Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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ACT.7

 

 

 ランサーとの一戦から3日後。ライダーによって、「聖杯問答」なるものが、アインツベルン城で開かれようとしていた。

 

 そもそもの発端は、ライダーの発言にある。ウェイバーに服を買ってもらった時に、偶然、アーチャーに遭遇した。その場では特に何事も起きなかったのだが、帰りがけにライダーがこの「聖杯問答」を開催すると言ったのだ。もちろん、挑戦とあらば、受け取らないわけにもいかないアーチャーはその場で承諾、場所はライダーが見つけることになった。

 

 だが、ウェイバーが拠点としているマッケンジー宅ではあまりにも狭い。そのため、いい場所を探していたのだが、運がいいのか悪いのか、アインツベルン城をライダーが発見、そこを開催場所として選んだのだ。当然、アインツベルンの許可はない。

 

 そして、当日。ライダーは力任せに結界を破り、堂々とその姿を現し、セイバーにも誘いをかける。それをセイバーは即座に許諾、「聖杯問答」の開催が決定した。

 

「ふーむ、遅いなぁ、アーチャーめ」

 

 今は、アーチャーの到着を待っている状態だ。一応、使い魔による連絡を送っているのだが、読んでいるかは不明だ。

 

 だが、ただ待っているだけではつまらないと、ライダーはセイバーに話し掛ける。

 

「のう、セイバーよ。今一度聞くが、我が軍門に下る気はないか?」

 

「くどい。私とて王だ。下る気は毛頭ない」

 

 セイバーから帰ってくるのは、拒絶の言葉ばかり。本当なら聖杯を求める理由も聞きたいのだが、それはアーチャーが来てからと自分を抑えるライダー。

 

「しかしこうも暇だとなぁ」

 

 暇なことに耐えられなくなってきたライダー。特に余興などなく、またセイバーも積極的に会話する気がないのか無言を貫いている。

 

(オレ)より早く来るとは、雑種にしては礼儀があるではないか」

 

「ようやく来たか。余は待ちくたびれたぞ」

 

 ライダーはアーチャーが来るなり、持参した酒樽を開け、柄杓で酒をアーチャーに差し出す。

 

 それをアーチャーは受け取ると、一息に飲み干して一言。

 

「所詮はこの程度か。ならば(オレ)が真の酒というものを味あわせてやる」

 

 アーチャーはそう言うと、王の財宝(ゲートオブ・バビロン)を開き、そこから黄金の盃と酒を取り出し、ライダーに差し出す。

 

「これは美味い! もしや神代のものか? お主はこれ以外にも持っていると見た。余に一つくれないか?」

 

「やらぬ」

 

 ライダーの要求を即座に切り捨てるアーチャー。

 

「まあ、これで王の格は決まったも同然。まともな酒すら用意出来ぬ者など……」

 

「酒などで格を決めるなど、バカバカしいにも程があります」

 

「フン、酒すら持参せぬ貴様に言われたくはないぞ、雑種」

 

 今まで黙っていたセイバーがアーチャーに食ってかかる。場の雰囲気が悪くなっていく。

 

「論点がズレておるぞ。……さてアーチャー、これは聖杯を掴む正当さを問う謂わば聖杯問答。貴様は王なのであろう? なれば貴様は何を以って聖杯を得んとする?」

 

「仕切るな雑種。そもそも奪い合うという所からしてずれているのだ。聖杯は(オレ)の所有物なのだからな。故に得るものではない」

 

 聖杯は自分の所有物だと言うアーチャー。それゆえ、奪い合うということ自体が間違っているのだと、アーチャーは告げる。

 

 怪訝そうに眉を顰めるライダーを一瞥し、アーチャーは続ける。

 

「この世界の宝物はその起源を我が蔵に遡る。いささか年月が離れ、各地に散逸しているもののそれは変わらぬ」

 

「じゃあ、貴様は聖杯がどのようなものか知っているのか?」

 

「知らぬ。我が財の総量は、とうに(オレ)の認識を超えているのだ。だが、それが『宝』である時点で我が財であるのは明白だ。それを奪い合うとは盗人猛々しいにもほどがある」

