短編集 らき☆すた~変わる日常IF、色々な世界~ 作:ガイアード
俺は、空の上にいた。
そして、その場所から、俺の親友が仲間達と幸せに過ごしている様子を見ている。
いつも辛そうな顔をしていたあいつ。
いつも不幸が付き纏っていたあいつ。
これまでもあいつは色々な物を失くしてきた。
けれど、あいつにとって奪われ続ける状況も、あいつの仲間達によって止める事ができたようだった。
俺はそんなあいつらを、微笑みを浮かべながら眺めていた。
俺自身はもう、あいつ等の前にいる事は出来なかったが、それは仕方のない事だった。
けれど、あいつ等は、ずっと俺の事を覚えていてくれる。
その事が分かるだけでも俺は、あいつ等と姿はそこになくとも一緒に居れているのだと思えたのだった。
俺の名前は牧村瞬一。
俺が眺める仲間達の、中心人物の森村慶一のかつての親友だった男だ。
俺は慶一を見ながら俺が、あいつ等の前から消えるまでの事を思い出していた。
俺と慶一が初めて会ったのは小学校5年生の頃だった。
その頃の俺は、父さんに牧村流の技を伝承者として叩き込まれていた。
俺も何とか父さんの期待に応えようと、必死に頑張り、牧村の秘伝の技を習得していった。
更に父さんは俺に、実戦の経験も積ませようと数多くの道場に出向いての出稽古を繰り返していた。
そんな折に、うちの道場と昔からの付き合いだという龍神流道場から、交流試合の申し込みがあった。
そして、うちの道場の師範代と俺と父さんが龍神流の道場へと出向き、向こうの師範代クラスの人間や龍也さん、そして、慶一との交流試合をする事となった。
うちの道場の師範代と、向こうの師範代との戦いは互角だった。
しかし、その中でも、伝承者である龍也さんの強さは群を抜いていた。
俺もまた、その頃にはそんな龍也さんの強さに憧れを持っていたのだが。
そして、龍也さんの試合が終わり、いよいよ俺達2人の試合となった。
そこで俺は、初めて慶一と対峙する事となった。
初めて出会うあいつは、龍神流の技を会得した事に天狗になっているようで、俺の事もなめてかかってきた。
俺は試合前の握手を交わそうと、慶一に手を差し出す。
だが、慶一はそんな俺の手を取ろうとはせず、不敵に笑うと
「よう。お前が牧村流の伝承者なんだろ?伝承者って事は結構やるんだよな?俺は伝承者じゃないけど、それでも龍神流の技を伊達に叩き込まれてきてないぜ?だから、少しは楽しませてくれよな。」
そう言ってきた。
俺はそんな慶一の物言いにむっとしつつも、開始線まで下がる為に後ろを向いて
「わかったよ。せいぜい頑張るさ。」
そう言いつつ開始線まで下がり向き直る。
そんな俺を見る慶一の顔は、とことん相手をなめきったような顔だった。
お互いに静かに構えを取る俺達。
緊張が走る中、龍真さんの合図で試合が始まった。
「始め!!」
その声と同時に慶一が飛び出して来る。
「はあっ!ふっ!!」
正面に突っ込んでくると見せかけて、急に左へと進路を変えて俺の側面を捉えようと動く。
だが、俺にはその動きがよく見えていた為、それを冷静にいなしつつ再び間合いを取る。
「ちっ、やるな・・・ならっ!!」
そこに奇襲失敗で面白くなさそうな顔をしている慶一が、もう一度突っ込んで来る。
今度も正面と見せかけて、どちらか左右へと体を振ろうと動く慶一の動きを読んで、そこに俺はカウンターを合わせた。
「よし!なっ何!?」ドゴッ!!
再び慶一の動きを見切って繰り出した俺のカウンターは、見事に慶一の右頬を捕らえた。
その衝撃でたたらを踏む慶一に俺は、慶一のふらつく方向から蹴りを放つ。
「そらあっ!!」ズドォ!!
