ニンジャとはその昔、無双と言われた超常の存在である。魔法が授けられる以前から国の暗部として動いており、優れた身体能力。様々なニン術は敵を蹴散らし、国を裏から守る正に、国の守護者であった。しかし、守護者と呼ばれたのも今は昔、魔法の台頭によりニンジャは裏舞台から姿を消し、その存在は国ですらも把握できなくなり、ニンジャは伝説の存在として語られるようになった。
そして、今から十年ほど前、大陸際最東部の国、和ノ国に魔法ニンジャが現れる。ニン術と魔法を組み合わせた魔ニン術を使い、まさに伝説を超えた究極の存在となった。そしてここマトリス魔法学園にも魔法ニンジャがいる。
その名は、シノブ・村正。和ノ国からの留学生であり、ニンジャである。和ノ国でのニンジャ訓練を収めたシノブは次の段階、魔法を学ぶためマトリス魔法学園に入学したのである。
そのニンジャ、シノブは学友とともに寮生活を送っている。同居人の名は、アリス・ポートフィリア。青みがかかっている黒髪をポニーテールにしている女子である。シノブとほぼ変わらない背丈だが、入学時の身体検査でアリスの方が3mm高かった。
現在、就寝中の二人は二段ベットの上段を二人で使い同じ布団で眠っている。アリスがシノブに抱き付きながら眠っているので、シノブは少し暑苦しいと思っているが、これはこれでいいと思い、特に何も言わなかった。アリスは抱き枕にちょうどいいといたく気に入っている。
◇
二人は、森から帰ってきた後、すぐベットに横たわった。アリスは戦いの疲れからか、ものの数秒で眠りについた。シノブはどうしようか迷ったが、丁度明日は学園の休日だったこともあり報告は明日にしようと思いアリスの横で眠ることにした。アリスに抱き付きながら眠るシノブは、入学式でのことを思い出していた。
「あなたってニンジャなんでしょ。何か見せてよ」
入学式。魔法を学ぶために集まった約三百人の新入生は、学園の体育館に集まっていた。壇上には、学園長がおり、これからの学校生活における注意事項などを言っていた気がする。私は、学園長の話を片耳で聞きながらボゥーと、窓の外に見えている桜の花を見ていた。和ノ国では多かった桜だが、この国ではもう見れないと思っていたので少し、残念に思っていた。
これからの生活に楽しみが一つ増えた。と喜んでいたら、私に話しかけてきた人がいた。何か見せろと言ってきた。実を言うと私は、人付き合いがあまり得意ではない。無視をしようと思い声を掛けられた方を見ない様にしたが、頭を掴まれぐいっと強引に向けさせられる。
「っ!?何を……」
「こっち向いてよ」
その時、私の体には電流が流れたような感覚が走った。目がクリッとしている。好奇心からかその目は輝いていてキラキラと輝いていた。青みが強い黒髪はサラサラで一本にまとめている。背丈は私と変わらないが、親近感がわく。
私は彼女から、眼を離せない。いや、外したくないと思ってしまった。
ああ、言ってしまおう。
私は、彼女に恋《一目惚れ》をしたのだ。
◇
東から太陽が顔を出す。それと同時にシノブの意識も浮上する。夜明けとともに起きるのがこの学園に来てからの朝の習慣になっている。朝起きてシノブがすることは、体の柔軟である。一時間半ほどの時間をかけて柔軟を終えたシノブは。続けて朝食を作り始めた。卵を取り出し、あっという間に卵焼きを作る。炊いておいたご飯を丸めておにぎりにする。和ノ国から持ってきた味噌を使い、味噌汁を作る。ここまで、三十分もかからない。
「アリス、朝」
「ん~……まだ、ねむーい……」
「……早く起きないとちゅーするよ」
「別にいいよー、んー」
「…えっ、あの、の」
恒例のやり取りを終えた二人は、朝食をとる。
「「いただきます!」」
アリスはおにぎりを手に取り、かぶりつく。フォークを卵焼きに刺して口に運ぶ。聞くとかなり口元が愉快なことになっていそうだが、意外にも汚れてはいない。美味しそうに自分の作ったご飯を食べてくれるアリスに、シノブの笑みはさらに深くなっていく。と言ってもシノブの感情の変化に気づくのは、アリスと一部の生徒だけなので、表情はあまり変わっていないように見えるのだが。
「今日もシノブのご飯美味しい!」
「そう」
「ありがとね!」
「……機嫌を取ろうしている」
「そ、そんなこと……ないわよ?」
「昨日のことは学園長に報告する」
おにぎりをパクつきながらシノブは言った。先日の森での出来事を学園長に報告する、アリスにとってそれはかなりまずい。
(なんで森にいたのかを聞かれると終わる!)
