「駄目っす!」
今日のお菓子はチョコレートケーキだった。
シュガースポット的には、自信作と並べたもので、
ぜひとも味わってほしかったのだが、
獅子神破沙羅がそれを口にしようとした瞬間、
せれなが立ち上がってそれを食い止めた。
「グルルルルル」
制止がかかった瞬間、お預けされた獣のように、
獅子神破沙羅はうなり続けた。
せれなは、そんな彼女の眼前から、チョコレートケーキを
さっと奪ってしまう。
「ばさらんは、これ、食べちゃ駄目っす!」
勿論、納得行かないのが
がおがおと吠えて、尻尾をブンブン振るわせ、
牙をむき出しにして抗議している。
「あのー、何でまた?」
せれなは、別に、横暴な娘ではない。
こうやってお茶会に並んだお菓子を、独り占めしたい、という
人間ではないのだ――多分。シュガースポットの気分にもよるが、
食べさせてあげようと思えば、いくらでも作れるわけだし。
「やだ、たべたい。ばさらもたべたい!」
「駄目駄目駄目ーっす! 他のお菓子はいいっす!
でもチョコだけは駄目駄目ーっす!」
「ええと、じゃあ、アップルパイでもつくりましょうか?」
「それでお願いするっす! これは私が適切に処理するっす!」
せれながチョコケーキを食べた。
その瞬間、獅子神破沙羅は飛びかかった。
「ばうばうばうばうばう!」「ぎゃーーーーー!!!」
☆
「ウー、だって、しかたねーじゃねーですか、ねえ?」
その日の夜、レナが家に戻ると、愛犬のサラが、人のベッドの上で、
気持ちよさそうにふがふがと鼻を鳴らして眠っていた。
満足げに腹を膨らませて、ダラリと舌がはみ出している。
「……犬にはチョコ駄目なんスよね、魔法少女だったら、どうなるんでしょ」
多分大丈夫だとは思うのだ、なにせ「せれな」の時にどか食いしても、
山吹レナの体重は増えたりしない。
そもそも新陳代謝の度合いも違うし……諸々を考えると、
魔法少女の時に摂取した食物は、本体に影響を与えないと思う。
……でも、犬だし、何があるかわからないし。
ベッドの横に腰掛けると、サラの頭を軽く撫でた。
ふが、と鼻を鳴らしたが、またすぐに心地よさそうに、
口をもちゃもちゃさせるだけだった。
最近は、こうして殆ど寝ているだけだ。
恐らくもう永くはないのだろう。かなりの老犬だ。明日逝ってもおかしくない。
それでも、サラは幸せそうだ。毎日美味しいお菓子を食べて。
魔法少女になってまで、レナのそばで、【姉】として、守ってくれている。
そりゃあ最初は驚いたが、生まれたときから過ごしている家族なのだ。
尻尾の動かし方も、警戒の仕方も、興味の向いたものに対する仕草も、
まるっきり同じなのだ、気づかない訳がない。
だけど、サラは自分から、レナに己のことを告げなかった。
だから、レナも知らないままでいようと思う。
「いけない、いけない」
【妹】として、飼い主として、家族として。
お疲れ様、大丈夫だよ、今までありがとう、と。
笑って見送ってあげなくてはならない……その日は近い。
そう思っているのに、その少し先の未来を想像すると、どうしても涙がにじむ。
「ふが」
人の気も知らず、サラはもう一度幸せそうに、ぺろりと舌なめずりをした。
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