Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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Phase.19

 

 

 土煙が晴れた。

 

 そして見えてきたのは、生き物のように動く漆黒の大地だった。

 

 目を凝らせば、その大地は無数の怪物で埋め尽くされていることがわかる。それが何であるとは言いきれない。見た目だけで言えば4足歩行の獣だ。

 

「最悪ではないけど、それなりに悪い状況だね。ソラ、まずは減らすよ」

 

「そうだね。これだけいたら本体に届かなさそうだし。セイバー、アーチャー。魔力の心配はしなくていいわ。アレを減らしてくれる?」

 

 ソラは魔力の心配は要らないと言った。それに、アレは呪いそのもののようだ。手加減をするつもりは両者には一切なかった。

 

「分かりました。用意が出来たら呼んでください」

 

「固有結界の維持の方は大丈夫なのか?」

 

「魔力は心配しないでって言ったでしょ。それにさっきの令呪の効果忘れたの?」

 

「そうだったな。ならば遠慮なくいかせてもらおう」

 

 そう言ってアーチャーは手に弓を投影する。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 アーチャーの一撃が敵の一団を消滅させる。それを皮切りにセイバーも集団に突っ込んでいく。

 

 それを見届けたキャスターは琴音たちに振り返る。

 

「琴音ちゃん、出来る限りでいい。アレを減らしてくれる?」

 

「分かった。リク君も頑張って」

 

「ん、声が出るようになったんだ。……じゃあ、心配要らないね」

 

「任せて!」

 

 琴音が自分の声で話しているのを聞いて少し驚いたキャスター。そして、士郎、凜、桜の目を見て任せられると確信した。

 

 その内面を覗いたかのように琴音は任せてと自身に満ちた声で言った。

 

「士郎は私と、凜ちゃんは桜ちゃんとのペアに分かれるよ」

 

「ああ。琴音、さっきは悪かったな」

 

「今は謝るより先にやることがあるでしょ。謝るのはそのあと。じゃ、行くよ! satus-usque(起動)月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)

 

投影開始(トレース・オン)!」

 

 琴音は自身の礼装である月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を起動し、右手には切嗣の愛銃であったトンプソン・コンテンダーを構える。銃弾は既にキャスターの魔術が籠められたものが装填されている。

 

 士郎が作り出したのは今までのような稚拙な剣ではなかった。そこら中に見本となるべき剣があり、投影という自身の力の源を知った士郎の作り出す剣はアーチャーのものに迫るほどだった。

 

「全く、二人ともやる気出しちゃって。これじゃ私たちもそうするしかないじゃない。宝石だって無限にあるわけじゃないのよ?」

 

「姉さん、今はそんなこと言ってる場合じゃないですよ」

 

「分かってるわよ。でもこの後の出費を考えると怖いわ。それより桜、もう大丈夫なの?」

 

 凜が心配しているのはソラにやられた一撃のことだ。直後には起き上がることすらままならなかったのだから心配でないはずがない。

 

「大丈夫ですよ。今はもうお爺様の力も全部頂いたので、姉さんよりも強いですよ?」

 

「言うわね。じゃあ、見せてもらおうかしら?」

 

「いいですよ」

 

 桜は礼装を起動する。その礼装は兄である慎二が桜の特性を如何なく発揮するために考え出したこの世に二つとない特注品だ。虚数というレアな属性と、間桐の吸収を併せたその魔術はキャスターの宝具に似ていた。

 

 桜の影が蠢き形を取り始める。それは楯のようであり剣のようであった。琴音は水銀で似たことをしているが、桜が使うのは影である。

 

 その光景に驚きながらも、凜は両手に宝石を握りしめる。どの宝石も大きく、色も鮮やかな物ばかりだ。そこに込められたものもそれ相応のものであろう。

 

「さ、行くわよ!」

 

 そして、少し離れた場所にいたキャスターとソラも覚悟を決めていた。

 

「さて、ボクたちも行こうか」

 

「うん。まずは力を元通りにしないとね。あの力、今なら制御できるから」

 

 二人は両手を繋ぐ。決して離さないように。離れ離れにならないように。

 

Qui non peribit anima mea(ボクたちの魂は断ち切れず)

 

Duc nos in sæcula effercio(私たちの繋がりは永久のもの)

 

Signatum ad priorem potentiam(封じた力は元に戻り)