俺の蹴りは見事に慶一を捕らえ、慶一は蹴りの威力を逃がせずにそのまま倒れ込む。
「ぐふっ!?」
そして、その一撃で決着がついた。
この結果に俺の父さんは満足し、俺もほっとしていたが、やがて意識を取り戻した慶一は、龍真さんと龍也さんに慢心をたしなめられていた。
そして、涙目の悔しそうな表情を俺に向けると
「今回は勝ちを譲ったけど、今度は負けない!いいか!?牧村!!次に戦う時こそ俺が勝つからな!!」
そこまで言うと、あいつは悔しさのあまりボロボロと泣き始めた。
そんなあいつを見て俺は、試合開始前のあいつのに感じていたむかつきのような感情が消えると同時に、あいつは俺にとっての最大のライバルに成長しそうだな、という思いが浮かび、俺はこれから先を見据えた。
そして、俺はそんなあいつに
「わかったよ。楽しみにしてるぜ?それとな、お前には足りないものがある。それに気付けなきゃいつまで経っても俺には勝てないぜ?まあ、精々それに気付く事だ。再戦は楽しみにしているぜ?」
と、敵に塩を送るようなアドバイスをこの時俺は、何故か送ってしまったのだった。
あいつはそんな俺の言葉の意味を考えているようだった。
同時にこの時、あいつも俺の事をライバルと認めてくれたようだった。
この日を堺に、俺とあいつとの一進一退の戦いが始まった。
それ以降のあいつには、油断と言う文字はすっかりなくなっていた。
あの時の敗戦を素直に受け止め、自分に足りない部分を補い、あいつは俺に追いついてきた。
そして、小学校6年生に上がる頃には10勝10敗という互角の成績にまで追いつかれた。
けど、俺はその頃には自分の武の才能が、父さん達が思っているほどのものではない事に気付き始めてきていた。
今でこそ10勝10敗の引き分けになっているが、俺の才能の伸びに比べ、慶一の才能の伸びが俺以上になっている事、そして、まだまだ限界が見えていない事を感じたからだった。
だが、この頃には俺とあいつは、ただのライバル同士ではなくなっていた。
10勝10敗の引き分けまで持ち込まれた時、俺はあいつを同じ格闘家として認めた。
そして、あいつも俺の事を認めてくれ、そして、俺達はその時から親友となったのだった。
「はあ、はあ・・・な、中々やるな・・・流石は俺のライバルだ・・・。」
「へ、へへへ・・・お前こそな・・・まさかここまで追いつかれるとは思わなかったぜ・・・。」
とお互いに顔を見合わせながら荒い息をつく。
そして、少し落ち着いた頃、慶一が俺に
「牧村・・・いや、瞬一。お前は俺のライバルだけど、それと同時に俺はお前を認めた。だから、って訳じゃないんだが、その、な?俺と友達になってくれないか?俺はこれからもお前と共に高みを目指して行きたい。俺は伝承者じゃないけど、でも、共に進める仲間がいるなら、これからも強くなる事を目指して行きたいんだ。」
そう言ってあいつは、あの時の俺とは逆に手を差し出してきた。
俺はそんなあいつの思いを受け止め、それに応える事にしたのだった。
「瞬、でいいぜ?そのかわり俺もお前を慶一と呼ばせてもらう。この道は茨の道だけど、俺もお前となら進めそうな気がする。俺こそよろしく頼む。」
そう言って俺達はがっしりと握手を交わした。
その日から俺と慶一は唯一無二の親友となった。
それからは俺は、慶一と色々馬鹿をやったり、時には一緒に練習したりとお互いに高めあいながら修行を続けていった。
そんな折、あいつのクラスに転校生がやってきたようだった。
そいつの名前は”篠原しおん”といった。
その子は慶一にとってクラスの友人の中で、女の子としても初めて好きになった子でもあった。
俺との修行や馬鹿をやっている時も慶一は、しおんちゃんの話をよくするようになった。
「でさ、しおんがさー・・・・・・って訳なんだよ。」
そんな惚気に俺は、軽くため息をつきつつもからかっていた。
「そうかそうか。お前はよっぽどしおんちゃんが気に入ってるんだな?好きにでもなったのか?ええ?ほれほれ、言ってみろよ。」
そう言うと、決まってあいつは顔を真っ赤にしながら
