真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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お久しぶりです。投稿が半年近く出来ず、本当にお待たせしてしまいました。
また、待っていてくださった皆様、本当にありがとうございます。
リアルであったことをザックリ話すと
左の指一部壊死及び体中に蕁麻疹発生 → 退職 → 引っ越し → 求職活動 → 求職活動終了及び執筆再開(←今ココ)
というわけです。



82,戦前 【稟視点】

 劉備・北郷一行を見送った私達は袁紹軍を迎え撃つための本格的な準備へと移り、真桜殿率いる冬桜隊が小型の投石機の大量生産を行い、春蘭殿を始めとした武将達は装備の点検やいつでも出陣できるように準備を整えていることでしょう。

「稟ちゃーん? 遅れてますよー?」

 後ろの城を振り返っていろいろと思いふけっていた私を風が呼び、声のする方向へと振り返るとそこには風を始め桂花殿、雛里殿、千里殿、我々の陣営の頭脳と言っていい面子が勢揃いしていました。

 付け足すならば、現在樹枝殿と星と共に補給経路の調査へと向かった詠殿を除いてですが。

「すみません」

 謝罪しながら馬を操り、風を含めた四名へと足並みを揃える。

 勿論、軍師である私達だけではなく周囲には警邏隊の精鋭数名が控えてくれています。

「しかし、改めて見てみると何にもないわよね」

 陳留からわずかに離れた場所、おそらくは袁紹軍との戦場となるだろう場所を見て桂花殿が眉間に皺を寄せて呟きました。

「大勢力に攻め込まれやすく、囲まれやすい地形です。

 でしゅが、だからこそどうとでもやりようがあります!」

「・・・・ぐー」

 拳を握って力強く雛里殿が言えば、風も何か・・・ いえ、寝てますね。馬上で寝るとは・・・ 弩を覚えたことも驚かされましたが、我が友ながら本当に器用ですね。

「って、寝てんじゃないわよ! 風!!」

 いつもなら私が叩きますが、今回はつっこみに手慣れている桂花殿がしてくださいました。

「稟、あんた今失礼なこと考えなかった?」

「いえいえ、滅相もありません。ツッコミ筆頭軍師の桂花殿」

「思ってたんじゃない!

 というか、今はっきり言ったわよね!?」

「違いますよ、稟ちゃん。

 ツッコミ筆頭軍師は樹枝ちゃんです」

「あぁ、そうでしたね」

 おもわず手を叩いて納得すると、桂花殿が人を殺せるような目で私を睨んできます。もっとも桂花殿の友人である者にとって、この程度の視線は慣れっこなのですが。

「ふわははははは、戦場の下見だっていうのに気が抜ける会話だよねー。

 まっ、ガッチガチに固まってたり、軽口も叩けない状況よりもずっといいんだろうけど」

「うふふふ~、風達にとって城の近辺は庭の延長ですからねぇ。

 さらにいうなら、実際に戦に出るのは演習などでもこの近辺を利用する部隊の人達ですしねぇ~」

 風の言う通り、この近辺を私達は知り尽くしている。わざわざこうして全員が出てきてまで下見が必要かといえば否だろう。久しぶりの私や風、まだこの辺りの地理には疎いだろう千里殿はともかく桂花殿と雛里殿には不要でしょう。

「それにさ、今回の戦いって正面から立ち向かってもこの陣営なら勝てんじゃない?」

『・・・・』

 霞殿と交流の深いと同時に一度敵として相対した千里殿の言葉に、私達は沈黙する。

「霞なんていうまでもないし、春蘭ちゃんも霞と互角にやりあっちゃってたもんね~。英雄である冬雲殿の全力は残念ながらまだ見てないけどかなり強いって呂布から聞いてるし、秋蘭ちゃんも強い。

 月の実力はー・・・ 軍としての戦い方じゃないけどかなり高いし、凪ちゃん達を始めとした部隊だって単純な戦闘力だけで『常山の昇り龍』なんて持て囃されてた星ちゃんを負かしてたじゃん」

