Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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ACT.6

 

 

「それじゃあ、セイバー、迎え撃ってくれるかしら?」

 

「はい。ですが、キャスターは……」

 

「ボクが行っても邪魔でしょ? ボクはここにいるよ」

 

「しかし……」

 

 切嗣と別れたセイバーたちだが、どうしてもキャスターが信用できないのか、迎え撃ちにいけないセイバー。それも当然だろう。いくら休戦協定が結ばれてるとはいえ、特に契約などを交わしたわけではないのだ。裏切ろうと思えば容易く裏切ることが出来る。だが、そうこうしている間にもランサーは迫ってきている。

 

「うーん、じゃあボクがランサーと戦おうか? それなら問題ないでしょ?」

 

「しかし、私は彼と一騎打ちをすると誓いました」

 

「じゃあ、行けばいいじゃん。大丈夫だって。マスターじゃないのに一々危険を冒してまで襲う気はないから」

 

「……わかりました。ですが、何かあったら……」

 

「分かってるって。さ、いってらっしゃい」

 

 手をひらひらと振ってセイバーを送り出すキャスター。セイバーが出て行ったあと、部屋に残ったアイリスフィールは、キャスターに聞きたかったことを聞いてみることにした。

 

「ねえ、何で私たちに協力することにしたの? 対魔力持ちのセイバーが脱落したほうがあなたには都合がいいんじゃないかしら?」

 

 アイリスフィールの言うことは正しい。この聖杯戦争において、高い対魔力を持つセイバーは、キャスターの天敵だ。通常であれば、逆にランサーと組んでセイバーを倒したほうが有利になる。ランサーも対魔力を持っているとはいえ、セイバーには及ばない。加えて、セイバーは今、ランサーの必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)によって傷ついているのだ。サーヴァントが二人協力すれば容易く撃破できるだろう。だが、そんなアイリスフィールの予想に対して、少々違った考えをキャスターは述べる。

 

「うーん、確かにそうなんだけどね。でも、ボクが苦手としてるのは、対魔力じゃなくて敏捷のほうなんだ。いくらボクの防御術式が早いとはいえ、最低でも一工程(シングルアクション)は必要だしね。最速と言われるランサーだったらその時間でもボクに迫ってくるだろうし、今回のランサーは最悪なことに破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)まで持ってるからねー。だから、さっさと退場してもらおうと思って」

 

 なるほど確かに言われてみればそうである。確かにセイバークラスのもつ高い対魔力は脅威だ。だが、今回に限って言えば、魔術を無効化する槍を持つランサーの方が厄介なのだ。たとえその身に防御術式を掛けていようが、問答無用で無効化され、ダメージを負ってしまうのだ。

 

「あ、セイバーさんが到着したみたいだよ?」

 

 水晶で遠見の魔術を使っているキャスターが水晶を覗き込みながら言う。そこには、既に戦い始めているセイバーとランサーの姿があった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは優秀な魔術師だ。自らの持つ属性を遺憾なく発揮した、この月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)は、自身の持つ礼装の中でも特に信頼を寄せている礼装だ。

 

 だが、その信頼も揺らごうとしている。

 

「この私が手傷を負うだと……?」

 

 ケイネスがアインツベルン城に侵入してから、初めの内は問題はなかった。敵が設置したと思われるクレイモア地雷や、自動小銃による銃撃も、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の前では役立たずの代物であった。だが、索敵術式を発動し、追い詰めたところで切嗣が放った銃弾が月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を突破し、ケイネスの左肩に命中したのだ。

 

 その痛みに耐えている隙に切嗣はまたも姿を隠している。そんな切嗣を見つけ出し、誅罰を下そうと考えているケイネスではあったが、どうも魔術がうまく使えない。自分の思った通りに月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)が反応しないのだ。それには先ほど撃たれた傷が影響し、自身の思考が鈍っているのが原因なのだが、頭に血が上っているケイネスはそれに気づかない。

 

 ふらふらと歩いている内に、ケイネスは廊下の先に佇む切嗣を視界に捉えた。既に銃口はケイネスの方を向いており、銃弾は今にも発射されそうである。ケイネスは全身の魔術回路を起動させ、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)に攻撃指令と銃弾への防御指令を出す。

 

 その瞬間だった。

 

 ケイネスの魔術回路が暴走し、全身から血が噴き出る。自分に何が起こったのかわからないまま、ケイネスは血の海に倒れこんだ。意識ははっきりしているものの、身体が言うことを聞かない。口を開き、罵倒しようにも口が動かない。そんなケイネスを見て、切嗣は一言告げた。

