Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~ 作:神駆
間桐雁夜は、急造の魔術師である。それ故、魔力量という観点において、他の魔術師よりも数段劣っている。
そんな彼がバーサーカーを繰るに当たって、当然魔力量は不足し、その度に彼の身体は傷ついていく。
先日の暴走の時もそうだ。幸いにして無事に隠れ家に到着し、事無きを得たものの、次もそうだとは限らない。その為、嫌々ながらも臓硯のもとを訪れることとなった。そこで提示されたもの。それが、『間桐桜の純血を初めに啜った蟲』であった。
当然、雁夜は激昂するも、臓硯は聞く耳を持たない。その蟲を残したまま、早々に部屋を出て行った。そして、雁夜は罪悪感と自らの無能さに自己嫌悪に陥った。
翌日、雁夜は狂った。端的に言ってしまえばそれだけのこと。だが、ヤケになったわけではない。思考が一周回り、『狂気の正気』とでも言うようなものになったのだ。
雁夜は、眼前に在った蟲を使い、自らの魔力を補給。その後、バーサーカーの暴走を避けるため、隠れ家に篭った。
そこで考えた結論、それが今の状況を生んでいる。つまり、暴走するのであれば、先にその暴走の原因であるセイバーを脱落させ、その後に時臣を殺せばいい、と。
雁夜は、そのために出来ることを行った。桜から蟲へと渡った魔力を、臓硯に要求し、バーサーカーを万全の状態に仕上げた。バーサーカーのスキルを十分に発揮させるために、博物館から剣を盗ってきた。今その剣はバーサーカーの腰に下がっている。
そして、邪魔者であるアーチャー、ライダーが去ったのを確認した後、バーサーカーを現界させたのである。だが、そこには一つのイレギュラーがあった。
それが、キャスター。
倉庫街での戦いの時に、場を引っ掻き回し、それでいて一切その真名に至るヒントを出さなかった唯一のサーヴァント。バーサーカーもほぼヒントは出してはいないが、手に持った武器を宝具とすることは知られてしまっている。それだけで辿り着くことは無いだろうが、ある程度絞り込むことは出来るだろう。それを、雁夜は恐れていた。
そして、運の良いことに、セイバーは先程までの聖杯問答で、迷いが生じていた。これは絶好の好機であるはずだった。キャスターさえいなければ。
つまるところ、キャスターさえいなければ、この場でセイバーが脱落していたのだろう。キャスターも言っていたが、迷いのある剣では、バーサーカーの猛攻を防ぐことは適わなかっただろうことは想像に難くない。
しかし既にバーサーカーは現界した後だ。今更戻すことは出来ない。キャスターが居ようと、戦う以外に道はないのだから。
だから雁夜は自らのサーヴァントに対して、こう言うことしか出来ない。
「……狂え! 狂って狂って殺しつくせ! バーサーカー!!」
「…………ar…………………er………!」
◆
突如として現れた影。その正体は紛れもなくバーサーカーのもの。キャスターに斬りかかろうとしていたセイバーは、思わずその剣を止めた。キャスターもバーサーカーを感知し、警戒を強める。
「何でバーサーカーが来るかなぁ。ボクは君と戦う気はまだ無かったんだけどなぁ」
キャスターが一人呟く。キャスターからすれば、折角精神的に弱っているセイバーを倒そうとしていたのだ。バーサーカーは邪魔者でしかない。どうもバーサーカーはセイバーに対して何かあるようで、放っておけば勝手にセイバーを倒しそうなものである。それでもキャスターは自分で戦うことを選んだ。
そこにはある理由がある。それは確実にセイバーが消滅した事を確認することだ。
確かに今回の聖杯戦争では、ランサーの方が厄介だった。だが、ランサーが消滅した今、キャスターにとって最大の壁はセイバーなのだ。だからこそ、その消滅を自らの目で確認したいのだ。使い魔では、戦闘の余波で潰されてしまう危険性があり、また、誤魔化すのも可能だ。
その状態でもし、セイバーが生き残っていれば、キャスターに勝ち目は無いに等しくなってしまう。相手がバーサーカーなら尚更だ。あんな攻撃方法では、土煙に紛れて撤退することも可能だろう。