つい最近行われたばかりの凪殿と星の模擬試合を思い出し、私は苦笑を浮かべるしか出来ません。

「なんですよね~。

 星ちゃんってばあの後すごく落ち込んで、慰めるのにずいぶん時間がかかったのですよ~」

 が、風は本人がいないのをいいことに満面の笑みを浮かべ、頭上の宝譿に至ってはその場で笑い転げていました。あなた達は本当に・・・

 とはいえ、星が凪殿に負けることは想定外でした。

 まさか凪殿の気術があそこまで昇華し、練り上げられているとは。司馬姉妹の影響なのか、それとも彼女自身の決意と鍛錬が実を結んだのでしょうか。

 真桜殿や沙和殿は単純な実力では星に劣っていましたが、彼女達の戦いに持ち込むことが出来れば勝敗は変化していたことでしょう。

「まっ、実際千里の言う通りよ。

 ウチの脳筋共(春蘭と霞)は前よりずっと強くなってるし、凪達だってそこらの武将にだって負けない実力を持ってるわ。それに兵の質だって他とは全然違うもの」

 桂花殿はありもしない胸を張って自慢げに言い、鼻を鳴らす。

「で、でも、打てる策はすべて打つべきでしゅ」

「わざわざあちらの戦い方にこちらが合わせる理由も、必要もありませんしね」

 実力として申し分ないのなら、こちらはより被害を減らすために策を練ればいい。

 多いのなら様々な方法を用いて減らせばいい、それでもなお多いのならこちらが倒せる数まで調整すればいい。

 補給経路を確保に留めているのも、相手を絶望に叩き込むことが今は出来ないからでしかない。それどころか今焼き払ってしまえば、あちらはすぐさま新しい補給経路を構築することでしょう。

「真桜殿の準備も万端ですし、騎馬隊は言うまでもありません。

 あとは実際に、かの軍が攻め込んでくるのを待つのみです」

 私達が華琳様に捧げるのは勝利のみ、それ以外はあり得ない。

「うっわー。稟さん、こっわ~・・・」

 私を恐れるように千里殿は自分の肩を抱きますが、私はそれに対して肩をすくめます。

「何をおっしゃるのやら。

 騎馬隊による軍の分割方法はあなたの案でしょう、千里殿」

 あの案によって工作部隊はもういくつか作る道具が増えましたが、その道具すらも彼女(千里殿)は自ら案を出し、職人達と意見を交し合っていました。

「ふわははは!

 投石器をより小型にして数を増やそうとしたり、場所の配置を考える稟さんほどは大したことしてないよ」

「ご謙遜を」

 互いに微笑み合いながらも、彼女の底の見えない実力に恐怖し、ここに居る他の三名とは別の意味で彼女とも良き友となれることを確信しました。

 

「うぅ、感動ですねぇ。

 あの稟ちゃんに風達以外のお友達ができるなんて・・・」

「まったくだぜ、風。

 友達どころか同僚すら近づきがてぇ雰囲気をもって、華琳嬢ちゃんしかまともに見てなかったあの稟嬢ちゃんが・・・ 立派になりやがって」

 

 ・・・人がまともに話しているにも関わらず、聞き捨てならない言葉が聞こえてくるのは何故でしょう?

「風? 宝譿?」

 にっこりと笑みを作りながら振り返っても二人は一切悪びれることなく、それどころか風に至っては穏やかに微笑んですらいました。本当に腹立たしい。

「いやいや、だってよ。

 桂花嬢ちゃんもそうだったが、稟嬢ちゃんはそれ以上に周りと関わってなかったじゃねーかよ。風と星嬢ちゃんとは長い付き合いだったからいろいろ言わなくてもわかってたけどよ、稟嬢ちゃんが自分から今みてーに人を認めて会話するなんて俺は初めて見るぜ?」

