此処がよかった。ここをこうした方がいいんじゃないなどの、様々な批評をしていただくとありがたいです。
マッドな水
魔法とは奇跡を具現化させたものである。
魔力と呼ばれるエネルギーを使うことで魔法は発動することができる。
魔法は大きく、四つの属性に分かれる。
攻撃力に優れる炎属性。
回復力に優れる水属性。
俊敏さに優れる風属性。
防御力に優れる土属性。
大まかな魔法属性はこの四つである。更に、この四つの魔法から派生した属性もあるがここでは割愛する。
さて、我々が魔法を使えるようになったのは約300年前だと言われている。
その頃、シリア王国では戦争の真っ只中だった。戦場で戦う兵士や、民、そして王に至る全ての国民が疲弊し、虫の息だったらしい。すると、突如として魔法使いの翁が、王の前に現れた。翁は言った。魔法を授けようと。
かくして、追い詰められたシリア王国は翁から授けられた魔法を使い、戦争に勝利した。シリア王は、翁に褒美を与え、授かった魔法を返そうとしたが、翁の姿はなく、国民総出で探したが、翁は見つかることはなかった。
以降、シリア王国の国民には、魔法使いの血が流れることとなった。しかし、後になって分かったことだったが、如何やら、翁は戦争に敗北しそうな国に現れては、魔法を授け、国を救っていたことが判明された。
戦争の終結から約50年後、大陸の全土の国との和平が結ばれた年に分かったことらしい。翁の狙いは何だったのか。それは誰にも知る由はない。
マトリス魔法学園
一学年 アリス・ポートフィリア
「こんなとこでしょ。はぁ、この課題が明日までだったなんてねー」
学園から出された宿題のレポートを書き上げ、うーんと伸びをする少女。
彼女の名は、アリス・ポートフィリア。シリア王国の魔法教育機関、マトリース魔法学園の一年生である。青みがかった長い黒髪を後ろで一本にまとめたポニーテールで、目は少したれ目ぎみ。背は低めで学園では二番目に小さい。
そんな彼女は学園の寮で課題を書き上げたわけではなく……………………
「しっかし、森て暗いわねー。明かりも月の光だけだし。まぁランプの燃料代ケチっただけだけど」
深夜の森の中で書いていた。地面から露出した大きな木の根に座りながら、あー、お尻が痛いとさする。アリスは、スカートに着いた土を叩き落とし、たすき掛けにした鞄から、小瓶を取り出す。
「うへへぇぇ」
ぐへへとキモチワルイ笑みを浮かべるアリス。持っている小瓶の中には、何か毛玉の様なものが浮いていた。
「これを売れば、しばらくの生活は安泰ねぇ。でへへ」
アリスは、軽く小瓶を振ってみる。毛玉の様な物の正体は、精霊の子供であった。四大属性に分類される魔法だが、細分化するとその種類は多岐にわたる。
生物を召喚する召喚魔法。幽霊など魂を使役する死霊魔法。回復を超えた蘇生を可能とする蘇生魔法など、特殊な魔法を得意とする魔法使いもいる。
しかし、特殊な魔法というのは、発動に大量の魔力を消費する。その際に消費する魔力を抑える役割を果たす存在が、精霊である。
精霊は、契約した魔法使いとパスと呼ばれる回路を通して、魔力を共有するのである。精霊と契約している魔法使いとしていない魔法使いの魔力量の差は、個人差もあるとはいえ、段違いの差がある。
そのため、精霊というのは、とても貴重な存在なのである。つまり、高値で売買されるのである。近年、精霊の価値を利用した一部の魔法使いによる精霊の乱獲が多発し、精霊の数が激減した。事態を重く見た国々は、精霊権法を制定。精霊も人間と同じ権利を持つと定めたのである。
それにより、精霊を違法に捕獲、契約した場合、懲役などの重い罰が課せられる。精霊権法制定により、精霊たちには安息がもたらされた。しかし、同時に裏社会に流れる精霊のその価値は跳ね上がった。アリスはそこに目を付けた。
そうだ、精霊を売ろう。
「バレなきゃ、犯罪じゃない」
そう自分に言い聞かせ、やった。後悔も反省もしていない。ただ、自分の中の心《あくま》がささやいた。やれ、と。それに従ったまでのこと。彼女はそう言い聞かせた。犯罪者の自己分析である。
「さてと、目的の物は手に入ったし、課題も完了。撤収し……」
その時、アリスの身体に電流が走った。何かがいる。このプレッシャーはただ者ではない。そっと気配のしている方を、振り向いてみる。
「ぶへらっ!」
振り向いたアリスの頬を的確に何かが狙い撃った。アリスは一瞬見えた、己の頬に打ち込まれたモノの正体を見た。
(土の塊?)
