Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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Phase.16

 

 

 朝が来た。恐らく今日が第五次聖杯戦争の最終日になるだろう。それはこの聖杯戦争の参加者にとって、最も過酷な戦いの始まりである。

 

 キャスターは徹夜で準備をしていた。聖杯の起動には何の問題もない。小聖杯も手の内にあり、場も整っている。残るは敵対している2騎のサーヴァントを打ち倒すのみ。

 

 魔力は十分に確保してある。()()も完成した。こちらの優位はほぼ揺るがないと言ってもいい。

 

 キャスター陣営の最終的な戦力はこれまでの聖杯戦争では類を見ないほどの強力なものだ。

 

 魔術に長けたキャスター、最優のセイバー。それら2騎のサーヴァントに加え、キャスターから直接の指導を受けた琴音、更には封印指定執行者までいる。それだけではない。決戦場はこの場である限り、キャスターは自身のステータス以上のスペックを発揮することができる。既にこの柳洞寺を含む円蔵山一帯はキャスターの陣地と化している。今や魔法すら使えるほどに陣地は完成しているのだ。

 

「んー。終わったーー」

 

 キャスターは大きく伸びをする。聖杯の起動準備を終えてから不眠不休で作業を続けていたのだ。霊体にとって肩の凝りなどないが、気分的にも身体が固まっている感じがしている。

 

 伸びをしているキャスターに琴音が近づいていく。部屋で寝ていた琴音はまだ眠そうではあったが、日課の魔術の鍛錬を始めていた。

 

 最初はコップの中の水を操り顔を洗う。さっぱりしたところで本格的に操作を始め、空中に水で文字を書いたり、地面に水の染みで絵を描いたりしている。

 

 そこまでしたところでキャスターから声を掛けられた。

 

「ねえ、琴音ちゃん。あの時の本、持ってる?」

 

『今は持ってないよ。家に置いてきちゃった』

 

「そっか。じゃあしょうがない。transitus(転移)

 

 キャスターがお馴染みの呪文を唱えると、手元には件の本が現れていた。

 

「さてと、最後の仕上げをしますかね」

 

 キャスターはそう言うと本を地面に置く。

 

「琴音ちゃん、少し離れてて」

 

 琴音が言われたとおりに離れたのを確認すると、キャスターは目を閉じ呪文を紡ぎ始めた。それに呼応するように魔術陣は展開していく。

 

Ego in somnis anima mea(我が中に眠る魂よ), Pearl River reversus est de vase (その欠片を宿す)negligentiam gererem fragmentum(仮初の器より戻りたまえ).

 Nomen SORA(その名はソラ).

 Forma in anima Heavens feel(天の杯によりて存在せし魂を形に), Vas ad Deum qui fecit pupa(神の創りし人形を器に).

 Recrearis(甦れ), Et familiam meam(ボクの家族)

 

 その詠唱はこの世の誰も聞いたことのないものだった。()()陣ではなく()()陣を使った正真正銘の()()。紡がれる呪文はキャスターのオリジナルだ。

 

Meum nomen est RIKU(我が名はリク), Tantum magicae manentibus lator quisquam(ただ一人残る魔法の担い手)

 

 詠唱は終わった。しかし魔法陣は未だ起動中で魔力が魔法陣の中を循環している。文字の書かれていない異質な魔法陣はいくつもが重なり合い幾何学的な模様を生み出す。やがて、複雑な魔法陣は一つの円となった。

 

 そして、遂に魔法は発動した。キャスターの身体から途轍もない圧迫感が発せられる。サーヴァントにも勝るそのエーテル体こそが物質化した魂そのものだ。やがてそれはキャスターが創り上げた人形に入り、その姿を変えていく。

 

 変化は一瞬だった。一際明るい光が発せられた後、本のあった場所にいたのは十歳くらいの少女だった。

 

「魂の定着に問題はない? ()()

 

「何も問題ないよ。身体中の魔術陣にも異常はないし、完璧だね」

 

