真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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本当に書けましたー。

さぁ、どうぞ。

こちらではこれが百話です! めでたい!


78,託す者

 俺と流琉が食事を終えた頃に、華琳と樟夏に首根っこを掴まれながら曹嵩様は戻ってきた。

「久しぶりに家族が揃ったんだし、三人で食事でもしてきたらよかったのに」

「それは私も提案したんだけど、二人が許してくれなくて」

 俺の提案にいち早く返事をしてくれたのは曹嵩様で、華琳と樟夏は俺と曹嵩様を笑顔で睨みつける。

「さっきからこの通りなのよ、困ったものでしょう?」

「誰の所為ですか! 誰の!」

「それに父様はこの後私と話し合いをするのだから、席について食事をしている暇なんてないわ」

 再び樟夏の怒鳴り声が響き、流琉は華琳の言葉を聞いてすぐに厨房へと入っていく。多分、三人で話しながらでもつまめるような軽食でも用意してくれるんだろう。

「あ、流琉さん。

 せっかくですが、私の分は不要ですので」

「あっ、はい。わかりました!」

 樟夏の言葉にすぐさま流琉は応え、料理を作っていく。

 まぁ、話し合い自体は華琳がいれば十分だし、仮に説教やら何やらがあってもそれは金庫番の樟夏よりも華琳の方が適任だろう。

が、食事を食べていないであろう樟夏が食事を断るということは・・・

「な、何ですか。兄者。

 その意味深な笑みは」

「いや、何も。

 樟夏と白蓮殿は仲がいいなと思っただけだが?」

「な、何故、白蓮が出てくるんです?!」

「言葉にしなければわからないかしら? 樟夏」

「もう、樟ちゃんもらぶらぶねぇ」

「あんたら、黙れ!」

 おもわず樟夏のことを微笑ましく見守っていたのは俺だけではなく、華琳と曹嵩様も同じだったらしい。

「初孫は女の子がいいわねぇ~」

「本気で黙れ!!」

 もはや慣れつつあるこのやり取りを聞きながら、俺は華琳に裾を引かれた。

「冬雲、今回の話し合いにはあなたも出席してもらうわ。

 休みのあなたに仕事をさせたくはないけれど、あなたは大人しく休んでいなかったようだし、自業自得もね。それにあれが勝手にやっていた慈善活動は、あなたの知識が役に立つことでしょう」

 多少の嫌味を含みながら、俺は華琳の言葉を頷くにとどめる。

 公式の場ではまともってことを考えると、華琳はお父さんをやっている時の曹嵩様に会ってほしかったんだろうなぁ。

「華琳様ー!

 軽いものではありますが、これをどうぞ」

「ありがとう、流琉。

 あなたは本当に気が利くわね」

 その場で流琉と樟夏と別れ、俺達は華琳の執務室へと向かった。

 

 

「華琳ちゃんの執務室は綺麗ねー。

 私がお掃除する余地なんて全くないわ」

「いいから、その辺にさっさと座りなさい」

 華琳の部屋のあちこちを見渡す曹嵩様に椅子を準備し、華琳達が食事をしやすいように脇に置かれた机を持ってくる。

「あら、ごめんなさいねぇ」

「いえいえ」

 感謝を告げられ、俺は改めて姿勢を正し、名乗り上げる。

「そして、いまさらですがご挨拶を。

 私の名は曹子孝、真名を冬雲と申します。

 あなたの娘であり、この地の太守。そして、いずれはこの大陸の覇王となる方に仕える者です」

 そこで一拍おいて、俺は華琳をわずかに覗き見る。

 その顔は俺がすることを察しているのかやや呆れ顔で、肩をすくめてから溜息を零した。

「あら、大事なことを忘れてるわよ。冬雲ちゃん」

 だが、俺が口にするよりも早く、曹嵩様は言葉をさし込んできた。

「華琳ちゃんのことをとーっても愛してる一人の男、でしょ?」

「はい」

 お見通しだったらしく、俺は笑って曹嵩様の言葉に頷いた。

「まぁ、その辺りのことはまた後日にしましょ。華琳ちゃんが何だか怖い空気だしてるしね。

 それと私の真名も渡しておくわね、万年の青って書いて『万年青(オモト)』っていうの。万年青ちゃんとか、媽媽とか、好きなように読んで頂戴」

「はい、万年青様」

「硬いわねぇ~。

 まっ、そこが冬雲ちゃんの良い所なのかもしれないわね」

「もう、本題に入っていいかしら?」

 俺達の会話の最中は食事を口にして苛々を誤魔化していたらしい華琳は、いつまでも続きそうな俺達の会話を断ち切り、椅子から立ち上がって何も書かれていない新しい書簡を取りだした。

