魔法少女育成計画 -Fratricide SideⅡ-   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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*** 第七章 「争う理由がないのなら」 ***

☆アイムマイム

 

 夢を見ていた。二年以上も前の事になる。

 

           ◆    ◆

 

「好きな人が出来たぁ!?」

 

 恋愛相談、なんてものを誰かにすることになるなんて、当時の相間好夢《あいまいむ》は考えてもみなかった。

 

「――な、なんでその相談を、私に?」

 

 三つ子の真ん中、相間衣美(あいまいみ)は、ぎくしゃくとぎこちない動きで固まっていた。

 

「だ、だって衣美は彼氏いるし……」

「い、いや、居るは居るけど、そんな真剣に付き合ってるわけじゃないし」

「え、遊びなの?」

「それは表現が悪いっ! い、いや、流れに沿ってっていうかさぁ……」

 

 抗議を受け流しつつ、好夢は腰を据えて衣美と向き合った。

 

「厳密に言うと、二人一緒に相談したくない……ステレオでからかわれるから」

「え……意真ちゃんが帰ってきたら私どれだけ口止めされたとしても百%話すよ? 結局変わんないよ?」

「そうなんだけど……」

 

 目を伏せて、好夢はそれを言うしかなかった。

 

「こういうのは、衣美と意真以外にしたくない……」

「………………」

「…………衣美?」

「……はぁ~可愛すぎか? え? 可愛すぎかよっ! 好夢ちゃんは私をどうしたいの!」

「相談したいんだけど……」

「そうだった!」

 

 むむむむ、と唸りながら、衣美は顎に手を当てて首をひねる。

 

「それで、いつから? 誰? どんな人?」

「に、二年生の……」

「へ、後輩? でも、好夢ちゃん別に部活とかやってないじゃない」

「文化祭の実行委員で一緒になったの」

「ああー、そういうパターンもあるかぁ、なるほどなあ」

 

 衣美は物知り顔でうんうんと頷いて、ベッドの縁で座り込んでいた好夢の頭を撫でた。

 

「わ……」

「私はねー、告白された側だから、こう、誰かを超好き! って気持ちは正直わかんないのよ。だから好夢ちゃんは衝動のままに行けばいいと思う」

「衝動のままにって」

「まあまあ、好夢ちゃんが好きになった人なら、きっと間違いはないと思うケド」

「…………………………」

「……何その顔」

「い、いや、どうかなあって思って……」

「邪悪な人なの?」

「邪悪ではないけどっ!」

「とにかくっ! 付き合えたらちゃんと紹介してよね? それは約束」

「う、うん」

「人んちの好夢に手を出したらどうなるかを骨の髄まで叩き込んであげるから」

「やっぱ紹介したくない!」

「お、もう付き合えたつもりでいるのかあ? さっすが!」

「そういう意味じゃなくて!」

 

 ………………。

 

「結局付き合うことになったんだ、おめでとう」

 

 衣美が買い物に出かけていて、意真と二人で夕食を作っている日の事だった。

 その時、意真はカレーの材料を切っていて、好夢はお米をざしゅざしゅといでいた。

「……あ、ありがとう」

「好夢ちゃんがああいうタイプの子が好きだなんて、知らなかったなー、私」

「だ、誰だか知ってるの!?」

「学園祭の実行委員で、好夢ちゃんにベタベタしてた二年生でしょ? バレバレ」

「あああああ……変なことしてないよね!? 不必要なプレッシャー与えてないよね!?」

「普段私の事を好夢ちゃんがどう見てるのかよーくわかった。変なことしちゃおうかしら」

「ごめんお願いやめてそれだけは」

「ガチの顔しないでよ……凹むから」

 

 喋りながらも、トントントン、と包丁を動かす手は止まらない。

 

「まあねー、私は好夢ちゃんが誰と付き合おうと……ううん、誰とねんごろになろうと構いやしないけれど」

「なんで言い直したの」

「やっぱりちょっとさみしいわけよ、二人とも、恋人とデートしてきまーす、なんてなったら休日暇になっちゃうし」

 

 一卵性とはいえ、一心同体とはいえ、流石に意真が衣美のデートに割り込むわけにも行かない。まして一心同体ではない(、、、、)好夢のにはなおさらだ。

 

「私も彼氏作ろうかなー、ねえ、好夢ちゃんお友達紹介してよ」

「嫌だよ……何で歩く地雷原みたいなのをわざわざ」

 

 げしっと軽く蹴られた。

 

「あいた」

「こうしてちょっとずつ、私達って分かれていくのかしらねー。恋人ができると変わっちゃうものなのかしらねー」

「どういうことかはわかんないけど……」

 

 横目でちらりと、意真を見た。近くにいるのに、どこか遠くを見ていているような、そんな顔で。

 

「それでも、私たちは三つ子だし」

「ん?」

「恋人は別れることはあるけど、家族であることは、やめられないからさ」

「……それ愛の告白?」

「……違うよ」

「じゃあ、慰めてくれたわけだ」

 

 ふふ、と微笑んでから、包丁を置くと、意真は背伸びをして、好夢の頭をこつんと叩いた。

 

「生意気。でも、ありがと」

 

           ◆    ◆

 

 家族なんかじゃなかった(、、、、、、、、、、、)

 全部、好夢の勘違いだった。最初から間違いだった。根本から終わっていた。

 全ての思い出が、信じていた記憶が、培ってきた信頼が、全てが嘘だった。

 記憶の中のどれが衣美でどれが意真だったのか。

 いや――――意真と衣美のふりをしている誰か(、、、、、、、、、、、、、、、)だったのか。

 魔法少女になって、同じになれたと思った。

 食い違っていた三つ子が、ちゃんとした形になったと思った。

 

 三人で人助けをして、誇らしいと思った。

 二人を見捨てて、逃げ出したことを、後悔した。

 命をかけても助けなくては、と勇気を奮った。

 それもこれも、何もかも、好夢の独りよがりだった――好夢はどうあがいても、二人と同じになることなんてできなかったのだ。

 

 二人で二人が、一人で二人。

 だから、何も変わらない。

 

 そんな結論に、誰がついていけるだろう、その演技と嘘をずっとずっと、一緒に暮らしていた家族にも悟らせない様に続けていたそれ(、、)を、何と呼べばいいんだろう。

 好夢にはわかる。好夢が拒絶した衣美と意真(ライムマイン)は、心の底から好夢を心配していた。

 大事に思っていて、信用していて、守ろうと思っている。

 否定されたことを悲しんでいて、傷つけ合うのを拒んでいる。

 

 ――だって私達、家族じゃない。

 

 好夢に向けて。ライムマインを殺そうとしたアイムマイムに向かって、言ったのだ。

 それが本音だからこそ――――受け入れられない(、、、、、、、、)

 

 そんな事を――三つ子の一欠片を、殺して、存在ごと、無かったことにした上で言えてしまう、もうそんな存在を、なんて呼んだらよいのか、相間好夢にはわからないのだ。

 相間衣美であり、相間意真であり、ライムマインであり、タイムラインではない誰か。

 姉のはずだ。でも、どっちの姉だかわからない。あるいは、どっちでもある彼女。 

 『あれ』がいる場所に――もう、相間好夢は帰れない。

 

            ◆    ◆

 

魔法少女、アイムマイムに変身したまま、街を彷徨った。

人目は避けたが、目につく事自体を積極的に止めようとはしなかった。どうせもう、何もどうにもならないのだという無力感のほうが遥かに強い。

 昨日まで、昨日まで全部揃っていたのに、あっという間に何もかもがなくなってしまった。

 

「どう、すれば……」

 

 無意識に、言葉が溢れる。

 

「どうすれば、いいんだろう……」

 

 昨晩現れた、あの魔法少女達と戦う?

 そんなことをしても、どうにもならない。アイムマイムが戦おうとしたのは、タイムラインとライムマインを守るためだ。

 守るべき二人はもう居ないのに、何と戦え、というのだ。

 

「――ユミコ、エル、さん」

 

 自分たちの教官役として、アイムマイムを守ってくれたユミコエルを頼って――どうすればよいのだろう。ライムマインがタイムラインを殺したと知ったら、魔法の国の何らかのルールで裁かれるのだろうか。あるいは危険だから殺されてしまうのだろうか。

 

「――――っ」

 

 それも出来ない。それも怖い。

 ライムマインが死んでしまえば、衣美と意真(、、、、、)は今度こそ完全に居なくなる。

 

「う、ううう……」

 

 認めることも、受け入れることも出来ないのに――失うことがこんなにも怖い。

 

「ファムッ!」

 

 魔法の端末をこじ開けて、叩くように画面を押す。いつでも呼べばでてきたはずの、マスコットの返事はない。

 

「やめさせて! 魔法少女をやめさせてよ! もうこんなの嫌だ! 魔法少女をやめたら、記憶も全部無くなるんでしょ!? 忘れさせてよ! 無かったことにしてよ! 知りたくなかったんだよ! なんとか言ってよ! ねえ! 人を魔法少女にしておいて! お前が、私達を、魔法少女にしなければ!」

 

 地面に、端末を叩きつける。軽くて脆そうな機械じかけのそれは、驚くほど頑丈で、魔法少女の膂力でもっても、傷一つつかなかった。

 

「しなければ…………タイムは、死ななくて、すんだのに……知らなくて、すんだのに……」

 

 意真と衣美が入れ替わり続けていたとしても、好夢が知らなければ。

 騙されたままでいられたら、どれほど良かっただろうか。

 

『くるっぽー』

「え……」

 

 ふわり、と空から羽が降ってきた。次いで、パタパタと一羽の鳩が舞い降りる。

 

「君、は、確か……」

 

 魔法少女4989の使役する、白い鳩だった。足に、細長いつつがくくってある。

 