 否定はしませんが、余計なお世話です。

「風、本格的にこの人形を変えることを検討しませんか?」

「いやいや、今回ばかりは宝譿の方が正しいと思うのですよ。稟ちゃん」

 そう言いながら私から宝譿を守るようにその腕の中へと抱き込み、風は少し意地の悪い笑みを浮かべ、何故か千里殿を指さしました。

「何せ千里ちゃんは霞ちゃんの手綱を握っただけでなく、あの呂布と華雄の手綱も握り、月ちゃんと詠ちゃんのことにも気を配っていましたしねぇ。それに加え反董卓連合においての見事な采配。連合側に恐怖をもたらし、予想もしえなかった軍略。

 同じ軍師として見事、としか言いようがありませんでしたもんねー」

「え、えー・・・ 何、その高評価、あたし怖い」

「そんなことないです!

 千里ちゃんの策を、連合の誰にも読むなんて不可能でしゅた!!」

 当人は風の評価に対して引き気味ですが、会話に参加しない桂花殿は風の評価を否定することはなかった。

「稟ちゃんってば、陣で嫉妬してましたもんねー」

「風? あなたは一体何を言いたいのかしら?」

 額周辺が引き攣るのを感じ、私は風の頬を左右へ思い切り伸ばしていく。もちもちとした柔らかい触り心地の頬はよく伸び、このままどこまで伸びるか試してみることにしましょうか。

ひょ()ーするにれふ(です)ね、稟ひゃ(ちゃ)んは千里ひゃ(ちゃ)んをひっはひょひひゃら(知った時から)ひょっへも(とっても)ひひなって(気になって)はんれすよー(たんですよー)

 ひたひい(親しい)おひょもらち(お友達)になりたいと思うほろ(ほど)に」

「ふ・う?」

いひゃいれふよ(痛いですよ)、稟ひゃん」

 本当によく伸びる頬ですね、お餅の仲間ですかこれは。

「確かに私は彼女の実力を認めていますし、同僚としても、一軍師としても話し合いの場を持ちたいと思っているのは事実ですが、それらを『お友達』などという言葉にくくる必要はないでしょう!

いい加減にしないと私でも怒りますよ! 風!!」

「やですねぇ、稟ちゃん。

 もう怒ってるじゃないですかー」

 私から解放された風はやはり反省する気がまったく見えない満面の笑みであり、私は再び風の頬をつまんで伸ばし始めます。

「桂花さん、と、止めないと!」

「はぁ? 何を止めるっていうのよ、雛里。

 こんなの樹枝が牛金に追いかけられるぐらい日常的なことじゃない。むしろ今ちょっかいなんて出したら、弄る対象がこっちに代わるだけよ」

 周りが何か言っていますが、止める気がないということはなんとなく理解できました。今回の仕事は本当に再確認程度なのでやることはほとんど終わってますし、問題ありませんしね。

「大体、あなたと星はおふざけが過ぎるんです。

 先日の華蝶仮面騒動においてはあなたも参加者側に回っていましたし、もし真桜さんが機転を利かせて娯楽にしなければ騒動はより大きくなっていたことでしょう」

「うふふふ~、『友達になってください』って言葉が恥ずかしくて話題を逸らそうとするなんて~、稟ちゃんも必死ですね」

「まったくだな!

 ったく、稟嬢ちゃんは本当に照れ屋で恥ずかしがり屋だよな」

「まだ言いますか。

 揃いも揃って本当にいい度胸してますね」

 そうして私が頬をつまむことから、猫掴みへと変えようとすると

 

「ぷっ、あはははははは! ふわははははは!」

 

 千里殿の笑い声が響き渡り、馬から落ちそうになるほど悶え、そこにいる全員が目を丸くして彼女へと視線を集中させました。

「戦場の下見に来てるのに、ホント・・・ 緊張感も欠片もないんだね」

「他から見てれば、あんたと霞もおんなじようなもんよ」

「かな?