よろめいた体を、足を踏ん張りを効かせることで、止まらせたアリスは、頬に手を当てる。手に着いたものを見ると土塊をこびり付いていた。アリスは、土塊を飛ばしたであろう犯人を見据える。
(アイツは!?)
茶色い毛に覆われた体。赤く光る眼からは怒りの感情が読みとれる。全身の白毛を尖らせて低い唸り声を上げているその生物は……
「泥精霊《マッド・スピリット》の守護者《ガーディアン》!?」
土系の精霊を守護する守護精霊は、アリスの声を聴いたのか、雄叫びを上げる。その雄叫びに魔力を通し、自身の周りの大地を隆起させる。隆起させた大地から、土のつぶてが放たれる。
「おわっ!ととっ!?」
数多くのつぶてがアリスに向かってくるが、驚きの声をあげながらもかわしていく。その様子を見た泥精霊は、更につぶてを大きくして、アリスの背丈ほどの大きさの岩を打ち出す。
「いいっ!?『ウォーターシールド』!」
アリスが手の平を岩に向かって突き出すと、水で出来た円形の盾が現れた。岩が盾に当たると、弾くのではなく、包み込んで受け止めた。
「そりゃ!」
水の壁が元の形に戻り、その反動で岩は、泥精霊の所に跳ね返される。岩は泥精霊に激突するが、泥精霊は岩を吸収しダメージはない。さらに泥精霊は、岩石で拳を作り出す。雄叫びを上げて泥精霊はアリスに殴りかかって来た。
「接近戦は苦手なのに!」
繰り出される泥精霊の拳を避けていくアリスだが、徐々に追い詰められていく。
「『ウォータースパイク』!これで止まって!」
アリスの足元から、水の棘が飛び出し、泥精霊の身体を貫く。精霊は、体を貫かれたぐらいでは死にはしないが、行動を封じることはできた。泥精霊は身を捩らせて棘から抜け出そうとしているが、抜け出せずにいた。
「よし!今のうちに…………」
アリスは、懐から青い光を放っている小瓶を取り出した。
「これで……ん?」
小瓶の蓋を開けようとしたとき、アリスは泥精霊の動きが完全に停止した事に気づいた。先ほどまで暴れていた泥精霊は、糸が切れた人形のようにピクリとも動かない。
「あ、あれ?、もしかして倒せちゃった?……やったー!どんなもんよ!」
アリスは水の棘を消して、動かなくなった泥精霊に近づいていく。ニヤニヤとした笑みを浮かべるアリスに警戒心はもはや皆無である。すると……
「ウゥウウウウ……」
「あ、あれ?」
泥精霊の様子がおかしい。その様子に気づいたアリスは、怪訝な声を上げて後ずさる。泥精霊の唸り声は、音量が上がり、叫び声にまでなっていく。
「アアアアァアアァァ!!」
「な、なに?……黒い霧?」
泥精霊の周囲には、先ほどまで見えなかった黒い霧が現れていた。まるで生きているかのように動く霧は、泥精霊の身体に入り込んでいく。泥精霊が取り込んだように見えたが……
(
黒い霧全てが、精霊に入り込むと、泥精霊の身体に異変が起きる。毛玉の様な体からは、土色の手足が生えていく。腕の太さは人間の大人の胴ほどの太さがある。足も同等の太さがあり、踏み込むだけで地面に足跡を残すほどである。そして、なかったはずの口が形成され、牙が生えそろう。
(突然変化!?、何なの……あれ!?)
もはや、精霊の姿を為していない怪物は叫ぶ。その叫びは、森を駆け巡り木々を揺らす。怪物の叫びによる衝撃で、アリスは吹き飛ばされかけるが、咄嗟に水の壁を張って衝撃を防いでいた。
「くぅ……『咆哮《ウォークライ》』まで使えるの?!」
本来の精霊系魔物では、『咆哮』は使えない。しかし、アリスの目の前にいる元精霊は使えるらしい。
「とにかく、何とかして……!」
水の壁を解除したアリスは、先ほどの小瓶の中身を出そうとする。しかし…
「ウオォォ!」
「げっ?!、速いっての!」
アリスの使おうとした魔法に気づいたのか、野生の感か、怪物は一っ跳びすると、アリスとの距離を詰めていく。怪物から距離を取ろうとするアリスだが、怪物の方が速かった。
「『ウォーターシールド』!」
「アアアアアッ!!」
「がはぁぁ!?」
岩を受け止めた水の盾だが、怪物の腕の一振りを受け止めることはできず、アリスは、怪物の腕を叩き付けられ、吹き飛ばされる。
「かはっ……」
吹き飛ばされたアリスは、後方の巨木に叩き付けられ肺の中の空気を吐き出す。せき込むことで、血が吐き出される。通常のなら、命ないし、意識を失うところだったが、しかし、アリスは意識を失っていなかった。直前に張った水の盾により、衝撃を少なくすることができたからである。そして、アリスは戦闘意欲も失ってはいなかった。
(やってくれるじゃない……!)
