NEW GAME!~とある社員の日記~   作:とある社員

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○月×日△曜日

 前回の日記からかなり時間が経ってしまった。前回の日記が入社当時の日記という事はかるく数年以上前の事だ。飽きっぽい性格である事は昔から変わらないが三日坊主どころか、初日に日記を書いたまま数年間放置していたとは我ながら呆れたものだ。今書いているこの日記すら、たまたま部屋の掃除をしていたら入社当時に書いた日記帳を発見して、気分が乗ったので書き込んでいるだけだ。

 

 まあ、イーグルジャンプに入社してからこれまでに色々な事があったけどそれは日記で書くような事ではないので省くとしよう。

 

 ただ、昔の日記内容を読んで露骨に男尊女卑思考だったかつての自分に苦笑しつつ、気付いた事が一つだけある。

 

 遠山の事はきちんと遠山さんと書いてあるのに八神の事は出会った当初から八神と呼び捨てにしていた。その事にちょっと笑えた。

 

 まあ、八神の第一印象が悪かったのは事実だし、初任給が高卒と大卒で違う事に文句を言われた時は目がテンになった。結局、あの時は俺の奢りで初めて同期会を開く事なり、それから打ち解けていったので後悔もしていないが今冷静になってみると何故俺は初任給で親でも友達でもなかった同期に飯を奢っているのか、これが不思議である。

 

 俺の日記なので八神の話はどうでもいいとして入社当時から現在に至るまでに変わった事だけは書き込んでおこう。とあるチームのモーション班として働いていた自分は何の因果か今では立派な営業マンで、あの時に侮っていた遠山と八神が今ではアートディレクターとキャラ班のリーダーだ。人生、色んな意味で何があるか分からないが自分の価値観だけで他人を侮る事だけは止めたほうがいいだろう。

 

 これからも毎日とまでは言わないが気が向いて時間がある時には日記を書く事にしよう。……普通に生活する上で毎日、日記に書くようなイベントが無いという本音は置いといて。

 

 

○月×日△曜日

 今日は外回りの営業から会社へ帰社して、喉が渇いていたので自販機を求めて食堂へ向かうと八神と葉月さん、そして見慣れない若い子が食堂で雑談していた。中学生の会社見学の予定なんて聞いてないぞ、と思いつつ、八神と葉月さんに軽く会釈をして離れた席でコーヒーを飲む。

 

 食堂の混む時間帯は過ぎているので葉月さんと若い子の会話が聞こえてくるのだが、会話の内容から察するに俺が中学生だと思った若い子はイーグルジャンプの面接に来ているらしい。最低でも高校生以上である事が判明した童顔の彼女に戦慄しつつ、野次馬根性が出てきたのでカバンから書類を取り出し、整理するふりをして耳を傾ける。

 

 これから本番の面接を控えている彼女は緊張していたが葉月さんの話術で次第にリラックスしていき、葉月さんと雑談している。

 

 葉月さん、性格悪いなー、と思いながらも正式な面接前に面接官と関係無いふりをして面接者と雑談を交え、その人の性格や考え方をおおまかに把握する手法は結構効果的であり、葉月さんが人事に口出し出来るような立場になってから好む手法でもある。

 

 おおかた、八神は遅めの昼飯を食べていた時に巻き込まれて、席を立つタイミングを失っているのだろう。

 

 勿論、雑談である以上、仕事に関係無い話もするのだが、なんというか面接者の彼女がイメージしている八神コウ像を聞いた時に飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになり、咽たのは悪くない筈だ。睨みつけるような八神の視線はもちろん無視だ。

 

 しかし、彼女の語る八神コウ像はイーグルジャンプがイメージ戦略として打ち出している八神コウと似通っているので広報の手伝いも兼任している俺としては喜んでおく所だろう。

 

 とはいえ、本人が目の前にいるはずなのに八神の事をあれほど褒め倒している彼女は意外に大物になるか、広報用に魔改造された八神コウ(遠山作)の写真のせいで本人だと気付いていないのかもしれない。

 

 ただ、笑いを堪えるのに必死だった所で彼も八神と同期の社員なんだよ、と話を急に振ってくる葉月さんは酷いと思った。

 

 目を輝かせて八神について聞いてくる彼女がイーグルジャンプに採用されるか分からない以上、会社として八神コウのイメージを損ねる必要は無いので言葉選びには十分注意して八神について語っておいた。