「……あの人、から?」

 

 鳩は肯定するようにもう一度羽ばたくと、アイムマイムの肩に、ちょこん、と停まった。

 

 

 

☆プリマステラ

 

 木の実は結局、部屋から出てこなかった。単独なら無敵とは言え、命のやり取りを続けた後なのだから、精神が疲弊するのもよく分かる、ということで、光は別段、彼女に戦ってほしいとか協力して欲しい、とか言うつもりはなかった。

 

「光―、ちょっと来てー、光―、ぴっかー、ひっかりーん、ひかひかー、りんりーん」

「うっさいわね! 何よいきなり」

 

 食事を終えて、ユミコエルとの合流時間まで、自分も仮眠でもしようと思っていた矢先、馬鹿が騒ぎ出したので、頭を掻きながらそちらに向かうハメになる。

 

「近所迷惑だから騒がな――――鳩?」

 

 窓の向こう側に、真っ白な鳩が一羽、停まっていた。

 

「……あれは、4989さんの……」

 

 見覚えのある鳩だった。同時に、鳩がこの場に居る意味を考える。

 もし4989が敵だったならば、自分たちの居住と、さらにはその正体が割れた事になる。極めて危険な事態だ。

 

 だが、それならばこの鳩を始末しても遅い、4989は飛ばした鳩と情報の同期ができるのだから、いつでもどこでも、しかも本人がこの場に居なくても関係なく攻めて来れることになる。

 

 だとすれば今すぐ逃げ出すべきなのだが、鳩はコツコツ、と窓を嘴で叩き続けていた。開けろ、と言いたげだ。

 

「この鳩食べられるかな」

「やめろ蛮族」

 

 もし攻撃してくるのならば、昨晩のように無数の鳩でなければ意味がない。一羽だけなら良い的でしか無い……と結論つけて、光は窓を開けた。同時に念のため、魔法少女へと変身する。

 

 光がプリマステラに変身したのを見て、理香子もまた烈風のリカへと変身していた、この手の対応はお手の物だ。同時に魔法の端末で、ピスタールに変身して警戒しておけ、とだけメッセージを送り、鳩の様子を見る。

 

『くるっぽ、くるっぽ』

 

 鳩は首を揺らしながら家の中に入ると、そのまま翼を広げ。

 

「ひゃっ」

 

 プリマステラの肩に飛び乗ってきた。反射的に蹴落とす所だったが、こらえた。

 

「あー、いいな私ものせたい次私!」

「遊んでるんじゃないですのよ! ……これは、手紙かしら?」

 

 鳩は片足をひょいと差し出す。その先端には小さな筒が紐でくくられている。烈風のリカがそれを摘んでフタを開けると、中から小さな紙片が出てきた。

 

「んん? えーっと、これなんて読むの?」

「はいはい読みますわ読みますわ」

 

 サイズがサイズだけに折り紙の四分の一よりさらに小さい、それにはこう書かれていた。プリマステラはそれを一文字一文字読み上げる。

 

『わるいまほうしょうじょとたたかうつもりがあれば、はとをおえ 4989』

 

「よし、行こう!」

 

 迷わず窓から飛び出ようとした烈風のリカの後頭部に鋭いチョップをぶちかまし悶絶させると、プリマステラは肩の鳩の首を撫でた。

 

「あなたが案内してくれますの?」

 

 鳩はくるっぽ、と応じるように鳴いた。

 

「……なんで今私しばかれたの?」

「何で鳩を追えって言われてるのに鳩より先に出ようとするんですの」

「あ、そうか」

「ほんっとうにこの子は……鳩さん、私達のナカマにも連絡を取りますから、少し待ってもらえます?」

 

 これにも、鳩は鳴き声で応じた。意思の疎通が取れると見て間違いないだろう。

 

「あー、昨日言ってた魔法少女の魔法かあ。いいなー、鳩かー」

「食べられませんわよ」

「流石に食べようとは思ってないケド! んで、先生に連絡?」

「ですわね。ピスタールには家の番をしててもらったほうがいいかもしれませんわ、一緒に居たら戦いづらいでしょうし……」

 

 んんー、と、腕を組みながら、烈風のリカはうめいた。

 

「ピスタールがやりたくないってんなら、無理強いはしないけどさー」

「この世界で最も貴女に無理強いされ続けた女の子があの子だと思いますけど」

「それは遊びの範疇じゃん!」

「同級生の悪ガキに報復するために木刀持って他のクラスに殴り込んで窓ガラス割りまくりながら自転車漕いで回るのは遊びの範疇じゃありませんの!」

「あれは正当な復讐じゃん! 男子が悪い!」

「手段を問えと言ってますのよ、言っておきますけど、常にですからね」

「へーいへーい」

 

 絶対に人の話を聞いていないときの返事だったので、プリマステラはもう一発手刀を放った。その攻撃を素直にくらった辺り、今は変に反撃とかして時間を使わないほうが良いということぐらいは理解しているらしい。

 

 魔法の端末を立ち上げて、ユミコエルにメッセージを送る。一応ファムに繋ごうとしてみたが、案の定反応はなかった。

 

「さすが先生、返信もはやい……リカ、先に行ってていいそうですわ」

「お、了解、それじゃあ鳩クン、案内よろしくね!」

 

 くるっぽ、と鳩が応じて、プリマステラの肩から、窓の外へと飛び出していった。

 

「おお、早い早い、空を飛べるっていいなあ」

「ちょっと、玄関から出なさいな!」

 

 烈風のリカが、今度こそそれを追いかけて窓から飛び出す。プリマステラも(あくまで玄関から)後に続き、扉を締める前に、家の中に向けて声を張り上げた。

 

「ピスタール、行ってきますわ! 有事の際はよろしくお願いしますの!」

 

 反応はなかったが、聞こえてはいるだろう。

 

「……大丈夫だと良いのですけど」

 

 一度思い込むと、なかなか難しい娘なのは、よく知っている。

 プリマステラにできるのは、不安の種である『魔法少女殺し』を何とかするぐらいのことだろう。

 

 

 

☆4989

 

 郊外に並び立つビルの殆どは老朽化しきっており、立入禁止の看板が添えてある。

町の住人は都市部から遠くて不便な範囲にあるそれらを、一度壊して建て直すより、新しく出来た駅の周りを充実させることを望んだ。地方都市の宿命として、インフラ整備が後回しにされるのはよくある話だ。駅周辺の道路や橋の細かい補修を行うほうが余程大事であり、人の住み着かなくなったゴーストタウンにかける金など無いという意味でもある。

 

「まあ、人が来なくて良いけどね……」

 

 何もなさすぎて、あるいは誰かが居たとしても範囲が広いゆえに被らないのかもしれない。

 何にせよそういう立地は、魔法少女のような連中がひそひそ話すのに都合が良い。

 埃っぽくジメジメしていて、薄暗い事を除けば、だが。

 そんなふうに思っていると、ぱたぱたと鳩が帰ってくる音を耳で聞いて、4989はカビた部屋の端、唯一の出入り口に目を向けた。

 

「お待たせしましたわ、と。昨晩ぶりで――――どうなさいましたの!?」

 

 一番最初に、廃ビルにたどり着いたのはプリマステラだった。それと同時に、4989の右腕がなく、血まみれの包帯が巻かれているのに気づき、焦り駆け寄ってくる。

 

「心配は無用……とは言わないけど、気にしないで。応急処置はしてあるから」

「気にするな、と言われましても……あ、こら」

「こんにちはーっ! 一人の暴風、烈風のリカ、よろしく! うっわ、痛そーそれ、大丈夫?」

 

 とりあえず状況を確認し終えるまでは出てくるなと言ってあったはずのリカが、あっさりと顔を出して挨拶した。4989はあっけにとられて、ぽかんとするばかりだ。

 

「……お友達?」

「家族みたいなものですわ……ごめんなさい、この子本当に馬鹿で……」

「なーによー、いいじゃないのよー」

「別に良し悪しの話はしてませんわ。それより――」

「失礼します、こっちでいいですか?」

 

 かつん、と足音と共に、もう一羽、鳩が飛び込んできた。

 4989とプリマステラ、烈風のリカ、三人の視線が一箇所に集まる。

 

「――そんなに見つめられると、その、困りますね」

 

 エプロンドレスにコックの長帽子、随所にあしらわれたフリル、金属製のボウルと泡立て器をそれぞれ片手に持っている魔法少女。

 

「お招きに預かり、ありがとうございます、現実と絶望の魔法少女、シュガースポットと申します。この度は……って、丁寧に挨拶しても仕方ありませんか」

「ええ、どうせこんな場所だし。来てくれてありがとう、シュガースポット」

 

 4989が言うと、シュガースポットは肩を竦め。

 

「個人的に思うことが無いわけではないのと……他の魔法少女と、現状の情報共有がしたいんです」

「それでも構わないよ、私だって似たような理由で人を集めたんだし」

 

 プリマステラも、スカートの裾を摘んで一礼する。お姫様モチーフだけあって、なかなか様になっている。

 

「シュガースポットさん、同じ街で活動する魔法少女同士、お噂はかねがね。プリマステラと申しますわ。4989さんのお知り合いでしたの?」

 

 プリマステラが尋ねると、4989は首を横に振り。

 

「昨日、あの場所で他の魔法少女たちと戦ってたのよ、この街の正規の魔法少女って聞いてたから、呼んでみたの」

「へー、あとは先生で全員?」

 

 烈風のリカが、集まった魔法少女を指折り数えながら言う。4989は首を振った。

 

「あと一人、その子は、戦力としては当てに出来ないけど――」

 

 いいかけたところで、再度、鳩が飛び込んできた。

 

「……もうすぐ来るわ」

 

