Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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Phase.12

 

 

 公園を後にしたキャスターは未だアインツベルンの城には向かっていなかった。次に向かったのは教会。そこでキャスターは言峰と会っていた。

 

「やあ、言峰綺礼。今日はちょっとした挨拶に来たんだ。それと、提案にね」

 

「何だね、キャスター」

 

「何てことは無いさ。ただ宣言に来ただけだよ。聖杯戦争は明日決着する。是非君にも結末を見てもらいたいと思ってさ」

 

「根拠でもあるのかね?」

 

「君が協力してくれれば。まあ、協力してくれなかったところで数時間伸びるだけだとは思うけど、その場合には君はもう死んでいるだろうけどね。分かるでしょ? ボクの中にいるモノが」

 

「分かるとも。成程、もし私が協力しなければ私の中にあるモノを今取っていく、という訳だな」

 

「ご名答。さ、協力するかしないか選んでよ。もし協力するなら、君に『この世全ての悪(アンリマユ)』を見せてあげよう」

 

「ふ、是非もあるまい。私の望みはアレの誕生にある」

 

 言峰はほんの僅かではあるが興奮しているように見えた。キャスターはその表情を見て、次の条件を出す。

 

「ボクからの要請は簡単さ。地下に居るギルガメッシュのことは関係ない。ただ、ランサーが邪魔なだけ。…………分かるよね?」

 

「ああ、そういうことか」

 

 言峰はわざとゆっくりと袖を捲り令呪を輝かせる。その顔は歪で、しかし極上の料理を前にしたかのような笑みを浮かべている。

 

「令呪を以って命じる。ランサーよ………………自害せよ」

 

 たっぷりと溜め、最後に命じたそれはたちどころに効果を発揮し、今まさにアインツベルンの結界を通り抜けようとしていたランサーは自らの槍で心臓を抉って消滅した。

 

「ふふふ。良い笑顔だね。さあ、これで契約は完了した。明日の午前0時、柳洞寺で待ってるよ」

 

「ああ。楽しみにしていよう」

 

 転移魔術でキャスターが消えていった後も言峰は歪な笑みを浮かべたままでいた。それは上がってきたギルガメッシュが気味が悪いと告げるまで続いていたらしい。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 火が見えた。どこからか広がった火災は瞬く間に家々を呑み込んでいった。

 

 空を見上げても、赤い。空に舞いがった煙が火の赤を映しているからだ。よく目を凝らすと、奥に何かが見えた。……黒い太陽?

 

 ここに居てはいけない。極限状態の中、既に歩く体力もないがとにかくここから離れなくては。

 

 意志だけで身体を動かす。周囲には生存者の影もない。火災で崩落した家の中には家主がいるのだろう。しかしそのどれもが既に生者ではない。それが理解できてしまう。

 

 歩き続ける。

 

 ふと、誰かの声が聞こえた。

 

 ――助けてくれ――

 

 しかし自分には助けるだけの余力が残っていない。

 

 ――この子だけは――

 

 答えられない。自分が動くだけで精いっぱいだ。

 

 謝ることすらできず、何を目的としているのかすら分からないまま歩き続けた。

 

 聞こえてくる声は変わっていた。

 

 ――何でお前は生きているんだ――

 

 知らない。答えることは出来ない。自分でも生きていることが不思議なのだから。

 

 ――よくもこの子を見捨てたな――

 

 見捨てたわけじゃない。助けるだけの力が自分になかった。見捨てる気なんてなかった。

 

 いつしか火災は収束を見せていた。黒い太陽も姿を消していた。

 

 もう動くことすらできない。頭の中は数々の助けを求める声と、自分を責め、恨む幻聴に支配されていた。

 

 それでも何かを探すかのように正面に目を向ける。目の前に広がっているのは地獄絵図に他ならない。救いなどは一片も見えず、絶望以外を探すことすら難しい。

 

 ふと、脇に目をやる。何か見覚えのある物が目に入ったからだ。

 

 赤いリボン。

 

 その先には胴体と繋がっていない――――

 

 

 

 

 

 唐突に目を覚ました。先ほどまで見ていたはずの悪夢は欠片も覚えていないが、得体のしれない不安感が士郎を襲う。

 

 何か取り返しのつかないことが起こっているような、そんな気がした士郎は居てもたってもいられず外に飛び出た。彼の工房である土蔵の扉に手を掛け、中に入ると違和感に気付いた。

 

 普段は整然としているはずの2階部分が荒らされている。そこに何があるのかは士郎は詳しく知らない。ただ、そこにある物は切嗣の遺したものであるということは知っている。

 

 片づけをしながら自分の記憶と照合すると、箱が二つ無くなっていた。どちらもそれほど大きなものではないがやけに重かったのを覚えている。

 

 中身の推測は出来ないが、誰がこれをしたのかは容易に分かる。衛宮邸の防犯用結界が作動しなかったのだから琴音かキャスターのどちらかだ。彼女たちであればこの程度の結界は少し構造を弄ったくらいでは無いのと同じだろう。

 

「ちょうどいい。何か寝られる気がしないからいつもの日課をやるか」

 