精霊を捕まえに行っていました。なんてことを答えれば、間違いなく退学。そうでなくとも何らかの、重い罰則が科せられる。そんなアリスの事情を知らないシノブはいろいろとアリスのことを察していたが、アリスの成長のためと心を鬼にしていた。
(アリスのこういうところ、直していかねばならない。それが私の使命)
入学式以降、ぴったりとアリスの後を付けているシノブ。そんなシノブに対して、クラスメイトは正直なところ、かなり引いた眼で見ていたが、そんなことは些事な事と気にしないでいた。
「頼むよー、学園長にだけはー勘弁して―」
「だめ」
「ぺぇぇー」
「元々、報告するように頼まれている」
「う」
「というより、あれだけの魔力が流れていたのに気づかないわけない」
「……………………うぇぇぇぇん!!シノブがいじめるぅぅぅー!」
ドタドタと寝室へと走っていくアリス。その後ろ姿を見ながら、湯呑のお茶を一口飲むシノブ。いつもと変わらない一日が始まる。
◇
「ねぇ、シノブー、ねぇったらー」
「うるさい」
学園長室へと向かうシノブを止めようと無駄な努力をアリスは続けている。長い廊下を静かに歩くシノブだが、歩く速度はかなりのモノで、アリスはついて行くのがやっとだった。
「今日のデザート当番変わるから……ね♪」
「デザートはプリン。昨日の間に作ってある」
「……あ、それなら」
「課題なら、先週の間に出してある。アリスは今日提出する?」
「……はい」
どれだけ言っても、シノブの意見を変えることはできないと悟ったアリスは、どうしようかとにかく考える。しかし、
「失礼します」
(まぁ、無理だよね……)
考え着く前に、学園長室にたどり着いた。室内は広く中央には長方形のテーブルとソファが置いてある。部屋の奥、学園長のプレートが置いてある室内で最も大きな席が、マトリス魔法学園の頂点である、ゼノ・マトリスの席である。
「あれ?、学園長は?」
アリスは訝しげな声を上げる。休日とはいえ学園長はこの時間中は、業務時間中の筈である。しかし、室内には学園長の姿はどこにも見えない。もしかして、助かった?と思ったアリスは、シノブに声を掛ける。
「シ、シノブ?今日の所は……引き上げない?学園長もいらっしゃらないみたいだし」
「ここにおるぞ?」
アリスが全身を震わせてゆっくりと振り返るとそこには、長身の女性がいた。黒いローブに包まれているその女性は、寝ぼけた表情で挨拶をしてきた。
「おはようございます、学園長」
「お、おはようございます…………」
「おはようさん、アリス、シノブ」
シノブははっきりした口調で、アリスはやばい、という表情を見せながら挨拶を返した。
「んー?どうした、アリス?表情が硬いぞー」
「ん!?しょんにゃことないでひゅよ!?」
「ホントかー?ほれほれ」
「――――!!??」
ゼノはアリスの頬を摘まんで真横ににゅーと引っ張った。声にならない悲鳴を上げるアリス。そんなアリスに助けが入った。
「学園長。報告」
「あいよ。分かった、聞くからそんな怖い顔しなさんなって」
ぽんっとアリスの頬を放す。アリスはやっと戻った自身の頬に手をやりながら自分の魔力で冷やしていく。シノブはアリスを横目にゼノに報告を始める。
「アルゴの森に深夜、黒い霧が発生。如何やら生物を狂暴化、変化させるものだと断定。アリスが戦い撃破したが黒い霧の正体はつかめず」
