真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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久し振りの週一達成。
来週も出来るとは限りませんが、この調子を維持していきたいです。


83,官渡の戦い 開始

 普段見慣れた景色、城壁の外に広がる開いた草原が今、一面金色の袁旗で埋め尽くされようとしている。

「しかし、これは・・・ 壮観だなぁ」

 攻め入られている側として正しい表現とは言えないだろうが、真っ直ぐとこちらに向かってくる大軍は恐ろしくも美しかった。

「美しいのは当然よ、冬雲」

 俺の背後からいつもの鎧と絶を持った華琳が現れ、隣へと並び立つ。

「あの子が総大将だもの」

「・・・また、それかよ」

 袁紹軍がこちらへと攻め込んでくることが確定した時からずっと、華琳はこの調子で袁紹殿を持ち上げる。

「なぁ、華琳。

 そろそろ袁紹殿について、教えてくれてもいいんじゃないか?」

「嫉妬かしら?」

「それもあるけど、そうじゃなくてさ。

 前の時もそうだったけど、華琳は袁紹殿と向き合ってる時は俺達に見せる顔でも王としての顔でもなかったから、ずっと気になってたんだよ」

 それは袁紹殿を王として見ていなかったからとも、どこか見下していたからとも、幼馴染に対する顔だともとれる。けど、その三つのいずれかだとしたら・・・

「あら? 私が麗羽を小馬鹿にして、同じ目線になっていただけかもしれないわよ?」

「だったら、あんな楽しそうな表情しないだろ?

 それに功績としても袁家を打ち取ったことを明確にするのなら『生死不明』なんて曖昧にせず、確実に首を取るように指示する筈だ」

 あの時の華琳は、あまりにも(曹操)ではなく少女(華琳)でありすぎた。

 臣下には絶対見せない対等で年相応で、遠慮のいらない言葉。それは袁紹殿にだけ許された特権だと気づかされた。

「大体、知らないで呼ぼうとしただけで殺されるかもしれない真名を今も呼び合ってるのがいい証拠だろ。

 それに華琳がただの幼馴染に真名を教えるとは思えないしな」

 向かい合った相手にも、相応しいと思った相手にも、大事な部下にも真名を預ける華琳であっても、ただの愚か者にまで真名を預けることはない。ましてや、大事な弟である樟夏まで関わってくる可能性があるなら尚更だ。

「あらあら、本当に察しがよくなったわね」

 だが、前と違うのは宣戦布告として軍の前に立って華琳と言葉を交わしたのが袁紹殿ではなく、あの許攸という軍師だったこと。華琳は言葉を交わしてはいるがかつてのように楽しそうな表情はなく、むしろ嫌悪を露わにしていた。

「けれど、その通りだわ。

 私は幼馴染だからと言って軽々しく真名を許したりはしない」

 察しの良くなった俺を誉めるように笑みを零して、華琳は変わらず袁紹軍を見つめていた。否、その視線はきっと陣の最奥にいるだろう袁紹殿を見ているのだろう。

「それはそうと・・・ 始まるわよ」

 使者だった許攸殿が戻ったことであちらの進軍が始まり、華琳が右手を挙げて合図する。

「さぁ! 麗羽!!

 派手に出迎えてあげるわよ!」

 許攸殿などいなかったように彼女へと向ける言葉、それは彼への最大の侮辱であり、相手にする気もないという宣言。

 宣言と同時に量産を重視したために小型になった投石器が姿を現し、冬桜隊の指示の元でいくつもの巨石が空を舞う。それにより袁紹軍の歩みは遅くなり、最前線に並んだ将兵たちの数を減らしていく。

「あの大きさでも十分仕事はこなしているわね」

 投石器の出来を満足げに頷く華琳に俺も頷き、以前のように大型のもの一機よりも効率はあがっている。

 大型は飛距離が伸びるが、運搬や組み立てに難がある。今回使用した小型は飛距離こそ劣るが運搬等に利があり、大軍の歩みを止めることと前線を一時的に崩すことを目的としていた。

「冬雲、あなたは袁紹軍の戦術は単純すぎると言ったわね」

「あぁ、言ったな」

 皆が兵の準備や地形の下調べを行っている間、俺と華琳は経理や在庫などの書簡と向き合っていた。その間、あちらの戦術の予測や白蓮殿達の戦いの参加の有無などこまごまとしたことも決めていたのだが、その中の論議に上がったひとつだった。