 あぁ見えてるんなら、嬉しいなぁ」

 何か憑き物が落ちたようにすっきりした顔で告げる千里殿は、馬を駆って私の横に並ぶ。

「ねぇ、稟さん。

 今回の戦が余裕であるにもかかわらず、華琳様はあちらの情報を集めることを一切怠ってない。ううん、それどころか一度落とされた幽州の情報収集も怠ってないことについてどう考える?」

 彼女の意図をなんとなく理解し、私もまた彼女と同じように笑みを返す。

「素直に受け取るのならば袁紹軍の把握と義妹となった白蓮殿の心配をなくすため、というのが妥当でしょう。

 ですが先ほど話したようにこちらの軍師・武将・兵ともに数以外で劣る点はなく、この戦は負けることなどありえません」

「だよね。

 なら、華琳様は何かを探ってる・・・ ううん、探るなんて曖昧なものじゃない。誰かを狙ってる」

「それでいて容易に暗殺ではなく、公の場で確実に自ら命を絶つことを望んでおられる」

 誰かまではわからずとも、華琳様は誰かを殺したがっている。いいえ、仮に殺意でなくとも、華琳様が誰かに狙いを定めているのは確実でしょう。

 が、会議での隊の配置に偏りは見られず、名指しで誰かを抹殺しろという指示も出ていない。これによりまず相手は武将でないことがわかり、前線に出ない可能性が高いため身分が低い者でもない。

「ふわはは、公の場で殺して意味がある人なんて限られてくるけど、どれだろうね?」

 そして千里殿とおっしゃる通り、公の場で殺して意味がある存在とは限られてくる。

「ふふ、やはりあなたは素晴らしい」

 桂花殿とも風とも違う、私と同じ戦場で戦う軍師。

 偽りなき称賛を贈れば、千里殿は頬を赤らめ、私へと手を伸ばしてきました。

「稟さん、私と友達になろう。

 同僚も、同朋も、軍師仲間も悪くないけど、仕事以外のことでも稟さんをたくさん知ってみたいな」

 言葉を飾らず、人好きのする笑顔。私の友人達(風と星)はそれぞれ独特な距離感を保っていることが多いので、それは本当に眩しいものでした。

「私でよければ喜んで」

 

「うっうっ、感動ですねぇ。

 あの稟ちゃんに普通のお友達が・・・」

「そうね、あの稟が仕事以外で誰かと話す姿なんて本当に珍しいわよね」

「あわわ、言いたい放題です・・・」

「そんだけ稟嬢ちゃんが盲目的で、事務的だったつうことだけどな」

 

「み・な・さ・ん?」

 今日は口が滑る方が異様に多いようですし、この戦が終わったらじっくりお話が必要ですね。

「こうやって・・・ 志を共にして対等に軽口叩き合える仲を、世間じゃ友達っていうんだけどね」

 千里殿が小声で何か言った気がしますが、私には小さすぎて聞こえませんでした。もし聞こえていたとしても、そんなこと今更口にするのなんて恥ずかしくて出来ませんよ。

「お楽しみのところ、失礼します」

「黒陽殿、あなたもですか・・・」

 隠密でありながら感情を隠すことなく現れた黒陽殿に対し、大袈裟に嘆くように額に手を当てる。いえ、この方もどちらかといえば風に近しい性格の方だとわかっていましたけども。

「華琳様から招集がかかりました。

 そろそろお客様がお見えになるそうなので、出迎えの準備を最終段階へと移すそうです」

「だそうですよ、筆頭軍師(桂花)殿」

 この中で最も高い地位にある桂花殿に声をかければ、彼女らしい不機嫌そうな顔で言い放つ。

「あの脳筋(春蘭)じゃないんだから、私に掛け声なんて求めんじゃないわよ!

 とっとと戻って、華琳様に私達の全てを捧げるわよ!!」

「ふふふ~、桂花ちゃんは戦前に何をする気ですかね~」

「そういう意味じゃないわよ!!」

 気合を入れようと大声を出す桂花殿に風のからかいが相槌を打ち、再び笑いが溢れた。

 




さて、次は袁紹軍戦。このまま進めていきたいと思います。

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