Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
間桐桜との同盟が決まった日の放課後、凜は間桐邸に行く士郎には付き合わず自宅に向かった。
慣れた所作で防護結界の鍵を開け、古めかしい鍵を使って玄関を開ける。ここ数日帰ってはいないので所々に埃が積もり始めているがそれを無視して地下にある魔術工房に向かう。
「出てきなさい、アーチャー」
凜の呼びかけにアーチャーが姿を現す。士郎に言ったような実体化に支障のある傷は見当たらず、それを隠しているような所作も見られない。
それも当然だ。凜は士郎に嘘を吐いたのだから。
柳洞寺から飛ばされた後、凜は直ぐにアーチャーを霊体化させ他のサーヴァントの偵察に向かわせた。彼女が最も危惧しているのはこれ以上の戦力がキャスターの下に集まってしまうことだ。
現状でもキャスターを筆頭に封印指定執行者、最悪自身よりも魔術に長けている可能性のある琴音、更には謎の剣士もいる。おそらくキャスターの言葉から推測するにセイバーもまだ健在でキャスター側についた可能性もある。
「それで、アーチャー。他の陣営はどうだった?」
「同盟を結んだライダーは省かせてもらうが、アサシンは確認できなかった。最後まで隠れているつもりなのか、先日のあの公園でキャスターにやられたのかは判断はつかないがね」
「バーサーカーは?」
「特に新しい情報はない。相変わらず森の中に引き籠っているようだ。ランサーは釣りをしていたな」
「釣り!? ……いやまあ昼間に何してようと魔術を秘匿してるならいいんだけどさ」
「最後にキャスターだが、偵察は不可能だ。柳洞寺の結界が強化されていた。おそらく正門からでも侵入できないだろう。中に入るには令呪を使った直接転移でもなければ無理だ。まあ、時間を掛ければ破ることはできるだろうがキャスターに捕捉されて終わりだろうな」
「最悪ね。士郎は今桜のところに行ってるけど、そこで何か聞ければいいんだけど」
◆
間桐邸で士郎は慎二と向き合っていた。士郎はてっきり桜が何か教えてくれると思っていたので慎二に聞いてみることにした。
「なあ、慎二。桜が教えてくれるんじゃないのか?」
「ん? ああ、桜の方がよかったかい? でも僕のほうが魔術には詳しいからね。さて、衛宮。お前の属性は何だ?」
「属性? 火とか水とかみたいな奴か? 俺知らないぞ?」
「はあ!? 知らない!? ……しょうがない。なら得意な魔術は何だ?」
「強化と投影かな。むしろそれ以外はできない」
ほら、といって士郎は何の装飾もない剣を一振り投影する。それを慎二は十分以上かけて観察し、次の指示を出す。
「じゃあ、このティーカップを投影してみてくれ」
「それは出来ない。何でだか知らないけど俺は剣しか投影できないんだ。皿とか投影できればその分食器代が浮くと思ってやってみたんだけど一向に出来なかったんだ」
「……少し待ってろ」
そう言って慎二は部屋を出て行ってしまった。それと入れ替わるように桜が入ってきた。制服から着替えて私服になっている。桜はあまり士郎の前では私服でいることがないので少し新鮮さを士郎は感じていた。
「兄さん、出ていったみたいですけど、何かあったんですか?」
「いや、少し待ってろって言われた。そういや、慎二って魔術師じゃないのか?」
「はい。兄さんは魔術回路を持っていないので魔術師じゃありません。でも知識量は高位の魔術師にも劣らないと思います。だから、先輩は安心してください」
そう言った桜の顔は誇らしげだ。
それから一時間程桜と士郎は話をしていた。それでも慎二が戻ってこないので桜が見に行こうとしたときちょうど慎二が帰ってきた。その手には何本かの剣が抱えられていた。
「次はこれを投影してみろ」
「分かった。
「……やっぱりそうか。衛宮、お前は特化型だ」
「特化型?」
「僕が勝手にそう呼んでいるだけさ。ある一定のものにのみ常軌を逸した才能が突出してることで、お前のは剣に特化してるみたいだな」
「じゃあ、俺は普通の魔術は使えないのか?」
「おそらく無理だね。ガラスを直したりとかならできるとは思うけど、あまり期待を持たない方がいい。どうせ衛宮のことだ、サーヴァントがいなくても聖杯戦争を戦うんだろ?」
「当然だ。例えセイバーが居なくてもそれは変わらない。誰かが犠牲になるような戦いなんて認めちゃいけないんだ」
士郎の真剣な顔を見て、慎二はため息をつく。自分がどんな位置にいるのか分かっていない士郎はため息をつかれる理由が分からなかった。
だが、慎二はあえて士郎の立ち位置を教えることはしなかった。教えたところで考えの変わらないと表情で分かったからだ。
ならば、慎二ができるのは士郎の魔術の技量を伸ばすことだけ。慎二は士郎にアドバイスをしていく。
「まず、魔術回路はきちんと開いているみたいだから、そっちは心配ないけど運用が壊滅的に下手だな。まあ、これは慣れていくしかないから日々の積み重ね。そうだな、ティッシュに強化を掛けて木を切れるくらいになればいいんじゃないか?」
