真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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書けましたー・・・

明日は用事があるので、明日の夜まで感想返信等が遅れます。


 雲伴わぬ白き陽と 【黒陽視点】

 しば(・・)れる朝に、司馬(・・)家の白陽が()られている。

 勿論、白陽を縛ったのは私であり、今は司馬家にある私の私室で鋭い目のまま大人しく座っていてくれる。

「ふふっ、ふ、ふふふ・・・」

 私は脳裏に浮かんだ冗談の面白さに笑いが堪えきれず、おもわず手近にあった壁を叩いてしまった。

「いや、黒陽姉様。

 何を考えたかは想像できるけど、少しも面白くないからね?

 それから、白陽姉様を縄で縛りつけるのは流石にやり過ぎだと思うんだけど・・・」

「ていうか、黒陽姉様って冗談の才能ないよねー。

 紅陽姉様に少し同意だけど、副作用のない薬以外で白陽姉様を押さえろって言われたら私も縄を使うと思うから何も言わない方向で」

「うーん・・・ 大変言い難いんですけど、お姉様の笑いのツボって浅すぎるんですよね~。

 白陽姉様については・・・ 今回はちょっと仕方ないんじゃないんですか~?」

 起きてきたらしい紅陽と灰陽、藍陽から冗談に対する厳しい意見を貰い、わざとらしく天井を仰いでみる。

 白陽については理解を示してくれている辺り、この子達も華琳様からしっかり説明をうけているようね。

「正直恥ずかしいとは思っていないけれど、妹達とこの楽しさを共用できないのは少し寂しいわね」

「ほ、ほら! 黒陽姉様! 緑陽がちゃんと笑ってるみたいだから大丈夫だって!!」

 さらに大袈裟に首を振ってみせれば、紅陽が三人の影に隠れてお腹を抱えて笑っていた緑陽を示してくれる。

「いえ紅陽姉様、緑ちゃんは・・・」

「冗談じゃなくて、黒陽姉様がお腹抱えて笑ってた方に笑ってるんだって。

 こんな黒陽姉様これまで見ることなんてなかったし、笑いのツボが浅いことだって最近発覚したことだから無理ないけどねー」

 灰陽の言葉には少し耳が痛いけれど、それは仕方ないこと。

 私は私のことしかやってこず、妹達に対する想いも、趣味も、性癖も、ありとあらゆることを隠してきた。

 冬雲様が来て白陽が変わり、華琳様も改めて己の進む道を明確に指し示し、多くの華が咲き誇るようになった今、周囲が変わっていくのと同時に私もまた変化した。

 いいえ、変化せざるえなかった、というのが正確なのかもしれない。

「あ、あの黒姉様がご自身で口にしたくだらない冗談で大笑いしていらっしゃるとか・・・! 珍しいことは勿論ですし、それらを堪えるために壁を叩いているし・・・!!」

 けれど、肩を震わせて四つん這いになってまで笑われるほどだったかしら?

 仕事が仕事だから姉妹全員が揃うことは滅多にないけれど、こうして笑い合えることはよいことだと思って、今回は見逃してあげましょう。

「そんなことはどうでもいいので私を解放してください私は冬雲様の元に早急に向かわなければなりません今頃冬雲様は起床され軽い身支度をされた後中庭へと向かわれ軽い運動を開始しそれを終えた後朝食となりますそしてそれらを補佐するために私は存在し他の誰にも譲ることは出来ない重要な任務いいからとっとと解放しなさい」

