真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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何とか書けました。予定通りの本編です。
サブタイトルは読んでいただければ、わかると思います。

読者の皆様、本当にありがとうございます。
作者は何とか勉強と執筆を同時進行に勧めたいと思っていますので、せめて週に一度は投稿できるよう頑張りたいと思います。



15,柳緑花紅の誓い

「冬雲様、玉座にて皆さまがお待ちです」

 俺は白陽の声を聞いて、下げていた頭をあげる。

「・・・大袈裟だなぁ、あの二人と義兄弟になるのに今いる全員集めてやるのはどうかと思うぞ?」

 俺は零れた苦笑を隠すことが出来なかった。

 てっきり三人だけで、どこか適当な酒家で飲み交わすだけかと思っていたのに、玉座なんて大袈裟すぎる。

「冬雲様、まさかどこか適当な場所で、三人で酒を飲み交わして終わらせるつもりだったのですか?」

 ・・・どうして俺の考えが読めるんだろうか?

「だとしたら、そんなことさせられるわけがありません。

 あなた方三人は武器を持ったただの一般人でも、義賊でもないのですから」

 たしなめられながら、俺は立ちあがる。

「わかってるけど、大袈裟すぎるだろ」

「『大袈裟』という時点で、あまりわかっているとは思えません。冬雲様」

 苦笑する俺に白陽はあくまで譲るつもりもなく、やめさせるつもりもないようだった。

「まぁ、いいんだけどさ」

 そして、最早体の一部になりつつある仮面に触れて、ふと思ったことを口にする。

「やっぱり誓いをするなら、これは外した方がいいかな?」

「・・・・それはそうでしょうが、華琳様たちが許可するでしょうか?」

 これも、どうにかしないといけないかな。

 もし万が一、北郷一刀と会った際に外れてしまったら、少し面倒なことになる。

「刺青でも入れるか?」

 俺が冗談めかしに笑うと、白陽が鋭い眼で睨んできた。

「冗談でもそんなことをおっしゃらないでください、冬雲様」

 そう言ってから俺の顔に手が添えられ、少し冷たい手が俺の仮面へと触れる。

「あなた様の顔に傷などついたら、私は自分が何をするかわかりません。

 いいえ、おそらくそれは私だけではなく、華琳様、春蘭様、秋蘭様、桂花殿、雛里殿、斗詩殿、樟夏殿、樹枝殿・・・・・ それどころか、あなた様の部下までもが、傷をつけた者を殺しにかかることでしょう。

 冬雲様、あなたはご自分が思っている以上に皆に敬われ、愛されておりますよ」

 そう言ってほほ笑む白陽はあまりにも真剣みを帯びていて、それなのにそれが誇りであるかのように微笑んでいた。

 

 こりゃ、うかつに怪我も出来そうにないな。

 

 内心でそう思いつつも、どこかで喜んでいる自分に溜息をついて、白陽の後を追った。

 

 

「冬雲、遅いわよ!」

 ついて早々にそう言ってくるのは桂花だったが、その顔はどこか嬉しそうだった。

「ごめんごめん」

 謝りつつ周りを見ると、そこには桂花と同じ色の服に一筋の深い緑の線が入った服を着た樹枝と、俺と同じ深い紫の服に淡い黄を各所にちりばめた服を着た樟夏が待っていた。二人は俺が来るのを見ると安心したかのように肩を下ろした。

 

 ・・・・・その姿が縛られてさえいなければ、どんなに様になっていたことだろう。

 

「・・・・・状況説明が欲しいな、華琳」

 そう言って俺が視線を移すと、華琳はいつも通り玉座で座っていた。

 そして、雛里。どうしてそんなに楽しそうな顔で二人を見ながら、筆を持った手が凄い勢いで動いてるんだ?

 桂花、お前の鞭は本当にどれだけ種類あるんだよ。こないだ見た奴はそんなに長くなかったよな?

 斗詩? どうしてそんな一仕事した後みたいな汗のかき方してるんだ?

 春蘭と秋蘭は今回不参加・・・・ じゃないな。春蘭がまだ動き足りない感じで七星餓狼を素振りしてるし、季衣もそれに付き合ってるし。

「私がご説明しましょう」

 そう言って出てきたのは黒陽、かつて同様魏の色である紫の薄手の服を纏い、いつも通り楽しげに微笑んでいた。

「曹家と荀家、そして天の者が義兄弟になるというのに『町の酒家でいいですよ』なんて言った二人に制裁を加えた。というところですね」

 凄くいい笑顔で言われると怖いです。

 そして、それ俺も言いました。ごめんなさい。

「あなたたちは自分がどれほどの立場に居るかを、ちゃんと理解してもらわないと困るわ。

 冬雲、あなたもよ?」

「・・・・すまん」

 華琳のその言葉は、まだそれほど重くはない。

 だが、現状でも主戦力である隊の一つを俺と樟夏は任されている。

 それに樹枝の立場も桂花に次ぐ武将兼任の軍師という位置、それもまたけして低いものではない。

「ですが・・・ 朝食の真っ最中に何気なく言った発言でこうなるのは理不尽かと・・・」

「樹枝殿、諦めよう。どうせ、世は無常だ」

「樟夏殿! 諦めないでください!