キャスターはそれを危惧していたのだ。
「しょうがないか。
キャスターが何者かの名を呼ぶ。遠くにいたアイリスフィールには聞こえなかったが、セイバーは何とか聞きとることができた。
直ぐ様変化は起こった。キャスターの身体が光り出したのだ。そして、光が収まった時、キャスターの雰囲気は変わっていた。
「……ふう。
バーサーカーは警戒こちらに襲い掛かっては来なかった。恐らくはマスターの指示によるものだろう。
だが、それもほんの数瞬のこと。まるで重戦車の如く、バーサーカーはセイバー目掛けて突進を始めた。
セイバーとバーサーカーの中間にいるキャスターは全く慌てていなかった。ゆっくりと右腕を挙げていく。その際に袖が少しだけ捲れ、腕に刻まれた魔術陣がセイバーには見えた。
そして、たったそれだけの動作で、バーサーカーの動きは停止した。見えない鎖に縛られているように、動こうともがいている。
次にキャスターは、挙げた右手を握り始める。すると、バーサーカーの鎧が軋みはじめ、ミシミシと音を立てる。
バーサーカーはそれでも前に進もうともがき続ける。
「…………a……a……」
「アハハ、まだ抗うんだ。じゃあ、もっと行くよ!」
キャスターは次に左手で、魔術陣を描き出し、そこから、凡そキャスターに相応しくない武骨なハンマーを取り出し、振りかぶる。直後、キャスターの足元で魔力が爆発し、その勢いのままバーサーカーへと振り切る。当然、バーサーカーが避けられるはずもなく直撃し、吹き飛ばされる。
「そんな……」
セイバーは驚愕の表情でそれを見ていた。あのハンマーは明らかにキャスターが持てるような代物ではない。それなのにセイバーを超えるであろう速度でバーサーカーに接近し、吹き飛ばしたのだ。
セイバーにもそのようなことが可能になるスキルが備わっている。それは、魔力放出。魔力を身体や武器にのせることで強化するというものだ。それを使ったのなら、納得できる。だが、キャスターは魔力放出のスキルを持っていないはずなのだ。そのことは先日、切嗣からの報告をアイリスフィール経由で知らされている。
だからこそ、セイバーはキャスターの正体が分からなくなった。
驚愕の表情を浮かべていたのはセイバーだけではない。アイリスフィールもだ。彼女は魔術に敏いため、セイバーとは違ったことで驚愕していた。
それは、キャスターが使った魔術。
使われた属性は辛うじて判断出来た。キャスターが使った属性、それは風。風を操り、その圧力で動きを封じ込め、潰そうとしたのだ。
だが、ハンマーを出した魔術はその正体が掴めなかった。恐らくは、キャスターが頻繁に使用する空間転移を応用しているのだろうが、それが合っているかと聞かれれば断言は出来ない。
こうして考えている間にも、キャスターは次々と武器を取り出し、バーサーカーを追い詰めていく。既に風の魔術による拘束は解かれているのだが、バーサーカーは思うように動けない。
「アハハハ! こんなものなの? 弱すぎるわ!」
追い詰められていくバーサーカーは、キャスターが放置していた武器を掴もうと手を伸ばす。だが、近づいた途端、武器は爆発した。
「ざーんねーんでした!」
キャスターは思惑通りで嬉しいのか、満面の笑みを向ける。そこには、微かではあるが、狂気が見て取れた。
そもそもこのキャスターは、以前までのキャスターとは違いすぎる。セイバーもアイリスフィールもそのことを感じていた。セイバーは、キャスターが放った『ソラ』という言葉が何か関係あるのだろうと考える。
「……はあ。それにしてもつまらないわね。狂ってると会話できないし」
ついさっきまで楽しそうであったキャスターの声に落胆の色が混じる。あまりにも激しい感情の揺れ。ますます訳が分からなくなっていくセイバーたち。
「……A…………e」
しかし、バーサーカーにそんなことは関係ない。猛攻が止んでいるこの瞬間に腰に下げていた剣を引き抜くと、キャスター目がけて一直線に突進していく。どうやら、キャスターを障害と捉えたようで、セイバーには目もくれない。
