Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
黄金の光が場を覆う。地上20メートル余りの高さがある街灯のポールの頂上にその姿は現れた。昨夜、アサシンを圧倒的な力の差で葬った黄金のサーヴァント。キャスターの見立てではアーチャー。その立ち位置からして自分が上位者であることを示そうとしているようにも見える。
「
黄金のサーヴァントは不愉快気に口を歪め、眼下のサーヴァントを一瞥する。その眼には明らかに侮蔑の色が含まれており口調にも不快感が漂っている。その雰囲気は他のサーヴァントを圧倒しており、一般人では立つことも儘ならないほどの威圧感を放っている。
「難癖つけられてもなぁ。イスカンダルたる余は、世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが……」
「たわけ。真の王たる英霊は、天上天下に
「あー! やっぱり王様だったんだー」
と、そこに無邪気な声が割って入る。その声の主は、タン、と足音を立てて地面に着地する。その姿と声は幼く、今この場に於いては些か不釣り合いだった。ただ、この場の黄金のサーヴァントを除いた誰もが新しい闖入者を注視している。沈黙が好きではないのかライダーが手始めに声を掛けた。
「お主、サーヴァントか?」
「ボクはキャスター。よろしくね!」
突如として現れた子どもは自らをキャスターと称した。キャスターが自ら姿を現すなど自殺行為である。そのため、疑ってかかるのだが、どうもキャスター以外には思い当たらない。なにしろ、セイバーとランサーは今の戦いではっきりしており、イスカンダルは自らをライダーと称した。アサシンは既に敗退。また、その攻撃方法から黄金のサーヴァントはアーチャーだと思われる。残るはキャスターとバーサーカーなのだが、明らかに狂化しているとは思えない。
さらに、この場にいるウェイバーはそのステータスを見ることで、キャスターだと確信した。魔力だけが突き抜けて高く、その他のステータスが軒並み平均以下なのはキャスターしかいない。
「このステータス……間違いなくキャスターだ。だとしたら何で……」
「教えてあげるよ? ライダーのマスターさん」
「うわぁ! いつの間に近づいてきたんだよ!!」
先ほどまでは遠くに居たはずのキャスターがいつの間にか近くにいたことで悲鳴を上げるウェイバー。だが、驚いていたのはウェイバーだけではなかった。サーヴァントは、キャスターが移動した瞬間を確認できていない。おそらく何かの魔術を使ったのだろうと予測は出来るが、遠くから監視しているランサーのマスターや、アイリスフィールはその魔術の痕跡を見つけられずにいた。
それはつまり、このキャスターが隠匿性に長けているという証だろう。誰にも気づかれること無く移動し、痕跡すら残さない。まるで、
「んーとねぇ、ボクが出てきたのは、そこのライダーが呼びかけたからだよ?」
だが、当のキャスターは、いかにも子どもらしく首を傾げながらウェイバーに答える。無邪気であるが故の恐怖をウェイバーは感じていた。
「
先ほどから言葉を発していなかった黄金のサーヴァント、アーチャーは、怒りに顔を歪ませる。そして、アーチャーの左右の空間に歪みが生じ、次の瞬間には、眩い刃の輝きが虚空に姿を現していた。槍と剣。二本とも隠し切れないほど猛烈な魔力を放っていた。宝具としか思えないような代物である。
だが、それが放たれることはなかった。突如として、黒い魔力の塊が出現し、アーチャーに襲い掛かったのだ。
当然、アーチャーはその攻撃を躱すが、先ほどまで立っていた街灯は、跡形もなく消え去っていた。そして怒りに歪められた顔を黒いサーヴァントに向ける。
「……ッ! 天に仰ぎ見るべきこの
怒り心頭といった様相のアーチャーは、先ほどまで展開していた剣と槍を、即座に闖入者に向けて射出する。だが、それをあろうことか剣を取り、槍を叩き落すといった所作で闖入者は防ぐ。その僅かの攻防ではあるが、黒いサーヴァントの技量は低級の英霊ではないことを示している。
「あれがバーサーカーかー。ボクじゃ勝てないね。……セイバーさーん、後ろに隠れててもいい?」
「な、なぜ私に聞くのですか。というか、いつの間に!!」
