なるべくすぐにもう一話あげたいのですが、平日はあまり時間が取れそうにないです。
申し訳ありません。
ですが、週に一度は必ず投稿するつもりですので、どうかよろしくお願いします。
読者の皆様、本当にありがとうございます。
いよいよ、蜀の
そんなことを考えながら、出立前に厩舎へと足を運ぶ。すっかり俺の顔を知っている兵はいい笑顔で俺を迎え入れ、馬用の櫛と布を渡してくれる。それに手をあげて礼をすると、頭を下げてくれる。
「来たぞ」
俺がそう声をかけてやると厩舎から愛馬が顔を出し、『早く早く』と前足で地面を叩く。
「午後から出立だからな、また頼むぞ」
俺がそう言って櫛をかけてやると嬉しそうに顔を摺り寄せ、上機嫌に嘶いて答えてくれた。
「冬雲さん?」
後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには斗詩が俺と同じ櫛を持って立っていた。
「よっ、斗詩。
ここで会うなんて珍しいな」
俺が櫛を動かしつつそう言うと、斗詩は近くの馬を撫でつつ頷いた。
「馬の世話ですか?」
「あぁ、こいつらも俺の仲間だからな。
手をかければ、何だって答えてくれるのは一緒だろ?」
「仲間・・・・・ 私も、ですか?」
「? 何言ってんだ? 当たり前だろ」
俺は斗詩の言葉に首をかしげると、斗詩の顔はどこか暗くなっていた。
俺は愛馬の頭を一撫でしてから軽く手を布で拭って、斗詩の頭を撫でた。
この程度しかできないけれど、気持ちが楽になってほしいと思う。
「・・・気持ちいいんですね、これ。
実はしてもらってる雛里ちゃんや季衣ちゃんが少し羨ましかったんです」
「こんなのでよければ、いくらでもするよ。
どうかしたか?」
「あっ・・・・ いえ、その・・・・」
「話を聞くぐらいなら、俺にもできるぞ?
役に立つかは微妙だけどな」
苦笑しながらそう言うと、斗詩はそこで少しだけ笑ってくれた。
「・・・・私、麗羽様・・・・袁紹様のところで仕えていたんです。
そこで桂花さんたちに誘われて、ここまで来たんです」
俺はそれにただ黙って頷き、続きを促す。
「文ちゃんとは同僚で、友達で・・・・ でも、仲間と言ったことはありませんでした。
麗羽様も・・・ 私たちを仲間とは思っていなかったことでしょう。
それだけじゃありません。多くの兵の方々も、私は仲間とは思ってはいませんでした。
あそこに居た日々を間違っていたとも、楽しくなかったとも言いません。
苦労は絶えませんでしたけど、私はあそこに居ることで確かに満たされていました」
それは不思議な語りだった。
懺悔ではない。後悔でもない。かといって、もう過去だというにはまだ日は浅い。
斗詩の顔に辛さもなければ、悲しみもない。しいて言うならば、本当にただの思い出話を語るときのような穏やかさを持っていた。
「でも・・・・ どうしてでしょうね?