 次いで、扉が開く。眼鏡にマントの魔法少女、そして、角の生えた三角帽子に、手鏡を首からぶら下げた魔法少女。

 

「ごめん、遅れた。ユミコエルとアイムマイム、到着だよ」

 

 

 

☆ユミコエル

 

 プリマステラの居場所は、いざという時のために持たせてあるGPSでわかるようになっている。連絡を受けて向かうと、ビルの前でウロウロしているアイムマイムを発見した。

 

「……アイムマイム?」

「ひゃああああっ!?」

 

 飛び上がって、逃げ出す少女の背中をぐいっとつかむ。その際、ぐえっという少女が上げてはいけない悲鳴が聞こえたが、これは無視する。

 

「無事だったなら連絡してよ――――何度魔法の端末に通信を送ったと思ってるの?」

「けふっ、ご、ごめんなさい……」

「他の二人は? ライムマインと、タイムライン」

 

 その問いかけに、アイムマイムはビクン、と震えた。あからさまに狼狽し、目線がさまよい、動揺が目に見えて明らかになる。

 

「ラ、ライムは、タイムは――――」

「……分かった、中で話そう」

 

 こうして、少し遅れて、4989,プリマステラ、烈風のリカ、シュガースポット、アイムマイム、ユミコエル、六人の魔法少女が一堂に会する事となった。

 

 

              ◆    ◆

 

 

「まあ、お茶請けもないのも寂しいですから」

 

 と、開幕一番にそう言ったシュガースポットが用意したのは、黄金色に輝くレモンパイだった。

 

 コスチュームのポケットから、慣れた手つきで真っ白な平たいお皿とフォークを人数分取り出し、ボウルの中をかしゃかしゃと泡立て器で回して、ひっくり返すと、そこにはお菓子が載っていた。大喜びだったのが烈風のリカで、一口かじった瞬間「ンまぁああああああいっ!」と叫んだのでプリマステラとユミコエルの二人から同時に後頭部を殴られた。

 

「私のコスチューム、お皿と食器は無限に取り出せるんですけど、ティーセットは無理なもので、お紅茶は勘弁してくださいね」

「とんでもない……こんな美味しいレモンパイ、初めて食べましたわ。行きつけのお店よりずっと」

 

 一口で大きく食べるのがもったいなくて、ついついちまちまと、鳥の餌のように崩してしまうプリマステラと対照的に、リカは三口できれいに平らげ。

 

「おかわりっ!」

「遠慮をしなさい」

「ええー、いいじゃん、魔法で無尽蔵なんでしょー! こんな美味しいの一個で満足できるのかねプリマステラちゃんよ!」

「太りますわよ貴女」

「魔法少女は太らないもーん」

「プリマステラ、リカ、私たちはお茶をしに来たワケじゃないよ」

 

 ユミコエルが横目でにらみながら言うと、二人はぴしっと背筋を伸ばして『すいません』と声を揃えた。

 

「シュガースポットのお菓子は、確かに美味しいけどね……」

「ユミコエルさんと会うのも、大分久しぶりですよね、最後に会ったのは半年以上前ですか?」

「うん、正直、この味が恋しかった」

「ええええ先生前から知ってたの! ずっるいなんで紹介してくれなかっぎゃふんっ!」

 

 プリマステラが鮮やかにかかと落としをキメて、烈風のリカはしばし沈黙した。

 シュガースポットは苦笑しながら、「またあとでいくらでも」と呟いた。

 

「――私は、『魔法少女殺し』を探してる」

 

 やがて、沈黙した場の空気を見計らって、4989はそう切り出した。

 

「私は、そいつに大事な先輩を殺された――――心当たりがあったら教えてほしい、あいつは、私が殺す」

 

 その声と、ギラギラとした瞳から、4989の本気が、ひしひしと伝わってくる。

 

「って言ってもなー」

 

 張り詰めた緊張感など一切気にせず(多分空気なんざ読めていないのだろう)、リカが応じる。

 

「私達が会ったのって、結局人魚と幽霊とバニーじゃん? あいつら、魔法少女殺しじゃないんでしょ? プリマステラ」

「ええ、『魔法少女殺しに仲間を殺された』と言っていましたわ」

「そいつらは、メモリアキッス一味よ。水を操る魔法少女、人魚ローレリアと、透明になる魔法少女、イフレイン」

 

 苦々しげに口元を歪めて、吐き捨てるように続ける。

 

「あいつらの口車に乗せられて……私も昨日までは協力してたわ。右腕をふっとばされる前まではね」

「私に鳩をけしかけたのはそれでですの」

「ごめん……って言って済む問題じゃないけど」

「いいですわよ、状況が状況ですし、私死んでないですし。今は味方だと思えば心強いですもの」

「……ありがとう。私は、あいつらに、先輩……ブライダルーンっていう魔法少女の仇を、一緒に討とうって言われたのよ。私達にとっても友人だったからって。でも、そんなの大嘘だった! あいつらは……ただの殺人鬼だ……っ」

 

 失った右腕を抱きしめるようにして、その部位が痛むかのように歯を食いしばる。

 

「あれ、ブライダルーンってあれだよね、魔法で貴金属とか宝石売りまくって荒稼ぎしてたっていう」

 

 烈風のリカが以前ざっくりファムから聞いた情報をぽろりとこぼした瞬間、4989の形相が鬼のものに変わる。

 

「ごめんなさいこの子空気を読むってことを何一つわかってなくてリカ黙ってなさいあなたちょっとホントに!」

「えー、そこなあなあにしてたら話進まないじゃん。別にブライダルーンが悪いことしてたからって仇討ちチャレンジしちゃいけないわけじゃないんだしさあ」

「……リカの言うことも、最もだよ、プリマステラ」

 

ユミコエルは、退屈そうに空っぽのお皿を、フォークでつついている烈風のリカを見る。

「『魔法少女殺し』にどんな動機があって、ブライダルーンがどれだけ悪いことをしていたとしても、殺人を犯していい理由にはならない。勿論、私達も――『魔法処女殺し』を殺していい理由にはならない」

 

 それは奇しくも、ファムがシュガースポット達に語ったのと同じ価値観だった。

 だが、それはこの場においては一人の魔法少女の逆鱗を撫でただけだ。

 

「――だから?」

 

 4989がユミコエルを睨みつける、同時に、くるっぽー、と鳩の鳴く声が室内に響いた。

 くるっぽー、くるっぽー、くるっぽー、くるっぽー、くるっぽー、くるっぽー。

 瓦礫の隙間や、古ぼけた机の引き出しの中、様々な場所から、無数の鳩たちが顔を出した。その全てが4989の眷属であり、手足だ。

 

「殺すなって? それとも、見逃せって?」

「ひ……っ」

 

 一気に張りつめた空気に、アイムマイムがか細い悲鳴を上げた。タイミングを間違えたか、とユミコエルは心中で舌打ちをして――

 

「私、『魔法少女殺し』の正体を知っています」

 

 その均衡を、シュガースポットが崩した。全員の視線が、一斉に彼女へと向く。

 

「私達は、ファムから『魔法少女殺し』の生け捕り――どうしようもない場合は殺害することでこれ以上の被害を防ぐように、と依頼されました。ユミコエルさんは新人の教育があるから、という事で。ええ――結果だけ言うならば、私は友人二人を喪いまして。敵討ち上等、と思っていたところなんですよ、4989さん」

 

 ニコリと微笑む。ユミコエルが口を挟もうとしたが、まるでそれに割り込むのを狙っていたかのように、

 

「立場は対等です。私もあなたもかけがえない友人を喪っている。私は必ずこの手で仕留めたい、とまでは言いませんが、かと言って自分が関われないのもゴメンです」

「……つまり?」

「協力しましょう。『魔法少女殺し』との戦いに関して、私たちはすべての、あらゆる権利を平等にしましょう。それを飲んでくれるのであれば、『魔法少女殺し』の正体を教えます」

「――――」

 

 数秒間、吟味するように口を閉ざし、そして。

 

「……わかった、早い者勝ちってことにしましょう」

 

4989が言い、鳩達の殺気が収まった。

 

「待って、『魔法少女殺し』を殺すのは――――」

 

 場の空気が、危険な方向に動こうとしている――そう感じたユミコエルが、再度口を挟もうとした。

 

 

「私だぁーっ!」

 

 

 馬鹿が遮った。

 

「黙ってなさい!」「黙っててリカ!」

 

 二人同時の制止が飛んだが、今度の馬鹿は黙らなかった。ガバッと立ち上がって、4989とシュガースポットの二人を見据える。

 

「言っておくけど! 私だって滅茶苦茶腹たってんの! そりゃもうたってんのっ! 『魔法少女殺し』にも、あのイフレインとかいうやつにも! 一発くれてやらなきゃ気が済まないっ!」

 

 リカは拳を握りしめて、叫ぶ。

 

「あのバニー、なんて言ったか知ってる? 『魔法少女殺し』を誘き出す為に悪いことするって……殺しまくるって言ってたんだよ? 人の街で、人の家で! 何様のつもりよって感じじゃない! 怒ってんのはね、あんたたちだけじゃないの! こんだけ頭数がいるんだからさ、偉そうに何か言って脅し合う前に、協力することを考えようよ!」

「リカ……あなたにしては結構マシな事を」

「私はいっつもまっ、じっ、めっー! 先生もさ! 『殺すのはよくない』とかそういう話じゃないじゃん! 今、私達が何とかしなきゃ、『魔法少女殺し』を中心に、他の誰かが死んじゃうかもなんだよ! 私はとっくに覚悟してる! 先生も覚悟決めてよ!」

「っ」

 

 見透かされた、と、ユミコエルは思った。

 

 手を汚すのは、もう汚れている自分だけでいい(、、、、、、、、、、、、、、)と思っていたのに。

 

