真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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難産でしたね、今回は。
あまり自信がありませんが、どうかお楽しみください。
そして、文字数がいつもよりも二千字ほど多いです。
キリが良い所まで書いていたら、想像以上に長くなりました。

読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
そして、これからもどうぞよろしくお願いします。


17,邂逅

 俺たちと合流してから、華琳はすぐに本隊を劉備たちの元へと動かした。おそらく、俺たちが行動していた際に黒陽あたりに偵察を命じ、大まかな位置だけでも把握していたのだろう。

「それで二人とも、軍を直接見てきた感想は?」

「はひ!

 少数であることを自軍と地形をうまく利用した戦術、相手が多数であることで持った余裕を利用した道幅を狭めて相手の数を減らして叩く作戦でしゅた」

「・・・なるほど、あちらにも正確な地図を持った者がいるのね。

 冬雲、それを見ての感想は?」

 俺の方を向かずに声だけを向けてくる華琳、春蘭、秋蘭、樟夏も俺の意見に興味があるのか、わずかにこちらを見ていた。

「手段としては間違っていないと思う。

 少数が多数に勝利する、実に確実な方法だ。知識も雛里が言ったようにあることが見えるし、将も自信があるんだろうな。

 あれは先陣に立つ者と、軍師の目がなければ立てられない最良策だと感じた」

 俺はそこで一拍置き、心から沸き起こる怒りを何とか押さえ込んでいた。

「『少数の軍があれほどの数に勝てた』という結果だけを見るなら、『見事』といってもいいと思う。

 だがあの策は、力ある将だけしか生き残ることが出来ないな」

 最良の策であっても、最高の策ではない。

 どこから集めた兵かは、わからない。

 だが彼らは兵であると同時に、俺たちが守るべき民でもあるのだ。

「俺にはあの軍が、功績を欲しいためだけに戦っているようにしか見えないな」

 そう吐き捨てた。

「珍しいわね、あなたがそこまで言うなんて」

「俺はこの中で誰よりも民に近い位置にいる武将だからな、可愛い部下たち誰一人失いたくないんだよ。

 その真逆を平気でやられれば、不愉快にだってなるさ」

 今言った言葉にも、嘘はない。

 だが、理由はもう一つある。

 この策を立てた者にもそうだが、それに対して実行を許した上は何を考えているんだ?

 劉備か北郷一刀はまだわからないが、どちらにせよ()を犠牲にすることを厭わない。その姿勢が気に入らない。

 俺が見てきた華琳がどんなに堅実に現実を己の理想へと近づけていたのかを、俺は知っている。

 『天賦の才』を持っていても、それを磨くことが出来ぬなら飾りと一緒だ。

 才を持つ者はそれに応じた努力が必要であり、それを自在に動かす能力、責任が常について回る。

 それとも、それもわからない馬鹿共なのか?

「冬雲!!」

「いでっ?!」

 突然背中を叩かれ、俺は馬上で体勢を崩すが夕雲のおかげで馬から落ちずに済む。

「春蘭! 突然何すんだ!?」

「お前らしくない目をしていたから、喝を入れてやったんだ! 感謝しろ!!」

「俺らしく、ない?」

 そう言ってから周りを見ると秋蘭と樟夏、雛里が深く頷いた。

「姉者の言うとおりだ、今のような濁った目はお前らしくない」

「まったくです」

「冬雲さんが悲しむことじゃないでしゅ」

 俺はそれを聞いて、苦笑する。

「ったく、本当に俺は仲間に恵まれてるよな」

 そう言ってから俺は近くまで来ていた春蘭の頭を撫で、首に腕を回して俺の元へと落ちない程度にひく。

「何をするか?!」

「殴った仕返しだ。しばらく撫でられろ、春蘭」

「むうぅぅ~~、嬉しいが兵の前でするな! この馬鹿者!!」

「俺だってみんなの前でぶん殴られたんだから、お相子だろ?」

 春蘭はそう文句を言いながら、無理やり払ってくることはない。ついでに、猫のように顎を指先でくすぐってみる。

「にゃにをするか?! ゴロゴロ」

 酔った時は虎かと思ってたけど、基本は猫だよな。普段の戦いぶり的には熊だけど。

 しかし、熊と猫・・・・・ あぁ

大熊猫(パンダ)か」

「ぶふっ!」

 樟夏が俺の発言に吹き出し、秋蘭が俺の発言からおそらく大熊猫耳をつけた春蘭を想像したのかにやけ顔が止まらなくなっている。雛里は俺の発言がよくわからなかったのか小首を傾げ、華琳は『なるほど』と手を打った。

 春蘭は俺にされるがままになっているが、樟夏を射抜かんばかりの目で睨みつけている。

 こりゃ樟夏の奴、あとで飛ばされるな。

 ていうか、俺たち行軍中だよな? つーかこの後、敵陣にも等しい所に行くんだよな?