またしても謎の移動方法でキャスターはセイバーの後ろに移動し、避難を始める。そうしている間にも、アーチャーは次々に武器を射出しているが、一向にその攻撃がバーサーカーに当たることはない。
だが、それも唐突に終わりを迎える。
「貴様ごときの諫言で
おそらく令呪でも使われたのだろう。64もの武器を展開していたアーチャーは、それを仕舞うと、セイバーとライダーを一瞥したのち、霊体化して消えていった。
だが、それでもバーサーカーは残っている。今も唸り声をあげ、戦闘態勢を取っている。その対象は、セイバー。
「……a……ar……」
数瞬後、一息に駆け出したバーサーカーは、手に持ったポールを振りかぶり、セイバーに叩きつけようとしていた。
「うひゃぁ! なんでこっちくるのーー!! 来ないで!!」
セイバーの背後に隠れていたキャスターは、バーサーカーが向かってくるのを見て悲鳴を上げる。だが、それと同時に、足を踏み鳴らす。
すると、セイバーまであと数十センチといったところで、バーサーカーが見えない何かに弾かれたかのように、反対方向へと吹き飛ばされた。吹き飛ばされたバーサーカーは路上を滑り、倉庫へと突っ込んでいった。
「もう! 何でこうボクのところに来るかなぁ! 死んじゃえ!!」
何かスイッチが入ってしまったのだろうか。キャスターが足を踏み鳴らすたびに魔術陣が形成されていく。その中には、見覚えのあるものから、全く見覚えのないものまであった。大小様々な魔術陣を狂ったように作り出すキャスター。明らかに大出力な魔術が放たれるであろう予感に、ライダーやランサーが撤退していく。高い対魔力を持つセイバーではあるが、アイリスフィールにはその恩恵がないため、セイバーも全速力で撤退を開始する。
全員が撤退し終わった頃、キャスターの魔術は完成した。
作り出された魔術陣が連動し、一つの魔術陣を作り上げる。その中を魔力が循環し、徐々に光量が増加していく。流石に危険を察知したのか、バーサーカーも霊体化し消えていく。だが、それに気付かずに、キャスターは、最後の一言を口にする。
「逝け!!
「あはハハははハ! 消えちゃえ!!
発動された魔術は圧倒的であった。ほんの一瞬の間に、周囲に点在していたコンテナは消え去り、アスファルトの地面は完全に溶けてドロドロになっていた。
だが、そんな地獄のような風景の中でも、傷一つ負わずキャスターは笑い転げていた。
「はははハハは! アははハハははハ!」
◆
「凄まじいな……。これではセイバーでも耐えられないかもしれないな」
「ですが、キャスターはセイバーのマスターが『衛宮切嗣』であることを知っています。おそらく何か仕掛けてくるでしょう」
使い魔を残し戦場を脱した切嗣と舞弥は、先ほどのキャスターの行使した魔術を見ていた。今まで幾つもの戦場を経験してきた切嗣と舞弥であったが、これほどまでの威力の魔術を目にしたことなどない。あの魔術を使われてはアインツベルンの結界ですら紙のように消されてしまう可能性もある。
舞弥が言うように自身がマスターであると知られてしまった切嗣だが、自身が狙われることはないと感じていた。
「いや、それはないだろう。いくらあのキャスターの魔力が多くても、あのレベルの魔術を行使すれば、当然マスターにもそれなりの負担が来るはずさ。だから僕たちは予定を変更しない。それに、ライダーのマスターに接近しておきながら何もしなかったということは、おそらく一般人が多いところでは何もしてこないだろう。予定通り行動すれば問題ないさ」
「わかりました。それでは早速行動に移ります」
舞弥はそう言うと、切嗣の部屋を出て行く。一人になった切嗣は、今回のキャスターについて考えをまとめていく。
「今分かっていることは、キャスターというクラス名とステータス。マスターは不明……」
切嗣は口に出しながら紙に情報を書き出していく。
「ステータス面では魔力以外は最弱といってもいい。ただ、セイバーと同じく魔力放出のスキルを持っていた場合はそれに限らない……。やはりマスターを狙うべきか? だが、情報が一切ない。ということは、この地で選ばれた可能性が高い。少し探ってみるか」
切嗣は紙一枚に亘った情報をもう一度確認し、これからの方針を立てる。とりあえずは、今宵のランサーのマスターの件からだ、と自分に言い聞かせ、部屋を出て行く。
「ふーん。あの人が切嗣っていう人かー」
いつの間にか部屋にいたキャスターに気付かずに。