた。
『きのう』とは『ちが』う『ひと』。でも、『わたし』にとって『ひと』は『だれ』でも『おなじ』。『みんな』『わたし』に『いたい』ことをするだけの『ひと』。『いろ』の『ちがい』なんて『かんけい』ない。
『あるく』。『あるく』。『あるく』。
『あるく』。『あるく』。『あるく』。
でも、『きょう』は『いつも』と『ばしょ』が『ちがう』。
どうせ『どこ』に『いって』も『かわらない』んだけど、『きょう』は『すこし』だけ『き』になった。
『わたし』の『め』にはこれから『いく』『ところ』が『まっくら』に『みえ』る。『いつも』『みている』『まっしろ』とは『せいはんたい』の『いろ』。
「な、何が起こったんだ!?」
『ひと』の『あわて』る『こえ』が『きこえ』る。
「お前が最後の一人だ。痛みを感じながら死ね。
「ひ……やめ、やめろ!」
『ひと』の『ひめい』が『きこえ』る。
『まっくら』が『わたし』に『ちかづいて』くる。
「君がそうか」
「『わたし』を『ころす』の。『はやく』『ころし』て。『し』っていうのは『かいほう』なんだって」
「ボクは君を殺すことはしない。ボクは君を助けに来たんだから」
そう『いっ』て『まっくろ』は『わたし』の『て』を『にぎっ』た。
『まっくろ』はそのまま『わたし』の『て』を『ひい』て『どこか』に『むかって』いく。
そして。
『わたし』は『そと』を『しっ』た。
『わたし』は『ひと』を『しっ』た。
『わたし』は『せい』を『しっ』た。
『わたし』は『わたし』を『しっ』た。
そして。
『わたし』は、私は、『光』と『闇』、『善』と『悪』を知った。
それが、『私』と『彼』の出会いだった。
◆
夢は続く。私の魂はもっと深く彼のものに沈んでいく。それは底なし沼のようにゆっくりと、でも確実に私の魂を捕らえる。
そこに不快感はない。それは彼が私を知っているから。信じてくれているから。
だから、私も彼を信じよう。
最後まで夢を見続けよう。
◆
白銀の髪に紅い目。いくら様々な人種がいるとはいえ流石に目立っているのは当人も知っているのだろう。人ごみを縫うように急いでいるのがわかる。そして、その白銀に手を引かれているのは真夏だというのに長袖を着てフードをすっぽりとかぶっている子供。
その二人組に目を引かれ、自分探しの旅という現実逃避をしている青年は彼らの後をついていく。
幸い、青年の背は高く、目立つ二人組であったため見失うことはなかった。
彼らの後を追うと、やがて暗い路地裏に入っていった。少々入り口付近で躊躇ったものの青年は踏み込んでいく。
しかし、路地に入ったところで見失った。躊躇った時間で目につかないところに行ってしまったのかと思い青年は踵を返す。
「どこに行くの?」
声が青年の左手方向から聞こえる。青年がそこを見ると、先程まで追っていた二人組がいた。
その眼は青年を警戒しているようだ。
「ボクたちをつけていたみたいだけど何か用?」
「いや、特に。ただ気になったから追ってみただけだ」
「ふーん。ま、魔術師じゃないみたいだし、ボクからは何もしないから、帰るといいよ。ここから先は引き返すことができない『闇』だからね」
「ちょっと待ってくれ、オレの話を聞いてくれるか?」
「まだ何か?」
自分でもなぜ引き止めたか青年には分からなかった。魔術師というキーワードか、それともほかの何かか。それでも何を感じたのか分からずとも引き止めずにはいられなかった。
「オレの悩みを聞いてくれないか」
「いいよ。じゃあ、ついてきて」
「ああ、助かるよ。あ、オレはカイ」
「知ってる。私もリクも。あなたが何一つ自己というものを確立できていないということも。私たちに相談する内容も」
フードの方から声がした。その声はその容姿通りの幼い少女の声だった。顔はよく見えなかったが、警戒しているような声色ではなかった。
そして、カイが二人についていった先にあったのは小屋だった。科学技術が最盛期を迎えている今、木造の建物はとても珍しく、『遺跡』として残っているのを除けば技術的に後進的な国にしかない。今カイがいるのは世界有数の先進国であるフランス。そんなところでお目にかかるとは思っていなかったのか少々驚いている。