 

 セイバーは呆れ果てているようだったが、ライダーは違った。何やら合点がいったらしく、一人で頷いている。

 

「ほーう。余は貴様の正体が掴めてきたぞ……。まあ、それは置いとくとして、じゃあ、何か、貴様の許可があれば良いと?」

 

「然り。だが、(オレ)がお前ら雑種に褒賞を賜す理由はどこにもない。(オレ)が褒賞を賜すは(オレ)の臣下と民のみ。故に、貴様が我が軍門に下るというのなら杯の一つや二つ、下賜してやってもいいぞ? ライダー」

 

「まあ、そりゃ出来ん相談だわなぁ。王が下るのは戦で負けたときのみよ。でもな、アーチャー。貴様、別段聖杯が惜しいという訳ではないのだろう? なら、なぜ聖杯戦争に出てきたのだ? 叶えたい願いでもあるというのか?」

 

「願いなどない。法だ」

 

 アーチャーはライダーの問いに即答する。

 

(オレ)が王として敷いた、(オレ)の法だ。それが侵されるのであれば(オレ)自らが裁かねばなるまい。まあ、現世がこれほどまでに醜くなっているとは思わなかったがな。消費文明とやらには虫唾が走る」

 

「そうかのう……余としてはこの現世は中々刺激に満ちていると思うのだがなあ。いや、それは関係なかったな。それにしても……ふむ。自らの法を貫くか。だがな、余は聖杯が欲しくてたまらないんだよ。で、欲した以上、このイスカンダルは征服王故に略奪するのが流儀である」

 

「是非もあるまい。お前が犯し、(オレ)が裁く。問答の余地などない」

 

 はっきりと敵対の意思をお互いに示すアーチャーとライダー。だが、それを憮然としながらセイバーは見ていた。

 

「さて、次は余の番だな。余の目的、それは受肉だ」

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 アインツベルン城から、少し離れた場所。そこでは、キャスターとアサシンが戦いを繰り広げていた。

 

「もう! しつこいよ! Esset mea ventus scutum(風は我が盾となる)!」

 

 アサシンの投擲を、風を用いた防御魔術で弾くキャスター。周囲が森であることも災いし、死角からの攻撃に悩まされるキャスター。加えて、アサシンは攻撃時以外は常に気配遮断のスキルを使っているため、居場所を特定することが出来ず、苦戦していた。

 

「…………しょうがない、やるしかないか」

 

 何か覚悟を決めたような顔をするキャスター。どうやら魔力の高まりからして宝具を使うようだ。当然、やらせまいとアサシンの攻撃は激しくなるが、先ほど発動した防御魔術を貫くことが出来ず、発動を止めることが出来ない。

 

「行くよ。Ventus concidito sculpes(風よ切り刻め)!」

 

 発動した魔術は宝具ではなかった。とはいえ、周囲の木々を切り刻み、枝の落下した衝撃であたりを土埃が覆う。それこそが目的だったのだろう。キャスターは素早く次の詠唱を行う。

 

Manducare a vita(命を喰らえ)! 魂喰い(イート・スキル)!!」

 

 キャスターの宝具が発動される。キャスターの足元から黒い影が広がって行く。その影に触れた木々は、一瞬のうちに姿を消し、影が通った後は、不毛の大地となっていった。

 

 流石に危険だと感じたか、潜んでいたアサシンが、次々に脱出していく。

 

 それでも影の範囲は広がって行く。遠くに行けば行くほどスピードが上がり、遂には1体のアサシンを捕らえることに成功した。

 

「ひッ! や、やめ―――」

 

 そのアサシンの悲鳴は途中で途切れることとなった。瞬く間に影がアサシンを覆い尽くしたからだ。それを目撃したアサシンは、更にスピードを上げ遠ざかろうとする。霊体化すれば逃げられるのだろうが、結界が張られているのか霊体化が出来ない。

 

 逃げている内にも、数体のアサシンが影に呑まれて消えていく。

 

