真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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本当に一日で書けましたー。
まず一つ目の伏線の彼女の視点です。
タイトルがそのまんまなのは・・・ すみません。浮かびませんでした。
どれもしっくりきませんでした。


10,馬寿成 【浅葱視点】

「良い月だな、(ほむら)

 愛馬と共に見る月は少し欠け、アタシは馬上で酒を呷る。

「ヒンッ!」

「わかってるよ、『そんなに飲むな』ってんだろう?」

 愛馬から短い非難の声を聞きつつ、鬣をそっと撫でる。

 傷だらけの愛馬とはもう十年近く付き合いだ、この馬の親が私の初めての馬だった。手をかけ、一番の戦友(とも)として生き、この景色の中で死ぬと思っていた。

「そのアタシが病、ね。

 人生、どうなるかわかったもんじゃないよ。なぁ、旦那よ」

 馬上で死ぬこと叶わずに、病で先立った旦那を思い出す。

 馬の尾のような髪を長く伸ばした、優男。

 幼馴染で、いつ惚れたかなんてわからない。傍に居ることが当たり前で、共に生きることが運命だったと思えるそんな男。

 男のくせに気が弱く、アタシよりもずっと槍が下手糞で、そのくせ戦場じゃアタシの背を守るほど強くなる不思議な奴だった。

 戦なんかよりも馬たちの世話の方が得意で、旦那が世話をしていた馬は今もアタシたちを支え続けている。

「もうすぐ、会えるぞ。(りゅう)

 目を閉じると、困ったように笑う旦那の姿が見えた気がした。

「母さん! 変態が二人も来た!!」

 ・・・・さすがお前の娘だ、空気が読めん。

 アタシはにっこりと笑いながら、旦那の髪とアタシの瞳、そして性格はそのまま旦那の物が受け継がれた娘の馬超を見た。

「ほぅ? 翠。

 お前は変態二人如きもどうすればいいかわからずに、母の憩いの時間を邪魔するか?」

「憩い・・・・って、また酒飲んでやがったのか?!

 母さん! あれほど体に悪いからやめろって言っただろう!!」

 目じりをあげて酒を奪おうと馬で追いかけてくるが、アタシはそれに対してひょいひょいと馬を走らせる。

「あー、小言の言い方まで旦那に似やがって・・・・」

 溜息をついて、空を見る。

 しっかし、病気のアタシが余所見しながらでも逃げられるって、馬術はまだまだだなぁ。

「あいつ、馬だけはアタシに勝ってたもんなぁ」

「また父さんと比較しやがったなぁーーー!!」

 おぉ、速い速い。やれば出来るじゃないか。さすが旦那とアタシの自慢の娘だ。

 やっぱり翠をからかうのは面白いなぁ。つーか、こうでもしないとこいつ本気出せないんだもんなぁ。だから、いつまで経っても姪の馬岱(蒲公英)と組ませてなきゃいけないんだよなぁ。

「お姉さまー? 遅いよー。どうかしたの・・・・って、またですか。叔母様」

 そんなことを考えていたら蒲公英が、翠がいつまでも帰ってこなかったのを心配したんだろう、呆れた顔でこちらを見ていた。

「おー、蒲公英。

 こいつ、からかうと楽しいだろ?」

「気持ちはわかりますけどね」

 私が悪い笑みでそう言うと、アタシと同じ笑みで蒲公英もそう返してくる。こいつの悪戯に関して入れ知恵してきたのって、アタシだしな。

 悪戯は発想と才能が大事だ。蒲公英にはその才能があったし、アタシも楽しかったしな。

「蒲公英!」

 こいつはアタシの娘なのに、どうしてこんなに真面目なんだろうな・・・・

 旦那の性格がそのまんま過ぎてアタシは面白いが、言っちゃ悪いが絶対いろいろ損しそうだよなぁ。

「お姉さまも怒らない、怒らない。

 叔母様とお姉さまがあんまり遅いから、一応客として迎えたけど・・・ 自称医者と、筋肉の塊みたいな人」

 蒲公英が青ざめるほどか・・・ 行きたくないな。

「母さん、今行きたくないとか思っただろ?」

「ハハハ、そんなわけないだろう。アタシを誰だと思ってるんだい。

 馬一族をまとめる馬寿成だよ?」

 いつの間にかアタシの横に並んで肩を押さえた翠に、うまく動かない表情で笑う。

「叔母様・・・ 棒読みになってますよ」

 諦めて愛馬の向きを変えて、自分の城へと進めた。

 

 