「先生が私達の事認めてくれなきゃ、何もできないよ。そうでしょ?」

 

 どちらが正しいかで言えば、リカの方が正しい。

 ユミコエルは、大きく息を吐いた――――なんというか、子供だと思っていたのに、成長するものだな、なんて、他人事のように思った。

 

「うん、ごめん、私が間違ってた」

 

 ユミコエルは、4989とシュガースポット、二人に向き直った。両者の視線が、ユミコエルたち三人を、値踏みするように射抜く。

「私達は『魔法少女殺し』を仕留めようとしている、メモリアキッス達と戦う。あいつらは絶対に放っておけない。あなた達は『魔法少女殺し』と戦う。それで、いい?」

 その言葉に、4989はちらりと、シュガースポットを見た。パティシエの魔法少女はんー、と少し考えてから。

 

「妥当なところだと思います、全体で三つ巴になってしまうのが一番危険ですし」

「えー私達『魔法少女殺し』じゃないのぉー!?」

「空気読みなさいな、おバカ」

「よっし、じゃあ、あいつらぶん殴ろう!」

「それで?」

 

 勝手に盛り上がる烈風のリカを見なかったことにして、4989がシュガースポットに問いかける。

 

「『魔法少女殺し』は、誰?」

 

その問いかけに対する答えを、少なくともユミコエルは想像だにしていなかった。

 

「スターカッター」

 

 一息で告げられた名前に、ユミコエル他、全員が首を傾げた。

 魔法少女好きならば有名な、あの深夜の名作アニメの話を、なぜ今?

 シュガースポットは、おそらく全員がそんなリアクションを取るのをわかった上で、あえてそういう言い方をしたのだろう。満足気にその顔を眺め終えてから、続けた。

 

「アニメ化魔法少女スターカッター、彼女が『魔法少女殺し』です」

 

 

 

☆シュガースポット

 

 『魔法少女殺し』の正体に関する反応は様々だった。

 ユミコエルは表情が変わらず、4989は唖然とし、烈風のリカとプリマステラは小首をかしげ、アイムマイムはぽかんとしていた。

 

「ついでに、聖騎士メアも彼女の仲間のようです。加えて言うと、戦闘力はアニメ以上……星の聖剣の能力も、ほぼ脚色無しで使えそうです」

 

 なるほど、と頷いた後、烈風のリカは真横のプリマステラに尋ねた。

 

「で、誰それ」

「名前ぐらいは聞いたことありますけど、私達、深夜帯のアニメは見れなかったので……詳細は。先生は何かご存じですの?」

 

 問いかけられたユミコエルは、一応ね、と返し。

 

「……スターカッター、星の聖剣――マスコットキャラクター、クレヨン(、、、、)の悪事を暴いた正義の魔法少女、戦闘力は、うん、化物並だね。戦いになるなら、絶対に近づきたくない」

「あれ、敵の名前、パステルじゃありませんでしたっけ」

 

 アイムマイムが片手を上げた。シュガースポットも、ユミコエルの言葉に疑問符を浮かべる。

 

「……………………ああ、そうだっけ、ごめん、私も記憶が曖昧だった」

 

 長い沈黙の後――何か考えていたようにも見えたが、ユミコエルはそう訂正した。シュガースポットからしても、この期に及んでは、マスコットの名前がクレヨンだろうがパステルだろうが、そんなことはどうでも良い。

 

「私の友達は、モンスターのような姿に変身できる魔法少女でして。それを、アニメに出てきた魔獣と勘違いして襲ってきた――と主張されましたけどね。即座に、私にも斬りかかってきましたよ。魔獣を友だちと呼ぶなんてお前も悪だ、だから死ね、って感じでした」

「――スターカッターで、間違いないの?」

 

 4989は、目を伏せたまま言った。シュガースポットとしては、断言したい所だったが。

 

「自分で肯定はしませんでしたけどね。ただ、彼女だったら『悪人』も探し放題なんですよ。アニメ通りのスペックなら、『らしんばん座』や『ぼうえんきょう座』みたいな能力も使い放題のはずですから――実際にアニメ化した際、どれぐらいデフォルメされるかは知りませんけども」

「基本的にはアニメのほうがマイルド、って聞いたことあるよ。マジカルデイジーのデイジービームは、原子分解するらしいし」

 

 ユミコエルが口を挟むと、シュガースポットは間違いなくアニメより強いのだろうという事実に対して嫌そうな顔をした。

 

「それはどうも――まあ、スターカッターが『魔法少女殺し』でなかったとしても、私としては友達の仇ですから。戦いに行かざるをえないというのが正直なところでして。いかがです? 4989さん。確証が得られなければ、というのならば、私は一人で行きますけども」

「……調べてみればわかるわ、鳩を何匹か出す」

 

 すると、部屋の中に居た白い鳩が五羽、羽を広げて窓から飛び立っていった。

 

「その魔法、便利ですねえ」

「白い鳩は五感を任意に同期できるわ。在野の鳩は操れるだけだけど」

 

 で、と、4989は、ちょこんと座っていたアイムマイムに目を向けた。

 

「あなたはどうする? 私達と一緒に戦う?」

 びくんっ、と小さな魔女が肩を震わせた。アイムマイムがなにか言う前に、ユミコエルが割り込む。

「まだ新人だし、訓練も受けてない、巻き込まれた被害者だよ。スターカッター相手もメモリアキッス相手もさせられない」

 

 4989も、戦力として期待していたわけではないのだろう、『そうね』とだけ言って、それ以上、何かを求めることはしなかった。

 

               ◆   ◆

 

「そうだ、昨日からファムと連絡が取れないんだった」

 

 少しの沈黙の後、烈風のリカがそういった。

 

「なんかあったのかなー、端末同士のやり取りはできるんだけど」

 

 エプロンドレスの裾から取り出した、手のひらより少し大きい、白黒二色の魔法の端末。ものすごく頑丈で、叩きつけても車で轢いても壊れない。

横にスライドするとハート型のシルエットになって、液晶を操作することで他の魔法少女と連絡を取り合ったり、マスコットに接続したりすることができる……のだが。

 

「ファムにも何かあったのかなー」

「タイミングを考えれば、偶然じゃないでしょう」

 

 4989も自らの端末を取り出して、逆さに振る。勿論、何か出てくるわけでもない。

 

「ファムが『魔法少女殺し』とグルだった、なんてのは嫌なオチですねえ」

 シュガースポットの端末にも、当然ファムの反応はない。あの生真面目な電子型マスコットが、殺人に加担しているとも思えないが……。

「あ……そうだ、ファム」

「……? どうしたの?」

 

 アイムマイムが、おずおずと手を上げた。

 

「ライム……ライムマインが言ってたんです、ブライダルーンが管理用端末を持ってたけど、その……」

 

ちらり、と4989を横目で見るアイムマイム。

 

「彼女が死んだから……マスター権限を奪えた、とか、色んな情報が手に入った、って、言ってたんだけど……どういう意味なんだろう、ユミコエルさん」

 

 それを聞いた――シュガースポット自身も含めて、全員が目を丸くした。

 電子マスコットのマスター権限というのは、その地域を担当する、統括魔法少女であることを示す。マスコットが魔法少女を管理しているのだから、それを管理する魔法少女の権限は当然その上を行く、ということだ。

 

その所有者は、明かされていることもあれば秘匿されていることもあるが、双葉市を含むこの周辺地域の中で、最も権限があったのは、ブライダルーンだった、ということになる。

 4989は、少し考えてから口を開いた。

 

「――先輩は、魔法の国の名誉国民だったから、それぐらいの権限があってもおかしくないけど……マスター権限を奪ったって、どうやって? ファムの意志だってあるし、魔法の国だって勝手にそんなことがあったら黙ってないはずだけど」

「……ライムの魔法は、触ったものを自分の物にしちゃう(、、、、、、、、、、、、、、、)んです」

「資料では見てたけど、具体的にはどんな魔法なの?」

 

 ユミコエルの問いかけに、アイムマイムは指折り数えた。

 

「触ってれば、全部『自分のもの』として扱える感じです、スマホの指紋認証とかも外せちゃうし、キャッシュカードも使えます」

「……物に付随する権利(、、)まで奪っちゃう魔法なわけだ。ってなると……ブライダルーンのマスター用端末に触ることさえ出来れば、その権限をまるごと自分のものにもできる……と言うより、ファムを自分のものにできる(、、、、、、、、、、、、、)……のかな」

「……それって、そのライムマインさんが『魔法少女殺し』の仲間だと、そういう意味ですの?」

「わからない……ライムが何考えてるかわからなくて、逃げてきちゃったから」

 

 プリマステラの追求に、アイムマイムは肯定も否定もすることができなかった。

 

「でも、ライムは…………ライムは、タイムを、タイムラインを……こ、殺……」

 

 ふぐ、と息を飲み込む声とともに、ぼろりぼろりと、魔女の瞳に涙が浮かんだ。

 

「本当に……本当に、わかんないんだ、ライムが、何であんなことしたのか、どういうつもりなのか、本気で、想像もつかないんだ。家族だから、信じたいのに、でも、怖くて、仕方なくて、どうしたらいいか、わからなくて……」

 

 それ以上は言葉にならない様子で、嗚咽が、薄暗い室内に響く。暫くの間、誰も口を挟むことができなかった。

 

 

 

☆ライムマイン

 

 相間好夢を。アイムマイムを連れ戻さなければならない、まかり間違って、『魔法少女殺し』と遭遇して、殺されてしまっては大変だ。

 大事な家族なのだ。両親が家を空けていて、タイムラインが死んだ今、人格としてはともかく、人間としての数は減ってしまっている。

 