「い、いや、俺としおんはそんなんじゃねえよ!勘違いすんな!大体俺は・・・あいつの事なんて・・・。」
そんな風に必死に否定する慶一を見て俺は
「はいはい、ご馳走様ー。」
と言うと、なおもむきになって反論してくる慶一が面白くて仕方なかった。
ある時俺に慶一がしおんちゃんを紹介してくれた事があったが、俺もまた、しおんちゃんは慶一にぴったりの相手かもしれない、と心の中で思ったものだった。
そんな事が何日か続いた、クリスマスも近づいたある冬の日の事、龍神家ではちょっとした事件が起きた。
それは、慶一が偶然にも龍真さんと桜さんの話を聞いてしまった事が、事件の発端となった。
自分が龍神の本当の子供ではない事を知った慶一は、ショックのあまり家を飛び出したというのだ。
その状況に慌てた龍真さんも、うちや他の道場の人らに声をかけて慶一の捜索にあたった。
「瞬、お前も慶一君の捜索に協力してくれ。」
と言う父さんの言葉に俺も頷いて
「わかってる。あいつは俺の親友だ。絶対に探し出して見せるから。」
そう言って俺も、慶一の捜索へと乗り出した。
だが、この時、慶一と一緒にしおんちゃんもその場にいたらしく、しおんちゃんもまた、慶一を探すためにこの寒い冬の雨の中を飛び出していったらしいという話を聞いた。
俺はそれを聞いて更に焦りつつも、あいつの行きそうな場所を探して廻った。
そして、慶一を探してとある公園へと差し掛かった時、何かをひっぱたくような軽い音としおんちゃんの怒鳴り声が聞こえたので、俺はその場に足を止め、声のした方へと聞き耳を立てた。
「・・・・・・しなさい! あんたが今さら『森村』だからってそれがどうしたの!? あなたは『龍神』や『森村』の前に『慶一』なの! 名字が変わったくらいで何よ!! 龍神のおじさんもおばさんも、あんたのこと本当の子供だと思ってるわよ!!!」
と、慶一を叱るしおんちゃんの声を聞いて俺は少し驚いていたが、その後で聞こえた慶一の慌てた声に俺は我に帰ると、俺は公園へと足を踏み入れた。
声のした方へと歩いていく俺の目の前に、倒れたしおんちゃんと、慌ててしおんちゃんを介抱する慶一の姿が見えたので、俺は慶一に声をかけた。
「おーい!2人ともー!!」
その声に気付いた慶一が俺を見て慌てながら
「瞬!早く来てくれ!!しおんが倒れた!俺1人じゃ運べないから手を貸してくれ!!」
そう言う慶一に俺も頷くと
「よし!任せろ!!それはともかく、家に戻ったらちゃんと心配かけた事を謝れよ?それがけじめってもんだ。」
その言葉に慶一はがっくりとうなだれると
「・・・わかってるよ・・・瞬、心配かけてすまん・・・。」
その言葉に俺は気を取り直すと
「とにかく話は後だ。今はしおんちゃんを早く家まで運ぼう。行くぞ?慶一。」
俺の言葉に慶一も力強く頷くと、俺と慶一はしおんちゃんを支えながら家へと戻った。
家についた慶一は、皆に心配をかけた事を龍真さんらに散々怒られていた。
慶一もまた、流石に心配をかけてしまった事には罪悪感を感じていたようで、龍真さんらにも詫びていた。
そんな姿を見て俺もほっとしつつ、自分の家へと戻ったのだった。
その後は慶一はしおんちゃんとデートをして、そして、しおんちゃんに告白もされたという事を俺にこっそりと教えてくれたが、その事をからかうと、またしても顔を真っ赤にしておろおろとしている慶一を見て俺は、ニヤニヤと笑っていたのだった。
だが、そんな慶一の幸せも長くは続かなかった。
その一ヵ月後、俺はショックな事実を聞かされる。
それは、転校していったしおんちゃんが、轢き逃げによる事故で亡くなったという事だった。
俺もショックを受けていたが、それ以上に慶一もショックだったようで、慶一は桜さんに頼み込んでしおんちゃんの葬儀に行って来たらしい。
だが、葬儀から戻って来た慶一に更に不幸が起こっていた。
「慶一、その、なんと言葉をかけていいかわからないけど、大変だったな。お前、しおんちゃんの事好きだったんだもんな・・・。」
そう言葉をかけた俺だったが、慶一から帰ってきた言葉は俺に更にショックを与えるものだった。