 

Duo vincula religare, ut est rei praeteritae(二人を縛る枷は過去のものに)

 

 二人で一つの詠唱を紡いでいく。それは過去、彼らがお互いの力を封じるために行った魔術を解呪するためのものだ。

 

 精神が摩耗したままその身に余る魔術を植え付けられたソラ。機能として与えられた魔力収集が悲劇を齎したリク。その力を封じ、普通のヒトとして暮らすために掛けた制限魔術は二人がいてこそ掛けることが出来、解呪することが出来る。

 

remissionis originalis(原初解放)

 

 最後は二人の声が重なった。

 

 二人の真の力が解放されていく。その余波だけで周囲に群がる敵は消し飛んでいく。

 

 そして、遂に二人は自身の力を取り戻した。

 

 聖杯の器として造られ、欠陥品だと疎まれ、最後にはアインツベルンを滅ぼした第三魔法の担い手、リク。

 

 実験体として両親に売られ、残虐で過酷な環境に置かれ、魔術兵器と成り果てたソラ。

 

「ああ、この幾人もの感情が流れ込んでくる感覚、久しぶりだ。そっちはどう? ソラ」

 

「『もんだい』はないよ。この『はなしかた』もじきに『もどる』から」

 

「その喋り方も久しぶりだね。バゼットさん、一人で行ける?」

 

「問題ありません」

 

「そう。じゃあ、琴音ちゃんたちの援護に行ってあげて」

 

 所在無げに佇んでいたバゼットに声を掛けるリク。

 

 その返事はいつも通りの事務的なものであったが、その実力は分かっている。更に今はリクの魔術によって本来の実力以上が発揮できるのだ。問題などあるはずがない。敵は数こそ多いが一体一体の力はそれほど強くない。

 

 琴音たちの援護を任せ、リクとソラも戦いを始めた。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 

 セイバーが剣を振るうたびに敵の一団が吹き飛ぶ。

 

 魔力の節約を考える必要のなくなったセイバーは正に一騎当千であった。敵が単体ではそれほど強くないこともあり、数を減らすのは簡単に思えた。しかし、如何せん数が多すぎた。無限にいると思えるほど一向に減る様子は見えない。

 

 それでもセイバーは剣を振るい続ける。かつてブリテンの地に攻め込んできた蛮族はこれよりも一人一人が格段に強かった。そして、数こそここまでではないが、自軍の数十倍ということも常のことであった。

 

 当時はセイバーの傍には円卓の騎士が居た。その誰もが強く、当時のブリテンは最強と言えた。しかし、今は傍に彼らは居ない。

 

 こうして一人で戦うことは無かった。そして戦っているうちに自身の抱える願いにも疑問が沸いてくる。

 

 王の選定のやり直し、ブリテンを滅びの運命から救う。それはセイバーが聖杯戦争を戦う無二の理由だ。だが、それは本当に願ってもいいものなのか。

 

 もし新たな王がブリテンのことよりも自身の願望の実現のみを思う暴君であったなら。今戦っている敵のように蹴散らされるのはブリテンの民ではないのか。その時自分はどうするのか。

 

 そもそも滅びの運命を救ったとてその後はどうなるのか。現代に召喚されたことで知ることが出来たものもある。ブリテンという国は滅びたものの、未だ伝承やお伽噺で自身が未来で復活する王として信じられているということもその一つだ。

 

 結局どこでどう間違ったのか。剣を抜いたところからなのか。女であることを隠していたからなのか。自身の子を認めなかったからなのか。それとも――――間違ってはいなかったのか。

 

 剣を振るいながらなおも考える。

 

 思い出すのはキャスターの過去。夢という形で見たキャスターの過去は壮絶であった。それこそ、全てをやり直したくなるほどに。だが、キャスターはそれを望んではいない。

 

 なぜなのか。それを考えて、ようやくセイバーは思い至った。

 

 キャスターはソラと出会うことが出来たことを無かったことにしたくないのだ。彼らの関係は恋人のようであり、家族よりも絆が深い。それを無かったことにしてまでやり直したいことなどないのだ。

 

 では自身はどうか。

 

 確かに蛮族との戦いは苦難を極めた。退けるために村を見捨てたこともある。だが、確かに民の間には笑顔があった。戦いの間の僅かな平和であっても、ブリテンの民は笑顔だった。騎士たちもそうだった。