 長女であり、次女でもある己が、きちんと家を守らねばならない。

 そんな使命感にかられて、ライムマインが出向いたのは、駅から少し外れた所にある、古ぼけたカフェだった。店内に客も三人と居ない。従業員も店主一人らしく、誰かとコソコソ集まって内緒話をするのには、都合の良い場所だった

 

「はぁい、お待たせしちゃったかしら?」

 

 合流までどうしようかな、と思っていた矢先、ライムマイン――――今は変身を解いて、相間衣美(今はそっちの気分だった)――――の眼前の椅子を、一人の女声がひいた。そのまま足を組んで座る。

 

 背の高い、それこそ好夢と同じぐらいある、大人の女性だった。スーツがバッチリ決まっていて、この時間にこんなところでお茶をしていても、誰もが仕事の息抜きか、あるいは何かしらの作業を持ち込んでいるのだろう、と勝手に解釈してくれそうな風体である。

 

「ううん、さっき着いたばかり。コーヒーに口もつけてないし」

「あらそう。それで、あなたがライムマインちゃん?」

「うん、はじめましてメモリアキッス」

 

 変身前の姿のまま、お互い、魔法少女としての名前で呼び合う。周囲の客は、それを気にも留めない――誰も聞き耳を立てている者などいない。

 

「それで、あたしに何の要件なのかしら? いきなり呼びつけられて、びっくりだわよ。どうやってファムを送りつけてきたかも気になるケド」

 

 女性――メモリアキッスの表情は、口元が微笑んでいて、しかし目元は一切笑っていない――最大級の警戒を示す物だ。

対して、衣美――ライムマインは、動揺すること無く淡々と言葉を紡ぐ。

 

お願いがあるの(、、、、、、、)

「それは――――あたしがどういう(、、、、)魔法少女だかわかってて言ってるのよね?」

「こんなに悪いことしてても、何のお咎めもないんだから、魔法少女ってすごいな~、って思ってた所。ブライダルーンって魔法少女に、余程酷いことさせてたみたいじゃない。少し調べたら、もみ消した証拠がたーんまり。人間の内臓って、こんな値段で売れるんだね。すごいすごい」

 

 ライムマインのその言葉で、メモリアキッスの表情が、『取り繕った笑顔』から『本物の笑顔』へと変貌した。

 現状が――――全く見知らぬ魔法少女が、自分たちの恥部を知っている、追求できる、そういう状況に放り込まれていることを踏まえた上で――楽しくなってきちゃった(、、、、、、、、、、、)、という表情だ。

 

「――――あなた、何をどこまで知ってるワケ?」

「あなたがブライダルーンにさせてたことは全部。そういう魔法なの」

「だったらあたしがスべきことって、あなたをこの場で殺すことなんだけどぉ?」

「それはもったいないんじゃないかなあ。それじゃあ、今後あなた達の悪事は誰がもみ消すの?」

「あら? あなたが新しいスポンサーになってくれるわけ? 何のメリットがあるの?」

「その話をしたいと思って、あなたをよんだのよ、メモリアキッス」

 

 ライムマインは、笑顔を作る。演技は得意だ。ずっと続けてきたのだから、呼吸のように行うことができる。

 

「――私の大事な家族を守る為に、『魔法少女殺し』をきちんと殺して欲しいのよ」

   

◆    ◆

 

「なるほどね、所有権を奪ってしまう魔法――ね。けど、どうやってブライダルーンの端末に触れたワケ? あなた、魔法少女になったのつい最近でしょう?」

「ファムから聞いたの」

 

 甘い紅茶を一口すすって、ライムマインはポケットの中の端末を指でいじる。

「私が端末を触ると端末の所有権は私のもの。その状態でファムを呼ぶとね、ファムのマスター権限が一時的に私に移るって気づいたのよ」

 

 『ライムマインのもの』になった端末、その中に入ってきたファム(もの)もまた『ライムマインのもの』になる。ライムマインの魔法は生き物には作用しないので、電子型のマスコットが、一個の生命ではなく情報であることがその理由なのかもしれない。

 

「最初は、だから何? って感じだったんだけど、面白半分で『なにか私に隠してること無い?』って聞いたら、まあペラペラ教えてくれるわけ。その中の一つがブライダルーンっていう魔法少女の事と、彼女が持ってるマスター用の端末の場所。学校休んでまで取りに行っちゃった」

「――――あなたの魔法、危ないわねえ」

「そうみたい。正気に戻ったファムには散々怒られたし、魔法少女やめさせられそうになったから、慌ててファムの全権限を貰ったの。マスター用端末が私のものである限り、ファムは私に逆らえない」

「マスコットが味方についた状態、ってことね。そりゃまあ、色々悪巧みもできそうだケド? あなたがあたしに求めるモノは何なワケ?」

「暴れてほしいのよ」

「――はい?」

 

 ライムマインは――相間意真は――相間衣美は――嘲笑った。

 

「滅茶苦茶に暴れてほしいの。殺して壊して潰して、焼いて砕いて滅ぼして、ぐちゃぐちゃにしてずたずたにしてばらばらにしてほしいの。誰でも良いわ、人間でもいいし建物でもいいし他の魔法少女でもいいし。とにかく、思い切りやっちゃってほしいのよ」

「……それで、あなたは何の得をするってのよ」

 

 メモリアキッスの疑問は最もであり、ライムマインの言動はイカれている、それぐらいの自覚はある。だが、仕方ないのだ。アイムマイムが逃げ出してしまったのだから。

 

「だって、好夢ちゃんは怖がりだから(、、、、、、、、、、、、)

 だから、街を滅茶苦茶にする。一人ではとても居られないほどに破壊する。何かにすがらなければならないほどに追い詰める。

 

 そうすれば、好夢はきっと帰ってくるだろう。最後に頼れるのは、最後に信じるのは、最後に求めるのは家族に決まっている(、、、、、、、、、)

 

意真と衣美(わたし)お姉ちゃん(わたし)であるためには、好夢ちゃんが居てくれないと困るの。だから、帰ってきてくれたら、後はどうだっていいのよ。ねえ、いいでしょう? 『魔法少女殺し』を呼ぶ、ついでだと思って」

 

 ライムマインは、どこまでも、あくまでも、友好的に微笑んでみせたつもりだった。相対するメモリアキッスは、もう一欠片の笑みも浮かべていなかった。

 

 

☆メモリアキッス

 

 目の前の少女はイカれている。

 精神に変調をきたし、壊れてしまった少女を数多く見てきたメモリアキッスだからわかる。最初からこの少女の瞳は淀んでいる、自分の見たいもの以外、何も見えていない。

 にも関わらず、本人は正気のつもりでいる――既に、人間として最も大切な何かが砕け散っていることに、本人だけが気づいていない。これが喜劇でなくて何なのか。

 

 ただの賢しい小娘なら、何の興味も抱きはしない。交渉など持ちかけられたところで、裏切られるリスクがある以上、メモリアキッスがそれを飲む理由もない。殺して証拠を消したほうが遥かに手っ取り早いというものだ。

 

 なのに、ああ、メモリアキッスの性癖は、こんなところで厄介だ。

 この少女は本気なのだ(、、、、、、、、、、)

 

 一人の女の子が、どうなったら、ここまで歪むのだろう。魔法少女になったからだろうか? それとも他に原因があるのだろうか? もしかしたら、クラムベリーの子供達の一人なのか?

 この歪な人格が、どう生まれたか知りたい(、、、、、、、、、、、)

 心の底から壊れているなら、壊れた結果、何を考えているか知りたい(、、、、、、、、、、、、)

 この魔法少女が辿ってきた人生の記憶を――――味わいたい。

 

「キスさせて」

 

 だから本音が漏れてしまった。

 ライムマインはぽかん、と口を半開きにして、メモリアキッスを見つめていた。当然といえば当然だ、脈絡がなさすぎる。

 

 だが、メモリアキッスにとってこれは最重要問題だ。いや、何より重大と言っていい。少女の記憶を貪り、追体験することこそが生き甲斐なのだ。

 

「あたしの魔法はキスした相手の記憶を読み取る魔法――あなたが嘘をついてるかどうか、きっちり判別できるわ、それぐらいはさせてもらってもいいでしょう?」

 

 方便だ。ライムマインの話が本当か嘘かなんてどうでもいい、キスをさせろ。記憶を読ませろ。メモリアキッスの頭にはもうそれしか無い。

 ライムマインも、メモリアキッスの魔法は事前に知っていたのだろう、少し考える仕草をしたが、数秒後に「わかった」と言った。

 

 分かった、と言った。

 

 キスをしていいと言った。

 

「っっっっっし!」

 

 思わず立ち上がって行ってしまったガッツポーズ。店内の視線が、一斉にメモリアキッスに集まった。

 

「――あ、あら、失礼」

 

 取り繕うふりをしてみたが、一度集まった注目はなかなか外れない。どの道、変身する必要もあるわけだし、場所を変えるか――と思った所で。

 

「――――あ?」

 

 眼前の少女が、変身していた。

 角の生えた三角帽子に、首からぶら下げた時計(、、)と花。

 魔法少女ライムマインは、人差し指を、その時計の針に這わせて、動かした。

 

 ――――その行為を目にした瞬間、どろっとした血の匂いがした。

 

「……はぁん?」

 

 店内に、死体が転がっていた。カウンターでコーヒーを飲んでいた女性と、コップを拭いていたマスター。そして、テーブル席で談笑していたカップル。都合四人、全員、頭がかち割られている。

 

ライムマインは何事もなかったこのように、手に持っていた、血痕の付いた金属製の椅子――空席のカウンターのモノだ――を放り捨てた。

 

全てが、瞬きの間に……いや、瞬きすらしていなかった。メモリアキッスが知覚した時には、全てが終わっていた。

 

「……その時計、時間を止められるわけ?」

「うん。私のもう一つの魔法」

 