 

「さよならだ、アーチボルトの当主」

 

 次の瞬間には切嗣の持つ銃から弾が発射され、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの生はその一生を終えた。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 ケイネスが絶命したのとほぼ同時刻、セイバーと戦っていたランサーはいち早くそのことに気付いた。それを隙と見たセイバーは剣を振りかぶり、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の破壊に成功する。だが、ランサーの様子がおかしいことに気付くと、一旦攻撃の手を止める。

 

「どうしたのだ? ランサー?」

 

「我が主が死んだ……?」

 

 自分をこの世界に繋ぎ止めておく楔がなくなったことに気付いたのだろう。ランサーは呆然と呟く。その呟きを聞いたセイバーは、わずかに俯く。切嗣が殺したのだと理解してしまったのだ。

 

「すまない……おそらく、私のマスターが……」

 

「言うな、セイバー。この結果は俺がお前との勝負にこだわり過ぎていたが故のものだ。俺が我が主とともに戦場に立てば防げたものだ」

 

「だが……」

 

「もうじき俺も消えるだろう。だが、だからこそ、俺はセイバー。お前との決着をつけたい」

 

 自身をこの世界に繋ぎ止める楔と宝具の一本を失ったランサーと、左手が回復したセイバー。どちらが勝つかはもはや分かりきったことではあった。それでも、ランサーは決着を望んだのだ。

 

「いいだろう。我が名はブリテン王、アーサー・ペンドラゴン」

 

「俺はフィオナ騎士団、ディルムッド・オディナ」

 

「「参る!!」」

 

 決着は一瞬だった。ランサーが放った渾身の一突きをセイバーは巧みに剣でいなし、その流れに従って剣を振り下ろす。

 

「セイバー、お前なら最後まで勝ち残れるだろう」

 

「ランサー……」

 

「さらばだ」

 

 最後の魔力を使い果たしたランサーは光の粒子となって消えていく。それを見送るセイバーの心に、ランサーの姿は強く焼きついた。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

「アイリ、セイバーの方はどうなった?」

 

 片づけを終えた切嗣は部屋にやってくるなり、戦況を聞いた。

 

「ええ、セイバーが勝ったわ。それで、そっちは?」

 

「ああ、問題ない。ケイネスは僕が殺した」

 

 切嗣の「殺した」発言に僅かに顔をしかめるアイリスフィールだったが、それも一瞬のことで、切嗣に気づかれることはなかった。戦況を確認し終えた切嗣は、次にキャスターに問い掛ける。

 

「キャスター、僕の銃に何か細工をしたかい?」

 

「あ、気づいたんだ。大丈夫、変なものじゃないから。ただ、強化しただけだから心配しないでー」

 

「強化? それは魔術的な強化ってことかな?」

 

「ううん。そこに入ってた弾に、『貫通』の概念を込めただけー」

 

 キャスターは何でもないように言っているが、これはとてつもないことである。普通、概念武装というものは、ある程度時間をかけて作るものだ。切嗣が使う『起源弾』もその一つである。だが、キャスターは気づかれること無く、しかも元から存在していた概念を消すことなく弾に概念を込めたのだ。そんじょそこらの魔術師が出来るようなことではない。加えて言うならば、時計塔でもそのようなことが出来る者は皆無といってもいいだろう。

 

 さすがはキャスターのサーヴァントとアイリスフィールは思った。そうしている内にセイバーが帰還する。何か思うことがあったのか、切嗣に詰め寄って行こうとするが、その気配を察知したのか、切嗣は足早に部屋を出ていく。

 

 そんな中、キャスターは次の行動に移ることにした。

 

「じゃあ、ボクは帰るね。もう休戦協定はおしまいだし、次会ったら戦おうねー」

 

 元気いっぱいといった様子で手を振りながらキャスターは霊体化して、その場を後にした。

 

「あ、これどうすれば……って行っちゃった……」

 

 その場に大量のお菓子を残したまま。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 町のはずれにある廃工場。そこには、紅い髪をした女性の姿があった。彼女の名は、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。ケイネスの許嫁である。

 

 彼女は今、多大な喪失感に襲われていた。ケイネスが死亡したからではない。ランサーがいなくなったからだ。

 

 だから、気づけなかった。背後から忍び寄る小さな影に。

 

「いただきまーす」

 

 声が聞こえ、振り向いた時には、すでに彼女の意識は消え、数瞬後には肉体もこの世から姿を消した。

 

 

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