 俺が作った空気だけどこの緊張感のなさ、やばいんじゃないか?

「華琳様、もうすぐ到着いたします」

「ご苦労様、黒陽。

 皆、気を引き締めなさい!」

 よく響く華琳の声で、兵も、俺たちも一斉に空気が変わっていく。

 そしてその引き締まった空気すら、俺はどこか心地よさを感じていた。

 

 

 

 ・・・・・うわー。

 目を点にするのは驚く時だが、目を三角にするときは相手に対して失望あるいは、相手が驚愕以上に馬鹿だと感じた時なのだと俺は今、理解した。

「兄者、考えていることを当てましょうか?」

「言ってみろ、当たってたら今度兄弟三人で飲むとき俺の奢りだ」

 樟夏が俺にだけ聞こえるように言ってきたその言葉に先を促し、ついでに三人で飲む口実を作って置く。

 最近黄巾の賊関係で忙しく、誓い以後三人で飲み交わせてないんだよな・・・・

「『あの数を養うほどの食糧等が揃っているとは思えない陣だなぁ』と、言ったところでしょうか?」

「大正解」

 さすが金の収支をほぼ管理している樟夏、よくわかってるな。

「ですが何故、そのようなことをお思いに?」

 ・・・・俺ってそんなに考えが顔に出るのか?

「糧食って大事だよな? 樟夏」

「? えぇ」

「俺たちの軍の場合、最低二人は食料の天幕のところに見張りをつける。人手不足の場合でも一人はつけるな?」

 その言葉を言った後、俺は一つの天幕だけを眺めた。

「あぁ・・・ なるほど」

 俺の視線を追って樟夏はそちらを見てから、納得した顔で頷いた。

「仮に違っていたとしても、護衛をつける天幕なんて上の者がいる天幕だろう。

 が、それは戦いが終わった直後の今、状況整理のため上の者は指示等に追われてる筈だ。天幕に入ってなんかいられないだろ」

 さて、どうするんだろうな? 北郷一刀は。

 俺はそう思いながら、華琳たちが対応するのを待っていた。

「春蘭、樟夏、秋蘭、冬雲、雛里、行くわよ」

「は? 我々から出向くのですか? 華琳様」

 華琳のその言葉に一番に反応したのは春蘭だった。

「えぇ、私たちがお邪魔する側だもの。

 こちらから向かうべきでしょう?」

 そう言って笑う華琳はどこか面白がっているように、俺には映った。

「しかも将たる我々全員で、ですか?

 姉者、何をお考えで?」

「この状況下、あちらは仕事に追われていることでしょう。

 そしてそこには、全ての将が集っているわ。あなたたちを連れていくのは護衛であり、あちらの武将たちも見定めなさい」

「あわわ、了解でしゅ」

 その言葉に疑問の声が終わり、俺は影を見る。

「白陽」

「承知いたしました」

 即座に帰って来た短い返事に俺は笑い、見れば華琳も黒陽と同じようなやりとりをしていた。

「さっ、向かいましょう」

 そう言って俺たちは華琳の背を追った。

 

 

「――――― 来てもらってくれ」

 そこに、かつての俺が居た。

 聖フランチェスカ学園指定の白い制服、茶の髪、茶の瞳。

 どこにでもいる日本人の学生だった俺が、そのままの姿でそこに居た。

 でもあれは、俺であって俺ではない。

 俺はもう『北郷一刀』ではなく、華琳たちと共に生きることを選んだ『曹仁子孝(冬雲)』だ。

 華琳の左右に秋蘭、春蘭が並び、その後ろに俺たちが控え、秋蘭の脇に雛里が立つ。

「アンタが曹操か?」

 俺を指差して、そう言ってきた。

「ククッ」

 秋蘭がこらえきれずに、吹き出した。

 間違えたこともそうだが、これが北郷一刀(俺の可能性)だということにも笑っているんだろうなぁ。

「っ!」

 春蘭が襲い掛かりそうになったのを、樟夏が何とか抑えている。

 怒りの理由は二つ。

 華琳を真名でないとはいえ義賊が呼び捨てにしたことと、こんな者が北郷一刀()だということ。

 春蘭は本当にまっすぐで、『忠臣』という名がよく似合う。

 俺はそんな春蘭の頭を掻き撫でてから、前へと歩み出る。

 どうやらあちらの北郷一刀()は、まず冬雲()をご指名したようだしな。

 

