真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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約四カ月の本編投稿となります。本当に長らくお待たせしました。
待っていてくださった方々、ありがとうございますm(__)m
いろいろあってまた忙しくなっていましたが、執筆に時間を当てられるぐらいの余裕は出来ました。

これから徐々に執筆のペースを戻したいと思っていますが、何があるかはわからないので・・・ まぁ、書ける時に書いていこうと思います。


85,官渡の戦い 終了

樟夏や白蓮殿、斗詩にもみくちゃにされる袁紹殿を背に、華琳は首をなくした許攸の死体の前で立ち尽くしていた。

「華琳」

 俺の呼びかけに対して華琳は応えず、絶の血を払って肩にかける。

「復讐を誓ったあの日は、この日が来たらもっと気が晴れるものだと思っていたわ」

 それはきっと、誰かに聞かれることを望む独り言。

 返答など望んでいないのに誰かには聞いていてほしいと望む、矛盾めいた言い回しだった。

「殺したことを間違っているなんて思ってないし、後悔もしていないわ。

 私は許せなかったから殺したし、覇道に邪魔だったから殺した。野放しにすることも、手の内で生かすことも出来ないから排除したの」

 私情と利害、それぞれを織り交ぜながら華琳の独白は続く。

「私から初恋の人を奪って、親友の人生を台無しにしようとした男。

 この男の人生なんてどうでもよかったし、知りたいとも思わなかったけど・・・ 馬鹿な男よ」

 その『馬鹿』にいったい何が含まれているのか、許攸のことを調べたわけではない俺にはわからない。けれど、華琳の顔は彼を嘲るものではなく、むしろ哀れんでいるように俺には感じられた。

「冬雲、行くわよ」

 華琳はそれ以上彼について語ろうとはせず、俺もまた問おうとは思わない。

 この大陸が、時代が生んだ悲しい男の道の果て。

 斬って捨てた憎き男すら華琳は忘れず覇道に彼がいたことを記すなら、俺も彼に最後の礼を尽くすのが道理だろう。

 首なき許攸の死体へと手を合わせ、あるかもわからない彼の次の生への幸福を祈る。

 手を合わせると不思議な思いが沸き上がり、在りもしない『もしも』が浮かぶ。

 もし、俺が華琳に会えず・・・ いいや、華琳どころか名だたる将の誰にも会えず、大陸の野で才を芽吹かせていたら。

「あんたもきっと・・・」

 俺がなってしまっていたかもしれない可能性の一つ、だったのかもしれない。

「冬雲」

 何を考えていたのかを見透かすように、華琳は俺を呼ぶ。

「馬鹿なことを考えている暇はないわよ。

 黒陽達が今、戦場のあちこちに戦の終わりを告げに言ったわ。私達もやるべきことをやりましょう」

「そう、だな」

 たった一人の男の死に囚われる暇なんて俺達にはなく、歩みを止めるわけにはいかない。

「俺も忘れないよ」

 女に虐げられ、人を疑い、誰かを利用し、真っ直ぐ生きる者を妬み、大陸そのものを恨み、己の運命すら憎んで、最後は欲に縋るしかなかった悲しき男達のことを。

 

 

 死体に背を向けた俺達がまず取り掛かったのは、背後から聞こえる戦場には相応しくない微笑ましい混沌を解消することからだった。

 本来なら戦場のことから片づけるべきなのだろうが、そちらは桂花を筆頭とした軍師や田豊殿を相手していた春蘭・秋蘭以外の武将が総出で動き出しているため、少しの間俺達が抜けても何も問題はない。

「か、華琳さん、助けてちょうだい・・・」

 四人に押しつぶされるような状態から抜け出し、華琳へと手を伸ばす袁紹殿の姿に一騎打ちの時のような厳しさはなく、いい意味で力が抜けているように感じられた。

「いいえ! 姉者、兄者、助けなくて結構です!!」

「義姉様、義兄様、手助けなんてせずに麗羽のことは私達に任せてください!」

「はい! 白蓮さん達のおっしゃる通りです!!」

 華琳の後ろにいる俺には予想することしか出来ないが、今の華琳は絶対良い笑顔をしているだろう。

 ・・・咽喉を鳴らすような音も聞こえたような気もするけど、疲労で弱り切った親友相手に本能を刺激されてるなんてことないよな?!

