Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
森に張られた結界を気にする様子もなく通り抜けたキャスターは既にバーサーカーと戦い始めていた。
バーサーカー。本来、低級な英霊を狂化することによってステータスの底上げを行うクラスであり、同時に狂化による魔力消費の増大から扱いづらいクラスでもある。しかも、今回のバーサーカーの真名はヘラクレス。低級どころか一級のサーヴァントである。おそらく一般の魔術師では十分ともたないであろう。
しかし、マスターであるイリヤスフィールはそれを何の苦にもしていない。それどころか運用に余裕すら垣間見えるほどだ。今も笑顔のまま戦いの趨勢を見ている。
バーサーカーが手にしている斧剣を振るう度に木が数本吹き飛ぶ。しかしそれは襲撃者であるキャスターに対して何のダメージも与えられない。
『早いけど避けられないほどじゃないね。さ、次はこっちの番だよ!』
いつもとは違う黒いローブを纏い、白銀の髪をはためかせて空を飛ぶキャスターは手を打ち鳴らす。一瞬の内に魔術陣が描かれ、魔術が行使される。ファンシーなピンクの光線がバーサーカーに直撃する。しかし、その一撃も僅かに傷を与えた程度であり、行動を阻害するまでには至らない。
それも織り込み済みとばかりにキャスターは新たな魔術陣を展開する。現れたのは3つの魔術陣。それぞれが異なった言語で構成されており、一目ではその魔術の正体は分からない。それらは一直線に重なるように配置されていく。
『
3つの言語でそれぞれの魔術陣が制御され、一つの大魔術を作り上げていく。
『
放たれたのはどの神話にも必ず現れる『神』の一撃を模した魔術だ。並大抵の魔術障壁では紙同然、一流の魔術師であっても現代に生きる以上防ぐことは不可能に近いその一撃をバーサーカーは耐えきった。脇腹には大きな穴が穿たれ、左腕も失っているものの、生きてはいる。そして、バーサーカーはイリヤの指示によって自らを殺すことで傷を完全に修復した。
『やっぱり面倒だなー、その宝具。次からは
傷が修復されたのを見てキャスターは呟く。当初の計画ではバーサーカーが傷を修復、ないし死亡状態から回帰するまでの間にイリヤスフィールを拉致する予定だったが、今ではその計画に綻びが生じていた。
今までの戦闘結果から見るに、十分その計画は実行可能な範囲だった。しかし、再び戦ってみると、前回とは明らかに動きが違う。一つ一つの動作が速く、威力も増している。加えて防御力も上がっているのか中々致命傷を与えられない。先ほどの
『さて、計画変更かな。流石にこれをバラバラにするのは厳しそうだし、あと7回殺しきって終わらせるよ、ソラ』
『はいはい、じゃ、私は琴音ちゃんに連絡しとくね』
『うん、頼んだよ。さあ、派手にいこうか!』
キャスターが両腕を振りかざすと、空一面に魔術陣が展開される。それと共鳴するようにキャスターの身体のいたるところに刻まれている魔術陣が連動して淡い光を放ち始める。
『
その言葉を発すると同時に、上空の魔術陣から魔弾が放たれる。雨霰と降り注ぐ魔弾はバーサーカーの動きを阻害する。鬱陶しそうに斧剣を振り回しているがその程度では魔弾を振り払うことは出来ない。
そして、動きが止まったところにキャスターの詠唱魔術が襲い掛かる。陣魔術のスキルで放たれる魔術よりも威力が高くなる詠唱魔術は先ほどよりもより効率的にバーサーカーの身体に傷をつける。それでも強化されたバーサーカーにとっては致命傷足り得ない。
『次、いくよ!