 ソラ、とキャスターは呼んだ。確かに琴音にも彼女の姿に見覚えがあった。夢の中での彼女の姿そのままだ。

 

「やあ、琴音ちゃん。こうやって生身の身体で会うのは初めてだね。私はソラ・チェラーシス。改めてよろしくね」

 

 そう言って笑顔で手を差し出すソラ。琴音も笑顔でその手を握り返した。

 

 

 

   ◆

 

 

 

「士郎、桜、今日は学校は休みなさい」

 

 凜は手元にあった本が消えたのに気付き二人が学校に行くのを引き止めた。

 

 昨夜、アーチャーが大怪我をして帰って来て以降、三人とも寝ずにいたので正直に言うと学校に行く気力は無かった。おそらく凛が引き止めずとも自然と休むことになっただろう。

 

「恐らく今日が最後ね。アーチャーはあんなになっちゃって大変だけど、本人がなんとかするって言ってるから今は信用するしかないわ」

 

「今日が最後って、なんか確信でもあるのか?」

 

「ええ。今はそんなに顕著でもないから分からないかもしれないけど、アーチャーが言うには、円蔵山一帯に強力な陣地が形成されてるわ。私もちょっと確かめてみたけど間違いないわね。あの中にどれだけの魔力を蓄えてるのかは分からないけど、明らかに今までとは違うわ」

 

「私も使い魔を飛ばしてみたんですけど、結界に弾かれて中は見れませんでした。兄さんが言うには、最後の準備に入ってるんじゃないかって」

 

「そうでしょうね。そして、私たちは恐らくあの転移魔術で結界内に強制的に転移させられるわね。あっちが自分の優位を捨てる必要はないんですもの。指定転移なんてものやってのけるんだからそれ位はできると思っていた方がいいわね」

 

 二人の会話についていけない士郎は席を立つと朝食の準備を始めた。本当は聞いていなければいけないのだろうが、朝食も重要だ。腹が減っては戦はできないのだから。

 

 士郎がテキパキと朝食の準備をしている間に二人の間で結論がでたようで、凜は一旦自宅に帰るといって出て行ってしまった。

 

「一応遠坂の分は残しておくか……」

 

 凜の分を器によそい冷蔵庫に入れる。桜はこのまま士郎の家に残るそうだ。

 

「先輩、何か手伝うことはありますか?」

 

「いや、もう出来るから座って待っててくれ」

 

 その光景はいつもの日常と全く変わりがなかった。…………琴音がいないことを除いて。

 

 

 

   ◆

 

 

 

 深夜0時。

 

 約束の時を迎えた綺礼は円蔵山の麓、柳洞寺の門前にいた。

 

「ようやく私の願いが成就する時が来たようだな」

 

「残念ね。それを見られないなんて」

 

 少女の声が聞こえて振り向いた途端、綺礼は痛みに襲われた。視点も低くなっている。目を凝らすと、自身の下半身がないことに気づいた。

 

「貴様――ッ」

 

「一片も残さずに消えな。魂喰い(イートスキル)

 

 それがキャスターの宝具であると気づいた時にはもう遅かった。視界は黒で染まり、世界も黒に染まっていく。心臓からアレが抜けていくのが知覚できる。

 

 そして、言峰綺礼はこの世から姿を消した。

 

 それを成したキャスターはそれが何でもないことのようにその場を一瞥することすらなく転移魔術で帰っている。

 

 キャスターは嘗て本殿があった場所に立ち、皆の準備が終わっていることを確認すると、声を挙げた。

 

Sed orci velum aperiam bellum(さあ、戦いの幕を開こう)!」

 

 予め敷設してあった魔術陣が起動し、転移魔術が発動する。

 

 そして、現れたのは、士郎、凜、桜、ライダー、アーチャー。

 

 迎え撃つは、キャスター、ソラ、琴音、セイバー。

 

 遂に第五次聖杯戦争の最後の幕が切って落とされた。

 

 

 

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