「・・・瞬?しおん、って誰だ?俺にそんな知り合いなんていたっけ?」
そう、慶一は言った。
俺はその言葉に驚いた。
しおんちゃんを失うというショックの大きさから、慶一は無意識的にその記憶のみを心の奥底に封じ込めてしまったのだった。
俺は一度は慶一にしおんちゃんの記憶を取り戻させてやろうと思ったのだが、そんな俺に父さんは
「慶一君に起きた事はかなり辛すぎる事だ。それを受け止めるには今の慶一君には無理な事だろう。だから、今のままでいさせてあげなさい。いずれ時が来ればきっと思い出すだろうから、それまでは、そっとしておいてあげる事が今の慶一君の為だ。」
そう言い、俺は当時にはあまり納得が行かなかったものの、父さんの言葉に従い、これ以上はこの時点で慶一にしおんちゃんの事を思い出させる事をやめたのだった。
それでも慶一の中には無意識にだが、しおんちゃんの事が記憶にあるのか、中学に上がってからは一度は収まりかけていた龍真さんらとの確執も再び再燃し、慶一はその2つの狭間で苦悩し、荒れた。
その後、中学2年生の始めの頃までは慶一は、行き場のない感情のぶつけ場所に、不良共とのぶつかりあいで発散する事を選んだ。
その頃には俺は、自分の武道家としての資質の限界を感じていた。
あれからも慶一と共に修行を続けた俺だったが、俺の成長はもはや望めないほどに、慶一との差が出来てしまっていた。
慶一が不良とぶつかってる時も、俺の実力ではもはや普通のやり方では慶一を止めることは出来ないほどになっていた。
それでも、慶一が本当に道を踏み外しそうになる時には、己の全てをかけてでも慶一を止めようと心に決めていた。
その中で2人の男と出会った。
その2人は後に1人は慶一の親友として、もう1人は俺達と完全な敵対関係となる男だった。
その男の名は氷室結城。
後に俺達、龍神連合の一角としてその任をまっとうする男。
その男の名は成神章。
後に俺達と敵対する犯罪組織の一角に入り込み、俺の命を奪う男だ。
俺達はこの時に運命的な出会いを果たし、そして、皮肉にも俺が、この時に自分の利き足を成神に壊される事により、俺は武道家生命を断つ事となった。
そして同時にそれが、慶一が再び立ちなおる為のきっかけとなり一時、俺達は親友関係を断った。
慶一は俺との約束を守り、龍真さんらとの事をしっかりと受け止め、不良どもとも争う事をやめた。
それからは慶一は自分の素行により、自分が学校内で恐れられ、疎まれる事も自業自得と受け止めて中学での残りの時間を過ごしていく。
その最中で、慶一は2つの旋律と出会う事となった。
その時に俺は、慶一に落ち着ける場所があるからと桜の樹の場所を教えていたが、今回もたまたまそこに行った事が、その2つの旋律と出会うきっかけとなったようだった。
そして、慶一は友情の壊れそうになっていた2人の仲を取り持ち、俺以外の2人の親友を作った。
俺はその後、その2人と会う事もあったのだが、その時、その中の1人、永森やまとちゃんと接した時、俺はかなり驚いていてた。
何故なら、やまとちゃんは、かつて慶一が好きになったしおんちゃんと雰囲気や仕草、喋り方、性格もかなりそっくりだったからだった。
その時に、慶一がしおんちゃんの事を思い出したのだろうか?とも思ったのだけど、様子を見てみるとそういう事ではないようで、けれど慶一は、無意識にしおんちゃんに似た子を見つけたのだろうと思った。
それからも色々あり、時には成神の策略にはまり、犯罪者にさせられかけた事もあったが、慶一はそれでもその2人と共に楽しい中学時代を過ごす事ができたようだった。
俺との親友関係はまだ復活していなかったが、俺もまた、その2人とも親密に連絡を取りあったりして慶一の状況を教えてもらっていた事もあり、その後の慶一の状態を聞かされて安心していた。
中学も卒業する頃ともなると、俺は武術が出来なくなった代わりに、父さんが秘密裏にやって来た事を学びたくなった。
表の顔は武術道場をやっている傍ら、牧村家にはもう1つ裏の顔があって、俺は父さんに、裏の顔である情報収集の技術を学びたいと言った。