 

 流石にこれ以上休んでいるとサボりになるので面接頑張れと一言励まして俺は仕事に戻った。

 

 まあ、葉月さんは彼女の事をだいぶ気に入っていたようだし、考え方も学生にしてはしっかりしていたので彼女が同僚になる可能性はあるだろう。あれで葉月さんは人を見る目がある方だし、とある失敗を経て、適当に見えてかなり慎重に人事を行う人なので大丈夫だろう。

 

 ただ、内心でまた高卒女子社員かよ、というツッコミと賭けに近い葉月さんの青田買いに戦慄した。

 

 

○月×日△曜日

 今朝は朝早くから取引先との打ち合わせがあった為、会社へ顔を出さないまま取引先との打ち合わせに向かった。打ち合わせを終えた後、その内容を纏める為に帰社すると会社の扉の前で小さい女の子がちょこんと座っていた。

 

 正直、なんだこいつ、と不審に思いながらもスーツを着た女の子が会社の前に居座られても迷惑なので大丈夫ですか、と声を掛けてみる。顔を上げた女の子は半泣きの表情を浮かべていて、話を聞いてみると遠山管理下のキャラ班に今日から配属された新人さんのようだった。つまり八神の部下にもなる訳だ。

 

 涼風青葉です、と緊張した表情とやる気のある自己紹介をしてくれた涼風さんの姿を見て、数か月前に面接へ来ていた子だと思い出した。涼風さんの方は俺の事を忘れている様子だったが職業柄、人の顔はすぐに覚える癖が身に付いている。

 

 入社初日から会社の前で堂々とサボるとは中々度胸のある子だな、と流行りのゆとり世代に内心で戦慄しつつ、会社の前で座り込んでいた事情を聞く。どうやら涼風さんはまだ社員証を受け取っていなかったようでお手洗いの帰りに会社から締め出されたようだ。

 

 勿論、涼風さんが嘘をついているように見えないが形式上初対面である俺が無警戒に会社の中へ入れる訳にもいかないのでその事を説明して少し待っているように伝える。その後、遠山の席へ向かい、仕事をしていた遠山を捕まえると事情を説明する。

 

 遠山はこちらにお礼を言うと慌てた様子で涼風さんを迎えに行き、その帰り道に八神の事を怒っていた。どうせ、涼風さんの社員証の件で八神がなんかやらかしたのだろう。

 

 自分の席へ向かい、打ち合わせの書類を机に並べつつ、一段落終えた遠山が自分の席に帰ってきた事を確認すると社内メッセで遠山にメールを送信する。

 

 メールに気付いた遠山はメールを読んだ後、表情を少し赤くさせて咎める視線でこちらを見てから涼風さんを呼び出して、そのまま別室へ連れて行った。

 

 最近の若い子の感性はよく分からないがスーツ姿であんな座り方をするなんて、ハッキリ言ってパンツ丸見えだ。イーグルジャンプの社員が痴女なんて噂が流れたら目も当てられない。いや、もしかしたらキャラ班にはそういう人種が集まっているのかもしれないが。

 

 直接指摘してしまえば完全にセクハラになってしまう為、上司である遠山を通して伝えておいたがそれが正しかったかどうかは誰にも分からない。

 

 ただ、涼風さんの記念すべき社会人一日目が異性の先輩にパンツを見られるというイベントだった事はこちらとしても謝るしかないだろう。

 

 

○月×日△曜日

 今日は全くもって酷い目にあった。そういう人間じゃないことは分かっているが涼風さんの復讐とでもいうのだろうか。仕事の都合で八神に用事があり、休憩中のキャラ班のブースの前を通りかかった時、涼風さんに呼び止められた。

 

 立ち上がってこちらに近付いてきた後、恥ずかしそうに頬を赤らめて、もじもじと言いにくそうにしながらもパンツの件、ありがとうございました。と爆弾投下してくれた。

 

 空気が凍るというのはああいう事を言うのだろう。

 

 休憩中だったキャラ班ブース内の空気は完全に固まり、あまり親しくない篠田さんと飯島さんの表情はぎこちない笑みを浮かべて、ブース内で唯一それなりに親しい滝本は怪訝そうな表情を浮かべてこちらを見ていた。そして遠山から事情を聞いているであろう八神に助けを求める視線を送るとこともあろうに腹を抱えて大爆笑していた。

 