 

 それらをすべて無に帰してまで叶えたい望みではなかった。ブリテンが滅んだのは必然であった。しかしそれは過去のことだ。苦難も歓楽もあり、そしてその全てが今の自分を形作っている。それをセイバーは忘れていた。

 

「『王は人の心が分からない』……確かに私はそうだったようだ。もう私は悩まない。私は先へ進む!」

 

 迷いを捨てたセイバーの周囲に変化が起こった。

 

 魔法陣が広がる。そしてそこからはかつての仲間が姿を表した。

 

「ガウェイン、トリスタン、ペティヴィエール、ガラハッド……それにランスロット」

 

「王よ、貴方の求めに応じ馳せ参じました。指示を」

 

 ガウェインがセイバーに指示を求めた。

 

「あの獣を一掃する。出来るな?」

 

「仰せのままに」

 

「アーサー……」

 

「ランスロット…………」

 

「私は貴方に裁いて欲しかった。だが、それは間違いだったようです」

 

 そういってランスロットはキャスターのほうを見る。

 

「彼に教えられたのです。自身の罪を他人に裁いてもらうのは『逃げ』だと。私は未だ貴方を赦すことは出来ない。ですが、私は自分の罪にも向き合わなければなりません。ですから、今回のこれは、私の罪滅ぼしです」

 

 ランスロットは言うだけ言って敵に向かっていった。

 

 その姿は反乱を起こした“裏切りの騎士”ではなく、円卓一の技量と言われた“湖の騎士”のものだった。

 

「やはり私は間違っていた。彼らとの絆を無にすることがあってはならない」

 

 決意を新たにしたセイバーは剣を握り直し、戦友の下へ駆けていった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 アーチャーはセイバーの一連の行動を周囲の敵を排除しながら見ていた。

 

 かつてエミヤシロウであった彼が共に戦ったサーヴァントであるセイバー。今も僅かにその時の記憶が残っている。

 

「君もついに答えを得たというわけか。他ならぬ自分自身の手で」

 

 では、自分はどうか。アーチャーとしての自分は自身である衛宮士郎を殺し、自分の存在を消すという望みでこの聖杯戦争に参加した。それは今も揺るぎのない望みであるが、同時に殺す必要がないとも思っていた。

 

 それは環境の違いからだった。琴音という家族が居て、衛宮士郎の欠点を指摘し矯正しようとする彼女の存在があれば、自分のような正義の味方にはならないと何故か確信できた。

 

「ふ。私にも彼女がいたが、それを無視した結果がこれか」

 

 自虐的に呟くアーチャーは手を止めない。自身の手にする愛剣、干将莫邪は息子が父親の復讐を遂げるための剣であり、妻の身を捧げて造られた

剣でもある。

 

 それを自分への復讐のために使ってきたアーチャーは、いつしか最愛の女性の姿すら薄れつつあった。

 

 それを思い出させたのは皮肉にもカイという自身の同類だった。(呪い)は確かにアーチャーを蝕んでいたが、それは同時に最愛の女性の姿を思い出させるものでもあった。

 

「何が(呪い)だ。これは今の私にとっては祝福としかなり得ない。間違ったな、正義の味方(カイ)

 

 剣を破棄し、新たに弓を構える。

 

 それは何の変哲もない弓だった。まるで学生が部活で使うようなものだった。

 

 しかし、それは最も手に馴染み、使いやすいものであった。

 

「君の弓を使わせてもらおう。大丈夫だ。セイバーではないが、もう私も迷うことは無い」

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

「士郎、右!」

 

「分かってる!」

 

 琴音の援護で士郎は優勢に戦っている。士郎は手にする武器が投影品であることを利用して使い捨てながら敵の数を減らしていく。一方の琴音はそうして攻め込む士郎が四面楚歌の状態にならないように気を配りながら礼装で迎撃し、時折魔術弾を使って効率よく敵を減らしていく。

 

 二人が一緒に戦ったことはない。ライダーの時も琴音は士郎を庇っただけであり、共闘ではなかった。

 

 それでもお互いが動きを理解し、無駄のない動きが出来ているのはお互いがお互いの性格をよく知っているからだ。

 

 士郎は今はそれほどでもないが、自身の身の危険を省みず敵に向かっていく。琴音は慎重に攻め手を変えながら、自身を決して危険の中には置かない。

 