 世は理不尽で、無常ですが、諦めたらそこで終わりです!」

「こら、二人とも。

 俺たちの立場は食事の最中であろうとなかろうと、軽んじていいものじゃないだろ?」

 文句を言う二人に、俺自身そう言っていた面もあるからきつくは言えない。だからこそ、俺たちはこうして全員の前で誓わなければならない。

「・・・すみませんでした、兄上」

「申し訳ありません、兄者」

「樟夏は冬雲だと素直だな」

「樹枝さんもですよ」

 二人のその言葉に秋蘭と斗詩が笑い、それにつられるように周りも頷く。

「「そりゃ、(他の方々)違って(違い)()は暴力振るわないし(いませんし)」」

 あっ・・・ 馬鹿。

 周囲から殺気が溢れ、俺はおもわず身を震わせ。冷や汗が止まらなくなってきた。

「冬雲様、これを」

「ありがとう」

 そう言って白陽から、布を受け取る。冷や汗を拭いつつ、いつ襲い掛かる二人を庇ってやろうかといつでも動けるように軽く膝を曲げておく。

「それからご安心ください、冬雲様」

「うん?」

「とりあえず、誓いが終わるまでは何もいたしませんので」

 白陽ーーーー??!! いい笑顔でそんなこと言わないで?!

 そしてみんなも頷かないでーーーー!?

「桂花、もういいだろ? 放してやってくれよ」

「チッ、しょうがないわね」

 苦々しく舌打ちをしながら桂花が離れ、鞭から二人が解放される。

「二人とも、すまん・・・・」

「そう言ってくださるだけで、十分です・・・ 兄者」

「右に同じく」

 二人の各所についた埃を払ってやりながら、体を見る。

 その割には加減が完璧だよな、傷は残ってないし、衣服の痛みも少ない。二人が避けられるくらいには加減してくれてる、ってところか。

 なんだかんだで、みんな優しいなぁ。

 そう思いみんなを見て軽く微笑むと、それぞれが頬を赤らめながら個々の反応を返してくれた。

 あぁ、本当にみんな可愛いなぁ。

「「兄()?」」

「あぁ、すまんすまん。

 さぁ、行こう」

 俺と二人が軽く服装を正し、姿勢をしゃんとする。俺の剣はいまだ仮のもので一般兵士が使うそれと変わらないが、二人は自分の得物を片手に持っていた。

 樟夏の武器である双刃剣(そうじんけん)の『霧影無双(むえいむそう)』。

 樹枝の武器である棍の『理露凄然(りろせいぜん)』。

 どっちも凄い名前なんだけど、儚い漢字が入っているのはどうしてなんだろうな・・・

 