 当然、魔法少女の魔法は一人一つだ。時折、その原則から外れる……というよりも、魔法の応用が利きすぎて(、、、、、)多数の能力を持っているように見える魔法少女も居るには居るが(かの魔王パムが良い例だ)、この場合は意味合いが違うだろう。

 時計は恐らく、別の魔法少女のもので、ライムマインの魔法によってその所有権が奪われている。

 

「で、何で殺したのよ」

「だって、これから、皆、殺しちゃうんだし、あまり変わらないじゃない?」

 

 ライムマインは、平然と告げる。

 

「でも、私……彼氏居るから」

 

 自分がしたことに、一切の痛痒を感じていない。疑問も抱いていない。心配しているのは、全く別のことだ。

 

「そんなに激しくしないでね?」

 

 ゾクゾクゾク、と背筋からこみ上げてくる、寒気と歓喜を、メモリアキッスはたしかに感じ取った。

 

「――――ええ、努力、するわ」

 

 そうは言ってみたが、多分無理だろうな、と思った。

 メモリアキッスの、興味と、期待と、欲望は、もう一杯なのだから。

 

 

 

 

 

 

☆人魚ローレリア

 

 欲に溺れるのは気持ちがいい、当たり前だ。難しく考えて頭を使うのなら、ただ流されたほうがよっぽど楽だ。

 

 そういった意味で、メモリアキッスのそばにいるのは非常に居心地が良かった。

 人魚ローレリア――歌音(かおん)(ひびき)は、人間の欲望には際限がないと思う。食欲、性欲、睡眠欲……そんな三大欲求は勿論だが、何より人が溺れてしまう最大の欲とは、暴力だ。

 

 魔法少女同士で殺し合う試験において――他を殺し尽くし、生き残った。俗にクラムベリーの子供達、と呼ばれる者たちの一人。

 その際の体験を忘れることができようか。

 

義憤に燃え、正義を貫こうとした魔法少女も、殺し合いを最後まで拒んでいた、心優しい魔法少女も、暴力の前には平等に命乞いをした。頭を下げ、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃに歪め、地面を舐めて命だけは助けてください、私だけは助けてください、と懇願する。

 そんな見目麗しい少女達の哀願を、踏みにじった時の快感といったら!

 

 「水を自由に操る」という魔法を得た人魚ローレリアは、事実上あらゆる命の生殺与奪を握っている。自分から半径三メートル以内の『液体』であるなら、ローレリアの思うがまま、自由自在に操れる。

 

 そして人間、勿論魔法少女にも『血液』というものが流れている。ローレリアはそれを体の外側に吹き出るように操作できる。なんなら、心臓の血を逆流させてやっても良い。

 あるいは、水を相手の顔に貼り付けさせてやってもよい。魔法少女という奴はどいつもこいつも可愛いものだから、それが目を見開き口をパクパクとさせながら、死にものぐるいの形相で空気を求めて喘ぐ様は、なかなか見ものだ。

 

(お願いします、殺さないで下さい、助けてください、お願いします……!)

(何でもするから、誰か殺せって言うなら殺すから! 助けて! 私だけは助けて!)

 

 人魚ローレリアは、その力で容赦なく殺戮を行った。魔法少女同士の殺し合い、特別な存在同士の殺し合い。ならば、そこで生き残った自分は、何よりも誰よりも特別なのだと、そう思えば、むしろ快楽さえ感じていた。

 

どんな魔法も寄せ付けること無く、一方的に蹂躙し、勝利した。『誰かを殺害する』という行為に於いて、人魚ローレリアは間違いなく最強の魔法少女だった。

 

 そんな彼女が唯一、抵抗できなかった魔法少女が、自分たちに殺し合いをさせた森の音楽家クラムベリーだ。彼女の目的は『強い魔法少女と戦うこと』であり、試験は、そのための選抜のために行われていた。

 

人魚ローレリアは『魔法が強い魔法少女』であったが、クラムベリーは『魔法も強い魔法少女』だ。反応速度も戦闘経験も、魔法の練度も全て人魚ローレリアのそれを上回っていた。

三メートルというのはローレリアの射程圏内であると同時にクラムベリーの射程圏内であり、彼女の『音を操る』魔法から生み出されるソニックブームは、ローレリアが相手の血液を操るより遥かに速かった。

 

 暴力によって魔法少女たちを踏みにじった人魚ローレリアは、クラムベリーの戦闘欲求を満たすための餌だった。より強く、より強力な暴力によって蹂躙されるための生贄だった。

 

 衝撃波で全身の骨を砕かれて、期待はずれだったと、殺される寸前だったローレリアを救ったのが、メモリアキッスだった。彼女はクラムベリーと何らかの交友――――間違っても友人関係ではないだろう、きれいなつながりであるとは到底思えない――があったらしく、何らかの対価と引き換えに、クラムベリーから人魚ローレリアを買った(、、、)

《今日からあたしがあなたのご主人様よ、人魚ちゃん》

 (倒れて動けない人魚ローレリアの唇を強引に貪って、恍惚の表情を浮かべながら、彼女は言った。

(たくさん可愛がってあげるわ――――あなたの欲を満たしてあげる(、、、、、、、、、、、、、)

 

「私はぁ、幸せものですねぇ」

 

 ちゃぷちゃぷ、と水の玉の中に、人魚ローレリアは浮かぶ。

 大量の水を空中に浮遊させて、自在に空中を舞い泳ぐ。日が落ち始め、夕焼けに照らされる街が、ミニチュアのように広がっている。

 人魚ローレリアは自覚している。

 

 自分は異常者だ。

 弱者の命乞いを聞いた時の快感、精神的に優位に立った時の恍惚、そういった黒い欲求全てを、肯定してくれる人がいる。

 たとえどれだけ自分が世界の基準からズレていても、たった一人、それを認めてくれる人がいるならば、人間は、壊れたままでいられるものだ。

 壊れたまま、生きていけるものだ。

 

 人は他人に肯定してもらわねば生きていけない生き物であり――――人魚ローレリアには肯定者がいる。メモリアキッスがたとえ自分の欲求に従って、記憶を貪ったのだとしても。

 メモリアキッスがローレリアを認めて、側に置いたという事実は変わらない。

 

 だから例えば、今から眼下に見えるこの街全てを平らにしてくれ、と言われれば、人魚ローレリアは喜んでそれを行える。それはメモリアキッスのためであり、暴力による快感を得たい自分のためでもあるのだから。

 

「雨雨、ちゃぷちゃぷ」

 

 残念ながら空に雨の気配が見えない――――だから、自分で作り出す。空気中の水分をかき集めて、大きな水玉を作ると、指でぱちんとはじく。ぱあっ、と霧散して、眼下の街に小さな水滴が落ちてゆく。

 

「さあ、遊んでいらっしゃぁい、沢山沢山、面倒を見てもらいなさぁい!」

 

 

☆ピスタール

 

木の実は、だらだらと街を歩いていた、勿論変身は無し。ピスタールではなく、木下木の実としてだ。

 気分は最悪だった。理香子にも光にも、ユミコエル先生にも、とんだ迷惑をかけている自覚はある。

 それでも、『正義』の名前で以て何かを断罪する、という存在は、木の実にとって恐怖の対象でしか無い。

 

 理香子は馬鹿で傍若無人で思慮も足りないが、良い子だ。『正しい』と想える道を堂々と歩める強い自信、誰かの為に怒れる義憤、楽しいを笑い、辛いを泣いて、誰かがそうあれば、共に寄り添ってくれる。補佐は絶対に絶対に、絶対に! 必要だが、リーダーとして据えれば、あれほど頼りになる娘は居ないだろう、とつくづく思う。

 

光は、真面目だが融通の利く、何事も一歩引いた視点から物を見れる賢い子だ。それでいて、負けず嫌いで努力が得意で、隣にいるだけで安心感がある。示し合わせたように、理香子に寄り添うのにぴったりだ、

 

 では、木の実はどうだろうか。三人で育ち、三人で過ごし、三人で生きているから、誰も何も言わないけれど。

 

 本当は、理香子と光だけで十分なのではないだろうか。木下木の実は、本当は必要のない歯車なのではないか。

 

 一度そう思ってしまうと、ネガティブな思考はどこまでも木の実の頭を苛んでいく。仮にそんなことを理香子に言おう物なら即座に殴られ、怒鳴られ、なんでそんなこと言うんだと逆に泣かれてしまうだろし、光に言ったら、多分優しく抱きしめながら、つらつらと木の実の意見を否定する要素を客観的に並べ立てるに違いない。

 

 何があっても、二人は木の実を拒まないと、必要としていると自分でもわかっている。たった三人の、家族なのだから。

 

 それでも、不安と恐怖が拭えないのは、やはり、自分の手が汚れているからだ。

 

 生々しい感触、汚されかけたという事実、触れられた悍ましい感触、そんな薄汚いモノでさえ、殺してしまえば、永遠に心を蝕み続ける。

 

 もしあそこで我慢していたら――――木の実が自分を差し出していたら、理香子と光は魔法少女になることも、こんな危険な事に巻き込まれる事もなかったのに。

 それなのに、怯えて、ビビって、足抜けしたのは木の実一人だというのが、また質が悪いと、自分でも思う。

 

「ねえ、君暇?」

 

 自己嫌悪やら後悔やら、ぐるぐると渦巻く頭の中を整理している最中で、ふいにそう声をかけられても、到底反応しきれないというものだ。

 

「ちょっとー、無視しないでよー、ねえってば」

(うるさいな……)

 

 そもそも気分転換しようと思って、こうして外に出ているのだ。行きつけのカフェで、まず甘いケーキを食べて、この暗い気分を吹き飛ばしてしまいたいというのに。

 