「父様が無断で行っていた孤児を保護する慈善活動は、大変素晴らしいことだと思うわ。

 けれど、そうした活動は父様の資金が尽きた時に活動が停止する恐れがある」

「そうね。

 私が勝手に考えて行っていたことだもの、それは承知の上よ」

「けれど、それでは困るのよ。

 今、この大陸に孤児が溢れているのだから、この活動がこれっきりで終わってはいけない。

 父様、私は娘としてではなく、太守としてこの活動に援助を申し出るわ」

二人のやり取りに俺が大人しく書記を務めながら、黙って聞いていく。

「それに極めて遺憾だけど、娘としては認められないほどの変態的な行動であっても・・・」

「酷いわねぇ、私なりにいっぱい考えた末の答えなのに」

「変態的な行動をする人物であっても!

人格的・子を育てた経験や知識という点において適任者であると認めざる得ない・・・!!」

「そんなに言い難そうにすることないじゃない。

 大丈夫、媽媽は華琳ちゃんが媽媽のこと大好きだってことはよく知ってるから」

 瞬間、華琳の中で何かが切れる音が聞こえた気がした。

「うがーーーー!!」

「おおおお、落ち着け! 華琳!!

 わかるから! 俺も実の親にこんなこと言われたらキレるから!」

「はーなーしーなーさーいーーー!!

 その馬鹿を真っ二つにーーー!!」

 叫びながら暴れ出そうとする華琳を必死に抑え込み、どうにか落ち着かせる。

「・・・冬雲、父に父らしくしてほしいと願うことは娘として間違っているの?」

「いや、間違ってないけど・・・ 万年青様にも万年青様の考えがあるからな?」

「と~うん~~」

 華琳が泣きついた?!

 普段では絶対ありえない行動に驚きを隠せないが、俺もただ黙って華琳を抱きとめる。

「思い出すわねぇ。

 普段気丈だった妻も、時折こうした姿を私にだけ見せてくれたものよ」

 お願いです、もう黙っていてください。

 元凶である万年青様が口にするのは流石にまずいかと。

「援助の申し出は受けてくださるということでよろしいでしょうか? 万年青様」

「えぇ、勿論。

 むしろありがたいわぁ」

 とりあえず、援助の申し入れは受けてくれたので安心しつつ、今度は俺の独断ではあるが、一つお願いしてみることにした。

「それとおそらく今後、こちらが援助することで活動が有名になる可能性を考え、人材の補強が必要になるのではないかと思います」

「まぁ、そうねぇ。

 屋敷は無駄に広いから子どもが増えるのは問題ないけれど、私の目が行き届かなくなる可能性はあるかもしれないわ」

「私の知り合いに、つい最近一人娘と共に陳留に来たばかりの女性がいるのですが、よければそちらで働かせてはいただけないでしょうか?」

 紫苑殿ならどこでも働けるだろうが、璃々ちゃんに付きっきりでいることは難しくなる。それならば万年青様の孤児院で働き、璃々ちゃんともいられる環境であった方がいいだろう。

「それはいいわねぇ!

 娘さんにもお友達になれる子もたくさんいるし、一人増えただけでも仕事は楽になるわ。まぁ、仕事というよりは生き甲斐なのだけど」

「あなたは一体、個人の財産でどれぐらいの子を養ってたのよ・・・」

「大体、五十人ぐらいかしらね~。

 昼間に仕事をする親が子どもを一時的に預けることを考えると、もっとかしら?

