Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
正義狂いと称されたアーチャーは両手に剣を作り出す。彼が生涯に亘って愛用し続けたその剣を見て、カイは笑い飛ばした。
「ハハハッ! よりにもよってその剣か。己を最も愛してくれた女性を殺しておいてその剣を使うとは!」
「その程度の挑発に乗るとでも思ったのか?」
「いやいや挑発でも何でもねえよ、ただの感想だ。それにな、挑発ってのはこうやるんだよ」
カイは自分の喉に向けて魔術を使い、こう言った。
「『ごめんなさい。私が悪いんですよね、センパイ。ごめんなさい』」
「貴様ッ!」
それはかつての記憶が摩耗した中でも鮮明に覚えている一場面だった。エミヤシロウを最も愛し、そしてエミヤシロウが全てを救うために明確に自分の意思で殺した後輩との最期の場面だ。
既に自身の中で決着はついていたはずだった。理性はそれをよしとした。だが本能は違った。どれほど年月を経ようと、英霊となってまで人を救うことを選ぼうと、本能は忘れなかった。その最期の瞬間、確かにエミヤシロウという存在を気遣い、笑顔で殺されていった彼女を貶められることは赦せなかった。
「おいおい、この程度で何怒り狂ってんだよ。オレが受けた
カイはアーチャーの剣を身一つで避け続ける。普段であればランサーとも対等に打ち合うこともできるアーチャーの剣筋は今や素人も同然。ただ感情に任せて振るっているようにしか見えない。
「もっと苦しめよ!
カイの魔術はアーチャーを直撃した。回避行動どころか防御すら考えていないアーチャーの行動で受け身を取ることなど出来ずアーチャーは数十メートル先の大木に背を打ちつけた。
「ハッ! 無様だな。まあ、その姿がお似合いだよ。お前が世界に残した
カイはアサシンとの戦いで使った剣を取り出す。既に魔術が使われているのか全体が薄く青色になっている。
「私が残した
「ああそうだ。お前が『正義の味方』として活動し、その思想を受け継いだ『自称正義の味方』の群れが何をしたか教えてやろうか? 戦争だよ、戦争。九を生かすために一を切り捨てるその思想。その果てにあるのはそれぞれが違う九を掲げた戦争だ。どっちが正しいもない。リクも言ってたが、あれだな。『自分が味方したほうが正義』ってやつだな」
カイは剣の調子を確かめるように振るいながら続ける。
「そしてどうなったと思う? 奴ら、人体実験すら惜しまなくなったんだぜ。ソラはその被害者の一人だな。ソラという一を切り捨てるだけに飽き足らずそれを有効に活用するために人体実験だ。そんでリクがソラを救い出したら今度はリクとソラが『悪』だって言って中世期の魔女狩りまで持ち出しやがった。これじゃ一体どっちが『正義』なんだろうな」
尚もアーチャーの心を抉るようにカイは言葉を止めない。
「で、最終的に起こったのが戦争。一丁前に人を傷つけるのは良くないとか言って無人兵器同士戦わせて、結果危機感の薄れた民間人には報道規制して何も教えずその果てには無人機械による虐殺だ。その裏では魔術師がリクとソラの父親を探し出して殺害、そのあとはお前も知ってるだろ? 傑作だよなあ。お前の守護者としての初仕事が自身が蒔いた種の後始末ってのはな」
歩きながら話していたため既にカイの眼前にはアーチャーの姿がある。そして手に持った剣を鼻先に突きつけた。
「さあ、絶望を抱いて、死ね」
カイは躊躇することなく、剣を突き出した。
◆
「カイは大丈夫でしょうか」
無事に山門から結界内に入ったバゼットはそう呟いた。
アーチャーの攻撃によって多少の傷は負っていたものの、琴音によって既にその傷は治されている。当の琴音は土蔵から持ってきた荷物を開き、その中に入っていた銃を点検している。
琴音が扱うには大きいその銃は衛宮切嗣の愛銃であるトンプソン・コンテンダー。起源弾こそ全て破棄されているが、その特殊な口径に合う銃弾はいくらか残されていた。
『ま、本当に使う気はないけどね……』