私はもう、あそこに戻りたいとは思わないんです」
「・・・・どうしてだ?」
俺はそれだけ尋ねると、斗詩は俺をまっすぐに見つめてきた。
「ここでは誰もが当たり前に、他の人たちを『仲間』と呼んでくれます。
日数も、性別も、所属も何もかも関係なく、手を取り合っているんです。
これって実はとってもおかしくて、珍しいことなんですよ? 冬雲さん」
言葉の内容の割には、斗詩はとても楽しそうで、いつもはしない悪戯っ子のような笑みをする彼女にしばし見惚れる。
「そして冬雲さん、それはあなたを中心に起きているんです」
俺を指差しながら、とても楽しそうに何故か頬を赤らめていた。
「俺は普通に接しているだけだよ、誰も彼もね」
「そう! そう言うあなただから、誰も彼もがあなたを好きになってしまうんです。
華琳様も、春蘭さんたちも、雛里ちゃんも、樟夏さんや樹枝さんも、他の人たちもみんな・・・・・ それから、私も」
そう言って俺の顔へと近づいて、頬に柔らかい感触が当たってから斗詩は俺の横を通り過ぎていく。
「あなたのことがだーい好きですよ! 冬雲さん」
そう言って、厩舎を走り去って行ってしまった。
俺はしばらく呆気にとられ、その場に座り込む。
顔が隠れていてよかったと、初めて思う。
きっと今の俺は、人に見せられないぐらい顔を赤くしているだろう。
「・・・・・不意打ちだ」
「本当に・・・ お前は好かれやすいな。冬雲」
突然降ってきた言葉に俺は大して驚かず、そのまま返した。
「・・・・秋蘭、ずっと居たんだったら出てきてくれればよかったんだよ」
「フフ、私もそこまで野暮じゃないさ。
それに斗詩も、お前だからこそ聞いてほしかったんだろうさ」
そう言って俺の頬に秋蘭の手が触れ、俺もその手を掴んでいた。
弓を引くからか、その指先は少し硬い。それでもやはり女の子の手で小さく、可愛らしい。
「そうかな、そうだと嬉しいな」
あれはきっと、誰かに聞いてほしかったのだろう。
場所が変わってしまったことでの戸惑い、変化、そして今の気持ちを。
あれは彼女の心の整理の仕方で、俺への思いの告白。
思い出すとまた少し、頬が熱くなってきた。
「なぁ、冬雲」
秋蘭が俺を呼ぶその声は、いつもと同じだけど違っていた。
「私はいつ、お前に謝ればいい?」
いつのことかも、何の事かも聞かなくてもわかる。
それほどの付き合いで、絆がある。
昔はそんな風にまっすぐ言葉にすることは出来なかったけれど、誤魔化すのも嫌になるほど会えなかった俺はもう、言葉を飾ることはない。
そしてその答えも、俺はあの時からずっと決まっていた。
あの日の俺に後悔はなく、もしまた同じことがあっても俺は同じことをするという確信もある。
「秋蘭が謝ることなんて、何一つないさ。
俺がしたいからしたことで、秋蘭に生きて欲しかったからしたことだ。
自分が消える以上に俺は、秋蘭にも流琉にも死んでほしくなかった。
だから、謝られるよりも、その真逆の言葉の方がいいな」
謝罪なんて欲しくない。
何故ならあれは、俺が勝手にしたことだから。
体調が崩れた時点で自分が消えることがわかっていたのに、俺はそれでも華琳へとその事実を叫んだ。
俺が消えても、二人には生きて欲しかった。
いやきっと、あの時あそこに居た仲間の誰であっても俺は同じことをしていただろう。
「そう、か・・・・・
実にお前らしい答えだな、冬雲」
そう言って後ろから抱きつかれ、首に優しく腕が回される。
「私と流琉を救ってくれて、ありがとう。一刀」
耳元で俺にしか聞こえないように囁かれるその言葉は、あの日々の分。
「さて、私はそろそろ行くとしよう。
姉者の準備も手伝わなければならないのでな」
楽しげに立ちあがり、春蘭のことを考える秋蘭はあの日々と変わらずに楽しげだった。
「留守は誰に任せるんだったっけ?」
「桂花、樹枝、斗詩、季衣。そして、司馬八達の下四人だな。
留守を任せる者がいるというのはいいな、安心できる」
秋蘭は微笑みつつ、立ち上がる俺を見上げた。
「うむ・・・・
以前の優しげなお前もいいが、こうして逞しいお前もよいものだな。冬雲」
「そうなのか?
俺としてはそう言って貰えるのは嬉しいけど、昔が軟弱だったとも取れるぞ? それ」
俺がそう言って笑うと、秋蘭は否定もせずに笑う。
「お前がここに居るなら、どっちでもいいさ。
愛しているよ、冬雲。
華琳様とも、姉者とも違う、異性として私が唯一愛する者よ」
秋蘭のその言葉に、俺は優しく彼女を抱きしめる。
「俺も愛してるよ、秋蘭」
そう言って俺たちはほんの少しの間、過去と今のどちらともいえぬ時間をわかちあった。
桂花たちに見送ら、俺たちは行軍していく。
・・・・劉備に拾われる
仮にあの時と同じようにどこかの雑軍として彼女が居たならば、俺ならどうやってのし上がる?
