Fate/world end ~ソラノハテとリクノハテ~   作:神駆

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ACT.9

 

 

 果てしなく広がる不毛の大地。そこには生き物の気配はなく、唯一人、■■がいるだけ。

 

 ここは嘗て繁栄の極みであった都市。そう。たった数時間前までは。今となっては、その片鱗すら窺い知ることは出来ない。そこに文明があったことを示すものなど、何も残っていないのだから。

 

 ■■には分かっていた。直、■■を殺すために何者かがやってくるだろうことが。でも、それでも良かった。何故なら、■■が望むのは滅亡のみ。この大地に残る生命はあと3分の2。これだけ好き勝手やれば『星』が黙っていないだろう。もう、疲れた。いや、疲れたのではない。もう■■の内には■■以外何も無いのだ。だから……。

 

 ハヤクコロシテ。

 

 何者かの気配。後ろに誰かいる。

 

 ■■が振り向くと、そこには赤い外套を纏った双剣使いが……。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 言峰綺礼が間桐雁夜を見つけたのは偶然であった。

 

 アサシンを使い潰したことによりある程度は自由に動けるようになった綺礼は、アインツベルン城に切嗣がいなかったという報告を前もってアサシンから報告されていたことを先ほど思いだし、探索に出かけようとしていた。

 

 綺礼には切嗣にどうしても聞きたいことがあった。廃ビルの時は話す時間がなかった。ランサーとの戦いにまぎれて訪れようとしたが、キャスターの存在が邪魔だった。

 

 だが、今回は切嗣は一人。報告にあった久宇舞弥という女性もアインツベルンのマスターに付いているため、完全に一人。またとないチャンスであった。

 

 しかし、今回もまたイレギュラーによって綺礼の思惑は途切れることとなった。

 

 市街地から一歩奥に入った場所。そこに間桐雁夜は倒れていた。綺礼は一瞬どうしたものかと考えたが、すぐに治癒魔術を掛けた。それが時臣に対する非礼行為であったとしても、なぜか治癒したいと思ったのだ。

 

 自分でもよくわからぬ感情。それが綺礼の身体を駆け抜けた。今まで体験したことのない高揚感。自然と綺礼の口元は弧を描いていた。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 間桐雁夜は不思議な声を聴いていた。頭の中に直接語りかけてくる、穏やかな声。

 

『あなたは強いのですね。たった一人で戦っている』

 

 雁夜はその声に答える。勿論、心の中で。

 

『俺は強くなんかない。桜ちゃんを助けるためには、強くなきゃいけないんだ』

 

『矛盾していますよ? ですが、それも強さの形なのでしょうね。あなたに一つ、教えてあげましょう』

 

 穏やかな声は、まるで子どもをあやすかのごとく雁夜に語りかける。

 

『この聖杯戦争の監督役には予備令呪というものを持っているのは御存じで? あなたがそれを得ることが出来れば一層強くなれるでしょう』

 

『ダメだ。それは出来ない。俺に魔術の知識は殆どない。たとえそれを奪い取れても使うには臓硯の協力が必要だ。だが、あいつが協力してくれるはずがない』

 

『そうでなくても、あの監督役は遠坂と繋がっていますよ? このまま放っておけば、あなたの復讐の障害になるでしょうね』

 

『それは本当なのか!? だったら……』

 

 もう雁夜に正常な判断能力は残されていなかった。ただ声に導かれるのみ。

 

『それと、マスターを狙いなさいな。あなたのサーヴァントは消耗していますが、マスター相手であれば問題ないでしょう? どうも遠坂のマスターはサーヴァントと上手くいっていないようですし、そこを狙われては?』

 

 雁夜の頭の中は、この声で一杯になっていった。遠坂を狙う。なんと甘美な響きなのだろう。既に雁夜の中ではこの声の正体などどうでもよくなっていた。ただ、この声に従うこと。それが重要なのだ。

 

『そうしよう。明日、時臣を殺す!』

 

 穏やかな声の主はそれを否定しなかった。そのことが雁夜を幸福にしていく。自分の言っていることは間違っていないのだと確信できる。

 

『それでは、あなたの健闘を祈っていますね』

 

 それきり、声が聞こえることはなかった。

 

 そして、雁夜はバーサーカーに指令を出す。

 

『バーサーカー、監督役を殺せ!!』

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

「そうそう。いい感じね。やっぱりあなたは才能あるわ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 リクに本を貰って以来、魔術の鍛錬を毎日欠かさず行っていたコトネはメキメキと上達していった。その傍らには、半透明な人間がいた。それが、コトネが初日に書かれている通りに魔術を使ったときに現れた人物であった。

 

 彼女の名前はSORA。どことなくコトネに似ている少女である。彼女は本に宿された『魂』であり、本体からは切り離され、魔力供給の身によって現界している。勿論、それはリクのマスターであるコトネの魔力供給だからであり、他の魔術師が供給したところで彼女は瞬く間に消え去ってしまう。

 

「やっと4分の1まできたんだー。ねえ、SORA先生! リクくんが使ってた瞬間移動ってどの辺に載ってるの?」

 

「あー、確か……最後の方だったような……」

 

「えー」

 

 コトネは目標が遥か遠くであることを知ると項垂れる。ここまでは順調に来ていたが、ここから先は順調にはいかないとSORAに言われ、更に落ち込むコトネ。

 

 だが、たった数日である程度魔術を使えるようになったこと次第驚きなのだが、魔術師の常識を知らないコトネにはそのことが分からない。SORAとしては、聖杯戦争期間中に魔術回路の切り替えができるようになればいいなー程度に考えていたので、この成長度合いは予想外であった。