キャスターが投影魔術で作り出した槍に氷のルーンを刻み、それをバーサーカー目がけて一斉に射出する。しかし、それらはバーサーカーに対して何の意味も為さない。その肉体に到達するものの、傷一つすらつけることが出来ずに砕け散っていく。しかし、砕け散った時に発せられた冷気をキャスターは利用する。
『
冷気で編まれた氷の檻がバーサーカーを閉じ込める。かなりの魔力を込めたようでバーサーカーも中々脱出できないでいる。
「バーサーカー! 早く脱出しなさい! 次が来る!」
『遅いよ。
セイバーが自らの宝具での迎撃を選択するほどの大魔術が身動きの取れないバーサーカーに直撃する。堅牢な城でも破壊しつくせるほどの魔力の塊は狙いを外すことなく檻の周囲を破壊しつくした。その破壊の余波で周囲の木々は薙ぎ倒され、遠くにあるアインツベルンの城が見通せるまでになった。
『さ、今ので3つは削れたかな。あと4回、殺しきってみせるさ』
◆
一方、作戦の変更を告げられた琴音は衛宮邸にある土蔵に侵入して二つの物を運び出そうとしている。結界には反応しないよう細工をし、音もなく忍び込んだのだが、どうも監視されているような感覚が抜けない。
一応外にバゼットが待機しているので呼ぶこともできるのだが、結界の細工は必要最低限であり、元々そこに住んでいた琴音だからこその抜け道を使っている。おそらく中に呼べば警報が鳴りだすだろう。
『取る物取ってさっさと退散しよ』
目的のものはすぐに見つかった。5年前、衛宮切嗣がこの世を去ってから定期的に掃除こそしているものの場所は動かされていなかったそれは、土蔵の二階、一番奥に置かれていた。素早く中身を確認し運び出す。
何事もなく敷地から抜け出しバゼットと合流すると、魔術を使って一気にその場から離脱する。
「一体どうしたのですか」
『ちょっと監視されてる気がするの。多分サーヴァントだと思う』
「分かりました。戦闘準備はしておきます」
バゼットはいつものグローブを嵌め、琴音は周囲を警戒しながら一目散に柳洞寺へと向かう二人。
しかし、山門へ続く階段に着いた時に威力こそそれほどないものの攻撃を受けた。幸い、周囲を警戒しながら向かっていたためバゼットが拳で弾いたが、そのあとにも続けて遠距離から攻撃を受け続けている。
『バゼットさん、ここはまかせてもいいですか? カイさんを呼んできます』
「わかりました。恐らく敵はアーチャーでしょう」
バゼットにこの場を任せ階段へと消えていく琴音。時折攻撃が琴音のほうにも向かうが全て外れている。
「水で光を屈折させて像を作り出しているのですか……。しかし、これでは埒が明かない」
既に防いだ数は50を超える。敵に諦める様子は無く、絶え間なく攻撃が襲い掛かってくる。どこから撃っているのか分からないようにたびたび軌道が変わっているのも厄介だ。
「仕方ありません。カイが来るまで耐え続けるしかないようですね」
しかし、耐えると言っても人の体力には限界がある。たとえ短い時間であろうと常に相手の攻撃に晒されるというのは体力や精神力を奪っていく。先ほどから一層攻撃の密度が高まっているため徐々にバゼットは傷を負っていく。
「くっ……右20に左20ですか、流石に厳しいですね」
「伏せろ!」
バゼットが後ろから掛けられた声に従うと同時、剣圧が全ての攻撃を弾く。
「悪い、少し遅れたな。あとはオレに任せな」
「頼みました。琴音は?」
「詳しくは分かんねえけど何かの術式を組んでたぜ……っと」
話している最中にも飛んでくる攻撃をいとも容易く弾くカイ。それを見てか攻撃が止んだ。
「今の内だ。さっさと山門の中に入っておきな。恐らくアーチャーも今からこっちにくるぜ」
「分かりました。では一足先に行っています」
バゼットは10段飛ばしで階段を上りあっという間に山門に辿り着いた。
それを確認したカイは魔術で槍を作りそれをアーチャーがいるであろう場所に向かって投げる。一直線で進む槍はその途中で迎撃される。
「やっぱりそこか。なら、こっちから行かせてもらう!」
アサシンとの戦いでもしたように足元で爆発を起こし、カイは一気にアーチャーに接近していく。
着いた先は住宅街から少し離れた雑木林だった。
「やれやれ。まさかすぐにここを見破られるとは思わなかったよ。まあ、いいさ。ここで君を排除させてもらう」
「やってみろよ、ご先祖サマ。正義狂いのエミヤシロウ!」
そうして、どのマスターも見ることのない戦いが始まった。