 言葉が繋がりすぎていて途中で何を言っているかわからなかったけれど、この子が息継ぎなしで言いきることなんて冬雲様のこと以外ありえない。

 正直白陽のやっていることは補佐官の領分を大幅に超えているし、ここまでくると白陣営の間で飛び交っている『すとーかー』という単語に意味が類似してくる。

 隠密という仕事がそもそもすとーかーに似ているし、個人を日常的に付き纏うという面において私も白陽のことを責めることは出来ない。

「それは駄目よ、白陽。

 今日は冬雲様の休日であり、その補佐官であるあなたもまた休日なのだから」

「なればこそ、私の休日は私が休めるように使うべきです。

 私の心安らぐ時間も、体を休めることが出来る場所はあの方のお傍であり、傍に在ることなのです」

 これには私のみならず後方にいた紅陽達からも溜息が聞こえ、二人分の気配が遠ざかっていく。普通なら呆れてどこかと行ったと取るんでしょうけど、単に今日の食事当番である紅陽と藍陽が食事を用意しにその場を離れただけの事。きっと、この状態(縛られている)の白陽でも食べやすい料理を作ってくれることだろう。

「それはよくわかっているわ。

 隠密をしている時も、文官として控えている時も、冬雲様と並ぶあなたの顔を見れば誰もが理解するでしょう。

 けれどだからこそ、華琳様は今回の休日をあなたと冬雲様が別々にとるように厳命した」

 言葉の全てを理解できるようにゆっくりと言いながら、白陽に優しく微笑みかける。

「そして、厳命された理由があなたにわかるかしら? 白陽」

 こんなことを問われても白陽が答えられるわけがなく、わかる筈がない。

 答えを求めるように灰陽と緑陽の方も振り向くけれど、二人はどうしてか同時に視線を逸らして、私と目を合せてくれなかった。

 ふふっ、お姉ちゃんだって傷つくのよ? 悲しくって泣いちゃうわ。

 なんて柄でもないことを思いながら、可愛い妹達へと笑みをこぼす。

「まずは、華琳様のとっても可愛らしい理由から教えてあげましょう。

 補佐官という立場故に、あなたと冬雲様は一緒に居過ぎる。それゆえの嫉妬よ」

 華琳様自らそう口にした時、私は人目を憚ることなく破顔してしまった。

 冬雲様が訪れる前から存在していた本能的な『女』ではなく、存在すら怪しかった『乙女』な華琳様が新鮮で、ほんのわずかに覗かせた嫉妬の顔が乙女という新しい一面を彩っていた。

「あれは・・・ 素晴らしかったわ」

「黒陽姉様ー? 話、逸れてるよー?」

 私が恍惚としている間に紅陽達が食事を作って戻ってきて、甲斐甲斐しく白陽に食事を運んでいる。私も点心をいくつか摘みつつ、話を続けようと改めて白陽を見れば、白陽も座った眼をこちらに向けてくれる。

 本当にあの頃とは比べ物にならないほど表情豊かになった白陽におもわず笑えば、さらに視線が厳しくなってしまった。

「それで姉さん、嫉妬以外に何か理由がおありなのですか?

 まさか華琳様ともあろう方が嫉妬のみで私を任務から外し、半ば監禁のような休日を送らせるようなことはなさいませんよね?」

「ふふふ、それはそれで非常に面白いけれど、勿論他にも理由があるわよ。

 冬雲様が他の方との用事がない限り、あなたはずっと冬雲様にべったりであなたが休みを取らないこと」

「それは先程も言った筈です。私の休みは・・・」

 白陽が何かを言いかけるけれど、私は言葉を止めることなく続けた。

「そして、冬雲様ご自身が休まなくなるということ」

 私の言葉に白陽が驚いたように目を開くけれど、自覚してないようだから続けることにする。

「あの方は暇な時間を見つけては政に関わることは勿論、行事や文化の取り入れ作業を行い、それらの作業を完全に補佐するあなたが常に侍ってしまっている。それによって冬雲様は自ら仕事を作り、増やし、休みを休みとして利用しない。

 今回はそのことが問題視され、あなたを押さえ、可能なら説得し、二人がそれぞれで休みを取るように指示された」

 彼の功績は武勇という面ばかりが目立ってしまいがちだが、火葬や水の濾過装置、娯楽や食事、服飾に至るまで幅広い。勿論、作成や実行までの全ての行程で彼自身が担っているわけではなく、腕のいい職人や料理人、民などの協力は不可欠だった。