 華琳はまず大きく手を叩いて、もみくちゃになった袁紹殿達に注目を集めさせた。

「あなた達、積もる話はあとにしなさい」

「ですが、姉者!」

「樟夏、忘れているかもしれないけれど、ここは戦場よ。

 どんな話をするのであれ、それには相応しい場所が必要だわ」

「そう、ですね・・・」

 華琳の言葉に樟夏もようやく理解を示し、白蓮殿と袁紹殿、二人の手を握り締めて立ち上がった。

「姉者は麗羽の想いを知っていたんですか?」

「樟夏、これ以上ここで話を続ける気はないと言ったはずでしょう」

「わかっています。

 ですが、罰を受けたとしてもこれだけは姉者に答えていただきたいのです」

 華琳の表情は厳しいものへと変わるが、樟夏もこれだけは譲る気がないようで華琳を見つめ返す。そんな弟に対して何を思ったのか、華琳は一つ大きなため息を零した。

「あなたはある時からずっと俯いて、人から目を逸らして誤魔化すように手だけを動かし、目を細めては誰かをまっすぐ見ることを諦めたわね。

 それは人の悪意や失望から己を守るためだったんでしょうし、おおよそ八割は私が原因だったわ」

 樟夏が口を挟むよりも早く、華琳の言葉は先に出る。

 樟夏が言おうとしたのはおそらく否定だったのだろうが、華琳はただそれを事実として受け止めているのだろう。

「まぁもっとも、好意を向けてくる側の人間も不器用極まりないのだもの。仕方ないでしょう」

 そういって華琳は笑い、袁紹殿へと視線を向ける。

「あ、あなたがそれを言うのかしら。華琳さん」

「あら? 私は素直よ。

 一度は想いを素直に口にしているのに、照れくさくなって二度は言えなくなった臆病などこかの誰かさんよりもずっとね」

「なっ・・・ な、なななな・・・!」

「斗詩、白蓮、その二人と一緒に先に城に戻ってなさい。

 私達は後の処理をしてから城に戻るから、城で出来る準備も始めてなさい」

「は、はい!」

「お任せください、華琳様」

 顔を真っ赤にしてわなわなと震える袁紹殿に背を向けて、華琳は二人に指示を出してさっさとその場を離れていく。

「おい、華琳」

「『お前が言うのか』って言葉なら聞かないわよ、冬雲」

 自分で思った以上に呆れたような声が出て、華琳も俺が言いそうなことを言って黙らせようとする。

「私は素直ではあったわよ。

 恋をすることを怖がって、ただの娯楽と思おうとしていたのは認めるけれどね」

 そう、華琳はいつだって素直だった。

 俺を自分の物だと周囲に見せつけ、言葉にし、成すべきことを成していたとはいえあんな身分の俺を傍に置き続けた。

 夢を語り、傍にあり、時に体を重ねて、愛すらも囁き合った。

 だが、かつての華琳は少なくとも俺の前では一度も『恋』と称することはなかったし、認めることもなかった。

「けれど、あれは恋だったわ。

 そして今も、私は・・・ あなたに恋してるのよ」

 華琳が何をいったかわからず聞き返そうとしたが、その瞬間春蘭の怒号が響いた。

「あのくそ爺! 最後まで子ども扱いか!!

 秋蘭! あの爺は・・・」

「姉者、諦めろ。

 撤退する兵達に紛れて逃げられては見つけることは困難だ」

 あちこちに田豊殿との戦いの後を残した二人の会話に田豊殿の逃亡を知り、俺も秋蘭の視線の先を探すが姿は見えなかった。

「どうする華琳、追うか?」

 弓のみならず馬も得意な秋蘭が『困難』だと断言するなら馬で追うことはまず不可能。

が、白陽達なら何とかできるだろうし、仮に捕まえなくてもどこに行ったかぐらいは把握して損はないだろう。

「放っておいていいわ。

 あの方はあの方で後始末をしに行ったんでしょう」

「後始末?」

「麗羽を縛っていたのは許攸だけではないもの。

 私達はとりあえず、この戦場を片づけることを優先しましょう」

 そういって華琳は俺を置いてさっさと桂花達の元へ向かい、俺もまた『英雄』という名を最大限効果的に使うために戦場へと足を向けた。

 