誰に言うでもなく琴音は呟く。琴音はこれを銃として弾を撃つために使うつもりなどなく、ただの脅しとしてしか使わないと決めている。実体の見えない魔術も十分危険を煽るが、一般人に感性の近い士郎相手であれば目に見える脅威のほうがいい。
そしてもう一つ土蔵から持ってきた荷物の中には水銀が入っている。普段から少量は持ち歩いているが、対人戦となれば心許ない。その荷物の中には今現在琴音が同時に使用することのできる限界の量が収められている。
『準備終了っと。セイバーさんはまだ寝てるし、リクくんのほうも時間がかかりそうだなあ……』
「琴音。私が見張りをしていますので睡眠を取ったらどうでしょうか」
『でも、バゼットさんだって怪我していたんだから休んだ方がいいと思いますよ?』
「いえ、この程度ならば問題ありません」
『そうなの? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな』
琴音は立ち上がるとベッドの方に向かう。一番奥にある琴音のベッドには10年前、リクに貰った蒼い雫の形をしたアクセサリーが置いてある。
『おやすみなさい』
それを両手で握りしめて、琴音は眠りについた。
◆
『流石は大英雄ヘラクレス、まだギアがあがるんだね!』
既に戦闘が始まってから30分が経過していた。その間、キャスターは幾度となくバーサーカーを死に至らせているが、そのたびにバーサーカーの動きは速く、鋭くなっている。
先ほど水の魔術で命を一つ削ったため、バーサーカーの宝具は残り3つ。しかし、キャスターとしては少々の不安要素があった。それは『
既に斬撃、火属性、エーテル、水属性と多種な攻撃でその命を削っているため徐々に攻撃が通らなくなってきているのだ。条件をごまかすために複合属性や様々な宗派の様式を組み合わせてはいるものの、明らかにバーサーカーの負っているダメージは減少している。
キャスターは自身の宝具である『
『ソラ、どうする? このままじゃ手詰まりだよ?』
『あの斧剣が邪魔なんだよね。少しでも短く出来ない?』
『やってみる。
キャスターが作り出したのはアサシンが使っていた長刀。その刀身は風の魔術で強化されているのか、地面に近づくと落ち葉を巻き上げる。
「■■■ーーッ!」
『いくよ……燕返し!』
当然というか燕返しなど出来てはいない。だが、その剣筋は確かにバーサーカーの斧剣を捉えていた。衝突の衝撃波が辺りの木々を揺らす。一瞬の均衡の後、キャスターが大きく吹き飛ばされる。
『痛いな、もう。筋力強化の魔術と魔力放出使っても勝てないのか』
『それにあっちの斧剣はほとんど無傷みたいね。こっちのはポッキリ折れてるっていうのに』
きちんと受け身を取ったキャスターが刀を見ると、完全に折れていた。修復どころか折れた先の刀身が存在しないのではないかというような破壊具合だ。
『それに調子に乗って【燕返し!】なんて言うからよ。ほら、次来るわよ』
『分かってるよ!
『今の内よ! もう出し惜しみは要らないわ!』
ちょうどバーサーカーの踏み出す位置の土を盛り上げバランスを崩している間にキャスターは次の準備をする。
『
右目に刻まれた魔術陣が起動する。それに呼応するようにキャスターの身体から大量の魔術陣が構成されていく。その魔術陣がバーサーカーを的確に捉え、その歩みを止めている。
『今よ! 一気に仕上げて!』
『分かった!』
魔術をソラが操り、その隙にキャスターは5つの魔術陣を描き始める。それぞれの魔術陣には対応する災厄を祓うためのモチーフが記述されている。
『準備完了! 行くよ!
名を呼ぶだけだった。ただそれだけのことでバーサーカーを跡形もなく消し飛ばす。
「そんな…………バーサーカー! 嘘でしょ……」
『残念ながら嘘じゃないんだよ。さ、大人しくしててもらうよ。小聖杯』
必要なのは心臓であるため、本人が生きている必要はない。手早くイリヤスフィールを殺害しキャスターは帰路につく。
間もなく午前0時。聖杯戦争最後の日を迎えようとしていた。