Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
「えーと、確かこう言うんだったよね。……
帰宅したコトネは早速自室で魔術の鍛錬を始めることにした。耳慣れない言語を口にし、本を起動させる。
すると、白紙であった本に文章が浮かんでくる。それを声に出して読み始める。
「……この魔導書は魔法を習得するためのものである。なお、初めに読める箇所は2頁であり、それ以降は個人の力量・習得度合によって文章が浮かび上がる」
コトネにとっては少々難解な言葉の羅列が続くが、辞書を引きつつ読み進めていく。
「手の甲に描かれた模様は魔法使いであることを表し、隠しておかねばいけない……って、先に言ってよ! 普通に帰ってきちゃったよ……」
ここにはいないリクに突っ込みつつ、それでも本の文字を追うことは止めない。
「これより、魔法の練習を始める。まずは、この呪文を唱えてみよ」
「……えーと、
コトネが呪文を口にした途端、窓も開けていないのに突如として風が吹き荒れる。やがて風は収まっていき、代わりに人影が姿を現す。
「呼びかけに応じて参上したわ! さあ、魔法の練習を始めましょう!!」
◆
「
「そうか。それで、何か得られたのかね?」
「いえ、ステータス以上のことは得られませんでした」
「では、アサシンを一ヶ所に集める手配をしておいてくれないか?」
「……何かあったのですか?」
地下室より時臣に連絡を取っていた綺礼は、その申し出に少々驚愕する。未だ情報が全て集まった訳ではないこの状況でアサシンを集める必要があるのか? そんな疑念が綺礼の中で首を擡げる。
「アーチャーがライダーから酒宴に誘われたのだ。英雄王とあってはその誘い断るわけにはいくまい。期日は3日後だ。そこで仕掛け、ライダーの宝具を明らかにする」
「……了解しました。それでは各地に散っているアサシンに伝達をしておきます」
「よろしく頼むよ、綺礼」
通信が途切れ、部屋を静寂が満たしていく。名目上脱落者である綺礼はこの部屋にいる限り不可侵を約束されている。だが、自らここを出て衛宮切嗣に会いに行ったのは昨夜のことだ。結局会うことはできなかったが、帰ってきたとき、この部屋にはアーチャーがいた。
そこで綺礼はアーチャーから一つの依頼を受けた。それは、各マスターの聖杯に託す望みを調べよというものであった。
だが、こうなった以上、その依頼は破棄されてしまう。それを告げた際のアーチャーの機嫌を思うと、気が重くなる。
それでも、やらぬわけにはいかない。綺礼は、常に教会の側にいるアサシンの一体を呼び出す。
「マスター、何か御用ですか」
現れたのは、長い髪をポニーテールにした女性型のアサシン。どうやら、数ある分身体の中でもリーダー的な役割にいるらしく、よく指令を出している。今回このアサシンを呼んだのも、そういう経緯からだ。
「時臣師より、命があった。3日後、ライダー主催の酒宴を襲撃しライダーの宝具を探れというわけだ。それを各アサシンに伝達してほしい」
「了解しました」
アサシンはすぐに身体を霊体化させ、部屋から消えていった。再び静寂が部屋を満たしていく。綺礼はその中で目を閉じ、今までのアサシンの報告を思い返すのだった。
◆
「どうした? 雁夜。随分やつれておるではないか」
「う……るさい!」
バーサーカーの思わぬ暴走によりその身を削られた雁夜は、一先ず間桐家へと帰宅し、再び刻印虫の調整を受けていた。
今回は運よくキャスターによってその暴走は止められ、この程度で済んでいるが、何も邪魔の入らないところで暴走してしまえば、雁夜の魔力をいとも容易く食いつぶすだろうことは想像に難くない。
「それにしてもあのキャスター、中々よいサーヴァントではないか。マスターはおろか、サーヴァントにすら気づかれず背後に回るとは。あれならばこの聖杯戦争、容易く勝ち抜くことができようぞ」
「一体、何を考えている」
「なに、お前が気にするようなことではあるまい。儂はあのキャスターの供物を探すとしようかの。次の聖杯戦争に向けてな」
「次は……ないッ! 俺が聖杯を取って桜ちゃんを解放する!!」
「精々頑張るがよいわ」
臓硯はそう雁夜に言うと、さっさと部屋を出て行く。部屋を出る間際の臓硯の顔は、嘲笑を浮かべていた。