 

 

 戦は無事終結し、慌ただしい数日を過ごした後、俺達は袁紹殿の今後を決めるために玉座へと集まっていた。

 もっとも『袁紹殿の今後を決める』と銘打ってはいるが、華琳が袁紹殿を殺す気がないことは既に戦場においても明らかになっており、その点において疑問が上がることはない。焦点となるのは、彼女の公の扱いと袁家の今後だろう。

「皆、今回の戦はご苦労だったわね」

 口火を切ったのは当然華琳であり、全員へとねぎらいを向ける。

「特に工作隊と騎馬隊の動きは見事だったわ。

 工作隊の投石器がなければ今回の戦の勝利はなく、騎馬隊の迅速な動きが戦場を振り回してくれた。本当によくやってくれたわね」

 その言葉と共に真桜と霞、月殿へと視線を向ければ、真桜は照れくさそうに鼻をかき、霞は得意げに胸を張って笑い、月殿は恥ずかしそうに顔を赤らめて、三者三様に喜びを示していた。

「さて、今回の会議は皆わかっているでしょうけど、麗羽・・・ 袁家の処遇と残された領地及び袁家当主である袁紹の今後についてのことよ」

「それと我々全員での情報共有ですねー」

 今回は風が書記を務めるらしく書簡を広げて、筆を握っている。

「姉者、さっそく一つ質問があります」

「何かしら? 樟夏」

 手をあげた樟夏に華琳が促せば、樟夏は少しだけ嫌そうな顔をしていた。

「麗羽の・・・ 彼女の今後を明らかにするのなら、彼女をこの場に同席させないのはどうしてでしょうか?」

「この場において、あの子の発言が必要ないからよ。

 軍を統制しきれていなかったあの子から得られる情報も多いとは思えないし、現段階においてあの子を捕虜として扱っている以上私達の会議に出席させるというのもおかしな話だもの」

「それはそうですが・・・!」

 会議の場だからか、華琳の言葉は『姉』ではなく『王』のもの。

 そんな会話に俺は隣の樟夏の肩を叩いて、励ましてみることにした。

「樟夏、安心しろって」

「兄者・・・」

「初恋の人との約束を反故するような華琳じゃないさ」

「はい?」

 あぁ、樟夏も知らないのか。まっ、そりゃそーだよなぁ。『姉が幼馴染の母親に本気で恋してました』なんて流石の華琳でも言えないよな。

「冬雲」

 『それ以上言ったらどうなるか、わかってるわね?』と目で脅され、俺は慌てて首を縦に振る。

 けど既に女好きを公言してるんだから、初恋が幼馴染の母親でも誰も驚かないと思うんだが。樟夏と袁紹殿には寝耳に水の事態で驚きはするだろうけど。

「まず袁家の処遇について話し合うのだけど、その前に黒陽」

「はっ」

「洛陽に不法滞在していた袁家の元老院がどうなっていたか、報告してちょうだい」

 千重(劉協様)がいないことをいいことにどこからか連れてきた皇帝の血筋の者を擁立しようと洛陽で準備していたから間違って無くもないが、不法滞在と言い切るのは少し言いすぎな気もする。

「私が到着した時には既に元老院は何者かによって殺され、擁立用に用意されていた傀儡殿も自害していました」

「傀儡が自害など出来るものでしょうか?」

 稟から疑問が上がったが、黒陽からの報告は続く。

「元老院の死体は逃げようと試みた形跡がありましたが、傀儡殿は毒酒を呷った形跡があるため自害と判断しました。

 なお毒酒に残っていた毒は建物のどこからも見つけることは出来ず、死体も調べましたが同様の毒物は見つけることは出来ませんでした」

「となると、元老院を殺害した者が渡していったと考えるのが妥当か」

 秋蘭が黒陽の言葉に推測を交えれば、稟もそれに頷いて同意する。

「あの爺がやったのか?」

「それは早計でしょ。

 確かにあの爺は戦線離脱したけど、元老院がいつ殺されたかだってわからないじゃない」

「けど、可能性の一つとしては十分あり得るんじゃない? 桂花さん」

 春蘭、桂花、千里殿も参加し、殺害した者について候補をあげるが、この討論をしていても答えは出ないだろう。だが、田豊殿が戦線離脱し、行方をくらませたのは事実であり、華琳があの時に言っていた『後始末』をつけるために動いた可能性は十分にあり得る。