「瞬。お前は何故それを学びたいと思ったんだ?」
そう聞いてくる父さんに俺は
「俺は足を壊してしまったから武道家としては役には立てない。けど、裏の顔である情報収集の方でなら役に立てるんじゃないか、と思ったんだ。それに、これも後々牧村家や龍神家の為になるんじゃないかと思ったんだよ。俺はこれでも牧村家の長男だからな。たとえ足がだめでも俺のできる事で牧村家の裏側を支える事ができるのならそれでいいと思ったんだよ。」
その言葉に父さんは、しばし目をつぶって考え込んでいたが、やがて目を開くと俺に
「お前の気持はよくわかった。ならば、今からお前に牧村流の情報収集の技術の基礎をお前に叩き込む。それをどう生かしていくかはお前次第だ。とはいえ、私はお前の事は心配はしていないがな。」
そう言う父さんに俺は頷いて
「わかってる。それじゃ父さん、頼むよ。」
その事がきっかけとなり、俺は、牧村流の情報収集技術の基礎を学ぶ事となった。
そして、これは後々、俺達が戦う事となる犯罪組織を追い詰めるのにおおいに役に立った。
それからは俺は、自分の命の火が消えるその時まで、この情報収集技術を駆使し続ける事となった。
その後、俺と慶一はそれぞれに違う高校へと歩む事となる。
高校に入ってからの慶一は、最初の1年間は何事もなく過ごしていたようだった。
だが、2年生になる頃に慶一は、あいつにとってもとても大切な旋律達との出会いを果たす事となる。
そして、その旋律は徐々に数を増し、慶一の生活は一変したようだった。
ある時に慶一が実家に戻って来ている頃、俺は父さんからの伝言を預かり龍神流の道場へと足を運んだ際に俺は、その旋律達と顔を合わせる事となった。
気まずい思いで俺の前から逃げるようにシャワーを浴びに向かう慶一を見送って、俺はその旋律達に慶一の過去を語って聞かせた。
そして、話を聞き終わってからも慶一の事を心配してくれる皆を見て、俺はあいつはいい仲間を見つけたんだな、と思ったのだった。
そして、慶一が再び本宅へと戻る際に俺はこっそりと旋律の1人、こなたちゃんに声をかけたのだった。
「こなたちゃん。ちょっといいかな?」
俺の言葉に足を止めて振り向くこなたちゃんは
「何?牧村君。私に用事?」
そう言って首を傾げる仕草をしたので、俺はそれに頷いて
「ああ。他の皆には内緒にして欲しいんだけど、君にだけは伝えておかなきゃならない大事な事があるんだ。話を聞いてくれるかい?」
俺の言葉にこなたちゃんは頷いて
「いいよ?話してくれる?」
その言葉に俺は頷いて、こなたちゃんに伝えるべき事を話し始める
「実は、慶一の事で君の耳にも入れておきたい事があってね。この事は後に君達にも何らかの影響を与える可能性もあるかもしれない。だから、その為の大事な情報を君にだけに伝えておきたいのさ。実はね・・・・・・と言うわけだ。もしも今回伝えた情報に関して何らかの動きが慶一の周りで起きようとしている時には俺にも連絡をいれて欲しい。そうすれば何かの折に君や慶一の為に力になれるだろうから。」
そう言って、俺は慶一や皆にとって脅威になりそうな成神章の事、慶一の親友となった氷室の事などを伝えた。
こなたちゃんは少し考え込みながらこの情報を整理していたようだったが、やがて顔を上げ俺に
「わかったよ。ありがとう、牧村君。君からもらった情報はちゃんと心の中にとどめておいて、何かあった時には連絡をとらせてもらうからね?その時には協力の方、よろしくね?」
そう言うと俺もその言葉に頷いて
「ああ。任せてくれ。それと、くれぐれも慶一の事を頼む。あいつは今までも結構辛い思いをしてきたからな。今度はこそはあいつには幸せになってもらいたいのさ。」
そう言うと、こなたちゃんも頷いて
「うん。任せてー。私達がいる限りは絶対に慶一君を悲しませないようにするよ。だって、私も・・・私達も慶一君の事は気に入ってるからね。だから、心配ご無用さー。」
そう言って目を細めるこなたちゃんに俺は、苦笑しつつ
「はは。それなら安心だな。ともあれ、この情報はまだまだ不確定な部分が多い。だから、事が動く気配があるまでは君一人がこの情報を管理して欲しい。」