 それに体の弱ったおじいちゃん達が子ども達にいろいろと教えてくれて、助かっちゃった」

 その言葉には華琳と共に唖然とする。

「いや、確かにやろうと思ってたけど・・・」

「あなたの言っていた学校を、まさか父が勝手にやるなんて・・・」

 俺達が今後、それこそ大陸を統一した後に行おうとしていたことを万年青様は独断で、しかも個人の財産で行っていたことに驚きを隠せなかった。

「だって、二人ともなかなか帰ってきてくれないから媽媽寂しくて・・・」

 涙を拭う仕草をする万年青様に、流石に俺も華琳の脇を突く。

「華琳、たまには帰ってやれよ・・・」

「出迎えるのがこの姿じゃなければ考えるわ」

「媽媽ったら寂しくて寂しくて・・・」

「華琳、こっち見てるぞ」

「相手をしたら、つけあがるわよ」

 ちらちらとこちらを窺う万年青様を、華琳はバッサリと斬り捨てる。

「さて、冬雲。あなたはもうこんな時間だから、休みなさい。

 私と父様は今後、『公務』となる慈善活動についての話し合いを行うわ」

 その言葉と共に作られた笑顔は、どことなく勝ち誇ったように見えたのは俺の気のせいじゃない筈だ。

「え?

 まさか華琳ちゃん、それってお仕事だから媽媽がお父さんにならなくちゃいけないってことじゃないよね?」

「これから年に数度、慈善活動を行っている責任者として民の前に立ってもらうわよ。父様。

 今夜はその大事な話し合いを行いましょう。無論、お父さんの格好でね」

 俺はそのやり取りを背中に聞きながら、静かに執務室を出る。

 華琳が個人の活動から公の活動に変えようとしたのは、これも狙いの一つだったのか。

「いーーーーやーーーーーー!

 私は媽媽でいたいんだーーー!!」

「戯言は男の格好をしてからなら、いくらでも聞きますよ。父様」

「華琳ちゃんのいじわる!」

「いーから、戻れや」

 でも、これも親子の時間だよな。

 

 

 

 華琳の言葉に従ってあの後俺は寝台へと入り、すぐさま眠りに落ちた。

 が、いつもより寝台に入る時間が早かったのもあり、俺はまだ月が高いうちに目が覚めてしまった。

「月が綺麗だなぁ」

 城壁へと向かいながら、美しく輝く月を見上げる。

 けれど、月が美しければ美しいほど、俺はあの日を思い出す。

「華琳の泣き顔を見たから、かな?」

 かつてとはまた種類の違った泣き顔を思い出して、わずかに笑う。

「この世界に来れて、よかったなぁ」

 皆に再び会えたから、だけじゃない。

 白陽達に受け入れて貰えたこと、あの時出来なかったことが出来るようになったこと、知らなかったことを知れたこと、救えなかった人を救えたこと。嬉しいことはたくさんあった。

 だから俺は今、ここに来れてよかったと素直に言える。

「月が好きなのかい? 冬雲君」

 城壁の上には先客がいて、月に照らされた金の髪は一瞬樟夏かと見間違えそうになってしまった。

「万年青様、ですよね?」

 そこにいたのは、男性の格好をした万年青様だった。

「そんな疑わなくたっていいじゃないか。

 あの後、僕が華琳に着替えさせられたのは想像出来ていただろう?」

「いや、そうですけど・・・

 なんだか違和感が・・・」

 女性の姿に違和感がなかったからなのか、それともあの姿で見慣れてしまったからなのか、違和感がどうしても付きまとってしまう。

「まぁ、僕はそうでもいいんだけどね。

 むしろ、あちらの方が僕も楽だし、この格好だとどうしても曹嵩・・・ いや、曹騰の息子であることを意識してしまうからね。肩が凝るんだよ」

 肩をすくめながら告げられる万年青様は、溜息を吐いてしまう。

「その・・・ 曹騰様との仲はよろしくなかったのですか?」

「うーん・・・

 答えにくいことを聞くんだね、冬雲君」

「いや、その・・・ すいません」

「かまわないさ。

 僕らは父と息子としての関係は悪くなかった。いや、その点においてはむしろ父は良き理解者だったよ。ただ僕は、後継者としては失格だったからね。何も言わなかったけれど、父は王允様と同様に失望していたんだろうね」