「自軍の数に物を言わせて攻め込み、補給経路を確保して長期戦の準備も万端。

 言葉にすれば確かに単純だけど、これは正しい戦術だわ」

「あぁ」

 現に袁紹軍はこのやり方で幽州を始めとした多くの諸侯を降し、兵や資金源を増やして進軍を続けてきた。単純にして確実な戦術であり、これを崩すのはけして容易ではない。

「というのは建前で、麗羽には・・・ 袁家にはその戦い方しか許されないのよ」

「許されない? それってどういう・・・ あっ」

 問いかけて気づき、俺は口元に手を当てる。

「そうよ、名家という重圧が奇策を許さない。

 兵の数と、たとえ無能な諸侯であっても多数の将を抱えている以上は全軍突撃しか選択肢が用意されていないのよ」

 それは俺が前線を許されないのと同じ、名の重みだった。

「奇策を練るのは弱者の権利。強者が奇策なんて用意していたら、世間ではいい笑いもの。

 誰が進言しても臆病風に吹かれたと笑い、他の策を許しはしない」

 前線の状況を見つめ続けながらも、俺達の会話は終わらない。

 巨石の雨はやむことはなく、止める時を見定めるように待ち続ける。

「そして麗羽は袁家という名に縛られ、道化となることを選んだわ。

 いいえ、ならざる得なかったと言った方がより正確ね」

 友を想う言葉は湿り気を帯び、絶を握る手に力が入る音が聞こえる。

「黒陽、投石器をやめ、騎馬隊へ指示!

 次の段階へ移るわよ!」

「はっ!」

 黒陽が駆けていくのを確認しながら、各所に散った桂花や風の指示によって投石器が止められていく。

 そして、投石器の後方に控えていた二つの騎馬隊が姿を現し、一方の最先端は見慣れない漆黒の鎧を纏った者。もう一方には兎の面を被り、白銀の鎧姿の月殿が並ぶ。

「あの黒い鎧兵は?」

「連合後に士官してきた張郃(チョウコウ)よ。

 他の部隊に入れるよりも結成されたばかりの騎馬隊に配属させていたのだけど、彼自身も馬上での戦いに工夫を凝らして大きな槍を真桜に頼んでいたわね」

 連合後、あちこち飛び回ってばかりだったので一般兵達と顔を合わせるのは非番の日などに限られてしまっていた。それが他の部隊となると尚更で、俺の知らないうちに優秀な人材が増えていたらしい。

「馬上槍か・・・ 珍しいな」

 突くことに特化し、それ故に刃がついていない武器であり、馬に乗った状態ですれ違った相手を突き刺すという使い方をする。馬の力と槍の重さで相手を圧倒し、鎧ごと貫くというのが利点だが、その重さ故に扱いにくい得物でもある。

「さぁ、この大軍を切り分けましょう」

 料理でもするように華琳が呟けば、二つの騎馬隊が大軍の中を突っ切っていく。月殿の鉈が、張郃殿の槍が次々と道を切り開き、その後ろの者達が油を吸わせた縄を戦場へと敷き、さらに続く騎馬兵達が可燃物を落としていく。そして、最後尾の一方には霞と千里殿、もう一方には赤根殿と稟がつき、縄が終わるのを調整して、秋蘭に煙玉をさらに改良した簡易狼煙を打ち上げて合図を送る。寸分の狂いもなく火矢が縄へと的中し、縄が炎の線となって大軍を分けていく。

「まぁ、切り分けるというより、目印だけどな」

「あちらを少しでも混乱させることが出来たのなら、重畳よ。

 あとはあの子達がやってくれるでしょう」

 縄に火がついたことによって大きく三つに分かれた大軍へと春蘭を中心とした部隊が中央へとぶつかり、他二つを凪と沙和率いる遊撃隊が突っ込んでいく。縄を引いていた少数の騎馬隊も素早く反転し、まだ出撃せずに残っていた騎馬隊達も突撃していく。

 袁紹軍はもはや大混乱、統率のとれた進軍は跡形もない。

「これで終わるか?」

 あとは機を見計らって補給経路を確保していた樹枝達へと合図を送り、補給拠点へと火をかけるだけだ。

 だが、華琳はそれでも戦場から目を逸らそうとはしなかった。

「いいえ、まだよ」

 その表情は油断が出来ないというよりも、何かを期待しているようだった。

「・・・華琳、洛陽の方はあのまま放っておいていいのか?」

 連合後、袁家が主導で行われた洛陽復興。主導といっても袁家が行ったのは上層部を整えるのみで、現状亡くなったとされている劉弁(八重)様とほぼ隠居扱いされている劉協(千重)様の代わりとして、劉家の末端とされた者が擁立された。もっとも、それも袁術殿が玉璽を持っていたせいでひと悶着あったらしいのだが、わざわざ黒陽達に頼んでまで知りたいとは思わなかった。