 やがて、影がその動きを止めるころには、その場にいたアサシン5体が、全て影に呑まれていた。

 

「ふぅ。やっぱりサーヴァントは違うなぁ。魔力生成できる量が違うや」

 

 周囲1キロにわたって不毛の大地と化した場所でキャスターは一人呟く。

 

「さーてと、どの能力貰おうかなー」

 

 キャスターは魔力を用いて、何やら図形のようなものを描いていく。そこには、今回宝具によって呑み込んだアサシンのステータスが表示されていた。

 

「5体分だけど、魔力生成にもまわしちゃったから実質1体分だけかぁ。じゃあ、耐久でも貰おうかな」

 

 そう言ってキャスターは図形のある部分を指差す。見た目には何も変化はないが、もしこの場でステータスを見ていたマスターが居たのなら驚愕したことだろう。元々Eランクだったキャスターの耐久ステータスが、アサシンと同じDランクに変化したのだから。

 

 本来、サーヴァントのステータスとは召喚時に決定し、以後変化することはない。だが、この宝具はそれを可能にしてしまうのだ。

 

「さーてと、セイバーさんたちのところに行こうかなー」

 

 キャスターはその場で足を踏み鳴らし、消えていった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 聖杯問答の会場では、異常事態が起こっていた。

 

 ライダーが自らの望みを語り、最後にセイバーが自らの望みを語った。セイバーが聖杯に託す願い、それは故郷の救済だった。

 

 それを聞いたライダーとアーチャーの反応は白けきっていた。そこでセイバーはライダーの問いに対して言い返そうとするも、言い返すことが出来なかった。ブリテンの滅びの運命は誰よりも自分が知っているが故に。

 

 それだけであれば異常事態ではない。だが、アサシンが現れ、事態は急転した。脱落したはずのアサシン、それも1体ではなく、少なくとも50はいるであろうアサシンの集団。

 

 だが、それを前にしても、ライダーは平静だった。王の言葉は万人に対して発せられるという彼の考えにより、アサシンにも酒の入った柄杓を差し出す。「この酒は貴様らの血とともにある」と言って。

 

 アサシンは当然のようにそれを断り、短剣によって柄杓を破壊した。

 

 そして、ライダーは告げる。

 

「『この酒』は『貴様らの血』と言ったはず。……あえて地べたにぶちまけたいというのなら…………是非もあるまいて」

 

 ライダーがそう告げた瞬間、砂塵が舞い始める。

 

「セイバー、そしてアーチャーよ。これが最後の問いかけだ。王は孤高なるや否や」

 

 最後の問いとして、ライダーはセイバーとアーチャーに問い掛ける。

 

 アーチャーは口元を歪めて失笑した。そんなもの問われるまでもないという沈黙の返事だった。

 

 一方セイバーは、己の王道に従い答えを告げる。

 

「王たらば……孤高たるしかない」

 

 そんな両者の答えにライダーは豪笑する。

 

「ダメだな! 全くもって分かっておらん! そんな貴様らにはここで真の王たる者の姿を見せねばなるまいて!」

 

 逆巻く熱風が一層激しく吹き荒れ、遂には現実を侵食し、覆す。

 

「そ、そんな!? 固有結界ですって!?」

 

 夜のアインツベルン城から一転したその世界は、遥かな荒野。現実を侵食する幻影。奇跡と並び称される魔術の極限であった。

 

「あなた、魔術師でもないのに!?」

 

「もちろん違う。これは、余一人で出来ることではない。この風景は、かつて、我が軍勢が駆け抜けた大地。余とともに苦楽を共にした勇者たちが等しく心に焼き付けた景色だ」

 

 そう告げたライダーの周囲に、人影が現れ始める。

 

「この世界、この景観をカタチに出来るのは、これが、我ら全員の心象だからだ」

 

 誰もが驚愕する中、ライダーの周囲に続々と騎兵が実体化していく。人種も装備もまちまちではあるが、各々が競い合うかのように華々しく精悍だ。

 

「こいつら……一騎一騎がサーヴァントだ……」

 