「そうか……発生源は?」
「不明」
「そのほかに黒い霧の感染者は?」
「確認できず、先日の泥精霊が初」
「アルゴの森の調査任せても?」
「依頼ならば受ける」
ニンジャには依頼を受けて報酬を得る。他にはニンジュツを医療や娯楽に使い、生計を立てる者もいる。
「うーん、依頼にするなら報酬がいるねぇ。課外授業てことに……」
「ならない」
「そりゃそうだ」
報酬を渋るゼノだが、それは通じないことは分かっていたので言ってみただけといった感じで報酬を払うことを約束した。
「さて、アリス?」
「は、はい」
「お前は私に言うべきことはないかい?」
アリスの眼を見つめるゼノ。
「……いいえ、何も?」
白を切るアリスだが、それが通じる相手ではないことは承知している。
(ああ……さよなら、私の学園生活。短い間だったけど楽しかった――――――)
「――――そうか、まぁこれからも励んでいく事だ」
「え」
「返事は?」
「はっ、はい!」
「よろしい。私からは以上だ。下がってよし」
「あの、その……失礼します」
アリスは頭を下げて学園長室を退出した。シノブもその後を追うとしたが学園長に止められた。ゼノは一つの小瓶をシノブに見せる。そしてそれを投げ渡した。
「少し待て、シノブ。こいつらを森に返しておいてくれ」
「これは?」
「精霊の子供だ。あいつの頬の時にな。大方、アリスが取ってきたんだろう」
ゼノは、アリスから小瓶を抜いていたのである。小瓶を受け取ったシノブは、少し不安を覚える。この国では精霊とは人間と同じように守られている。それを不正に手に入れたことでアリスを罰しないのかと。
「んー、教育者として最低だと思うのだが、魔法使いとしてアリスの才能を埋まらせるのは見過ごせない。
その言葉を聞いてホッとした表情を見せるシノブ。だが、とゼノは続ける。
「とはいえ、法を犯したのに罰を与えないというのは、示しが付かないから、私の方で何かしらの罰則を考えておくが……心配するな、何も一緒に生活ができなくなるわけではない」
シノブが再び、表情を曇らせると大丈夫だとゼノはシノブの頭に手を置いた。
「まぁ、罰は追々伝える。今はアリスと一緒に森の調査に向かってくれ」
「……承知」
シノブも学園長に軽く礼をすると、退出した。
シノブが学園長室から出たことを確認したゼノは、誰もいないはずの室内で誰かに話しかける。
「アイミー、知っているか?黒い霧のこと」
「いいや、初めて聞いたよ?」
すると、ゼノの影が動きだし立体的な人型の影となり姿を形作る。ゼノの姿と全く同じだが、赤い目で赤い髪色のゼノとは違い、白い髪で青い目のもう一人のゼノが傍に立った。ゼノが契約している影の精霊、名をアイミーという。
「精霊を狂暴化ねぇ、精霊てそういうのにかなりの耐性があるはずなんだけど」
精神を変化させる魔法はあるが、そのどれもが簡単に打ち消せるものばかりである。そもそも、人一人の精神では、人に干渉できたとしてもその精神を変化させるだけの絶対量が足りていないのである。
「魔法ではない……何か特別な力?」
「うーん、何とも言えないね。情報も少ないし、シノブとアリスに期待かな」
「……私たちも動くべきか」
「了解♪」
アイミーは、ゼノの影に戻った。ゼノは学園長室を後にする。
「黒い霧か……古代魔法《エンシェント・マジック》?にそんなのが……」