「一度崩壊した都と皇帝の座に意味はないわ。

 全知全能たる皇帝が病に伏し、争いに呑まれ行方知れずとなってしまった今、皇帝もただの人だということを民も気づいたでしょう」

「手を出さなくてもまた壊れる、か?」

「えぇ。

 それに・・・ あの方がこの機を逃すとは思えないもの」

 あの方が誰を示すかはわからなかったが、遠からず自壊することが見えているものを壊す者がいても誰も困らない。月殿や詠殿が気にかけているのも崩壊した上層部よりも民の暮らしの方だし、そちらは俺達や劉備殿達の働きによって改善しつつある。

「なぁ、華琳。

 まだ最初の質問に答えてもらってないんだけど、言いにくいことなのか?」

 華琳は戦術的なことと袁紹殿が素の自分を隠していることは答えてくれたが、それは袁紹殿と華琳の関係に対する答えではなかった。

「言いにくいことではないわ。

 けれど、誰にでも知られたいことでもないのは事実ね」

 まぁ、自分の子どもの頃のことなんてそういうものだろう。自分だけのことなら良い部分を語ることもできるが、友人と共に行動したのなら大なり小なり失敗や後悔も出てくるもんだし。

「私と樟夏は麗羽と幼馴染だったのは、あなたも知っているでしょう?

 同じ場で学び、成長し、研鑽し合い、それは春蘭達や斗詩達が加わろうと変わらず、両親達もそんな私達を温かく見守ってくださっていたわ」

 そう言いながらも華琳は俺に過去を語り始め、戦場を見つめているにもかかわらずどこか遠くを見ていた。

 語る声にも、視線にも、俺から見える横顔にすらうっすら懐古と悲しみ、罪悪感が混ざっているように感じられた。

「いろいろあったわ。

 樟夏の諦観もその頃に出来てしまったし、私が女性を好きになったのもある意味袁家が発端だもの」

「は? 袁家が発端って、まさか袁紹殿が初恋の相手なんて言わないよな?」

「惜しいわね。

 私の初恋はあの子の母、綾羽(リョウハ)様よ」

 恥じることもなくあっさりと答える華琳に、驚きと呆れと同時なぜか不思議と納得してしまった。

 だけどこれだけは声には出さないが言わせてほしい。

 初恋が親友の母親って、お前はどこの小学生男子だ!

「私と麗羽の髪型は綾羽様を真似したものよ。

 あの方は髪の先の方だけを緩く巻いていただけだったけれど、それは美しかったわ」

 嬉しそうに笑みながらも、言葉の端々はそれらが過去であることを示していた。

「私達と同じ金の髪はやわらかで、上等な翡翠のような深い緑の瞳に見つめられると・・・ 緊張と喜びと興奮でどうにかなりそうなだった・・・」

「うん、三つ目がいろいろとおかしいかな」

 華琳らしいと言えばらしいけど、親友の母親に抱く気持ちじゃない。

「初めて出会った時から不思議と目を奪われて、麗羽を質問攻めにしたり、両親に話をせがんだりしたものよ。

 そうして情報を集め、交流を深めていったのちに私は生まれて初めて愛の告白をしたわ」

 女好きじゃない華琳を知らないし、男好きなってほしかったわけじゃないけど、やっぱりこういう話ってなんか反応しづらいなー。戦場且つ少し前に真面目な話をしていたこともあって、尚更そう思うのかもしれないが。

「・・・で、結果は?」

 正直あまり知りたくないが、話が進まずにこれ以上初恋の相手への賛美が続くよりはマシだろ。

「振られたわ。

 想いは届かなかったけれど、あの方と私はその際にある約束を交わし、報酬の前払いとして頬に口づけを一つ賜ったの」

 あっさりと告げながらも華琳は口づけされたであろう頬に触れて恍惚とした表情となり、俺とも春蘭達に向けるものともまた違った恋する乙女の顔だった。

「でも、亡くなられたんだよな」

「えぇ、私達が私塾を卒業して少し経ってから夫婦そろって急死されたわ」

 俺に視線を流し、その目は言外に『不自然でしょう?』と語る。

「私達が綾羽様の葬儀に参列しに行った時に、もう麗羽はあぁなっていてその傍に我が物顔をしたあの男が立っていたら・・・ 子どもであっても、何が起こったのかは想像ぐらいはできたわ」