 玉座からよく見える中央で、俺たちはまず得物を掲げてぶつけ合う。

「我ら三人!」

 先陣をきるは樟夏、玉座に響くほどの大きな声だった。

「兄弟の契りを結びしからば!」

 次いで樹枝が叫び、その後の言葉はどうやら俺に託されたようだ。

 なんだか俺、責任重大だな。

 内心で苦笑しつつも、誓いの言葉は決まっていた。

 そして俺たちは同時に武器を下げ、杯を掲げた。

「ここに繋がりし(えにし)に感謝し、共に我らが仕えし日輪の道を創らん!!」

 俺がそう言うと二人が驚いたようにしたので、俺は笑いながらそのまま言葉を繋げた。

「同年、同月、同日、同じ世界に生まれること叶わずとも!」

 彼女たちと、彼らと同じ世界に生まれることすら、俺には出来なかった。

 だが、違う世界だったからこそ、俺はみんなに出会えた。

 俺はそれに後悔はないし、これからもするつもりはない。

 また、こうして出会えた。

 再会しても、初めて出会った白陽や黒陽たち、樟夏と樹枝ともこうして義兄弟になれた。

 辛かった思いすら呑み込んで、俺はここにいる。

 ならば、前に進もう。

 今いる全員が幸せになれるように、あの日々以上の幸せな未来(さき)を作り上げてみせよう。

「願わくば、死してなおも永久にこの縁が断たれんことを!!」

 俺は同じ日に死にたいなどと、けして思わない。

 一度別れを経験した俺だからこそ、同じ日にみんなに死んでほしいなんて望まない。

 死んで、また別人となって、それでもなお俺はみんなに会えると確信している。

 どんな姿であっても、どんな場所であっても、俺にはみんながわかるから。

 それに一度の別れさせられた程度で断つことができるほど、やわな絆なんかじゃないと俺は証明してみせた。

 ならば、何度別れを繰り返そうと、俺はあらゆる手段を使ってまた会いに行ってみせる。

「「「乾杯!!!」」」

 杯がぶつかり合い、三人で一斉に呷った。

 これが誓い、俺がこの世界で初めて家族を得た瞬間となった。

 

 そんな俺たちを見て居たみんなから、拍手が送られる。

「確かに見届けたわよ、冬雲、樟夏、樹枝」

 みんなを代表するように華琳がそう言って笑う。

「三人のこの誓いに敬意を示し、私からこの誓いを名付けさせてもらうわ。

 冬雲、あなたは『死してなおもこの縁が断たれんことを』と言ったわね?」

「あぁ、言ったな」

 俺は頷くと、華琳はこれで決まりだとでもいうように深く頷いた。

「この誓いの名を『柳緑花紅(りゅうりょくかこう)の誓い』とするわ」

 柳緑花紅?

 確か意味は『美しい景色』『悟りを開いたこと』『自然のまま人が手をくわえないこと』だった筈。

「柳が緑であることも、花が紅いのも当然のこと。

 あなたたちはそう(兄弟で)あることが当たり前で、自然だわ。

 だからこそ、この名に決めさせてもらったの」

 『納得したしら?』と俺を見てくるその目は、本当にいつも俺のことを見透かす王の目であり、愛しい女の子の目だった。

「あぁ、素晴らしい名をありがとう。華琳」

「「ありがとうございます! 姉者(華琳様)!!」」

 俺がそう言うと二人も頭を下げ、俺はふとさっきも疑問を抱いたことを言った。

「そう言えば二人は俺の顔、気にならないのか?」

 もうすっかり慣れてしまった狭い視界の中、二人を見ると帰ってきたのは意外な返答だった。

「出会った当初は気になりはしましたが、今はそれよりも兄者はその仮面のせいで生活は不便ではないのかと心配に思っています。

 視界が狭い中、私が知る限り鍛錬中もずっとつけていらっしゃるでしょう?」

 樟夏の言葉に樹枝も深く頷き、口を開いた。

「樟夏殿とほぼ同意見です。

 それにまだ話してくださっていない部分も含め、いつか見せてくれるのでしょう? 兄上」

 二人から信頼の目を向けられ、俺は二人からは顔が見えないようにするために乱暴に二人の頭を撫でる。

「あ、兄者?」

「兄上?」

「まったく・・・・ あーぁ、こいつらは」

 同性からのこうした尊敬の目なんて初めてだし、華琳たちとはまた違うこの不思議な気持ちがなんていうか、その・・・・ 照れくさかった。

「二人とも、本当にいい弟だよ。

 なぁ? 華琳、桂花?」

 二人を乱暴に撫でつつ、二人の実姉を見ると華琳は微笑み、桂花は鼻を鳴らしてそれに応えてくれた。

「フフッ、当然でしょう? 私の実の弟よ」

「当然じゃない! 私が躾けた弟なのよ?」

 その答えには俺だけじゃなく、他のみんなからも温かな笑いが漏れる。だからもう少しの間だけ、俺はこいつらを少し痛いくらい乱暴に撫でておくことにしよう。

 みんなきっと察しているだろうし、見えたとしても誰一人としてそれを笑う者なんていないってわかってる。

 だけど、男よりも女が強いこの世界でも男にだって意地がある。

 たとえそれが嬉しいから出ているものであったとしても、見せたくなんてないからな。

「それで? 順番はどうする?」

「「言うまでもなく兄()が長兄です」」

 二人の息のあった言葉にこれは俺が断っても無理そうだと思い、頷いておく。

「二人はどうするんだ? どっちが上にする?」

「そう、ですね・・・・ 兄者が長兄であること以外は正直決めていませんでした」

「樟夏殿と同意見です。

 正直僕らって、上下なくてもいいくらいですし。明確に『誓い』という形で繋がりが欲しかっただけかもしれないですね」

 照れくさそうに二人は笑い、俺は苦笑する。

 やっぱり、言わずともわかってしまうのだろう。

 俺たちの過去からある記憶という繋がりが、こうして出会ったみんなにもなんとなくわかるんだろう。

「まったく、困った弟たちだな」

 二人を撫でながら、俺はまた一つ心の中で誓う。

 あの日の全員が揃った日、こうしてここで出会ったみんなにも全てを包み隠すことなく話そう。

 俺の口から、俺の言葉で、ありのままの全てを話して、みんなの答えを受け入れよう。

 それが俺のすべき義務だと、蜀の北郷一刀が居るこの世界の歴史を変えてまでここに来た俺の贖罪としよう。

 