「もう一回! 投影開始(トレース・オン)!」

 

 罅の入った剣を投げつけ、士郎は新たに剣を投影する。その僅かな隙を埋めるように琴音は魔術を使う。

 

「士郎、避けて!」

 

 琴音の言に従って士郎はその場から離れる。すると、つい先程までいた場所に何体もの敵が押し寄せていた。

 

「連係なんて出来ないと思ってたけど違うのね。Ventus, conciderunt(風よ、切り刻め)

 

 風の魔術が敵を一掃する。だが、その残骸を乗り越えて次々に敵がやってくる。

 

 既に士郎と琴音の魔力はかなり消費されており、このままではもたないことは分かっていた。

 

「士郎! 凜ちゃんと桜ちゃんに合流するよ」

 

「分かった!」

 

 そうして琴音と士郎は凛と桜が戦っている場所に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 そして、凛と桜にも魔力の限界というものが見え始めていた。

 

 戦い始めてからまだそれほど時間は経っていないが、何しろ数が多い。基本的に対多数を想定した魔術に乏しい桜では近くに寄ってくる敵しか相手に出来ず、遠距離広範囲の魔術が使える凜にも宝石の数という問題がある。

 

 元々姉妹であるためコンビネーションでは問題はないが、この敵と戦うには彼女たちの魔術は不利にしかならなかった。

 

「桜! あとどれくらいなら大丈夫!?」

 

「私はまだまだいけます! 姉さんは宝石のストックは大丈夫ですか?」

 

「結構厳しいわね。一応使えそうな物は全部持ってきてはいるけど、あと10回くらいで無くなりそうよ」

 

「じゃあ、先輩たちと合流しましょう。たぶんあっちも同じことを考えていると思います」

 

「そうね。バゼットさん、それでいいですか?」

 

「了解しました。援護はしますから一直線に向かってください」

 

 バゼットの意思を確かめてから二人は走り出した。バゼットの援護があれば難なく切り抜けられるだろう。

 

「宝具が相手でないと使えないというのはこういう時に不便ですね」

 

 バゼットは自身の切り札の使い勝手の悪さに少々愚痴をこぼす。そうは言っても使えないものは使えない。キャスターから指導を受けたルーン魔術を活用してバゼットは二人の進行を妨げる敵を殴り飛ばしながら進んだ。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

「パターンA、月の女神(Ἄρτεμις)

 

 リクが女神の名を告げる。宙から光の矢が降り注ぎ周囲の敵を一掃した。

 

 リクが持つ力の中で最も強く扱いの難しい自分自身の起源と同一の名をもつ魔術『実現』。

 

 誰かの願いを叶え実現するという聖杯の器であるリクの起源は、あらゆるものに応用できる魔術となって使役される。『実現』で出来ないことはほとんどない。先程のように女神の一撃を再現することも出来る。出来ないものといえば直接世界に作用するようなものや、魔法に該当するものだ。

 

 この『実現』という魔術は力が封印された状態でも使用できるが、その応用範囲は狭く、ライダーの時に使われた百腕の巨人(Ἑκατόγχειρ)も本来であれば巨人そのものが作られる。

 

「ん。どうやらセイバーが何か決意したみたいだね。ボクの中を使って願いを叶えたみたいだ」

 

「それは良かったじゃない。さ、私たちも決着をつけないとね」

 

 リクは身体から何かが抜け出たのを感じ、笑みをこぼした。それと共にセイバーの感情が流れ込んでいる。それは決意であった。

 

 ソラもそのことが分かったようで同じように笑みを浮かべている。

 

「じゃあ、一気に行こうか。パターンZ、神々の王(Ζεύς)

 

 リクが実現魔術の中では最上位に位置するパターンZを使う。天空から雷が降り注ぎ、戦場全体を揺るがす。しかしそれでも数は減らない。総数としては減ってはいるのだろうが、次々に生み出されるため変化が見られないように思えてくる。

 

「もっと広範囲じゃなきゃダメみたいね」

 

 そう言ってソラは両手を広げる。

 

 全身に刻まれた魔術陣が起動し、それらが一つの魔術陣を作り上げていく。魔術陣を構成する線や文字も魔術陣の羅列から作られ、現代ではおろか神代でも見かけないであろう緻密で巨大な魔術陣が形成された。

 