一方雁夜は、自分の実力のなさを痛感し、項垂れている。もっと自分に力があれば、自分が間桐から逃げていなければ。そんなことが頭の中を巡り、苛立ちが募り、そしてそんな自分にも苛立つ。取り留めもない自己嫌悪が雁夜自身の実力のなさを自らの中で浮き彫りにしていく。
そして、ついに雁夜は手を出してしまった。禁断のモノに。
◆
アインツベルンの城では、これからの方策が話し合われていた。出席者は、切嗣、アイリスフィール、舞弥、セイバー。
「まずはランサーだが、セイバーの傷が癒えていないところを見るとまだ生きているようだ」
そう言われ、セイバーは自分の左手を見る。表面上は分からないが、その実、腱を切られている。これでは満足に戦うことは出来ない。セイバーは両手で剣を振るうのが自らのスタイルであるからだ。
「だが、奴の魔術工房は破壊済みだ。おそらく僕たちを狙ってここに来るはずだ。その時に仕掛けよう。舞弥、設置は終わっているかい?」
「はい。全て設置は完了しています」
切嗣がこの城にやってきて以来、もともとあった魔術的防御に加え、科学的なトラップをいたるところに仕込んでいった。それは、城だけでなく、森にも同様に仕掛けられている。
「ライダーははっきり言って何もわかってはいない。現れる時も帰還するときもあの
強いてあげるのであれば、マスターの名前くらいだろうか。ウェイバー・ベルベット。ランサーのマスターであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトと同じ降霊科であることぐらいしか判明しておらず、その工房の所在すらわからない。
「アーチャーとアサシンは手を組んでいる可能性が高い。僕も舞弥も倉庫での戦いの際にアサシンを確認した」
「ちょ、ちょっと待ってください! アサシンは敗退したのではないのですか!?」
だが、セイバーの言葉を無視して切嗣は続ける。
「バーサーカーに関しては、特に何かする必要はないだろう。どうもセイバーに何かあるらしいが、マスターが急造だ。勝手に自滅してくれるだろう」
「切嗣! 私の話を――」
「そして、キャスター。はっきり言って、ライダー以上に不明だ。ただ、拙いことに僕がセイバーのマスターであることを知っている。ランサーの呪いが解け次第速やかに排除すべきだ」
「ふふふ。ボクを排除できるかなー?」
突然割り込んできた声に全員が身を固くする。いつの間にかキャスターが部屋の中にいたのだ。
「キャスター!! 貴様、一体どこから……」
「わー!! ストップストップ!! 今日は戦いに来たわけじゃないから!!」
「信じられないな」
セイバーは当然キャスターの言を信用するはずもなく、見えない剣を構える。
一方のキャスターは、よくよくみれば両手にスーパーのレジ袋を持っており、手が使えない状況にある。
「今日のボクは機嫌がいいからさ、みんなでお菓子でも食べようよ!」
そう言ってキャスターは両手のレジ袋を掲げてみせる。そこには、ポテトチップスからチョコレートまで、ありとあらゆるお菓子が入っていた。
「要らぬ。それに敵が出すものを口に入れるわけにはいかない」
「もう! 真面目すぎるよ。いいじゃん、別に」
セイバーが正論で言い返すも、キャスターは聞く耳持たず。少し不貞腐れたような仕草をする。
そんな時だった。
「……ッ! 切嗣、侵入者よ」
「くッ……こんな状況で……!!」
アイリスフィールが結界からの信号を受け取り、侵入者がいることを切嗣に告げる。だが、部屋の中にキャスターが居る以上、迂闊にセイバーを迎撃に向かわせるわけにはいかない。
当のキャスターはいつの間にか袋を置き、テーブルの上にあった水晶を覗き込んでいた。
「……ふーん。ねえ、セイバーさん、ランサーみたいだよ?」
そう言って水晶を指し示すキャスター。警戒しながら水晶を覗き込むと、確かにランサーの姿があった。
「ねえ、セイバーのマスターさん。一旦休戦しない? ボクとセイバーでランサーを倒してあげるよ?」
「断る! 私とランサーは一騎打ちをすると誓ったのだ。二人がかりなど――」
「キャスター、それは君のマスターの指示か?」
断ると言ったセイバーの言葉を遮り、切嗣がキャスターに質問を投げかける。
「うん。あの
「……分かった。一時休戦だ。アイリ、ランサーの方は頼んだ。僕はマスターの方をやる」
「分かったわ。気を付けてね」
「行くぞ、舞弥」
「待ってください!! 切嗣!!」
背後のセイバーの声を無視し、切嗣は部屋を出て行く。それを見ていたキャスターは一言。
「……なんか、複雑な関係??」