 正直俺はその場で頭を抱えたくなるほど、恥ずかしくてたまらない。

 自分が反省して改善した恥ずかしいものを全部持って、目の前で見せつけられたらこんな気持ちになるんだろうなぁ・・・

 きっとこいつの頭の中では『三国志』の彼らと、ここに生きる彼女たちの違いは性別だけだとでも思っているんだろう。

 劉備の敵であり、乱世の奸雄。それが曹操孟徳だとでも考えていることだろう。

 だが(・・)そんな者はこの世界(・・・・・・・・・)に居ない(・・・)

 他の誰でもない彼女たちが、ここに生きている(・・・・・・・・)ことをお前はわかっていないんだよ。北郷一刀。

 

「おいおい、秋蘭。気持ちはわかるが笑うなよ。

 というか、お前は初対面の人間を指差すな。

 そしてまず、相手に聞く時は自分から名を名乗ることが礼儀だ」

 俺も最初、これだけ華琳たちに失礼だったんだろうなぁ。

 俺はそこで一区切りつけ、華琳へ手を差し出すようにして示す。

「俺は赤き星の天の遣い、曹仁子孝。

 そしてお前が呼び捨てにした我らが主、曹孟徳はこの方だ」

「赤き星の天の遣いだと?! ならば何故、そのように私たちに近い名を持っている?!」

 偃月刀を俺へと向ける関羽に対して、春蘭だけでなく秋蘭と樟夏からも殺気が溢れ出た。心なしか雛里の目にも、どこか冷たい怒りを宿しているように見える。

「三人とも控えなさい。

 そして、あなたの武は何も構えぬ者に対して、振り回す程度のものなのかしらね?

 だとするならば、あなたの誇りはその程度ね」

 鼻で笑って、俺と関羽の間に立つ華琳は何て美しいのだろうか。

 あぁ、でも駄目だ。

 俺は彼女に背負われる(守られる)立場にいたくない。

 俺は共に背負うために帰ってきた。後ろではなく横で、後ろであったとしてもその荷を共に背負えるように背中合わせでありたかったんだ。

「愛紗、武器を下ろしてくれ。

 こうして来てくれた曹操さんに失礼だろ?

 俺の名は北郷一刀、白き星の天の遣いなんて呼ばれてる者だよ。

 それで何しに来たんだ? 曹操さん」

 春蘭じゃないが、俺もキレそうだな。

 こいつは自分が、華琳と同じ目線でいるつもりなのか? 

「この軍の責任者はあなたかしら?」

「責任者は俺ってことになってるけど、ほとんどみんなのおかげだね」

 そう言って北郷が振り向くと、後ろには見覚えのある顔が並んでいた。劉備、張飛、諸葛亮・・・ そして、誰だ?

「私は関平、覚えなくて結構」

 一人一人名乗ってから、最後の一人である女性 ―― 関羽に比べれば目が穏やかな、短髪 ―― は素っ気なくそう答えた。

「簡潔に言うわ、あなたたちだけではとてもじゃないけれどこの黄巾の乱を止めるだけの力はないわ」

 華琳のその言葉にあからさまに関羽と関平が眉をあげ、張飛が表情をしかめ、劉備が不満げな顔をし、ただ一人諸葛亮だけが理解しているらしく下を向いた。

「劉備、あなたの理想は何?」

 華琳はほぼ相手に考えさせる間もなく、問うた。

「えっ・・・ 私の理想はこの大陸で誰もが笑っていられるようなところにしたい、弱い者が虐げられないそんな国にしたいです」

「そのための力が、今のあなたたちにあるのかしらね?」

「貴様! 桃香様への無礼は許さんぞ!!」

 また偃月刀を構えようとする関羽へと俺は静かに剣を抜いて、華琳の前に立つ。

 隣を見ると俺とほぼ同時に動いていたらしい春蘭と樟夏たちと共に、華琳の壁となるように並び立った。見れば秋蘭は雛里の傍で安全を確保しつつ、左手に弓を持ち、右手は矢筒へと添えられていた。