「遅くなってすまないな、客人」

 そう言いながら入るとそこには、裸体に褌一枚、おさげの変態がいた。

 その横に普通の服を纏っている赤い髪の男が、なんともないように座っていることが余計に異様さを生んでいるような気がしてならない。

「母さん、進めよ?」

 笑顔を貼り付けて後ろからそう言ってくる娘に苦笑いを返しながら、アタシは飾り同然の玉座に数日ぶりに座る。

「・・・・それで? 変態と自称医者と聞いているが何用だ?」

 アタシは自分を落ち着かせるために、煙管を取り出して深く吸い込んだ。それでも落ち着きそうにないのは、異常な生き物が視界に映ってしまうからだろう。

「だーれが、一目見ただけで卒倒するような変態ですって?!」

「「お前だ!!」」

 アタシが叫ぶと同時に翠も叫んだ。

「ちょっ?! 叔母様、お姉さま、普通は『そこまで言ってない』じゃない!?」

 笑いをこらえながらも蒲公英が突っ込んでいるが、仕方ないだろう!

 アタシは本気で卒倒しかけたぞ?!

「貂蝉は俺の大事な仲間だ。そう言わないでほしい。

 しかし・・・・ 本当に気が乱れてるんだな。馬騰殿。

 歩くのも辛いんじゃないか?」

「えっ?」

「叔母様?! それ、本当なんですか!?」

 アタシは二人の反応を見ながら、溜息をこぼす。

 他の者はいないし、気配もない。なら、隠さなくてもいいか。

「医者っていうのは嘘じゃないようだな、坊主。あんたの名は?

 ここまで来れたんだ、アタシの名は知っているだろう?」

 アタシは目を細め、男を見る。

「俺の名は華佗。

 流れの医者をやっている・・・・ いや、今は友人の使いとして各地を歩いているな」

「ほぉ・・・・

 それで華佗殿よ、アタシが病だと誰から聞いた?」

 アタシは腕を伸ばして、愛用の槍を手に取った。そして、玉座から飛び、華佗の首元へと槍を突きつける。

 翠と蒲公英の息を飲む音がするが、アタシは返答次第ではこいつ(華佗)を容赦なく殺すつもりだった。

「怖い顔しないの。馬騰ちゃん」

 殺気にも近い怒気が貂蝉と呼ばれた変態から漏れたが、アタシはそれに対して睨みを利かせて殺気で返す。

「黙れ、変態。

 ここを治めているアタシが病なんてことを、流れの医者にすらばれていたら困るんだよ」

 口から煙を吐き出しつつ、アタシは笑う。

 こいつと殺しあったら楽しそうだなと、一瞬でも思うアタシはまだ武人として死んでいない。

 最期は母親として死ぬのか、治める者として死ぬのかと思っていたが、やはりアタシは根っからの武人のようだ。

 窮屈な城も、息の詰まる部屋も好きじゃない。

 どうせ死ぬなら空を見ながら、馬の背で果てたい。

 病にこの身を喰われかけている今でも、心からそう思う。

「この大陸に降り立った二人の天の遣いを、知っているか?」

 アタシと変態が睨みあっている中で、華佗がふと呟いた。アタシはおもわずそちらを見た。

「あぁ、聞いたことがあるね。

 大陸中に広まってる管輅の占いだろう、白き星と赤き星の天の遣いとか言ってたな」

 二人いるからどこに落ちてくるか、部下と賭けてんだよなぁ。

 槍を下ろさずに視線を変え、華佗の目を見る。

 まっすぐな若者特有の強い目、覚悟と信念を持った男の目。

「赤き星の天の遣いが、ここに患者がいることを教えてくれたんだ」

「フゥン、それで?

 それが偽りだったら、あんたはアタシに殺されるところだったんだが、そいつにはあんたの命を賭けるほどの価値がある男なのか?

 それともアレか?

 医者という存在は患者が居れば、いつわりであってもこんな辺鄙なところにも訪れるのか?」

 だからこそ、問うてみたくなる。

 一人の男をこんな目にさせる男に対して、興味が湧く。

「俺の友は、人が傷つくような嘘を決して吐かない。

 そして俺は、そんな彼の友であることに誇りを持っている。

 医者としての誇りや意地なんてものが如何にくだらないかを、俺は彼に教えられた」

「そうよぉ、ダァーリンはそんな彼の友人で、絶対に嘘をつかないのよぉ」

 野太い雑音が入ったが気にしないでいよう、主にアタシの精神衛生のために。

「・・・・・悪くない」

 アタシは槍を下ろして、玉座へと座りなおす。

 あぁ、まったく悪くないね。

 こんな若者を寄越す男がいる時代、死んでなんかいられない。

「母さん? まさか、治療を受けるのか?」

「叔母様、こんな二人組を信じるの?」

 二人がそんなことを言ってくるが、アタシはゆっくりと頷いた。

「・・・・二人とも、その言いぐさじゃアタシに死んでほしいみたいだよ?」

母さん!(叔母様) そんな筈が(そんなわけ)ないだろう!!(ないじゃん!!)