「まぁ結局、誰が殺したかなんて大した問題じゃありませんけどねー。

 我々も彼らが生き残っているようだったら亡き者にする気でしたし、傀儡さんの生死に関してはどちらであってもかまわないですし」

 風がさらっとまとめを口にすれば、黒陽も肩をすくめ、華琳は大きく頷いた。

「千重様が御存命の今、皇帝の都で別の皇帝を擁立などすればどうなるかも考えていなかったのかしらね? 元老院は」

「そうしていてくれた方が公に彼らを罰すること(殺害すること)が出来たのに・・・ 残念です」

「月、本音出とるでー」

 袁家に対していい感情を抱いていない詠殿、月殿、霞の素直な感想が零れ、凪が報告書をもって挙手した。

「我々は幽州を含めた袁家が通ったと思われる街道に沿って、いくつかの警邏隊を派遣。

 幽州へは白蓮殿の白馬義従の中からの志願者・実力者を含めた者達で編成し、赤根殿が現地へと向かわれました」

 一通りの報告や討論が終わり全員の視線が華琳へと集まる中、華琳はまだ意見としては何も発言していない俺を見た。

「あなたはどう思うかしら? 冬雲」

「そう、だな・・・

 今回の戦いで袁家の力はだいぶ削がれたし、裏で動いていた元老院も崩壊した以上、袁家の力はないも同然。もしそれ以外で罪を問うとしたら劉協様を蔑ろにし、新しい皇帝を擁立しようとしたことだろうけど、未遂の上に元老院の独断で行い、彼らが死んでいるなら罪には問えないだろ」

「その通り。

 そして、皇帝に仕えている袁家の断罪は私が行っていいことではないのが事実だわ」

 つまり、会議は行っているが華琳を含めた俺達の一存で袁家と袁紹殿の今後を決めることは出来ないということ。

「黒陽、劉協様と袁紹は呼んであるわね?」

「はい」

 集めた理由が情報共有だけかと思って首を傾げた俺に、華琳は黒陽を促して中央の扉を開ける。そこには千重と袁紹殿が並び、二人は玉座の中央へと進み、華琳は千重へと礼を払うために玉座から降りてくる。