 更に両目にある魔術陣で構成を変更し、味方に被害が出ないように調整する。

 

「さあ、終わらせるよ! Genesis fulgebunt(創世の輝き)!」

 

 創世の名を冠した魔術は確かにあらゆる兵器を超越するものだった。魔術兵器として完成されたソラが使える最終技は生前一度も使われることは無かったが、想定される威力は敵国を滅ぼしてなお余りあると評価されていたのだ。

 

 それを自らの意志で、眼の魔術陣での制御も行った状態で発動すればどうなるか。

 

 その結果は一目瞭然だった。

 

 あれだけの数が居た敵は一掃されていた。しかし、本体ともいえる黒い太陽は健在だ。

 

 加えて先の一撃によりソラは魔力をほとんど使い果たしている。

 

 更に悪いことに、再び敵が生み出されつつある。だが、この状況こそリクが待ち望んでいたものだった。

 

「セイバー、今だ!」

 

 リクは遠くに見つけたセイバーに叫んだ。それに応えるようにセイバーの持つ聖剣は輝き始める。

 

「ガウェイン、道を開いてくれ」

 

「分かりました。王よ」

 

 ガウェインが聖剣を構える。既に敵は生み出され、セイバーの方へ向けて侵攻を始めていた。

 

「散れ、転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!」

 

 擬似太陽が組み込まれた聖剣の一撃は敵を薙ぎ払い、黒い太陽への道を切り開いた。

 

 そこをセイバーは疾走する。近寄ってくる敵は共に駆けるランスロットとガラハッド、ペディヴィエールが処理し、セイバーの眼前の敵は遠くからトリスタンが射抜く。

 

 そして、援護はそれだけだはない。

 

赤原猟犬(フルンディング)

 

Ventus flaret Nolite(風よ、薙ぎ払え)! Hirundo et humus(大地よ、呑み込め)!」

 

 アーチャーが投影を使い撃ち漏らしを片づける。リクが魔術で援護する。

 

 その場にいる誰もがセイバーの援護をしている。その意思を無駄にしないためにもセイバーは駆け抜けた。

 

 そして、ついに間合いに捉えた黒い太陽は姿を変えようとしていた。

 

「そんなことはさせない! consequi(実現)災厄覆す正なる法(ヴェンディダード)!」

 

 リクが自身の魔術を使い宝具の効果を反転させることで黒い太陽を捕縛した。その捕縛から逃れるために形を変えようとする黒い太陽。

 

「さあ、セイバー。残る令呪全部で君に力を!」

 

 令呪出のブーストを受け聖剣は一際輝きを放つ。

 

約束された(エクス)―――――」

 

 セイバーはこの場の全員の意思を込め、人々の願いの結晶たる剣を振り上げた。

 

「――――勝利の剣(カリバー)!!」

 

 一閃。

 

 全魔力を込めた一撃は黒い太陽に直撃した。

 

 呪いの塊であるそれを浄化していくように、聖剣の光は辺りを照らした。

 

「ありがとうな」

 

 誰かの声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 光が晴れると、全員が元の場所に戻って居た。無限に広がっていた荒野は既になく、周囲の景色は柳洞寺のそれだ。

 

 そして、かつて本殿があったその場所には光り輝く杯が姿を現わしていた。

 

「あれが、聖杯……」

 

 凜が呟いた。

 

「そう。あれが本物の聖杯。願いを叶える願望器であり、奇跡の象徴。さあ、誰が使う?」

 

 ソラが問いかけた。

 

 それに最初に答えたのはセイバーだった。

 

「私には必要ありません。この度の戦いで私は改めて気づいたのです。共に戦った仲間のことを無にしてはならないと」

 

 そう言ってセイバーは姿が薄れつつある円卓の騎士を見る。

 

「私は良き王であろうとした。だが、そこには私個人の意思は介入しなかった。だからこそ私は人の心が分からぬと言われたのだろう。皆にも随分と迷惑を掛けただろう。済まなかった」

 

 そう言ってセイバーは頭を下げた。

 

 それに対し、騎士はただ黙したまま一礼し、姿を消していった。

 

 次に答えたのはアーチャーだった。

 

「私にも必要はない。既に私の願いは意味のないものと化した。まあ、凜がどうしてもというのなら奪って見せるがな」

 

「いいわよ。そんなものに頼らないでも自身の力で願いは叶えるわ。だから、私もいらない」

 