 集まる視線を受け、小さくため息を吐いた後、八神に渡す為に持ってきていた書類を固めに丸めて涼風さんの頭を叩く。

 

 あうー、と両手で叩かれた所を押さえている涼風さんにその発言だと色々と誤解を生みかねないので直すように、と指摘する。

 

 その指摘を受けて自分の発言が滝本達にどのような誤解を生んだのか理解した涼風さんは今度こそ顔を羞恥で真っ赤に染めると滝本達に事情説明していた。

 

 その光景を見て大爆笑している八神には後で葉月さんに許可は得ている営業先のショップへプレゼントする予定のある八神コウサイン入り色紙の数を増やしてやると誓った。

 

 

○月×日△曜日

 昨日は取引先との打ち合わせが予想以上に長引いてしまい、かなり遅い時間に帰社する事になってしまった。いつもなら上司に連絡を入れてそのまま直帰する所なのだが、自分の不注意もあり、名刺入れに入った名刺の枚数が心許無くなってしまっていた。

 

 今日は朝から打ち合わせの予定があった為、昨日は名刺補給のためにどうしても帰社しなければならなかった。結局、みんなが退社しているような深夜帯に帰社することになった。

 

 非常扉の灯りがともる薄暗い会社の中で自分の机に移動して机の中から名刺を取り出して名刺入れに補給する。用事を済ませて帰社しようとすると明らかな人の気配と慌てた様子の物音が聞こえてきて、心臓が止まりそうになった。

 流石に見て見ぬふりをする事は出来ないので泥棒かどうか確かめる為に人の気配がした方へ声を掛けてみると安心した声音で八神から返事が聞こえてきた。それならわざわざ隠れる必要も無いだろう、と思いながら人騒がせな八神に文句を言いながら近付いていくと慌てた様子でこちらを静止する声が聞こえてきて、なんとなく事情を察する。

 

 遠山にもよく言って何度も注意してもらっているのだが、八神には露出癖がある。会社の残業で社内に自分一人になるとスカートを脱ぎだすのだ。本人に指摘すると人を変態呼ばわりするな、と怒り出すのだが、世間一般的に誰もいないとはいえ会社でスカートを脱ぐのは変態以外の何者でもない。

 

 初めてその状態の八神と遭遇した時は流石に度肝を抜かれた。取引先との食事帰りで多少アルコールも入っていたこともあり、最初は欲求不満で変な夢でも見ているのか、と思い、硬直している八神をまじまじと観察してから本物だと分かった時は流石に焦った。パンツ姿を見たのはその一度きりではあるが似たような状況は何度も経験しているのでため息を吐いて呆れつつ、八神へ自分は帰る事を伝える。

 

 すると八神の方から声が掛かり、自分も帰社すると言い出した。流石に八神の方も肝を冷やしたのか、仕事する気にはなれないようだ。そのまま二人で退社して駅前で別れようとしたのだが、そのタイミングで八神の腹の虫が鳴り響く。

 お互いに牽制する視線が交差した後、ため息を吐いて、適当な居酒屋で飯でも食べるか、と声を掛ける。

 

 出会った頃の八神はまだ成人すらしていなかった、と焼酎お湯割りを飲みながら美味しそうにお通しを食べる八神を眺めつつ居酒屋で適当な食事とお酒を飲み、駅前の居酒屋であることに油断して二人とも終電を逃すマヌケを演じる。そして大人しく二人で会社へ戻る事になった。

 

 お酒が飲めるようになっただけでそこまで強い訳でもない八神がそのまま自分の席で寝ようとするので慌てて鍵のある会議室へ放り込み、鍵を掛けた事を確認すると自分の机で仮眠を取る。

 

 そして今朝、早い時間に人の気配を感じて目を覚ますとニタニタ笑みを浮かべている葉月さんに声を掛けられる。嫌な予感がして要件を尋ねると案の定、八神がトイレに行った帰りに会議室へ帰らずそのまま自分の机の下でスカートを脱いだ状態で仮眠を取っていたらしい。

 

 二人して多少なりともアルコールの臭いをさせているので葉月さんは事情を察している様子だったが、第一発見者である涼風君は面白い誤解をしていたよ、と言って去っていった。

 

 本当は自分で訂正しておきたかったが朝から打ち合わせがあるので最低限の汗とアルコールの臭いを消しておきたかったので、八神が誤解を解く事を祈り、汗を流すために会社を後にした。

 

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