 二人がアタシを挟んでそう大声を叩き付けてくるから、どっちが言ってんだかわけがわからん。

 つーか、耳が痛い。

「あー、アタシが悪かった」

「「病気が悪化していたことを隠してたこともだよ(です)!!」」

 二つの意味で耳が痛くなってきた。

 アタシが悪いんだけどさ、隠しとかないと絶対療養になるだろうが。

 寝台で寝たままなんて、それこそ死んでもごめんだっつの。

「あーあー、悪かったって言ってんだろうが!」

 二人の頭を押さえて、そのままぶつける。

 良い音がし、二人がのたうち回るのを見て少し気が晴れた。

「馬騰、すぐに治療を始めたいんだが、かまわないか?」

 華佗がそう言って、懐から針が入れられた帯のようなものを出す。革製のずいぶん丈夫そうな代物だな。

「別室の方がいいか?」

「うむ、肌を晒すことになるし、そちらの方がいいと思う。

 気の流れに衣服は関係ないんだが、針を刺すからな」

 話を聞きたいのは華佗だけだし、変態は二人に任せるか。

 そう思い、足で二人を軽くつついておく。

「二人とも、変態の方を頼むぞ。

 アタシはこれから治療を受けてくるからな」

 ぷらぷらと腕を振って、二人と変態を置いて部屋を出る。

「ダァーリンに手を出すんじゃないわよ! この年増!!」

「ハハハ、時の流れで増すものは年齢だけとは限らんぞ? 変態」

 変態のその言葉に笑いながら、アタシは玉座を後にした。

 

 

 私室に移動し、前を隠した状態で上着を脱ぐ。

「気がずいぶん乱れているな・・・

 あと数日遅れていたら、手遅れだったかもしれない」

 治療を受けながら、アタシは華佗に問うた。

「なぁ、華佗よ。

 あんたはさっき『医者としての誇りや意地なんてものが如何にくだらないかを、俺は彼に教えられた』とか言ってたが、そいつはあんたになんて言ったんだ?」

 華佗が数本の針をアタシに刺しつつ、どこか言いにくそうな沈黙が流れた。

「言いにくいか?」

 アタシが苦笑気味に言うと、華佗は首を振った。

「いや・・・・

 俺はかつて、師から教わったことは自分にしか出来ないと思っていた。

 教えを広めることを拒み、俺は大陸の患者全てを救えたつもりでいた。

 だが、そんな俺の考え方を直してくれた人間それが、赤き星の天の遣いだった。

 俺が二人に教えれば、医者は三人に。三人がまた二人に教えれば、医者は増えていく。この大陸に少しずつ医術が広まり、医者が増えて、救う人数が増えていく。

 恥ずかしいことに俺は、そんな当たり前のこともわかってなかったんだ。

 独占して、自分だけが医術を使えることに奢っていた。

 そんな俺に彼は

 『華佗が知っている医術の可能性を、多くの人々を明るい未来(さき)へと導くことが出来る。

  だから、頼む。

  その医術で、もっとたくさんの人々を救ってくれないか』と頭を下げられたんだ」

「ほぅ・・・・」

 人は自分の間違いを、自分で正すことは出来ない。

 間違っているというのは誰かに気づかされるものであり、改善もあれば改悪も存在する。

 考えを改めさせるのは容易なことではないし、そうさせることはある種の才能と言ってもいいだろう。

 華佗の医術を赤の天の遣いは改善へと持っていったのか、大したもんだ。

 それにしても『多くの人々を明るい未来へ』ね、まさかアタシまでその人々に入ってるとでもいうのかい?

「アタシがもし断ったら、どうするつもりだったんだい?」

「ハハッ、それについても伝言とそれを聞かないのなら無理やり治療してこいと言われていた」

 華佗が笑いながら、針を刺す。

「何?」

「『あなたは病なんかで死ぬべき人間じゃない。

  この大陸の未来(さき)にあなたのような人が必要なんだ』と言っていたよ」

「はっ、こんな年寄りがか?

