魔法少女育成計画 -Fratricide SideⅡ- 作:天都ダム∈(・ω・)∋
☆シュガースポット
大量の死人がでたという事実を揉み消せるだけの魔法少女は、残念ながら居なかった。ただ、その死に方が余りにも奇怪だったからか、行政からは戒厳令が敷かれ、現在は原因調査中、という事になった。学校は、いろいろ考えた末、どうやら終業式だけ、出席したい生徒は出席してくれ、という曖昧な判断をとった。生徒の中にも被害者や、その家族も居るはずなので、当然といえば当然だ。
だが、学校が自主的に、来れる人だけ来いというのであれば、美里は行かざるを得ない。内申点とは、こういう所から響くものなのだ――バカバカしいが。
昨日、メッセージを送った所、先輩から返信がなかったことだけが、唯一の気がかりだ。深夜に既読がついたので、無事であることは間違いないと思うのだが。
「はあ……」
あの日、帰ってきた魔法少女たちの数は、極少なかった。
4989も、ユミコエルも、戻ってこなかった。同時に、敵が何人死んだのかもわからない。
やることがまだまだある気がして、うう、と頭を押さえるしか無い。幸い明日から休みなので、出席を気にしなくて良いことだけが救いだった。
一旦日常に戻ろう、と考えた矢先、スマートフォンにメッセージが届いた。
『もう講堂にいるから、早く来て』
それは、愛しの先輩からのメッセージだった。疲れがぱぁっと吹き飛んで、心が満たされた――誰かを好きになる、ということは、そういうことだ。我ながら、極端だが。
校舎についても、人はまばらだった。教室から講堂に移動する傍らに見かけた生徒の数も、五指に満たない。
講堂の扉を開ける。むわ、とむせ返る、血の臭いがした。
「……え?」
人間が死んでいた。両断されて、踏みにじられて、大量に、死んでいた。
「あら、遅かったのね」
下手人は、すぐにわかった。黒い鎧に身を包んだ騎士が、そこに居たからだ。
「――――」
「一昨日ぶりね、昨日会えたら良かったのに。ね? 美里ちゃん」
――聖騎士メアは、御剣聖は、全身を返り血に染めたまま、笑顔で言った。
それでも、美里の目に入ってきたものは、愛しい、この世でたったひとつ、何に変えても失えない、大切な人だった。
「せん、ぱい」
聖騎士メアは、男子生徒を一人、片手で掴んでいた。まだ生きている、傷はどこにもない。ただそれが、偶然などではなく、美里がここに来るまで待っていたからだ、ということぐらいは、流石にわかる。
「変身したら? そのままじゃ、大事な大事な先輩が、死んじゃうよ?」
――衆人環視の中で、魔法少女に変身する。それは、資格の剥奪と同義だ。何より、魔法少女などという存在であることを、知られたくない、だが。
一瞬ためらって、美里はシュガースポットに変身した。先輩の目が、大きく見開いた。見られてしまった――パティシエは、唇を噛み締めながら、聖騎士を睨みつけた。
「ああ、よかった、やっぱり美里ちゃんがシュガースポットだったんだ」
剣をドツ、と、先輩の足に突き刺した。ぎゃあ、と悲鳴が上がって、シュガースポットは反射的に叫んだ。
「もういいでしょう、離して下さい。別にその人がどうなった所で、私には何にも――」
鉄の意志で、シュガースポットは悲鳴を上げるのを堪えた。努めて冷徹な声を作った。
「
聖騎士メアの前では、ありとあらゆる嘘が暴かれる。恋心も、例外なく。
「私も、そうだった、大事だった、どんなことがあっても、何をしたって、あの人が隣に居ればよかったの。ねえ、わかるでしょ?」
「やめてください」
「スターカッターは、御剣隆二は、私の誰より大事な人だった」
「知らなかったんです! スターカッターがあなたの――――」
「全部なくなっちゃったのよ、全部。全部。私にとって、たった一つの、大事なものが」
聖騎士メアの瞳に、既に正気などひとかけらも残っていなかった。
あるのは、絶望と、怒りだ。ないまぜになったそれらが、悪意となって煮詰まって、シュガースポットの大切な人を、殺めようとしている。
「私を殺していいですから! お願い!」
できることは、これだけだった。懇願しかなかった。里美郷美里にとって、唯一すがるべき、たった一人の大事な人は、命と引き換えにしても、惜しくないものだった。
「――ああ、良かった、本心から、そう思ってくれてるのね」
にちゃり、と浮かんだその笑みを、何と呼べばいいだろう。シュガースポットは、初めて本物の『狂気』を見た。
☆聖騎士メア
どん、と、抱えていたその人を、突き飛ばし、その首めがけて、剣を振り上げた。
眼前のシュガースポットの顔は、驚くほどに心当たりがある。昨日、自分が抱いたその絶望を、暗闇が心を塗りつぶしていく感触を。
与えずには居られなかった、それが済んでからじゃないと、殺したって殺し足りない。
「ごめんね先輩、死んでね」
申し訳ないと思う、かわいそうだと思う、けれど――正義なんてものは、この世にないのだから。
理不尽に死んで、絶望になってくれ。
「お前が」
聖騎士メアの剣が――突き飛ばした男子生徒の、
魔女帽の魔法少女になっていた。アイムマイムになっていた。
高さを、身長の高い好夢の首に合わせた分、差し引かれて、剣が空を切った。
聖騎士メアの、最も身近に、最も側に、そんな人が居たのだから。
「お前が死ね」
アイムマイムは、倒れながら、鏡を聖騎士メアに向けた。
聖騎士メアは、くるりと、黒い聖剣を自分の喉に向けて、自分の意志とは関係なく、突き刺した。
――――本当に、馬鹿みたい。どこまで似てるのよ、私達。