 行事や文化、娯楽を増やすことは確かに重要なことであり、そこから生まれる商売が経済を回し、街や国を発展させていく。

 けれど、その中心となっている人物が休みもとらずに働きつくし、もしものことがあったらどうなるか? 当然計画は倒れ、仕組みは崩壊し、全ては成り立たなくなってしまう。

「体を休ませるための休日を利用して始めたことで体を壊しては、元も子もないでしょう」

「うぅ・・・」

『あ~・・・』

 白陽も多少は自覚があったようでうなだれてしまい、妹達は皆納得したように頷いている。

 そもそも華琳様を始めとした将の多くが『趣味が仕事』の傾向が強く、それどころか冬雲様によって趣味を仕事に出来てしまったという事態すら起こり、生活するため・生きるためにしていた仕事が生き甲斐へと変わっていく者が増えている。

 本来歓迎すべきことにも拘らず、誰もが皆勤勉すぎて最早苦笑いしか浮かべることが出来なかった。

「だから白陽、今日はあなたも大人しく休んで頂戴。

 今日の冬雲様には護衛こそつかないけれど、休みであることは多くの者に広めてあるから大丈夫よ」

「はい・・・

 それならば、心配は無用ですね・・・」

 白陽は頭を下げて落ち込み、まるで飼い主に会いたくても会えない犬の様・・・

「黒姉様、疑似犬耳はここに」

「気が利くわね、緑陽。

 これを早速白陽に・・・」

 緑陽が懐から出してくれた犬の耳によく似た髪飾りを白陽につけると、違和感なくそこに収まり、ただでさえ可愛らしい白陽の見た目がさらに可愛らしくなる。

「これは・・・

 すぐに華琳様に採用してもらわなければならないわね」

 付け加えるなら、耳だけでなく尾などもあれば尚いいかもしれない。獣達をよく観察することも今後進言することを検討するよう頭の隅に置いておく。

「いやいやいや! 黒陽姉様は落ち込んでる白陽姉様で遊ばない! 華琳様に直接進言するって、そもそも何に採用させる気なの!?」

「紅陽、私は遊んでなどいないわ。落ち込んでいる白陽を励まして、ついでに可愛らしい姿にしただけよ。

 それともあなたは、白陽のこの姿が可愛くないとでも言うのかしら?」

 紅陽の言及には答えず、振り返った際に紅陽の隣に立つ藍陽が熱心に何かを書き綴っているのが見えたけれど、それは触れないでいた方が私への利益が大きそうね。

「それは勿論可愛いけど!

 てか、緑陽も何を出してるの?! そんなもの誰から貰っ・・・ たのはいうまでもなく沙和ちゃんでしょう! あの子、服飾の才能がずば抜けてるのに方向性がいろいろとおかしいから!!」

 紅陽が叫ぶ隣でゆっくり首を振って、自分のことを指差す藍陽に私は紅陽にばれないように手信号を送って、その場から離脱させる。

「いいえ、紅姉様。

 これらは冬雲様発案の子ども用の遊戯のために作られた物を沙和様や千里さんの意見の元に改良を加え、成人した者達もつけられ、なおかつ元にした獣に似るようこだわり尽くした逸品なのです」

「そういうことを聞いてるんじゃなくて・・・! ていうか、逃げない!!」

 緑陽も藍陽が何をするのか察したようでわざとらしく紅陽から逃亡を開始し、藍陽が沙和さんの元に行く時間を稼ぐことにしたようだ。

 今後も疑似耳の広がりに期待が持てそうね。

「黒陽姉様ー、私もそろそろやりたい研究あるから戻るよ?

