魔法少女育成計画 -Fratricide SideⅡ- 作:天都ダム∈(・ω・)∋
☆プリマステラ
ユミコエルの遺体は、本人が事前に遺した通りの場所に埋葬されることになった。
墓碑には、笹井七琴、と書かれた名前の横に、弦矢弓子、と刻んである。
「――先生」
……三日月光は、生き延びた。階段から飛び降りた直後、助けてくれた人が居たからだ――その人も、多分もう死んでいるのだろうが。
「まさか、大量の鳩に捕まって空を飛ぶなんて経験、するとは思わなかったわ」
隣に座って、手を合わせていた木の実が、ふう、と息を吐く。
「4989って魔法少女も、死んじゃったの?」
「おそらくは。ファムの機能が正常に戻ったら、色々教えてくれるそうだけど」
「ふうん……」
二人は立ち上がると、顔を見合わせた。
「理香子も……連れて、来たかったね」
木の実のつぶやきに、光はええ、と相槌を返した。
「本当に、無茶ばっかりするから……私が、無事だったっていうのに」
あの状況で、それでも役割を遂行しきった烈風のリカ。代償は、あまりに大きかった。
「……また来るね、先生」
「ええ、また」
手を繋いで、光と木の実は、その場を離れていく。また、日常に戻るために。
☆ピスタール
「おかわり!」
「食べ過ぎ! 何杯目よこれで」
「えー、怪我人なんだから、沢山食べて沢山治さないといけないんじゃんかーっ!」
両手両足にギプスをつけて、全身包帯ぐるぐる巻きの理香子は、カチカチと歯を鳴らして、もっとよこせとねだって来る。
病室には、理香子と、木の実と、光以外には、誰もいない。
「その、理香子、それで、足は……」
「あー、もう無理だって。いやー、参ったね」
全身複雑骨折と、内臓破裂で、生きていたのは奇跡としか言いようがなかったらしい。代償として、下半身はもう二度と動かない、と言われていたが、当の理香子は、少なくとも光達の前では、大して気にした様子もなさそうだった。
「ま、なるようになるっしょ、でもさー、手が動かないともう何事もやりづらくてやりづらくて、迷惑かけるねー」
「別にいいけどね、そんなことは」
家族のことなんだから、と、光は呟いた。
「…………」
家族。そう、家族だ。
木の実の頭に、今もこびりついているのは、ライムマイン、と呼ばれていた魔法少女の記憶だった。
メモリアキッスの魔法によって与えられたそれは、一言で言うなら、人の生き方ではなかった。
ライムマインという少女は、徹頭徹尾、自分と言うものが存在しなかった。一人で二人を演じていた少女は、まず、『この人間ならこう動くだろう』という考えをしてから、それを実行に移していた。この『一人で二人の少女』と呼べる人間の根幹にあったものは、ただ『人格をエミュレートするだけの装置』だった。
だから、『彼女』という存在を見たことがない、彼女の本質を、誰も知らない。
そして、『彼女』は、|本当はそれを誰かに知ってほしいと望んでいた《、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、》。本当の自分を、誰かに見つけてほしいと願っていた。
木の実が傲慢にも、何かを望んでいいのであれば、それがかなってくれたら、と思う。
そして――――
「あのね」
知ってほしい、という気持ちは、突き詰めれば、感情を共有してほしい、ということだ。
嬉しいことは勿論、辛いことも、悲しいことも。理解し合う、というのは、そういうことだ。
「私、あの時、施設に来た、あの人を――――」
軽蔑されても、嫌われても、この心の枷がある限り、木下木の実は、きっと二人と本当の家族になれないから。
その罪の告白を、理香子と光は、最後まで聞いてくれた。その上で、こういった。
「
「――え?」
「だって、誤魔化したの私と光だもん」
理香子も、なんてこと無いように。
「明らかに様子がおかしいのに、気づかないわけないじゃない。馬鹿ね」
「なん、で……そん、な」
一人で、抱えていたと思っていた。重すぎる罪を、背負っていたと思っていた。
違った……最初から、二人はそれを、持っていてくれていた。
「世間は、許してくれないでしょうけど」
光は、木の実の手をとった。
「私達だけは許すよ、当たり前じゃん。だって、家族だもん」
ひっく、と自然に喉から湧き出てくる衝動に、抗えなかった。
結局、光のことも、理香子のことも、理解できていなかった。
それが――それなのに、許されないはずのことなのに、こんなにも嬉しいだなんて。
泣いて、泣いて、泣いて。この日、木下木の実は、本当の家族を手に入れた。
☆アイムマイム
魔女帽を被った魔法少女、アイムマイムは、夜の街を見下ろしていた。
隣に寄り添う、パティシエ風の魔法少女は、その瞳をさみしげに見つめていた。
「シュガースポット」
「はい」
「行こうか」
「ええ」
二人の魔法少女は、手を取り合って、夜の帳へ消えていく。
大切だと思っていた物が、理解していたと思っていた物が、壊れてしまった世界で。
今、隣にいる人の手だけは離したくないと、失わないように――――それが何よりも罪深いと、わかっていながら。
◆ ◆
「私に好夢ちゃんを殺させないで!」
アイムマイムが生きているのは、結局、そういう事だ。
最後の最後まで、ライムマインは、相間好夢を愛していた。
家族を失った。日常を失った。大切な人を失った。
これは、ただ失うだけの物語。
それでも、少女たちは続いていく。
少女たちの世界だけは、続いていく。