「入りなよ。大丈夫。罠なんて仕掛けてないから」
中々入らないのを警戒しているからだと思ったのかリクと呼ばれた少年が声をかけてきた。自分から頼んでおいて待たせるのは悪いと思いカイは急いで中に入る。
内装はお世辞にもいいものとは言えなかった。剥き出しの木材はところどころ朽ちていた。
「さて、ボクたちに相談って何?」
ある程度綺麗な椅子に腰掛け、リクはカイに問いかけた。
カイは一度大きく息をつくと自分の抱える悩みについて話し始めた。
「君はさっき魔術師って言ったよな。オレの義父もそうだったんだ。だけどオレは魔術師って言われてもまったく分からなかった。だからまず魔術師について教えてくれないか」
「……魔術師っていうのは、科学とは違った手段で同様の結果を出す閉鎖的な技術を使い、そして最終的な目標が『根源』もしくは『 』と呼ばれる領域に到達することである人種。ま、簡単に言えばこんな感じかな。細かく言えばもっと区別はあるんだけど。『根源』と『 』の違いとか」
「オレの義父は魔術師だったのか? なんか研究してた記憶がないんだけど」
「そういう人もいる。ただ、『根源』を目指さない魔術師は魔術使いって言われて侮蔑されてるけどね」
どこか納得したような表情のカイ。自身の中である程度解釈ができたのか次の話題に移った。
「オレの義父だけじゃなく、その家系は『正義の味方』ってやつらしいんだ。義父もそうだった。紛争に巻き込まれたオレを助けてくれたんだ。でも、5年前に同じように紛争に行って死んじまった。そして、その時に命がけで守った奴がその紛争の首謀者だったんだ。結果紛争は長引いた。…………なあ、正義の味方ってなんなんだ? 首謀者を助けて紛争を長引かせるのが『正義』なのか? 家族になったオレを差し置いて戦場に行って勝手に死ぬのが『正義』なのか? 教えてくれよ……」
よっぽど深い悩みなのだろう。その表情は苦悶に満ちていた。
「ボクから言わせてもらえば正義の味方なんて世界に必要ない存在だ。そんな存在がいなくても死ぬ人は死ぬし生き残る人は生き残る。大体、正義の味方を名乗るなら敵は誰だと思う?」
「敵? 『悪』じゃないのか?」
「違うよ。正義の反対もまた正義。辞書的な意味で言うなら不義。決して『悪』じゃない。『悪』の対義は『善』だからね。はっきり言って『正義の味方』の敵は曖昧すぎる。自分が味方したほうが正義。そんな子供じみた結論が罷り通る最悪な存在だよ」
「私は、リクと知り合うまで、人を知らなかった。でも、外に出て分かったこともある。正義はない。私もリクも決して善人とは言えないし、一般的に見れば十分『悪』。でも私はリクを信じてる」
「そうか……初めてだよ。ここまで真剣に答えてくれたのは。ありがとう。オレの自分探しもここで終わりだな」
そう言ってカイは小屋を出ていく。扉を開けたところでふと振り返る。
「そういえばちゃんと自己紹介してなかったな。オレはカイ・
「エミヤねえ……。ま、いっか。ボクはリク・チェラーシス」
「私はソラ・チェラーシス。あなたの選んだ道は茨の道。それでも進むの?」
ソラの問いかけに頷いてカイは出ていく。
そして、2年後。三人は戦場で対峙する。
◆
夢はまだまだ終わる気配を見せない。でも、沈んでいく私の意識は外部の刺激によって引き上げられていく。
完全に引き上げられる前に彼の言葉が耳に届いた。
『陸の果てにも空の果てにも海の果てにもボクと私とオレの居場所はない。例え世界を壊しても救っても。だったら、ボクと私とオレの
◆
「マズイ! 凛下がれ」
いち早く再起動したアーチャーが凜を遠ざける。その声を聞いて士郎と凜はキャスターと琴音から離れようとするが一向に体が動かない。
「無駄だよ。サーヴァントならまだしもただの人間にボクの拘束魔術は解けない。おとなしくしてるといいよ。どうせ君たちに用はないから」