そんな様子を見て、キャスターはまた笑みを浮かべる。但し、先ほどまでの笑みとは毛色が違った。
先ほどまでの笑みを『喜色』と表すのであれば、今の笑みは『無』。笑みを浮かべていながら、そこに何の感情もない。
「……
キャスターが発したのはたった一言。ただそれだけで、バーサーカーの歩みは止まる。続けて、度重なる衝撃を受けてきた黒い鎧が音を立てて壊れていく。
バーサーカーのマスターは危険と判断したのか、徐々にバーサーカーは霊体化していく。それを何の感情も浮かんでいない目で見るキャスター。
そして。
「……そんな……なぜ、あなたがバーサーカーに…………ランスロット……」
バーサーカーの真名を看破したセイバーは、剣を取り落とした。
カラン、という音が戦闘の終わった森に響く。セイバーは呆然とし、アイリスフィールは離れた場所に居たため訳が分からず、キャスターは空を見上げている。
沈黙が続く。未だキャスターが居るという状況においてセイバーは完全に戦意喪失しており、キャスターもずっと空を見上げたまま動かない。
何分経ったのだろうか。キャスターが霊体化して消えていく。そこかしこに散らばっていた刀剣類も姿を消し、セイバーとアイリスフィールがその場に残される。
「……セイバー? 取り敢えず、城に戻りましょう?」
「…………はぃ……」
今にも消えてしまいそうな雰囲気を醸し出しながら、セイバーは剣を拾い、アイリスフィールの後に従って帰路に着いた。
◆
「綺礼、ライダーの宝具評価はどうかな?」
「はい。ライダーの宝具、
聞きたくなかったであろうその言葉。時臣と綺礼は、先ほどのライダーの宝具に関して意見を交わしていた。
アサシン全てを犠牲とし、ライダーの宝具を発現させたものの、ランクは
何も知らずに挑んでいれば敗北していた可能性もあることを考えれば、この結果は良いものではある。それでも、アーチャーが持つ宝具と同格であることはやはり誤算なのだ。
救いがあるとすれば、マスターがまだ未熟であること。あれでは本来の実力を発揮することは出来ないだろう。
「それと、わが師よ。キャスターの宝具も明らかとなりました。ライダーのもとへ集結させる直前、キャスターとの戦闘時に判明いたしました」
「聞こうか」
「はい。ランクとしてはA+。ただ、その効力が非常に厄介です」
「というと?」
「自身を中心とした直径一キロの範囲の森を不毛の大地と化し、その宝具に触れたモノは全て魔力に変換されキャスターに取り込まれました。無論、その場にいたアサシンもです」
「つまり、サーヴァントであろうと逃れられぬと?」
「恐らくは。さらに取り込んだアサシンから耐久のステータスを取り込み、自らの耐久のランクを引き上げていました」
「……取り込めば取り込むほど強くなるということか。だとすればこれ以上キャスターにサーヴァントを倒されるのは都合が悪い」
時臣はそこまで口にし、そこで一つの疑問を口にする。
「綺礼、キャスターのランクが上がったのは耐久だけかな?」
「はい。5体のアサシンを取り込んだのにも関わらず、耐久のみでした」
時臣の中で一つの仮説が出来上がっていく。
「こうは考えられないかね? キャスターが取り込めるもの、とりわけステータスに関係するものには制限がある。それは一つしか取り込めない。尚且つ、アサシンという存在からは一つのみである、と」
「つまり、アサシンの分身体は一体一体という捉え方ではなく、『アサシン』という一つの存在であったため、耐久のみであったということでしょうか」
「恐らく、そうだろう。これならば、特に心配することはあるまい。アサシンの中でも厄介な『気配遮断』を取り込まなかったことから考えるに、クラススキルは獲得できないようだしね。今残っているのは、セイバー、アーチャー、ライダー、キャスター、バーサーカー。問題はあるまい」
時臣はそう告げると、通信を切る。確かにライダーの宝具に関しては誤算ではあったが、キャスターの宝具に関しては僥倖だ。
時臣は自身のこの判断を疑うことはなかった。