 

「さて、今日はここまでね。じゃないと明日の発表会、遅れちゃうでしょ?」

 

 SORAはそう言いながら、窓から近くにある冬木市民会館を見ながら言う。明日、コトネはそこでピアノの発表会を行うのだ。

 

「うん、そうだね。じゃあ、おやすみSORA先生」

 

「おやすみ、コトネちゃん」

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

「うわー、ボクの魔力殆ど使われちゃってるじゃん。使いすぎだよ!!」

 

『――――――』

 

「いや、まあ、そうだけどさ。確かにソラのおかげで仕込みはできたよ? でも、折角アサシンから貰った魔力も無くなっちゃってるし」

 

『――――――』

 

「うん! それにしよう!」

 

 アインツベルン城から立ち去ったキャスターは空中を散歩しながらソラと会話していた。勿論、姿を隠すために魔術を使っている。少し先には濃い魔力の痕があり、そこをライダーが通ったことは明白だ。

 

「よし! じゃあまずは地上に降りて魔力の補給だね。コンビニへレッツゴー!!」

 

 キャスターは空中浮遊を止め、初日に訪れたコンビニで、またしても甘いものを買い漁っていく。お金に関しては、あの一家から全て貰っているので問題はない。

 

「お、ティラミスだ。んー、こっちはモンブラン。両方とも買っちゃえ!」

 

『――――――』

 

「いや、交代したらまた魔力使っちゃうから。我慢しててよ」

 

『――――――!!』

 

「あと少しの我慢だから。聖杯戦争で勝てば、そこからは自由なんだからさ」

 

 キャスターはその後疑われること無く会計を済ませ、コンビニを出て行く。すでに仕込みは終わっている。あとは発動させるだけ。

 

「さーて、踊ってもらおうかな? バーサーカーのマスターさん」

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 何だねこんな夜更けにいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 血の匂い。

 

 綺礼が教会に帰ってきて真っ先に気が付いたのが血臭だった。胸の高鳴りを抑えながら、教会の扉を開く。

 

 まず目に入るのが十字架。そして、その下には……。

 

「父……上……?」

 

 右腕を残し、他の四肢を失った状態で、さらに辛うじて顔が判別できる程度にまで破壊された璃正の姿がそこにあった。傍らには『jn424』の文字。繰り出される暴虐の中で必死に書いたのだろう。その文字は些か崩れてはいたが、辛うじて読むことは出来た。

 

「ヨハネ福音書4:24。……神は御霊なり。故に神を崇める者は、魂と真理をもって拝むべし…………」

 

 璃正の右腕に刻まれていた予備令呪が綺礼の腕に移植されていく。

 

 だが、その途中、それとは違った痛みが綺礼を襲った。そうこの痛みは以前にも体感した。これは……。

 

「令呪……だと? 何故だ。私は既に敗退しているはず……」

 

 綺礼が思考している間に予備令呪の移植は完了し、綺礼の右腕には予備令呪が刻まれた。

 

 変わり果てた父親の姿を見て、綺礼は一筋の涙を流す。だが、そのことに綺礼は愕然となり、顔を押さえる。涙を流すことは普通だ。だが、綺礼の心は違った。何か湧き上がってくる感情があるのだ。

 

 それを受け入れてはいけないと綺礼は咄嗟に思った。受け入れてしまえば、元には戻れない。そんな予感がした。

 

 だから綺礼は主禱文を読み上げる。その『ナニカ』を封じ込めるように。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 時臣は珍しく焦っていた。綺礼から知らされた、璃正が何者かに殺されたという一報。それが時臣を焦らせた。

 

 だが、それも一瞬のこと。すぐに元の調子を取り戻し、綺礼へと問い掛ける。

 

「それで、犯人の目星は付いたのかね?」

 

「いいえ。それよりもまず父上をきちんと埋葬したいと思いまして」

 

「あ、ああ、そうだね。済まなかった」

 

「いえ、お構いなく。詳細については明日の昼にそちらに伺っても?」

 

「ああ、構わない。ちょうど君に渡すものもあるのだから」

 

 時臣はここで通信を切る。やはり先ほどの調子は無理をしていたのだろう。通信が終わった途端に時臣は天を仰ぐ。

 

「まさか、こんなことになるとは……」

 

 一人呟くも、応えはない。かの英雄王もいつも通り夜の散策に出かけているようだ。

 

「やはり、私も出るしかないか……」

 

 そういって時臣が取り出したのは一際大きなルビー。この聖杯戦争のために魔力を蓄えてきた一級品だ。

 

 それを礼装である杖に嵌め、簡単な火の魔術を使い調子を確かめる。

 

 なんら問題なく稼働しているのを確認した時臣は、僅かな睡眠をとるために寝室に向かっていった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

「痛ッ!! こら、ライダー!! 寝相悪すぎだぞ!!」

 

「うるさいのう」

 

 ライダーはウェイバーに向かってデコピンを繰り出す。

 

「…………ッ!!」

 

 痛みに悶絶するウェイバー。ライダーはそれを気にせずに再び眠りについた。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 暗い暗い場所。原初の風景。黒い太陽。

 

 その場に立っているのは赤い外套の人物のみ。■■は地に伏せている。どこまでも純粋な笑顔のままで。

 

「ありがとう。正義の味方さん。ボクはこれでようやく………………」

 

 黒い太陽はその姿を消し、一筋の光が大地を照らす。そこには、新芽が出ていた。

 

 

 

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