そう伝えると、こなたちゃんはもう一度頷いて
「うん。わかったよ。それじゃ、私そろそろ行くね?色々ありがとう、牧村君。それじゃねー。」
そう言って手を振って、慶一のいる本宅へと向かうこなたちゃんを見送りながら俺は、心の中でほっとしていた。
その後は、慶一は旋律達の力によって自らの過去を受け入れる事ができたようだ、という事を父さんが龍真さんから聞いて来たようで、それを聞いた俺も心底安心していた。
それから秋口にかけて、慶一が氷室と再会する機会があったようで、その時にこなたちゃんから連絡があり、その他の旋律達に俺の伝えた情報を話したのだ、という連絡をもらった。
俺はこなたちゃんに、それを話して皆でどうしようと考えているのか?と尋ねると、こなたちゃんはこの情報を皆で共有するけど、私達自身は知っていても知らないフリをするのだという事だった。
そうする事で慶一に余計な心配をかけないようにするのだと、こなたちゃんは言っていた。
こなたちゃん達の決意を目の当たりにして、俺もそれでいいだろうと思った。
それ以降何もないのであればそれに越した事はないのだ、と考えていた事もある。
だが、そんな慶一達にも旋律崩壊の危機が訪れる事となった。
それは、こなたちゃんからの電話からそれを知る事となったのだった。
こなたちゃんが言うには、慶一に付き纏う女生徒が現れたという事、そして、その女生徒は何故か成神の事を知っていて、そいつとも連絡を取り合えるという事と、それによってこなたちゃん達に危害を及ぼすかも知れない可能性があるという事、だった。
俺はこなたちゃんからの慶一から得た証言を元に、その真相を、手に入れた情報収集技術を駆使して探り出した。
その結果、その女生徒の言う事はただの狂言である、という裏付けを取ることができたのだった。
その結果を伝え、こなたちゃんもまた、事態の収拾に動く。
慶一もまた、氷室にその女生徒の身辺調査を依頼して、情報の裏付けを取ったということを、後になってこなたちゃんから報告された。
その甲斐もあり、旋律達はどうにか崩壊の危機を乗り切ったのだった。
ここでまた1つ慶一の役に立てた事に俺は安堵していた。
それからしばらくの後、慶一からその時の事で俺が協力をしたのだという事をこなたちゃんから聞いたらしく、久々に実家に帰って来た慶一からその事に対する礼と、再び親友に戻りたい、という慶一の言葉を受けて、俺はその言葉を快く受け入れた。
それと同時に、俺達が中学時代によく使っていた喫茶店”レゾン”でのこうちゃんややまとちゃんを交えての親友復活祝いも兼ねた同窓会でもやろう、という事になったのだが、そこに現れたのはなんと更に数を増した旋律達と氷室だった。
俺は、ここでもう1つの慶一の過去話を皆に語って聞かせたが、その時に俺が暴露したこうちゃんとやまとちゃんの恥ずかしい過去に2人は顔を赤くして恥ずかしがり、そんな2人を見て俺や皆も笑ったのだった。
そして、俺はようやく、あの頃から止まっていた時間を動かせる事に大きな喜びを感じていたのだった。
それからしばらくして、父さんや龍真さんが、とある犯罪組織の事について話しているのを見かけた。
その犯罪組織と戦うためには、俺の情報収集の能力も必要だから協力して欲しいと、父さんからその日の晩に告げられた。
俺は、それが慶一の為にもなるかもしれないと思うのと同時に、妙な胸騒ぎのようなものを感じていたが、俺はその戦いに協力する事を決意し、父さんにその任を受ける事を伝えた。
その後、武者修行の旅に出ていた慶一の義兄である龍也さんを龍真さんが呼び戻し、俺達はその犯罪組織との戦いを始めるのだった。
色々と調べていくうちに徐々に明らかになっていく組織の全貌。
そして、それに応じて少しずつやつらの戦力を削る龍也さん達と共に、ようやく組織に近づく為の足がかりを得た。
氷室と龍也さんの計略により、組織の末端を束ねる男の確保に成功し、組織の名前等の情報を得る事ができたのだった。