 どこか遠くへと、街よりも遠くへと視線を伸ばしていく万年青様は俺の知らない過去を見ているのだろう。

「冬雲君。僕はね、才能がなかったんだよ。

 人に言われたことをこなすことで手一杯な凡人。けど、父と王允様が望む後継者はその程度じゃ駄目だった。洛陽にいた時は父達が望む才能なんて理解出来なかったし、いつかは僕も届くんじゃないかとすら思っていた」

 俺はその言葉を聞いて、万年青様はどことなく自分に似ていると感じてしまった。

 生まれではない。環境でもない。

 ただ人に言われたことをこなすのに手一杯になってしまうその才能の器を、酷く近しく感じてしまった。

「まぁ、もっとも華琳と樟夏が生まれてから、その意味がわかったけどね。

 幼い頃から華琳の眼は、生まれた育った土地だけには留まってなんかいなかった。その先を、それどころか将来すらも見据えて行動しだす姿は本当に驚かされたものだった。

 勿論、樟夏に対してだってそう。

 あの子は華琳の影に隠れてしまって自信を持つことが出来なかった。けれど、その才能を知って、ずっと一途に恋をしていた女の子のことを僕は知ってる。そして、樟夏ならその子もきっと救えるだろう」

 まるで宝物を一つずつ自慢するように、万年青様の口は止まらない。

 愛おしそうに、大切そうに、自分よりも才に溢れた子ども達に嫉妬することもなく、ただ愛しているのだと、それだけで伝わってくるようだった。

「娘と息子も勿論大切だったけど、それ以上に僕を変えてくれたのは妻との出会いだった。

 鮮烈だったよ、彼女との出会いは。

 洛陽で腐りかけていた僕が、生まれて初めて必死になったことは彼女を口説くことだったぐらいだ」

 おどけながらもとんでもないことを口にし、万年青様は楽しそうに笑う。

「冬雲君、きっと君もそうだったんだろう?

 何せ、華琳の瞳と我の強さは母譲りだから」

「えぇ、まぁ・・・」

「でも、弱くもある。

 そう言う所は、どうか君が守ってあげてほしい」

 優しい言葉だった。

 とても優しい、父の言葉だった。

「ねぇ、冬雲君。

 僕は英雄の後継者にはなれなかった。けれど、一人の女性を全身全霊をかけて愛しきったと断言できる。

 その愛しきった結果、華琳と樟夏という子に恵まれた」

 万年青様はそこで一度言葉を区切り、変わらない優しい瞳で俺を見た。

「僕は次代を託すなんて御大層なことを言えるほど、何かを成せた男じゃない。

 だけど、もし・・・ もし、僕が一つお願いできることがあるのなら、どうか華琳を君に任せてもいいかな?

 父が望んで、華琳が受け取ったその想いと共に歩んであげてくれないか?」

 その言葉はとても重く、責任は重大。

 一度受け取ってしまえば、もう投げ出すことも出来ない。

 けれど、俺は・・・

「喜んで。

 何せ、最愛の人と歩みきった男の義理の息子ですから」

「そうか・・・ ありがとう」

 そうして俺と万年青様は盃を交わしあった。

 

 

 

 後日、それを覗き見ていた黒陽により将達に詳細を伝えられ、この時の誓いを『青雲秋月(セイウンシュウゲツ)の誓い』と後世に残されることとなる。

 だが、普段見られることのない万年青の姿により、多くの者は『普段からそうしていればいいのに』という言葉が絶えなかったという。

 




明日と明後日、用事があるので感想返信が遅れます。
そして、おそらく来週は白を投稿します。

以降は今回のことで追加説明

鳳華(ホウカ)
 華琳と樟夏の母であり、万年青の妻。
 名の由来はラナンキュラスの和名・花金鳳花から来ており、花言葉は「晴れやかな魅力・あなたの魅力に目を奪われる

万年青(オモト)
 華琳と樟夏の父。
 名の由来はオモトという植物から来ている。花言葉は多く、その中の一つに『母性の愛』がある。

【青雲秋月】
 胸中に穢れがなく、清廉潔白な例え

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