 風ちゃんにいろいろ作るように頼まれてる薬あるんだよねー、遊びとか、普通に薬系とか・・・ あと私、それ関連でちょっと出掛けなくちゃいけなくなるかも」

 この陣営の薬剤の一切を取り締まっている灰陽の言葉をしっかりと耳に入れてから頷けば、灰陽はわざとらしく口角をあげて笑う。

「白陽姉様もだけどさ、黒陽姉様も今の方がずーっといいよ」

 表情を崩さず、感情を見せないことを当たり前のように教える司馬家にはあり得ない笑い方。けれど、その笑みはとても楽しそうだと感じられた。

「今度こっちの研究室にも寄って、なんか意見ちょーだい。

 今の姉様なら、前よりずっと面白い意見くれそうだし」

「これまでが面白みに欠けた意見だったような口ぶりね? 灰陽」

 返事はわかっているのに、私はあえて言葉にしていて、その答えを聞いてみたかった

「効率とか、手段に応じた意見って意味じゃ、黒陽姉様より鋭い意見を言えた人はいなかっただろうね。

 けど、今の姉様なら効率とか関係ないロクでもなくて面白い薬考えてくれそうな気がする。研究者が好きそうな、必要性を感じられないけど楽しめるようなそんな研究をね。これ以上は怒られるから退散!!」

 私が興味深く目を細めていくのを灰陽はどうやら怒っていると勘違いしたようで、すぐにその場から離れていく。

「あらあら、私は別に怒ってなんていないのだけどね」

 肩をすくめてつつ、改めて視線を白陽に戻せばまだ落ち込んでいて、犬耳を付けたままの白陽の頭を撫でてみる。

「姉さん?」

 何をされているのかがわからないみたいな目を向けられるけれど、それも仕方がない。

 私は七人もいる妹に対して触れ合いらしい触れ合いをしてこず、白陽自身も目に近い顔周辺を人に触れられることを強く拒んでいた。

 かつての私達は姉妹というにはあまりにも素っ気なくて、大切にしているという想いの存在すら認めなていなかったのだから。

「そう遠くない内に立ちはだかるであろう袁紹、多くの手段を用いて荊州を維持してきた劉表、今後の道筋が見えず危機にさらされようとしている白・劉備陣営。西涼の狼は動くことなく、江東の虎の血筋は自分の縄張りで精一杯。

 飾りと言えど大陸を治めていた洛陽が崩れた今、この大陸では何が起こっても不思議ではないのが実情」

 左手で指を立てて数えつつ右手で白陽を撫でることはやめず、白陽の困惑したような顔を見ながら、いつものように笑う。

「のんびり休むことが出来る日がいつ来なくなるかわからない以上、たまには何も考えずに過ごしてみるのも悪くないでしょう?」

 恋人と居ることは確かに満ち足りて楽しいけれど、そればかりでは飽きてしまうもの。

 なんてことは華琳様を筆頭に全員が否定することは目に見えているので、あえて言葉にしない。

「そう、ですね。

 久しぶりに真桜や沙和達の所に足を運んでみようかと思います」

「そうなさい」

 縄から解放し肩を押してやれば、白陽は照れくさそうに顔を赤らめて、何かを言いかけて口を開いたにもかかわらず、再び口を閉ざしてしまった。

「白陽?」

「いえ、その・・・ い、行ってきます」

 妹の口から出てきたのはどこにでもあるような家族のやり取り、けれど私達には存在しなかったものだった。

 たった一つの言葉が、この子が望んでいたものだったと思うと胸に何かがこみあげてくる。

「・・・えぇ、いってらっしゃい」

 だから私は、白陽が望むように言葉を返した。

 

 

 

 白陽を見送り、私の代わりに華琳様の護衛をしていた青陽と交代し雑務をこなす。そろそろ夕食をとるように進言しようとした時、その声は響いた。

「誰がお母さんだーーーーーー!!!」

 とても楽しい予感を感じながら、華琳様と共に廊下へと向かった。

 

 

 万年青様の登場によって起きた騒動により、私が笑い死にかけるのはこの後すぐの話。

 そして、白陽が犬耳をつけたまま街を練り歩いたことにより、疑似耳は爆発的な人気を得ることになるのは数日後の話となる。

 




次も視点変更の予定です。
(こちらではなく、もう一つの視点を変える予定)

その次は白か、赤か、番外も書きたい・・・

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