その後、更に深い所の情報を得る為に俺は更に奔走する事になるのだが、やつらはついにこの俺の情報収集能力に脅威を持つようになった。
そして、この時の俺は、やつらが俺を消そうと動き出している事を知らなかった。
俺はその日の晩、いつものように夜食を買いに行く為にいつも肌身はなさず持ち歩く連中のデータを記録してあるノートパソコンを手に、コンビニへと出かけた。
コンビニで夜食を買い込み、俺は店の外へと出る。
そして、月のない夜空を見上げながら、ぼんやりと考え事をしながら歩いていた。
(ふう・・・やつらも中々尻尾を出さないな・・・。これは気を引き締めていかないと長期戦になるかもしれないな・・・何とか早いうちに解決して慶一や皆とまた遊びたいもんだな・・・。)
そう考えながら歩く俺の背後に、俺の姿を捉える車の運転手が俺を見据えている事に気付かなかった。
そして、ついに悲劇が起こる。
突如俺の背後から凄い勢いで車が突っ込んできた。
ライトもつけず、こちらに認識させないように俺へと突っ込む車。
俺はそれに気付き、何とか避けようと体を動かそうとした、だが・・・・・・。
(くっ!何だ!?避けないと・・・あ・・・・ちくしょう・・・そうだったな・・・慶一・・・皆・・・すまない・・・。)
中学時代に負っていた俺の怪我は、俺を車から遠ざける事も叶わず、俺の体を無常にも跳ね上げる。
そして、俺は持っていたノートパソコンごと跳ね飛ばされ地面に転がる。
車の運転手は覆面をしていて、その姿は朦朧とした意識でははっきりと見る事は出来なかった。
やがて、運転手は俺の手から離れたノートパソコンを破壊しつくすと、慌ててその車に乗って逃走した。
俺は飛びそうになる意識を必死につないで、データのバックアップをとっておいたメモリスティックの無事を確かめる。
それらが無事である事を確認した俺は、安堵感からその場で意識を失った。
その後、事故に気付いた近くの住民が救急車を呼んでくれたらしく、俺は最寄の病院へと搬送される事となった。
俺はそこで、龍也さんや氷室達に持っていたメモリースティックを手渡し、慶一への伝言を伝えた。
そして、それが俺の最後となったのだった。
俺は、俺の死を知って駆けつけた慶一達の泣く姿を、自分の肉体の傍らに立って見守っていた。
泣いている皆や慶一に何度も何度も謝罪の言葉をかけ続けた。
それが聞こえるはずもない事は分かっていたけれど、言わずにはいられなかった。
あいつを不幸にしたくなくて俺は、絶対にあいつの前から消えないと誓ったはずなのに、その誓いを破ってしまった。
あいつに失ってばかりの人生に終止符をつけてやりたかった。
でも、俺はその誓いを破ってしまった。
あいつを、皆を悲しませた事が俺にとって、死んでなおもっとも辛い思いとなった。
それからの数日を俺は、慶一の側でずっと見守った。
酷く落ち込む慶一に、何もしてやれない自分に腹立たしささえ感じながら、でも、旋律のみんなはそんな慶一に俺の代わりに力をくれた。
その様子を見ながら俺は、慶一に今度こそこの旋律達だけは失って欲しくないと強く思っていた。
後を龍也さん達に託しながら、俺は心から事件の解決と慶一達に幸せを祈った。
俺の仏前で事件の真相を報告してくれる慶一と向き合い、俺は慶一が立ち直れた事に安堵する。
と同時に、俺と同様に消された成神と向こうで会い、慶一の言葉どおりボコボコにしてやった。
そして、今俺は、旋律達と楽しく勉強会をやっている慶一達の姿を空から見下ろしている。
そこでついに慶一は、しおんちゃんの事を思い出したようで、その事を皆に打ち明ける慶一を見て心配もしていたが、慶一はその過去と罪も受け入れる覚悟のようだった。
俺の生きた17年の歳月は短かったかもしれない。
だが、波乱に満ち、そして、愛すべき友人達と共に過ごしてきた日々はとても幸せだったと感じられる。
そして、そんな幸せのきっかけをくれた慶一を、これからも見守って行きたい。
慶一とあの仏間で約束した、いつか向こうで会おうという約束を胸に、俺はこれからも見守っていこう。
慶一の幸せと、皆の笑顔と、旋律達の調べの全てを。