「うるさいな……」

 

 心に余裕がない時は、言葉も刺々しくなる。つい、ぽろりと心の声と口から出た声が一致してしまった。

 

「えー、ちょっとひどくない?」

 

 女のご機嫌を伺うような、しかし下心に満ち満ちた下品な声が耳朶を打つ。木の実の一番キライなタイプの男の声で、木の実の一番嫌いなタイプの男だ。

 

 心底嫌になるぐらい、この手の男はよく寄ってくる。

相手は多分、そもそも相手が高校生だということもわかってないだろう、ちょっとおしゃれした女子大生や短大生か何かだと思っているに違いない、何せ今まで木の実に声をかけてきた男は皆そうだった。

 

 中学生になった頃から、異様な急成長を見せた木の実の身体は、今や読者モデル顔負けの高身長と整った豊かなボディラインを持つ。顔もどんどん大人びて行き、理香子や光と一緒に歩いていると『保護者』扱いされた程だ。

 

 男嫌いの木の実が、誰よりも男をひきつける容姿に育ってしまったのは、もはや皮肉でしか無い。何度運命を呪い、理香子のような貧乳に、光のような寸胴にと願っただろうか。本人たちの目の前で言い放ったらボコボコにされたが。

 

「いいじゃん、奢るからさ、そこでお茶していこうよ、あそこケーキマジで美味しいんだって、ホントだよ?」

 

 そんなことは知っている。お前に言われるまでもない。私はそこの常連だし、今まさにこれから行こうとしているのだ!

 

「あの」

 

 ようやく顔を上げた木の実に、男――木の実の第一印象を並べると、日に焼けて金髪で鼻に銀のピアスがあって。よくもまあ、こんな奴が現実に居るものだ、漫画でこんな雑魚よく見るけど鏡を見て恥ずかしくならないんだろうか。仮にそうだとしたら恥の概念がないくせに女を引っ掛けようなどというのはあまりに頭に中身が詰まっていなさすぎではないだろうか。ある意味、魔法少女より希少な不細工だ、死んでほしい、と思った―――は、やっと自分の呼びかけに反応したのだと思い、気を良くして、更に近寄り肩を抱いてきた。

 

「あいだっ、え、あおおおおおおっ!?」

 

 その手首を掴んで、ひねって、張った肘を押し込んで、体重をかけて、関節を外して、その場で転がした。

 

「はぁー……なんか、嫌になる……」

「いてぇ、いだ、なんだこ、うがあああああ!」

 

 反射的に攻撃してしまったが、勝手に服の上から触れてきたのだから、仕方ない。

 ――ピスタール達が魔法少女になってから、ユミコエルに徹底的に仕込まれたモノはいくつかあるが、その中でも特に力を入れたものが二つある。

 

 一つは、変身時の口調と立ち振る舞いの演技(ロールプレイ)

本体の正体を隠匿するため、変身した時は意識的に口調や動き方を変えるようにしている。理香子はそんな小賢しいことできなかったが、プリマステラはアニメのお嬢様のように、ピスタールはチンピラのような口調に、もはや意識しなくても勝手に切り替わる、

 そしてもう一つが対人格闘技術だ。一撃食らったらゲームオーバーなユミコエル相手に、魔法少女同士の戦いを想定して、徹底的な対人訓練を積み重ねている。

 

「私によってくる男って、どうして、こうなんだろう……せめてちっちゃい男の子とかならなあ、かわいいって思えるんだけど……」

 

 平時でも、成人男性を暴力であしらえる程度に強くなった事は、魔法少女になってよかったと思える数少ない事の一つだ。何せ、暴力に怯えなくて良いのだから。

 

              ◆     ◆

 

 木製のパネルで『TATUMIYA』と書かれた店舗に足を踏み入れる。理香子や光ともよく来る、小さな個人経営の洋菓子店だ。小さなカフェスペースが設置されており、今日はそっちにお邪魔しようと思っていた――のだが。

 

「はぁ!? 今日これねえってどういうことだオイ!」

 

 顔見知りの店主の女性が、スマートフォン片手に怒鳴り声を上げていた、とても客商売を営んでいる人間の姿ではないが、見回してみてもそもそも店内に客が居なかった。

 

「急用が入ったぁ!? お前にとってバイト以上の急用が何があるか言ってみろ! おうおう…………彼氏ぃぃぃぃぃ!? てめぇぶち殺すぞ時給出さねえからな聞いてんのかオイ! …………ああああ切りやがったあのクソガキいいい!」

「ど、どうかしました?」

 

 レジ越しに問いかけると、店主の女性は鬼の形相で木の実を睨みつけながら叫んだ。

 

「バイトがブッチしやがった!」

「ああ、いつもの子……」

「どうすんだよ客が来たら!」

「私以外居ないけど……」

「あいつが頼んで働かせてくれってあたしに頼み込んだんだろうが!? だったら店の事を何より優先して考えるべきじゃねえのか!? 学業ならわかるよ学業は大事だよ学生の本分は勉強だからなあ! 何つったと思うあいつ『彼氏がデートしたいって言うんで?』だぞぶち殺してやる!」

「大変ですね……」

 

 木の実にとっては別段大きな問題でもないので、適当に流そうとしたが、店主はその雑な対応が気に食わなかったのか、こちらに突っかかってきた。

「何が『大変ですね……』だ気持ちのこもってねえ心配だな! 私にはわかるぞお前何も大変だと思ってねえだろ客来ねえし暇そうだなって思ってんだろ畜生が! お前今日働いていけ!」

「客を従業員にしようとしないでほしいんですけど……」

 

 難癖を無視して、ケースの中のケーキを眺める。シンプルなショートケーキ一つにしても、クリームを丁寧に絞って、美しいシルエットを作り出すよう工夫がされている。

 

「えーっと、ショートケーキとチョコレートケーキ、レアチーズとブルーベリータルト、あと……レモンパイお願いします」

「だからお前はデブなんだ!」

「客に向かってなんてことを!」

「あと、今日のレモンパイは私が作ったやつだぞ、いいな」

「あ、大丈夫です、今日は質より量なので」

「私のパイを馬鹿にしてるのか貴様! 今日働いていけ!」

「嫌ですってば」

 

 まさかの、客に罵倒を浴びせるというこの手の商売にあってはならない暴走をしながらも、大きめのトレイにケーキを並べていく店主。

 

「ふん、でもお前一人か。また喧嘩でもしたのか?」

 

 木の実がこの店を一人で訪れて、とんでもない量のケーキを注文する時は、そういう時だと、店主も理解しているらしい。

 

「別にお前は私の友達じゃないし、お前らが喧嘩すればするほど家の商品は売れるから喧嘩大歓迎だけどな。店の端に陣取って辛気臭い顔で黙々と貪られるよりは小娘共が騒ぎながら消費したほうがケーキも幸せだろうよ」

 

 意訳するとさっさと仲直りして今度は三人で来い、という意味だ。

 

「近いうちにそうしたいです」

「ふん、商売人としてはどっちがいいんだかわかりゃしない。今日みたいな日は小娘一人がデブになるだけでいいんだけどな」

「太りませんってば……」

 

 ケーキの乗ったトレイを受け取って、料金を支払ってから、ふう、と息を吐く。

 

「帰り際に、あと三つ、レモンパイもらえますか? 持ち帰り」

「嫌だ」

「まだ残ってるじゃないですか」

「だから今日のレモンパイは私が作ったんだ。レアチーズにしておけ」

「別にいいんですけどね……」

 

 

☆アイムマイム

 

「大丈夫ですか?」

 

 シュガースポットが、落ち着く頃を見計らって、アイムマイムに声をかけてきた。皆、泣き止むのを待ってくれた。各々事情があって、ライムマインに関する話は急務だろうに、それでも。

 

「うん……ごめんなさい」

「謝らなくていいですよ、ご家族のことですから」

 

 苦笑しながらそう言うシュガースポットだが、現状、アイムマイムがどうすべきか、結局指針はないままだ。

 

 『魔法少女殺し』ともメモリアキッスとも、戦いたくない。けれど、ライムマインは放っておけない、少なくともアイムマイムが向かい合わなくてはならない相手だ。

 

「ライムは……私が、何とかします」

「何とかって具体的には?」

 

 4989が厳しい声でいう。復讐、の二文字しか頭にないと思っていたが、涙で腫れた瞼を向けると、表情は、思いの外、辛そうに歪んでいた。

 

「それは……」

「まあいいんじゃん? まずは話し合ってみれば」

 

 何か言わなくては、という口を開いた途中で、烈風のリカが割りこんだ。空になった皿を名残惜しそうにつつきながら。

 

「敵だったら敵だった時改めて考えればいいじゃん。『魔法少女殺し』とつながってるわけじゃないかもしれないし、繋がってたらまあ、なんとかしてもらうってことで」

「その何とかをどうするかを聞かれてるんじゃないですの」

「それはこれから考えよう!」

 

 すぱぁんっ、とプリマステラのチョップが再度リカ後頭部を叩き倒した。

 

「考えてから物を喋りなさいな!」

「私にそんなことできるわけないでしょーっ!」

「じゃあ何も喋らないでくださいまし!」

「いや、正論だよ、リカの言うとおり」

 

 ユミコエルもまた、アイムマイムを見た。苦笑しながら、横に居るリカの頭をぐいぐいと、少し乱暴に撫でた。

 

「あうあうあうあう」

「どうするか、なんて今この場で決められることじゃないし、決めるべきじゃないよ。アイムマイム、あなたはちゃんと話をするべきだと思う。ライムマインが何を考えているか、わからないっていうのなら、余計に」

「……でも」

 

 ゾクリ、と背筋から冷たいものが這い上がってくる感触がある。それは、恐怖と呼ぶべき物だ。

 