「ちょっと待て慎二。それってかなり難しくないか?」
「そうか? 桜は一週間で出来るようになったぞ?」
士郎の視界の端には誇らしげに胸を張る桜の姿が。
魔術の“普通”を知らない士郎はその難易度を見誤りこれに難儀することになるのだが、この時はまだ知らなかった。
「で、投影の方だけど、とりあえず作りまくれ。僕は投影に関してはそこまで詳しくないし、剣に特化した前例がウチの資料では見つからなかったからそれぐらいしか言えないな」
「そっか。ありがとな」
そう言って士郎は席から立ちあがる。
部屋から出ていく士郎に向かって最後に慎二は声を掛けた。
「じゃあな、衛宮。死ぬんじゃないぞ」
「ああ」
士郎はそれに答えて屋敷を出ていった。
◆
大量の肉を買い込み行われた焼肉パーティーを終えたキャスターは行動を開始した。
セイバーを手に入れるという第一目標を達成した次は、小聖杯の確保。即ちイリヤスフィールの確保をしなければならない。だが、それに付きまとう障害は大きい。
キャスターにとってはアインツベルンの結界など児戯と同様ではあるが、問題はサーヴァントのバーサーカーのほうである。
ランクの低い攻撃では掠り傷すら与えることが難しく、おまけに一度死を経験した方法では殺すことができない。先日は日本の神道を利用した対神術式と火属性の魔術で計3つの命を奪ったが、それ以前のものを含めても4つしか削れていない。残り8回も異なった方法で殺しきるのはかなり難しいと言える。
だからキャスターが狙うのはマスター。最上級の英霊でありながら更に狂化しているため莫大な魔力が必要となるバーサーカーはマスターからの魔力供給が途切れればあっという間に自滅する。その自滅までの間に殺されてしまう危険性があることも否めないが直接対峙し殺しきるよりは危険性は大分低い。
しかし、マスターを狙うとはいっても常にバーサーカーは近くにいるため、一度は殺す必要性がある。それも回復に時間のかかる方法で。
幸い、前回の聖杯戦争とは違って魔力供給が十分であり、陣地に貯えもある現状では宝具の出し惜しみは考える必要がない。『
「いいかい? 琴音ちゃん。ボクは今からアインツベルンの城に行ってイリヤちゃんを拉致してくる。勿論、バーサーカーとの戦闘はあるだろうけど、心配はしなくてもいい」
『分かった。それで、そのイリヤちゃんって子をここまで転移魔術で跳ばすんでしょ? そのあとは?』
「琴音ちゃんにはこれを起動してもらう」
そう言ってキャスターが懐から取り出したのは2メートル四方の紙だ。その紙上には隙間もないほど魔術陣がびっしりと記してある。それを広げた後、再び小さく折りたたむと、琴音に預ける。
「ここに書いてあるのは外界との隔離術式。ようするにこれを使ってバーサーカーとのラインを一時的に無効化して自滅を待つ。起動するのにはそれほど魔力は要らないから。じゃ、行ってくるね」
『うん。いってらっしゃい』
琴音の言葉を聞いてキャスターは毎度お馴染みの転移魔術で姿を消した。
キャスターを見送った琴音は小屋に戻り再び紙を広げる。いつ転移魔術で送られてくるかはわからないので紙の前から動くことは出来ず、いざという時のために魔術鍛錬も控えるように言われている。
強固な結界を張っているために他のサーヴァントからの介入の可能性は殆どないが、万が一ということもある。それに例え山門の結界を突破してきたとしても、そこで待ち構えているのはキャスターからルーン魔術を深いレベルで教わったバゼット、黒化したセイバー、キャスターの分身ともいえるカイがいる。
そんな面子がいてもキャスターは警戒を怠ることはなく、琴音に魔力を残しておくよう伝えているのだ。本人からすれば過剰にも思えるのだが。
かと言って琴音にやることがないとは言えない。今までは声を発するのに魔術を使い、魔術を使うためには声を使わなければならないため一つの魔術を発動するのに声の分の魔力が上乗せされてしまうため効率が良くなかった。それを克服するために琴音は発声練習をしている。
幸い、魔術で声を作ることができるためいくら喉を酷使しても魔術の使用に支障はない。
「…………ぁ……」
今はまだ声も小さく発音もはっきりしていないが以前に比べれば格段の進歩だ。一応声は出せるようになってきているのだから。
再び自分の声で話すために琴音は努力を続けた。
◆
一方、柳洞寺から転移魔術で外に出たキャスターは直ぐにアインツベルンの本拠に向かうことはしなかった。
今キャスターがいるのは10年前、冬木市民会館のあった公園だ。
ちょうどその公園の中心でキャスターは地面に手を着いた。小声で何かを唱えながらその場から動かない。
約三十分後、ようやくキャスターは立ち上がると、転移魔術ではなく普通に歩いて公園を出ていった。
キャスターが去る前はこの場に立ち込めていたはずの“嫌な気配”はいつの間にか消えていた。
そして、キャスターの“影”は濃くなっていた。