 子を残し、命すら病に食われかけたアタシなんざ、あとは若者の壁にしかならんさ」

 おもわず笑ってしまう。

 ついさっきまで死ぬことをどこかで覚悟し、時の流れに身を任せようとしていたアタシが未来(さき)に必要? 馬鹿なことを言う。

「『若者だけで作れる未来(さき)なんてない』と、別れ際に言われたよ。

 あとは本人に会えた時にでも、直接聞けばいい」

「そうだな・・・・ そうするとしよう」

 柳、お前の元へ逝くのはまだ先になりそうだ。

 どうしても一度、会って話をしてみたい人間が出来てしまってな。

「よし、これが最後の針だ。

 病巣確認! 気力入魂! 絶対命中! 五斗米道(ゴッドヴェイドー)は世界を照らす!!

 げ・ん・き・に・な・れーーーーー!!!」

 ・・・・・この口上って、必要なのか?

 

 

 翌朝、華佗と貂蝉はすぐに旅立つらしく、荷をまとめていた。

「もう行くのかい?

 治療の礼をしたかったんだがな・・・・」

「それは俺じゃなく、赤き星の天の遣いにしてくれ。俺は当然のことをしているだけだからな。

 それから治療したと言っても、まだ完全じゃない。しばらくの間は、酒と煙管はほどほどにした方がいい。

 完全に痛みがとれたら、好きなだけ飲むといいさ」

 笑いながらそう言う華佗に、アタシは翠に顎で指し示す。

 翠は華佗へと二つの袋を渡して、アタシの後ろへと下がる。

「そうするさ。

 少ないが路銀と食糧だ、これだけは持っていってくれ」

「ダァーリンといつ来てもいいように、私は別荘が欲しいわぁ」

「お前は死ね。変態」

 アタシは笑いながら、槍を繰り出すがそれをありえない速度で避けられる。

「チッ!」

 アタシの精神衛生のために死ね。

 筋肉達磨が旅路を闊歩するなんて、誰も喜ばないんだよ。

 つーか、アタシが世話になったのは華佗とそれを差し向けた赤の天の使いだけだ。

「あっぶないわね! この年増!!」

「女にもなりきれない変態が、よく言った!」

 互いに睨み合い、一触即発の事態になりかけるが三人が割って入ってきた。

「母さん、何やってんだよ」

「叔母様、少しは体を休めてよ」

 娘と姪に呆れられたな、いつものことだが。

「貂蝉、患者と喧嘩をするなとあれほど言っただろう」

「はぁい、ダァーリン」

 割って入った向こう側でもそんな感じになっていて、華佗はこちらを見て一礼してアタシたちに背を向けた。

「華佗!」

 アタシは一つだけ聞き忘れたことがあったことを思いだし、華佗を呼び止める。

「赤の天の遣いは、良い男か?」

 その問いに華佗は一瞬驚いたような顔をしてから、笑った。

「あぁ!

 俺が知る範囲で、この大陸で一番の良い男だ」

 そう言ってこちらに腕を振りながら、華佗は去っていった。

「叔母様、まさか・・・・」

 蒲公英がひどく微妙な顔をして、アタシを見てくるが気にしない。

「母さんには父さんがいるだろ!」

 翠の言葉に、アタシが思い出したのは旦那の最後の言葉だった。

 

『浅葱、浅葱の自由なところが僕は好きだよ。

 僕が死ぬことで浅葱のそんなところがなくなるなら、いっそ僕のことなんて忘れてくれ。

 草原を駆ける馬みたいに美しくて、逞しくて、素敵な、僕の大好きな人。

 最後まで君らしく、生きてくれ』

 

「もう七年さ、柳に対して義理は果たした」

 それを知っているのはアタシだけ。

 『自分の最後は浅葱とだけと居たい』

 それがアタシの知る限りでの、旦那の最初で最後の我儘だった。

「っ! そうかよ!!」

「お姉さま!

 叔母様・・・・」

 怒ってアタシに背を向ける翠に対して、アタシは溜息をつく。

 蒲公英が気にかけて振り向くが、アタシがそれに対して手で促すと翠を追いかけていった。

「・・・・・はぁ、うまくいかないもんだな。親子ってもんは」

 そんな言葉は、澄み渡る蒼い空へと吸い込まれていった。

 




原作でも少し出てきた彼女に対して、私が抱いたイメージを元に書きました。
原作で彼女は毒酒を呷って死んだのはどうしてか。
武人として死ななかったのはどうしてか。
それを考えたとき、病で動けぬ体で『武人』として死ぬことが叶わないなら最後は『治める者』として死ぬことを選んだんじゃないかぁなと思った次第です。


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