「話しても、向き合っても、もし理解できなかったら(、、、、、、、、、、、)……」

 アイムマイムが、あの時逃げたのは。ライムマインの事が、わからなくなったからだ。そして――――相対し続けて、本当に理解できないこと(、、、、、、、、、、、)理解できてしまうこと(、、、、、、、、、、)が、何より怖かったからだ。

 

「私から言わせてもらえれば、理解しようとするのがそもそも間違ってますけどね」

 

 呆れ気味にそう言ったのは、シュガースポットだった。対して、烈風のリカががー、っと牙を向いた。なぜか、アイムマイムより早く。

 

「何をう! 相互理解、大事! 私、とても思う!」

「なんで片言なんですの」

「私はプリマステラの事を超理解してるし!」

「私はあなたの考えと言動がさっぱり理解できませんわ」

「相互理解じゃなかった! チキショー!」

「話戻していいですか?」

 

 馬鹿が馬鹿をしただけだったので、馬鹿は放っておくとして。

 

「理解、しようとするのが間違ってる、っていうのは……?」

「そのままの意味ですよ。他人がなに考えてるかなんて、分かる訳ありません。だって本人じゃありませんから。どれだけ言葉を尽くしたところで、わかった気になれる(、、、、、)だけです。私はあなたのことをわかってる、なんて簡単に言える人はですね、馬鹿か詐欺師のどちらかですよ」

「酷いこと言うじゃない、その子の家族のことなんでしょ?」

「家族だから理解できる、なんて幻想が蔓延(はびこ)ってるから、家庭内暴力も児童虐待も無くならないんじゃないですか」

 

 その言葉に、プリマステラと烈風のリカがあからさまに不機嫌になった――が、シュガースポットは頓着しない。

 

「少なくとも、そんな心持ちでいるなら、会いに行かないで、ここに居たほうが良いと思いますよ。絶対に、いい結果にはなりませんから」

「じゃあ、どうすればいいんですか」

 

 声に怒気が孕んだのは、何年ぶりだったろうか。

 眼前のパティシエに対して、アイムマイムは明確な怒りを抱いた。多分、自分にとっての根幹を、否定されたからなのだろう。

 そんな怒りすらどこ吹く風で、シュガースポットは平然と言った。

 

「生憎と私は現実と絶望の魔法少女でして、希望的観測と理想論が大嫌いなんですよ」

 

 ぴっと指を立てて、アイムマイムに突きつける。その表情には不思議な事に――笑みが浮かんでいた。

 

「失いたくなければ、考える事です」

「何を考えろって――っ」

相手が何を考えているかを考えるんです(、、、、、、、、、、、、、、、、、、)

 

 怒鳴ろうとした声を制して、シュガースポットは、アイムマイムのその瞳をじぃっと覗き込んだ。

 

「どうしてそんな事を、というのであれば、その『どうして』に至った『何故』を考えなければ行けません。結論は出ません、どれだけ考えても答え合わせができるのは、本人だけですから」

 

 ライムマインが何を考えているか。

 そんなの、わかるわけがないじゃないか。

 そう言いきって、諦めきれたら、どれだけ楽だろうか。

 

「言っておきますけど、私の考えてることなんて世界中の誰一人理解できないと思ってますし、私は世界中の誰一人の事も理解できてるとは思いません。でも、大事な人の事を考えることはします。たとえ無理だとわかっていても、自分のことを理解してほしい(、、、、、、、、、、、、、)ですから」

「理解して……欲しい……?」

「それはそうでしょう。理解したいなら、まず理解して貰わなくちゃ。千の言葉と万の行動で、私はこう思っています、あなたを愛していますと伝えて、初めて一が届くんです。それは理解に程遠いですが……」

 

 シュガースポットは、自分の頭を、人差し指でとん、と叩いた。

 

「考える材料になります。永遠に理解出来ない『他人』という存在の本質に、一歩でも近づく為に、人間というやつは今日まで言葉というコミュニケーションツールを育んできたわけで」

 

 現実と絶望の魔法少女と名乗った魔法少女、乱暴な理屈。

 

「拒むにしても受け入れるにしても、怯えてちゃ話になりません。そして、どうしたいのかを決めなければなりません」

「どう、したいか……」

「元の鞘に収まりたいのか。新しい関係を築きたいのか。決別したいのか。どこまでならあなたは人の罪を許せる(、、、、、、、)のか。どこまでなら受け入れられるのか。あなたが居るのは、間違いなく家族関係の分岐点ですから。時間はあんまりありませんけど、ギリギリまで考えることを、私は強くおすすめしますよ」

 

 ライムマインを、どうしたいのか。 

 許したいのか。受け入れたいのか。裁きたいのか。

 

 相間好夢(アイムマイム)は――――

 

「……私は」

 

 目頭に、不意に何かがこみ上げてきて、帽子の縁で表情を隠すように押さえ込んで、アイムマイムは言った。

 

「憧れてた……ライムマインに、タイムラインに……二人に、ずっと憧れてた。魔法少女になれて、嬉しかった……やっと、みんな一緒になれたって思ったから」

 

 ぽろり、ぽろりと、胸の痛みと鼓動にあわせて、雫がこぼれて落ちてゆく。

 

「それが……自分の勘違いで、全部、思い違いだったってわかって……何もかも、無くしたって……思った……だって、ライムマインは、殺したんだ――家族を、殺したんだ!」

 

 だけど、問題はないと言い切ったのだ。

 ここには、二人分の一人(ライムマイン)がいるのだから。

 

「許せないのに、わからないのに、でも……でもさあ! 家族だから! ライムマインが怖いのに、恐ろしいのに……でも、大事なんだ……大切、なんだよ……」

 

 その慟哭に、シュガースポットは応じた。

 

「憎くて許せないけれど、大事で大切なんて、当たり前(、、、、)じゃないですか」

 

 アイムマイムの、その肩を引き寄せた。シュガースポットの小さな体でも、抱きしめられるぐらい、小さかった。

 

「家族なんて、そういうものでしょう?」

 

 

☆プリマステラ

 

「まあ、そう言われたらそうですわね」

 

 いつも手間ばかりかけてくる、腹が立つぐらい馬鹿で、それでもどうしようもなく大切な家族を横目で見て、プリマステラは大きく息を吐いた。

 

「うーん、私はなんか釈然としないけど」

 

 リカは納得行っていないようだった。そもそもそこまで難しいことを考えられないのかもしれない。良くも悪くも本能でしか生きていないのだ――という考えは、プリマステラの思い込みなのだろうか。

 ……と言ったところで、それを証明する手段はない。それはシュガースポットの言うとおりだ。

 

「……考えすぎるのも、よくないけどね」

 

 ユミコエルは苦笑を溢し、しばし抱き合う二人を見ていた。

 

「えー、先生常日頃から考えまくれって言ってるじゃん」

「リカは普段から何も考えてないんだからそれぐらいで丁度いいでしょ」

「私そんっな馬鹿だと思われてんの!?」

「自覚がなかったんですのね……」

 

 やっぱり、この女は本能で生きている。

 

「じゃあ、遊びはここまでにするわよ」

 

 4989が空中で指をついっとなぞると、白い鳩がそれぞれの魔法少女の肩に乗った。プリマステラにも小さな鳩がちょこんと腰を落ち着ける、白い衣装に白い鳩は、我ながらよく似合うのではないかと思うほどに。

 

「アイムマイムはライムマインを。私とシュガースポットは『魔法少女殺し』……スターカッターと聖騎士メアを。ユミコエルと烈風のリカ、プリマステラはメモリアキッス達を、それぞれ対処する……って事でいいかしら?」

「……うん」

 

 アイムマイムは頷いた。他の魔法少女たちも、それぞれ同意を示す。

 

「鳩は私に通じてる、何かあったら動かすわ。……とはいえ」

 

 4989は苦々しげに表情を歪め、もう存在しない自分の右腕を抱いた。

 

「対策は必要ね、スターカッター、アニメ通りの戦闘力なら、正面から戦うのは無理よ」

 

 アイムマイムも、一度全話見せられたことがあるので、その強さはよく知っている。あれがそのまま、殺すつもりで向かってくるというのなら、そもそも勝てる魔法少女なんてものが居るのだろうか。

 加えて、聖騎士メアも居る。アニメではスターカッターに次ぐ戦闘能力を持つ――大量破壊や応用の利く小技は使えないが、剣を用いた戦闘に於いてはスターカッターを凌ぐのだ。

 

「私がどかーんとやろうか?」

「あなたはメモリアキッス達と戦うんですの!」

「えー、適材適所があるじゃん」

「あなたの適材適所は私の隣で・す・わ!」

「やだ、愛の告白みたい……」

「目の届かない所にいるんじゃないって意味ですわよ」

 

 アイムマイムは烈風のリカの魔法を知らないが、それこそ無敵になれる魔法でもないと、どうしようもない……そこまで、スターカッターという魔法少女の力は大きい。

 

「ユミコエル先生、何か思いつきませんの?」

「……ごめん、私、スターカッターのアニメは見たこと無いんだ。武器に依存してる魔法なら、奪う手段があれば……とは思うけど」

「ピスタールがいればなー、相手の火力は気にならないんだけど」

「相手が二人なんだから、やられてしまいますわよ」

「二対二なら約分して一対一じゃん?」

「そういう問題ではなく!」

「狙撃するとか……石投げようか?」

「多分、石が命中するぐらいの距離なら、余裕で向こうの攻撃範囲ですわ。ビーム撃つんですのよ、ビーム」

「ビームか……ビームは無理だなあ」

 考え込む魔法少女たちを横目に。

「いえ、案外何とかなると思いますよ? 準備は少々必要ですが」

シュガースポットは、あっけらかんとそう言って、全員の視線が集まった。

 

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