 

 

 二人が収まった後、さっきの件で二人は桂花、春蘭、秋蘭、斗詩と司馬八達にどこかへと連行されていった。

 季衣だけは兵士の鍛錬の時間だから、真面目に仕事をしに行ってくれた。

 ・・・・雛里は何故か筆と書簡を片手にそれについていっていたけど。

 いろいろな意味で、すまない。二人とも。

 でも兄としては、少しだけ自業自得な気がしないでもない。

「それで華琳、今後の予定は?」

 俺は隣に座る華琳の横に居て、問うた。

 が、華琳は不満そうに椅子から立ち上がり、椅子を指差した。

「冬雲、そこに座りなさい」

「・・・・そこ、玉座なんですけど」

 俺が苦笑気味に答えると、華琳はもう一度指差して今度は強めの声で言った。

「いいから座りなさい。どうせここには今、私とあなたしかいないわ」

「はいはい」

 俺が椅子に座った上から、華琳が俺の膝へと座ってくる。

「華琳は甘えん坊だな?」

「たまにはいいでしょう?

 誰もいないのだし、私もあなたに触れていたいわ」

 華琳はそう言って、深く溜息をついて背を預けてくる。俺もまたそんな華琳を両手で包み込み、抱きしめる。

 柔らかく、女の子特有の甘い香り。

 でもそれは、けして不快じゃない。天の国とは違い、作られた香りはそこにはなく、自然の彼女そのものの香りがした。

「それで? 近いうちのご予定は?」

「・・・・そうね、黄巾の少し大きな集団が幽州からさほど離れていないところにあるそうよ。それを近いうちに叩くわ。

 稟たちからの情報で幽州に劉備と白の天の使いが現れたようだし、一度会っておいてもいいんじゃないかしら?

 フフッ、どうやら風達は面白い動きをしてから、私たちの元に帰ってきてくれるみたいよ?」

 華琳は楽しげに笑いながら、懐から一本の書簡を出すが俺には見えないうちに片付けてしまった。

「みんなが心配だよ。

 洛陽の方では霞は『神速の張遼』じゃなくて、『鬼神の張遼』なんて呼ばれているみたいだし。

 天和たちもどうしているかが知りたいのに、情報が錯綜しすぎてる。俺がじかに足を運びたいけど、それは許してくれないだろう?」

 どうして二つ名が変わったのかがわからないし、天和たちの行方もまだわかっていない。どうして黄巾の乱になってしまったのか、非戦闘員である三人が無事かどうかも気にかかる。

 それにもう一件、俺自身がやはり行かなければならない場所がある。

「・・・・もし、一度だけその時間をあげるとしたら、あなたは最善の動きが出来るかしらね?」

 華琳のその真剣な言葉に俺は首を振り、華琳の手に自分の手を重ねた。

「それはまだわからない。

 だけど、後悔しない一手を打ってくることを約束するよ」

 でも、それは今じゃない。まだ、早い。

「わかったわ、あなたがそこまで言うなら必ず時間を用意しましょう。

 ただし何をするのであれ、けして・・・・ 死なないで」

 そう言って鍛錬の結果で固くなりつつある手に、華琳が頬を寄せた。

 どうも俺の手には、みんなを触れたがる何かがあるらしい。

 俺としては嬉しいから、大歓迎なんだけどな。

「あぁ、やっと会えたんだ。そんなにすぐに離れてなんかやるもんか。

 俺はみんなと一緒に、未来(さき)を見るために帰ってきたんだ。

 それが出来ても、そこで一緒に笑って、老衰するまで元気に生きてやるって決めてるんだよ」

「フフッ、あなたらしい。

 少し眠るわ、このままでいさせて」

「あぁ、もちろんいいとも。

 愛しき我が覇王、大陸の日輪・・・・ 俺の大切な華琳」

 俺はそうして抱きしめながら、穏やかな華琳の寝顔を見守り続けた。

 




ストーリーにないオリジナルって、楽しいけど難しいですねー。
次回はようやく蜀の彼が出るかと思います。

誤字脱字、感想等々お待ちしております。

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