土地も、守るべき民もなく、背を任せられる兵もいない状況下で、俺ならどう兵を用意する?
「兄者?」
民に理想を持って語りかけるか? いや、無理だな。
民は自分の生活で手一杯、そんな中で現実性がないものを追うなんて商人だってしやしない。
・・・あぁ、関羽と張飛がいたか。となると将が不足していても、有能ではあるな。だが、関羽はともかく張飛は幼い、相談役は結局関羽か。
劉備自身、前は・・・・ 全てを受け止める器。いや、違うな。定位置を持たないところからむしろ袋か。
俺にはよくわからなかったが、彼女には間違いなく華琳同様に人を惹きつける何かがあるだろうな。
「兄者!」
そもそも孔明が、どの時点で入ったかがわかっていないんだよな。
董卓連合時には居たと思うんだけど、それがいつなのかによっても兵の集め方が変わってくるんじゃないか?
『歩のない将棋は負け将棋』、兵がいなくて戦える戦なんてありゃしない。だから、俺たちは基礎から固めてきた。
兵の練度をあげて、中間管理職にも等しい将がそれをまとめ上げてきた。
それらを前提からぶち壊す劉備軍は、どうして出来上がっていけたんだ?
「兄者!!」
突然俺の肩に手が乗り、俺は我に返って周囲を見渡す。
手の主は樟夏、そして雛里もそんな俺を見て心配そうに見ていた。
「あっ? あっ・・・・・ あぁ、樟夏。すまん、考え事してた」
頭を軽く振って、眉間に手を当てる。
「眠れていないのですか?」
「いや、大丈夫だ」
心配そうにそう尋ねてくる樟夏に、俺は苦笑で返す。
考えすぎてもどうしようもないのは、わかっている。
ここは『三国志』の世界なんかじゃない。
ただ
彼女たちはここで、彼女たちとして生きている。
迷い、選び、喜び、悲しみ、怒り、嘆きながら必死に生きている。
それを歴史の者たちと重ねるかつての俺の方が間違っていることを、俺はあの生活の中で知った。
「冬雲さん、本当に大丈夫でしゅか?」
「あぁ・・・ そうだ。華琳」
心配してくれる雛里を見て、ふと思いついたことがあった。
「何かしら?」
「先に動いて、劉備の軍を遠目から見てきてもいいか?」
「「「ちょっと
樟夏、春蘭、秋蘭の声が器用に重なりあい、樟夏の手とは逆側に秋蘭の手が乗った。
「お前は、自分の立場をいい加減理解した方がいい。冬雲」
「秋蘭に同意です。
兄者、そのようなことは隊の者に任せた方がいいかと」
「そうだぞ! 大体、お前の隊はその間にどうするというのだ?!」
春蘭にすら常識を説かれた、だと?!
そのことを言えば馬上からでも鋭い拳がとんでくるだろうからいいはしないが、俺は普通に驚いていた。
春蘭もかつてのままではないことが、少し嬉しい。
「・・・雛里を見て浮かんだようだけど、何かあるのかしら?」
「軍の動きで、軍師が居るかいないかぐらいは雛里ならわかるんじゃないかと思ってな。だから、雛里と俺が一頭の馬で遠目で見てきたい。
部下たちに任せられないのは、任せるとなるとどうしても一班は護衛につけなきゃいけなくなる。そうすると動きが遅く、どうしても
「連絡手段を黒陽たちに任せても?」
「一班と黒陽たちを一時的でも抜かすくらいなら、俺たち二人が少しの間だけでも直接見てくる方が確実で早いだろ?」
俺のその言葉に華琳は顎に手を当てて、しばらく思案していた。
「そうね・・・・ いいでしょう。
ただし、制限時間を設けるわ。
四半刻・・・・ いいえ、半刻で戻ってきなさい。
あなたの腕とその馬なら、二人乗りであってもそれが出来る筈よ」
制限時間は一時間か、十分だな。
「もし出来なかったら?」
俺は少しだけ華琳をからかうように笑うと、華琳は真剣な目で俺を見てきた。
「やりなさい。
あなたにはそれが出来るし、雛里を守ることも可能だわ」