アリスは、三度、小瓶を取り出し今度こそ蓋を開ける。青い光を放つゼリー状のモノを地面へと垂らしていく。ゼリーは、地面に吸収されることなく広がっていく。
(頼むわよ……ってやば!?)
ゼリーを見ていたアリスだが、怪物はすぐそばまで駆け寄ってきていた。起き上がって、怪物の攻撃を避けようとするが足に力が入らない。足を手で叩いて鼓舞するが、それでも動かせない。
(……これで……終わり?、はぁ……)
「じょーだんじゃない!」
アリスは諦めない。手を地面に置いて青いゼリーに魔力を通す。魔力が通るとゼリーは、動き出した。
「『アイス・スパイク』!」
「GA!?」
ゼリーは固まり、鋭く尖った。棘からは白い冷気が出ており、氷であることを物語っている。氷の棘は怪物へと飛来する。反撃されるとは思わなかったのだろう、怪物は一瞬動きを止める。アリスはその隙を見逃さず、怪物の足元まで広がっているゼリーにまで魔力を行き渡らせる。
「『アイス・バインド』!」
「UUA!?AAAAAAA!!」
ゼリーは怪物の身体に巻き付いて凍る。凍ったことで、氷の棘を弾くことも、避けることも出来なくなった怪物は、氷の棘をその身に受ける。怪物にぶつかることで氷の棘は砕けていく。即席とはいえ魔力で固めた氷が砕けるほどの硬度を怪物は持っている。しかし、それでも怪物は痛みの悲鳴を上げる。
「はあぁぁぁぁぁ!!!」
これで決める!とアリスは、自身の魔力を全てつぎ込み氷の棘を怪物にぶつけていく。氷が砕けることで辺りに白い冷気が立ちこみ、怪物の姿を隠してしまうが、拘束されている怪物がいる場所に棘を飛ばし続ける。
「だあぁ!……はぁ……はぁ」
白い冷気で完全に怪物の姿が見えなくなり、それと同時にアリスの魔力も尽きた。足の震えは収まったが、魔力を使いすぎたためか余計に力が入らなくなった。思わずといった感じで、その場に横たわった。横になると眠気が忍び寄り、アリスは眼を閉じる。
「あー…………しんどい……」
「終わった?」
「え?」
安堵の声を漏らすアリス。だが、誰かがその場にいた。驚いたアリスが目を開けると、
「や」
「だぁあぁ!?」
アリスと同様に寝転がっている少女がいた。叫びながら起き上がったアリスは、顔面蒼白と言った様子で後ずさり、背中を木にぶつける。
「な、ななな何で?!シノブ!、あんたがここに、いるの!?」
「近くにいた。咆哮聞いた」
黒い髪の少女、シノブ・村正は簡潔に答える。如何やら、森の近辺で修行をしていた時、怪物の咆哮を聞いてきたらしい。
「それより、あれ何?」
シノブはアリスが氷漬けにした怪物を指さす。木を背もたれにしながら体力の回復を待つことにしたアリスは、今までのことを説明した。いきなり、泥精霊の守護が襲い掛かってきたこと。その精霊が黒い霧に取り込まれたこと。それを何とか撃退したことを伝える。
「……なるほど、黒い霧」
「そう、初めて見たわ。あんなの」
「学園長に報告」
「そうね、それがいいわ」
「それともう一つ」
「なに?」
「泥精霊は基本的には無害な存在。こちらが何もしなければ、何もしてこない」
「………」
「アリスの話では、泥精霊に襲われたのは黒い霧を見る前」
「……………………あー」
「なにかした?」
「イヤナニモ?…………サァ、カエリマショ」
先程の疲れを見せずにスッと立ち上がったアリス。スタスタと森の出口への道を歩き出す。アリスの様子を観たシノブは何か隠していることに気づいているが、何も言わずに、アリスの後に続いていく。
アリス達二人が、森を出たとき氷漬けにされた怪物から黒い霧がしみだしていた。やがて、体から全ての黒い霧が排出されると、泥精霊の身体は崩れだす。元の泥となり地面へと流れていった。黒い霧は、暗い夜の森へと消えていった。
そして、アリスがいた森の巨木の傍にあった大きな岩が崩れだし、巨木の幹にある大きな穴が姿を現した。
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