 華琳は千重へと臣下の礼を行い、袁紹殿や俺達もまた華琳に倣って臣下の礼をとる。

「皆、表をあげなさい」

 千重からの許しを受け、全員が顔をあげれば、そこには皇帝としての役目を果たそうとする凛々しい顔つきの千重が立っていた。

「今より皇帝・劉伯和より、今回の戦を企て、洛陽にて勝手な振る舞いを行った袁家・その当主たる袁本初へと処罰を与える」

 玉座が静まり返り厳かな雰囲気が流れる中、全員が千重の言葉を待つ。

「今回の戦に加え、洛陽での振る舞い、未遂であれど皇帝の擁立を企てたことは本来であるなら袁紹・・・ そなたの命のみならず、一族郎党の命をもって償われるべきである」

 千重はそこで一度言葉を区切り、大きく息を吸い込む。

「だが、たとえどんな思惑があれど、そなたら袁家が漢王朝に忠義を捧げ、尽力した功績はけして小さなものではない。

 よって死罪は免じ、袁家の有する領地の没収及び官位剥奪を言い渡す」

 袁紹殿の肩を叩き、千重は皇帝の表情を崩して袁紹殿へと微笑みかける。

「袁紹、あなたはもう好きに生きていいのです。

 袁家という鳥籠の中に隠されていた麗しい羽を大きく広げ、愛しい方の傍でお生きなさい」

「劉協様・・・ (わたくし)は・・・! いいえ、袁家は・・・ あなた方を!!」

「何も言わなくていいのです。

 もうあなたを縛るものも、我慢を強いるものもなく、名家だった袁家はありません。

 あなたのこれからを、迷いながらでもゆっくり一歩ずつ決めていきなさい」

 そういって千重は華琳と樟夏、白蓮殿と斗詩に視線を向け、最後に俺へと微笑んだ。

「何もなかった私でも見つけることが出来たのです。

 幼馴染も、愛する人も、家臣も、友もいるあなたならきっと、もっとたくさんの素敵なものを見つけることが出来ますよ」

「・・・っ!」

 泣き崩れる袁紹殿を千重は受け止めず、俺とおそらくは斗詩へと視線で合図を送る。その意味をくみ取り、俺は樟夏の背を思い切り押した。

「あ・・・」

「え・・・ 斗詩殿?」

 俺が樟夏を押すのとほぼ同時に白蓮殿を押した斗詩が優しく笑み、頷いた。

「ぼーっとしてる場合じゃないだろ、お前が支えるんだよ」

「麗羽様をお願いします」

 二人は押し出されたお互いと言葉を贈った俺達を交互に見てから、しっかりと頷き合い、袁紹殿の元へと向かった。

「さぁ、皆。

 当面はあちこちの治政で忙しくなるわよ」

 三人への配慮なのか、華琳は三人から背を向けてから声を張り上げる。

「桂花、建国に向けての準備はどうなっているかしら?」

「順調に進んでいます。

 建国に向けての書類は治政と同時進行に行うだけの人材も揃っていますので、私が中心に続けてもよろしいですか? 華琳様」

「えぇ、任せましょう。

 凪達は引き続き警邏隊を各村へ派遣。霞達騎馬隊は物資輸送に備え、動けるようにしておきなさい。軍師の割り振りは風、任せたわよ」

「はっ!」

「へいへいっと」

「はいはい、お任せあれ~」

「冬雲、あなたは英雄の名を最大限に使って各村へと慰問に赴きなさい」

「あぁ」

「華琳」

 それぞれへと仕事を割り振りながら玉座へと向かい、玉座へと座ろうとする華琳へと千重が声をかけた。

「あなたはいつ、私から帝位を受け取ってくれますか?」

 千重はどこかからかうように笑って、華琳もまたそんな千重へと笑みを返す。

「それは全てが終わった後だわ、千重。

 もっというなら、私が帝位を受け取らずあなたがこのまま皇帝を続ける可能性だってあるのだから、覚悟しておきなさい」

「私はゆっくりのんびり隠居生活を楽しみたいのですが」

 華琳の言葉に千重は大袈裟に肩を落として、溜息を零す。

「あら? あなたが私の肩を持ったなんて聞いたら、あの子達はどんな顔をするかしら?」

「半分本気、半分冗談です。

 私はあなたが勝っても、白の遣い殿と劉備殿が勝っても、今の彼女達なら安心して大陸を任せることが出来ます」

「あの子達が勝ったら、あなたも他人事ではないけれどね」

「その時はその時です。

 皇帝としては公平であるつもりですが、私個人としてはやはり関係の深いあなた達の肩を持っているのは事実ですしね」

 玉座に並ぶ錚々たる面子に視線を向ける千重はきっと、ここにはいない劉備殿達へも向けられているのだろう。

「私はあなた達が行く末を見守りながら、あなた達と歩みを共にするその時、恥ずかしない己であるために自分を磨くとしましょう」

 戦場に立つことがなくとも過酷な環境にあり、強く咲こうとする女性がそこにはいて、流れに身を任せつつもあの時とは違って己の意志で立つ千重の姿はとても美しい。

「強くなったあなたはそそられるわね・・・」

「ふふっ、褒め言葉として受け取っておきますね」

「えぇ、褒めているわ。

 それに・・・ そう思ったのは私だけはないようだしね」

 華琳が視線のみを俺へと向ければ、千重も俺のことだとわかったらしく、明るい笑みを見せてくれる。当然俺は考えていたことが読まれ、おもわず口元に手を当てて顔を逸らす。

「ならば尚更、精進しなければなりませんね」

「えぇ、立ち止まってる暇はないわ」

 あちこちの治政と魏の建国、涼州の馬騰殿。そして、いずれは雌雄を決することとなるであろう劉備殿と北郷。

 立ち止まってる暇はなく、行うべきことは山積み。矛を交えるであろう者達は強大且つ今なお成長を続ける彼らの底は見えない。

「やるわよ、あなた達」

 だが、それすらも楽しみだと言わんばかりに覇王(華琳)は笑む。

『おうっ!!』

 

 




次は呉を抜け出して好き勝手してる虎どもを書く予定です。
魏は・・・ 狼とのやり取りがどうなるかをお楽しみに。


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