この素晴らしい錬金術師に祝福を   作:リアム・フォン・スミス

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 短くてすいません。


白銀の刀

「なあ、まだなのか?」

「もう少し、っていうか乙女にトイレまだかなんて聞かないでください。デリカシーなさすぎますよ」

「へいへい」

 

 悪霊を見に行きたいと言うと、先にトイレに行ってからと言われたので、トイレへと寄っていた。

 

「あの……」

「なんだ」

「……いえ、いるか確認しただけです」

「そうか」

「勝手にどっか行ったら許しませんからね」

「行かねえよ」

 

 怖くて逃げるとしたら、めぐみんを抱えてだ。

 

「……ちょっと恥ずかしいので、大きめの声で歌でも歌ってくれません?」

「あいにく、真夜中のトイレの扉の前で歌う趣味なんてないんで。それにこれよりも恥ずかしいことなんてこれまでもあったし、これからもあるぞ?」

「普段と変わらないトーンで言わないでください。それと、これからはあるなんて思わないでください」

「同じベッドに同衾しているんだからな、枕を高くして眠れると思うなよ?」

「対象を相手にした刺客みたいなこと言わないでください! させませんからね、アークウィザードの筋力舐めないでください」

「そっちこそ国家錬金術師の筋力舐めるなよ。それに日々の筋トレのお陰で俺の筋力はダクネスに匹敵しつつあるんだぞ」

「それは、……ヤバイですね」

 

 この異世界に来てからとだが、俺は毎夜なにもなくても仕事の後でも筋トレを欠かさないようにしている。

 この世界は弱肉強食。モンスターだけでなく、野盗やチンピラなんかも突っかかってくる。

 ステータスがレベルアップにより高くなろうが、見てくれは変わらない。ならば、少しでも筋肉をつけて、無駄な戦いは避けれるようにする。

 

「お待たせしました。さあ部屋へ戻りましょう」

「‥…待て」

「どうしました? セツナも用は済ませたでしょう」

「悪霊を見にいくぞ」

「いやです! なんで自分からそんな所へ行かなきゃならないんですか!」

「さっき言っただろう。試したいことがあると」

「こ、怖くないんですか!? 悪霊ですよ! あの、フラーってして、ブワーってしてる、悪霊ですよ!」

 

 怯えて語彙力皆無のめぐみん可愛い。

 

「なにを伝えたいのかわからんぞめぐみん」

「なんでわからないのですか! ほら、さっさと部屋へ戻りま、す……よ」

「どうしたんだ?」

 

 めぐみんが目を見開いて震えながら指をさす。

 

「…………」

「…………」

 

 そこにはこちらを覗き見る数十体の人形が。

 

「…………」

「……まじか」

「逃げますよ!」

「いや、逃げん」

「えっ、ちょっと……!」

 

 俺はめぐみんを脇に抱えると、持ってきておいた刀を抜く。

 

「その剣はなんでしょうか? どこか見に覚えがあるのですが」

「気のせいだろ」

 

 めぐみんには悪いが、気のせいではない。

 この刀、銘は無いが、ぱっと見一級品だ。色は白銀、刃からは冷気を漏らしていて、恐らく生物や無機物以外にも、魔法すらも切ることが出来るだろう。

 薄々わかるだろうが、原材料は冬将軍の持っていた刀だ。折れていたため、地中から抽出した純度百度の銀を混ぜ合わせ、特殊合金の刀に仕上げた。

 魔を祓うと言われる銀に、精霊という不思議な存在からできた刀、もしかしたら新たな切り札になるかもしれない。

 

「セツナ! 向かうのはいいんですが、私を下ろしてもらえないでしょうか!? 人ひとり抱えて戦うのは難しいでしょう!?」

「余裕のよっちゃん。つうか、この刀見せてからずっと霊達に逃げられてるんだが、どうしよう」

「恐らく、その尋常じゃ無いほど濃い魔力が溢れているからではありませんか? ほら、今も溢れているではないですか」

 

 めぐみんが言うには、この刀は魔力が込められすぎている。そしてそれが溢れている。対して強い悪霊でもないから逃げる、ということだ。

 

「それじゃあ実験にならないんだよなあ」

「いいじゃないですか。それにその刀なら悪霊も斬れると思いますよ。なんですかその悪魔でも封印したかのような魔力の多さは」

「はは、まあ明日にでも説明するさ」

「そうですか」

 

 妙に勘の鋭いコイツやカズマ達には長く隠し続けることはできないだろう。明日折を見て説明して、怒られそうになったら逃げるとしよう。

 

「では部屋へ戻りましょう。まだ夜も冷えることですし」

「そうだな」


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