あぁ、俺は華琳のこの目が好きだ。
本当に部下を、仲間を信じきって何かを任せるときの、この覚悟に満ちた青い瞳が好きでたまらないんだ。
この目で見られると俺は、何が何でも全力で応えたくなる。
「・・・了解。
雛里、そう言うわけだからこっちに来てくれ」
「ひゃ、ひゃい!」
雛里を俺の前に乗せつつ、馬の首筋を撫でる。
「最近、二人乗り多くて悪いな。
「ヒンッ!!」
なんともないかのように数度地面を蹴る愛馬に俺は笑い、雛里はそれに不思議そうに首をかしげた。
「言葉がわかるんでしゅか? 冬雲さん」
「なんとなくだけどな」
そう言って笑うと、雛里はふわりと笑って俺を見てきた。
「冬雲さんが優しいのが、この子にも伝わるんですよ」
・・・・・なんだろう、今日はやたらこういう言葉が多くて照れるんだが。
「・・・行くぞ」
「照れているのですか? 兄者」
「余計なことを言わんでいい」
俺は最後に余計なことを言ってきた樟夏の頭に軽く拳を一つ落としてから、雛里を俺の前へと乗せた。
「結構飛ばすから、しっかりつかまっていてくれ。ただし、無理ならちゃんと無理って言うんだぞ。
我慢は絶対にしないこと、こいつのことだからなるべく配慮はしてくれるだろうけどな」
こいつ、俺が乗ってる時二人乗りが当然だと思ってる節があるから、自然と道選んでくれるんだよなぁ。
まぁ、俺もそれで助かってるんだけど。
「はひ! わかりました!!」
「よし! 行くぞ!!」
なるべく高い場所を目指しつつ、俺は目で劉備軍を探す。
「いました!」
雛里のその声に俺よりも早く愛馬が反応して、すぐさま見える位置へと向かってくれた。俺はあくまで夕雲にあわせて体を動かしているだけの状態だが、それに不満はない。
「・・・・確かここ、地図だとなにもなかったよな?」
軍は少ない部隊で賊を引きつけ、わざと自分たちを行き場をなくしたことにより
・・・危険な策だ、仮に新手が来た場合これでは追い詰められて終わり。自分たちに力にある一定の自信がなければ無理だし、少数ならば勝てるという考えが透けて見える。
だが、戦術としては間違っていないだろう。少数の部隊がより多くの者に勝利する確実な方法だ。
「はひ、そうです。
ここは枯渇した川で、地形が独特な形なっているんです。
となると、正確な地図を知っている者がいるのは間違いないでしょうね」
「正確な地図なんて知っている者は多くないよな・・・・ 雛里は誰か心当たりはあるか?」
「水鏡女学院の一部の人、それから洛陽の一部の方しか正確な地図を知らないでしょうから、この策を考えられる方はかなり限られてくると思いますでしゅ」
そう答えてから雛里は、しばらく考えるように顎に手を当てた。
「朱里ちゃん・・・・ 私の友達の諸葛亮ちゃんなら知っていると思います。
だとすれば、この策も納得がいきます」
「地形をうまく利用し、少数で敵を叩くか」
だが、平原の義賊がこんな兵をどこから?
そんな疑問が脳裏をよぎるが、夕雲が俺へと首をめぐらして太陽を見る仕草をした。
「・・・雛里、もう時間だとさ」
俺が苦笑してそう答えると、雛里も笑ってくれた。
「賢いお馬さんですね」
雛里に鬣を撫でられると上機嫌に、目を細める。俺もそれに続いて撫でてやりながら、声をかけた。
「さてっと、わかるところはわかったし、さっさと戻るか。
また、頼む。夕雲」
俺がそう声をかけると短く嘶き、俺の動きに合わせて翻って一直線に本隊へと向かって行く。
俺が蜀の
どうして、作者が考える以上にストーリーが進まないんでしょう・・・
20話も書いてるのに黄巾の乱すら終わらないって・・・
早く次が投稿できるよう頑張ります。
誤字脱字、感想等々お待ちしております。