「その言葉、そっくりそのまま返そうか。関羽。

 少しでもその刃が華琳にあたった瞬間、お前もここに居る者たちもまったく同じ場所に、同じ傷をつけてやるからな?」

「まったく兄者は優しすぎる・・・ その程度で済ましてくださるのですからね」

「まったくだな!」

「フフフ、姉者に同意見だな」

 一触即発の事態の中、俺は周りを見る。

 関羽同様に既にそれぞれの得物を構えた彼女たちが見え、もしもの時のために思考を巡らせる。

 面倒なのは関羽と張飛、そして実力がわかっていない関平だろう。春蘭、樟夏、俺が当たって行けば将は抑えられるが、周りの兵が心配だな。

 いや、それも異常事態を察知して、白陽たちが動いてくれるから平気だな。

「「「やめなさい(やめてくれ・てよ!)四人とも(みんな!)」」」

 華琳の声に俺は剣をしまうが、警戒を解くことはない。樟夏は納得できないかのように指先で双刃剣をいじり、春蘭は舌打ちをする。

「劉備、この乱を早く治めたいのならば私に力を貸しなさい」

「・・・ご主人様、どうしよう?」

 華琳の言葉に劉備は助けを求めるように北郷を見て、他の者たちも北郷を見ていた。北郷はしばらく考えるような仕草をしてから、顔をあげた。

「受けよう、桃香。

 朱里、今の状況だとそれが一番だよな?」

「はい、悔しいですがこのまま私たちだけでやっていても、乱は治まりません」

 そう言った感じであちらはあちらで会話しているのを聞き流しつつ、俺は怒りが冷めない春蘭たちの肩に触れる。

「怒るなって、二人とも」

「だがな、冬雲!」

「兄者だけでなく、姉者にも奴らは刃を向けたのです! 許せるわけがないでしょう!」

 怒りを抱きながらでも、それでも小声で叫ぶ二人はまだ冷静でいてくれた。

「この乱の被害者は常に民たちだ、一刻も早く終わらせたい華琳の気持ちもわかるだろ?

 それにだ、やり方が気に入らなくとも、人柄が気に入らなかったとしても、有能な者は使わなきゃ損だろう?」

「ですが、兄者!

 おそらく、奴らが協力することへの交換条件で出してくることは兄者もわかっているでしょう?!」

 樟夏のその言葉に俺は苦笑しながら頷き、華琳を見る。見ると華琳は肩をすくめて、苦笑していた。

 

 華琳も交換条件がわかってるんだろうな・・・ はぁ、それでも持ちかける辺りが華琳らしいよ。

 

「曹操さん、協力する代わりに条件があるんだ」

「何かしら?」

「糧食と装備をくれないか」

 俺たちの想像を悪い方に斜め上へと突き進んだ条件が出て、俺は言葉を失くす。

 気がつけば俺は拳を硬く握りしめ、北郷の前へと進み、その胸倉を掴んで持ち上げていた。

「「「「兄者(冬雲さん)!?」」」」

 樟夏たちの驚愕の声が聴こえる。さっき二人に『怒るな』と言った本人が、怒るなんて本当に自分勝手だと思う。

 だが、あまりにも図々しく、無知なその言葉に俺は怒りを止めることが出来なかった。

 首を絞めるようにして手に力を込めていき、吊し上げる。

「「っ!?」」

「貴様ぁ! ご主人様に何をするか!!」

「兄ちゃんを離すのだ!」

「我が主人を離してもらおうか!」

「これが主? 笑わせてくれるなよ」

 五人のうち二人は驚き身を固め、三人の言葉に対して鼻で笑う。

「俺たちが国を守り、民が作りし糧を得て、さらに彼らの生活を改善していく中で捻出した資金で装備は買われていることを、貴様ら雑軍にわかるのか?

 装備も、糧食も降ってくる物でも、湧いてくる物でもないんだよ」

 彼らの生活を改善しつつ捻出させる策もまた軍師の務め、軍師とは戦のためだけに知恵を使うわけではない。

「あれだけ持っているんだ!