 士郎はちょうど土蔵の中心で目を閉じる。いつものように自分という存在を世界から切り離していく。魔術回路は異常なく稼働を始めた。

 

投影開始(トレースオン)

 

 慎二に言われたとおり、士郎は数を積み重ねることが重要だ。いくつもの剣を造りだし、精度を上げていくことしか今の彼には出来ない。記憶にある多種多様な刀剣を現出させていく。

 

 他者を傷つけることしか出来ない武器を造り、他者を救うことを願って。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 元の契約者である士郎から切り離され、キャスターの支配下に置かれたセイバーは夢を見ていた。

 

 本来サーヴァントに睡眠や食事は必要ない。それは彼らが英()だからだ。しかしセイバーは未だ英雄(・・)。未来に復活する王として眠りについたとされるセイバーは肉体的な死を迎えていない。それ故睡眠や食事といったことを多少なりとも必要としていた。

 

 先ほどまでは周囲の警戒に当たっていたが、今はカイと名乗るキャスターの協力者がそれをしている。

 

 僅かな休息ではあるが戦場では寝られるときに寝るのが鉄則である。セイバーは即座に眠りに落ちた。

 

 そして見ているのは夢。目の前に居るのがどこの誰なのかは分かりきっている。自身の新たな契約者であるキャスターだ。

 

 今セイバーが見ているキャスターは生前の姿だ。今よりも背が小さく、ともすれば少女にも見えなくもない華奢な体つきだ。

 

 その隣には長いローブを纏った少女の姿がある。おそらくキャスターがソラと呼んでいる人物のことだろう。

 

 見たところ場所は戦場のようだった。セイバーが経験してきたどの戦争とも違うその光景は正に異形同士の戦いだった。

 

 戦車が地を埋め尽くし、空には戦闘機の群れ。しかしそのどれにも人の気配はしなかった。無人の戦争には流血は無い。それが却って恐ろしかった。戦争というのはその理由が宗教であれ侵略であれ終わりというものが存在する。

 

 当然、それを決断するのは人間だ。そして非情な言い方だが決断の為には一般人にも分かるほどの“被害”が必要とされる。

 

 しかし、今セイバーが見ているのは人間には被害の出ない戦争だ。被害が出ない故に戦争をしているという感覚は一般人にはあまり感じられない。物資の徴収によって市場での物価は上がっているだろうが、それくらいしか認識できる物が無いのだ。

 

 そして、無人であるということは街に攻め込んだ際に一切の慈悲を期待できない。壊滅するまで破壊は続いてしまうのだ。

 

 キャスターにもそれは分かっているらしく、しきりに後ろを気にしている。但し、キャスターの後ろにあるのは街ではなく森だ。戦場の間近でありながら木の一本も折れていないのはキャスターが守っているからだと理解できる。先ほども飛んできた砲弾をかなり手前で撃墜している。

 

「戦争ねえ。どこまでいっても人間の欲は尽きないっていうのは何ていうか流石ってとこだね」

 

「そんなこと言ってるリクも私もお父さんも人間だけどね」

 

「そりゃそうさ。ボクだって人間だから欲もある。この森だけは壊させないっていう欲がね」

 

「随分平和的な欲よね。リクって本当に“悪”の権化なの?」

 

「そりゃそうさ。ボクはこの土地が欲しい大統領サマの要求を断り続ける悪さ」

 

 冗談めかして笑う二人はそうして話している間にも流れ弾を処理し続けている。その動きに一寸の無駄もなく洗練されている。間違いなく世界最高の魔術師であることが覗える。

 

 でも、と前置きをしてキャスターは続ける。

 

「世界がボクに悪を望むのならボクはそれに従うしかない。ボクの器はそういう風に出来ているからね。世界全てを滅ぼせと願われたらボクはそれに従う。ボク自身が進んでそういうことをしようとは思わないけど、願われたのなら逆らえない。ボクはどれだけ人間であろうとしても、いや、人間でも願望器である事実は変えられないからね」

 

「じゃあさ、もし私を殺すように願われたら?」

 

「苦しまないように一瞬で」

 

「そこは抗ってくれないの?」

 

「抗ってほしいの?」

 

 そこでソラは少し考え込んだ。

 

「……ううん。リクに殺されるのなら、それはそれでいいかな。でも私の魂は一緒に連れてってね」

 

「君が望むならね。ボクは強制するのはあんまり好きじゃないから」

 

「知ってるよ。じゃあ、最後に。もし、私が誰かに殺されたら?」

 

「世界を滅ぼすさ。ボク自身の意思で」

 

 少しも考えずにキャスターはそう口にした。冗談ではなく、真剣な表情だった。

 

 身体が浮上していく感覚に囚われる。セイバーはそれが夢からの目覚めであると分かった。そしてそれは僅かな休息の終わりであるとともに、聖杯戦争の最後の幕が上がったことを意味していた。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

「いい感じに溜まってきたじゃねえか。さあ、さっさと俺を還してくれよ、ツェーン」

 

 暗闇の中男の声がした。

 

 

 

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