 喜びが怒りへ、恍惚が憎悪に変わっていく様は幼き日に華琳が味わった想いそのものなのだろう。

「冬雲、あなたとの記憶を思い出す前から私は大陸を変えるつもりだった。

 祖父や父からの期待でも、自らの才能を活かすためでもなく、私が大陸を変えたいと願ったのはあの方の死がきっかけ」

 『身分の貴賤を問わず、才ある者をあるべき場所へ』、これこそが今もかつても変わらない華琳の指針。

 その指針は親友の変貌と初恋の人の喪失から生まれたものだったのか。

「その方とどんな約束をしたんだ?」

「麗羽に関わることばかりだったわ、それ以上はまだ秘密よ」

 そして残されたのは初恋の人と交わした約束、か。

「そっか・・・」

 袁紹殿の関わる約束であり、なおかつ今まさに彼女と向かい合って矛を交えているということは今回の戦いには戦をする以外にも約束を守るか・果たすかのどちらかも含まれているのかもしれない。

「もっとも関係する麗羽本人は私達の約束なんて知らないでしょうし、あの子にとっては大きなお世話なのかもしれないけれどね」

 口にする華琳はどこか苦笑気味だが、それでも行動を変えるつもりがないことは俺にもわかった。

「もし世が乱れなければ、たとえ根が腐っていても漢が続いていたら、あの方がもっと愚かで袁家の意に沿う人間であったなら、あの子の夢は叶っていたのかもしれないわ」

 袁家の意に沿うということが何を意味するか、袁紹殿が描いていただろうものがどんな夢なのか、華琳は語らない。いや、仮に問うても答えてはくれないだろう。

「けれど今、世は乱れ、漢は崩壊し、あの方は袁家が皇帝へとなり替わることをよしとはしなかった。

 全てが動き出してしまった以上、あの子の夢は袁家であるからこそ許されず、叶わない。

 私もあなたが偽りのままであることを望まず、あの方を殺した男が生きていることを許さず、この大陸を変えると決めた」

 過去を思い返しながらも華琳は秋蘭へ合図を送り、鏑矢が放たれる。そして、鏑矢を受けた冬桜隊が再び簡易狼煙が打ち上げる。

「だから麗羽、私はあなたの宿敵()として全てを打ち砕き、大陸を変えるための足掛かりにしてあげる」

 補給も潰し、戦はこれで終わるだろう。

 そう思った瞬間、城壁の下から金属か何かで門を叩く音が聞こえた。

「!?」

「来たわね」

 驚く俺をよそに華琳は想定していたように、そこに立つ三人の強者に笑みを向けた。

 

 

「華琳さん!

 あなたがあまりにも小さくて見えないものだから、わざわざこちらからあなたが見えるところまで出向いて差し上げましたわ!! 感謝なさい!」

「嬢や、言葉はもっともじゃがこの状況はちと辛い。

 猪々子がばてる前に用件を口にせぃ」

「じっちゃん! わかってんなら、もうちっとあたいを助けてくれよ!?」

 

 

「あの混戦を抜けて、ここに来るなんて・・・」

「あなたの無駄に大きな身長と胸の脂肪はここからでもよく見えるけれど、なんだかとても動きにくそうね。麗羽。

 ここまで来るのは大変だったでしょう、少しはその無駄な脂肪を減らす手伝いは出来たかしら?」

 俺にかまわず華琳は袁紹殿へ言い返しているがかつてのような楽しそうな笑みはなく、状況的には当然だが袁紹殿もまた普段の余裕は見られない。

「なんてことありませんわ!

 なぜなら私は! 袁本初(・・・)なのですから!!」

 自分の名を声高に叫ぶ彼女に対し、華琳は苛立ちを隠すことなく舌打ちをし、絶を彼女へと向ける。

「それで麗羽(・・)は、こんなところまで一体何しに来たのかしら?

 まさか私の顔を一目に見たかったわけではないでしょう?」

 今度は袁紹殿が苦々しげな顔をし、彼女もまた腰に差していた豪華な剣を華琳へと向けた。

「華琳さん!

 あなたに一騎打ちを申し込みますわ!!」

 

 




次は彼女の視点。
再臨オリジナル展開の彼女をお楽しみください。
張郃についても次の話で説明出来たらいいなと思っているので、聞かれてもお答えできませんのであしからず。
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