そう言うとキャスターは士郎たちはおろかアーチャーにまで背を向ける。それを逃すアーチャーではない。即座に双剣を創り出し、そして
「アーチャー!?」
「その程度ですか、サーヴァント。ここは任せてください、キャスター」
「任せたよ、バゼット」
背がすらりと高く、スーツ姿の女性が姿を現していた。封印指定執行者バゼット・フラガ・マクレミッツ。人でありながらサーヴァントを殴り飛ばすその膂力は計り知れない。
キャスターに一声かけバゼットはアーチャーに追撃をかける。自前のルーンだけでなくキャスターからの強化を受けている彼女はサーヴァントに見劣りしないほどの力を発揮しアーチャーを追い詰めていく。
双剣の間合いよりもさらに近い距離で繰り出される拳の暴風は未だに初撃以来当たってはいないが刻一刻とアーチャーの余裕を奪っていき、反撃の隙を与えない。
それを横目に見ながらキャスターはセイバーの方に向かっていく。
「
セイバーの足元に魔術陣が展開される。それを振り切ろうとするセイバーだが思ったように体が動かないことに気づいた。
「何をした!」
「その魔術陣はライダーに使う予定だったんだけどね、ま、セイバーも幻想種が入っているから効いているはずだよ。さ、セイバーに死んでもらっては困るけどあっちにいるのは都合が悪いからね。堕ちてもらうよ」
そう言うと、キャスターは魔術陣を描き始める。セイバーにとっては見覚えのあるそれ。10年前負の想念の結晶と言われた星の魔剣の制御陣。
『さあ、出でよ!
キャスターの手に握られているのは不定形の剣。どこまでも黒いその剣は脈打っているように見える。星が作り出した悪性の魔剣。善性の聖剣を持つセイバーにとってそれは目に入れるだけでも毒であった。
それを持ちながらキャスターはセイバーに近づいていく。遠くから士郎の叫び声が聞こえたが、セイバーの耳には入ってこない。目の前の魔剣に集中していなければ
『中々抵抗するね。でも、無駄だよ。さあ。呑み込め!
振り下ろすでもなく突き出すでもない。ただ宝具の名を叫ぶだけで変化は訪れた。キャスターの影を媒体として魔剣から負の想念が流れ出しセイバーを覆っていく。
それは魔力で編まれた鎧を溶かし、セイバーの肌を直接這い上がる。やがて下半身が埋め尽くされる頃にはセイバーに抵抗するだけの力は残っていなかった。
「済まない……シロウ……」
最後に己のマスターの名を呼び、セイバーは呑み込まれていった。
そして、それを確認したキャスターは二つの魔術陣を起動させる。自らの陣地であり潤沢に蓄えられた魔力があってこそ可能なサーヴァントの契約解除術式。そして、その術式に邪魔な凜たちを弾き出す術式。
凜たちはキャスターの術式によって簡単に弾き出され、衛宮邸まで転移魔術で飛ばされてしまう。
残ったのはキャスターと影に包まれているセイバー、そしてアーチャーと戦っていたバゼット、凜たちを見張っていた琴音。
『さて、まずは成功だね。バゼットさん、セイバーと契約する?』
「遠慮します。私は今のままの方が性に合っているので」
『そ。じゃボクが契約するね。
キャスターが命じると同時に影の拘束が解けセイバーが姿を現す。その姿は先程までとは正反対だった。すべてが反転している。もともと善性の聖剣使いであるセイバーの反転は大した労力ではなかったようだ。善悪は表裏一体ということなのだろうか。
「お休み、琴音ちゃん、セイバー、バゼットさん」
◆
衛宮邸まで飛ばされた凜と士郎は翌朝まで死んだように眠らされ続けた。
起きた時には既に7時を回っており、いつものように桜が朝食を作りに来ていた。
いつもと変わらない光景に安堵する士郎だが、心の中では複雑な思いが渦巻いている。昨夜まで右手にあったはずの令呪は無くなっていた。それはセイバーが消滅したということを示している。
凛にしてもアーチャーが重傷を負い数日は実体化すらできないらしい。
「先輩? どうかしましたか?」
「ああいや何でもない」
「嘘です。だって先輩――――――サーヴァントを失ったじゃないですか」