 マスターであるウェイバーには、自分のサーヴァントの最終宝具の正体が理解できた。

 

 ランクEX対軍宝具。独立サーヴァントの連続召喚。

 

 軍神がいた。マハラジャがいた。のちの3分割後の王朝の始祖、プトレマイオス、セレウコス、アンティゴノスがいた。そして彼ら全員が、かつて偉大なるイスカンダルと轡を並べし勇者と誇っているのだ。

 

「見よ! 我が無双の軍勢を!! とうの昔に肉体は滅び、その魂は英霊と為れど、それでも余に忠義する永遠の朋友たち。彼らとの時間、彼らとの絆が我が至宝であり我が王道! イスカンダルたる余が世界に誇る最強宝具……『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)なり!!」

 

 誰もが驚愕に声がなかった。アーチャーですら、この輝ける軍勢を鼻で笑うことはしなかった。

 

「王とは、誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉! 全ての勇者の羨望を束ね、願いを受け入れ、その道標として立つ者こそが王。故に! 王は孤高に非ず。その偉志は臣民の総意たるが故に!!」

 

『然り!! 然り!! 然り!!』

 

 英霊たちの斉唱は地を揺るがし、蒼天の彼方へと突き抜けていく。その声に恐れをなしたのか、すでにアサシンは逃亡を始めている。

 

「さて、では始めるかアサシンよ」

 

 そうアサシンに微笑みかけるライダーの視線は、限りなく獰猛で、残忍だった。

 

「蹂躙せよ!!」

 

『AAALaLaLaLaLaie!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝負はすぐに決した。勝鬨の声が辺りに響き渡る。

 

 彼らが消えるにつれ、固有結界も解除されていき、元のアインツベルン城に戻って行く。

 

「……幕切れは興醒めだったな」

 

 ライダーは、僅かに残っていた酒を流し込みながら呟く。

 

「なるほど。いかに雑種ばかりと言えども、あれほどの数を束ねれば王と息巻くようにもなるか。……ライダー、貴様はこの(オレ)自ら殺してやる」

 

 アーチャーからの完全な敵対宣言。呼び方も『雑種』から『ライダー』に変わったあたり、敵と認めたのだろう。

 

「では、この辺でお開きとするか。坊主、引き揚げるぞ」

 

 だが、反論を返せていないセイバーはこれに納得できるはずもない。

 

「待て、ライダー。私はまだ」

 

「もうお前は黙っとけ。今宵は王が語らう場であった。余は貴様を王とは認めぬ」

 

 ライダーはウェイバーを伴うと、戦車(チャリオット)に乗りこの場を去って行った。

 

「耳を傾ける必要などないぞ? セイバー。お前が語る王道に微塵たりとも間違いはない」

 

「先ほどまで私を嘲笑しておきながら何を!」

 

「己の器に余る『正道』を背負い込み、苦しみにあがくその道化ぶり。セイバー、もっと(オレ)を笑わせろ。さすれば聖杯の一つや二つ賜わしてもよいぞ?」

 

 言うだけ言ってアーチャーはさっさと霊体化し、その場を去って行った。

 

 残されたセイバーは、物思いに耽るような沈鬱な表情をしていた。アイリスフィールはセイバーを慮ってか、声を掛けずただそこにいることしかできなかった。

 

「あれ? もう終わっちゃったの?」

 

 そんな重苦しい空気の中、キャスターが到着し、セイバーの雰囲気も騎士のそれとなる。

 

「何か悩んでるみたいだけど……そんな迷いのある剣じゃ、ボクは倒せないよ?」

 

 先日とは打って変わって戦う気のあるキャスターは、挑発をする。普段であればこのような挑発に乗ることはないセイバーであっても、今日は違った。散々に扱き下ろされ、セイバーの精神は限界に達しようとしていた。

 

 だが、セイバーはキャスターに切りかかることが出来なかった。

 

 ()()は、キャスターの奥にいた。

 

 黒い鎧姿。

 

 バーサーカー。狂乱に囚われた英霊が姿を現した。

 

 

「…………A………………er…………!!」

 

 

 

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