 凜も聖杯はいらないと断った。

 

 横を見れば桜も同様に必要ないと首を振っている。

 

「じゃあ、バゼットさんは?」

 

「いえ、必要ありません。そもそも私は聖杯戦争では既に脱落していますから」

 

「そう」

 

 少しの静寂が場を包んだ。

 

 それを破ったのは士郎だった。

 

「俺もいらない。俺は望みがあって参加したわけじゃないし」

 

「私もいらないよ。声も出るようになったし、リク君とももう一度会えた。だから、リク君が使って」

 

「じゃあ、ボクが使わせてもらうよ」

 

 そう言ったリクはソラと共に聖杯に近づいていく。

 

「ボクの願いは決まっている。ボクとソラは世界を見てみたい。この世界だけじゃない。無数にある世界を! 空の果てを! 陸の果てを!」

 

 果たして願いは聞き入れられた。

 

 リクとソラは受肉を果たし、その身に新たな法則を身につけた。

 

 既存の第二魔法、並行世界の観測に近い効果を持った新たな魔法は、確かにリクとソラの望みを余すことなく叶えてくれるだろう。その発動にはかなりの魔力を消費するようだが、問題はない。

 

 そして、願いを叶えた聖杯は消えた。

 

 それと同時に、現世に召喚されていたサーヴァントも座へと還っていく。

 

「アーチャー、ありがとう」

 

「なに、礼を言う必要などない。むしろ助けられたのは私の方だ。……ああ、そうだ。まだ私の真名を言っていなかったな。私はエミヤシロウ。正義の味方のなれの果てさ」

 

 言うだけ言ってアーチャーは消えて行ってしまった。残された凜は少しの間頭を抱え、そして叫んだ。

 

「先に言いなさいよ!! てか逃げるな!!」

 

「姉さん、もうアーチャーさんはいませんよ……」

 

「分かってるわよ……士郎、アイツみたいになっちゃダメだからね」

 

「あ、ああ」

 

 なぜか鬼気迫る顔で言う凜の言葉に士郎は頷くことしか出来なかった。

 

 そんな士郎にセイバーが声を掛ける。

 

「シロウ、最後まであなたの側で剣を振ることは出来ませんでしたが……」

 

「気にすんなよ。セイバーが鍛えてくれてたおかげで俺はここまで生き残れたんだ。だから、謝るな」

 

「シロウがそう言うのなら。では、お別れです。いつまでも達者でいてください」

 

「大丈夫だ。琴音もいるんだしな」

 

 そう言って士郎は笑った。つられるようにセイバーも笑みを浮かべ、そして、姿を消した。

 

 そんな士郎たちから少し離れたところで、琴音はリクとソラと話していた。

 

「リク君……」

 

「大丈夫。ボクたちはこれから色んな世界を見て回るけど、いつでもここに帰ってこれるんだから」

 

「そうそう。だからこれが今生の別れってわけじゃない」

 

「うん。そうだよね……。ねえ、きっとまた、会えるよね」

 

『当然!』

 

 リクとソラは声を合わせて言った。その顔は当然笑顔であり、自然と琴音の顔にも笑みが浮かんでくる。そして、リクは一冊の本を琴音に差し出した。

 

「この本は?」

 

「これからボクたちが見て回る世界のことが記録されていく本だよ。いつ帰ってこれるかは分からないけど、その本を見ればボクたちが何をしてるのか分かるでしょ?」

 

「……ありがとう」

 

「いいんだよ、お礼なんか」

 

 リクは少し照れたように頬を掻いた。

 

「じゃあ、また会おう」

 

「うん。またね……リク君、ソラさん」

 

 涙を流すのを必死に堪えて琴音は言葉を振り絞った。

 

「さあ、行こうか。ソラ!」

 

「うん。まだ見ぬ世界へ!」

 

 琴音が瞬きをしたその瞬間、二人の姿は消えていた。

 

 その場を琴音はじっと見ている。その瞬間を忘れないように。心にやきつけるように。

 

 

 

 

 

 

 やがて、朝日が昇ってきた。

 

 この世界の誰もが経験したことのないような激動の一夜は明け、新たなる一日が始まる。

 

 凜に呼ばれた琴音は駆けていく。

 

 いつかの再開の約束を胸に秘めて。

 

 

 

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