 力を貸すんだから、それくらいくれたっていいだろう!!」

「お前が言う『それくらい』が、あらゆる苦労の元に生まれていることをお前はもっと知るべきだな!」

 俺はそう言って手を離し、地面へと落とす。

「穀物を得るために、民はほぼ一年をかけて畑を管理する。

 天候、土地、賊・・・ 多くの被害に怯えながら生活のために、丹精込めて育てているんだ!

 そこで俺たちが彼らを賊から守り、税をとる。

 その税を受け取り、管理し、国へと一部を納めながら、民へと還元するために(まつりごと)を行う。その一部が糧食であり、装備だ。

 わかるか? 白き星の天の遣い」

 俺はそれを、この世界で知った。

 最初の俺は、そんな当たり前のことすらも知らなかった。

 民に触れ、治安を守り、文化を学んでいってようやく俺はそれを理解することが出来た。

「治める者とは一見は民を守り、仕えられている者に見える。だが、その本質は逆だ。

 治める者こそが民に守(・・・・・・・・・)られ(・・)民に仕えているんだよ(・・・・・・・・・・)

 お前たちは知ってるか?

 民から志願してきた兵は、俺たち将なんかよりもずっと勇敢であることを」

 何かを守ると決めた者は強く、民たる彼らにはそれがある。

 故郷を、愛する人を、家族を、行きつけの店を、あの風景を守りたいと思う者たちは誰よりも強い。

「冬雲、やめなさい」

 華琳の涼しげな声が響き、俺はおもわず怒りを向ける。

「だが! 華琳!!」

「あなたの気持ちはわかるわ。けれど、ここで争って乱は治まるのかしら?

 私たちは、一刻も早くこの乱を治めるためにここに居るのよ?

 それに力を貸してもらうように仰いだのはこちらよ、可能な限り協力するのが義務でもあるわ」

 頭ではわかっている。だが、感情の面で納得することが出来なかった。

「あなたがそれをわかっていてくれる、それで私たちは十分よ。冬雲」

 耳元でそう囁かれ、華琳は俺を通り過ぎてからあいつらへと頭を下げた。

「部下の非礼をお詫びするわ、そちらの条件を飲みましょう」

「いや、かまわないよ・・・・

 助かるよ、曹操さん」

 

 

 その後もあちらとのやり取りが行われ、本隊へと戻るまでの間、俺は一言も話すことはなかった。

 

 

「冬雲様、いかがなさいましたか?」

 用意された天幕の中で俺は寝そべっていると、白陽が問うてきた。

「俺が感情的になったばかりに、華琳に頭を下げさせちまった。

 俺はもっと、冷静でなくちゃいけないのにな」

「冬雲様」

 寝そべる俺に白陽が顔を覗くようにして、俺の頭の近くに座る。

「雲もときとして雷を生むこともあれば、雨を降らすことも、空の全てを覆い隠すこともありましょう」

 そう言って俺の頭に触れ、そのまま膝へと乗せる。

「雲が陰りし時は、私たちがそれを支えたく思います。

 日輪も、季節も、木々も、花も、鳳も、詩も、陽も、あなた様によって支えられる者の全てがあなた様を支えたいと願っているのです」

「常に支えられているさ、みんながいるから雲は浮かんでいられるんだよ」

「えぇ、そう言うと思っていました」

 そうして白陽は俺の顔を覗きこみながら、自分にしか見えないように俺の仮面をずらした。

「たとえお二人が同じ人間だったとしても、私たちは刀ではなく雲を選ぶことでしょう。

 何も知らずに人を無意識に傷つけ、自分の背だけを守ったつもりでいる刀ではなく、多くを背負い、それでもなお楽しげに私たちの傍に浮いてくださるあなた様を」

 久し振りの広い筈の視界は、白陽によって隠される。

「私たちはあなた様が天の御使いだからでなく、冬雲様が冬雲様であったからこそ惹かれたのです」

 微笑みと共に言われたその言葉、そしてその目は自分だけではないことを静かに語っていた。

「それに、冬雲様の怒りは間違っていません。

 間違っていたのならば、今頃華琳様自身から何かしらの処罰があることでしょう」

 白陽はそう言って珍しく楽しげに笑い、そっと俺の目元に唇を落としてから仮面を戻した。

「ハハッ、それもそうだな」

 俺も笑ってそれを肯定し、白陽を顔に触れる。

 大切な者がそう言ってくれているのに、いつまでもへこんではいられない。

 なら、俺は次のために動き出すとしようか。

「ありがとな、白陽」

 白陽に礼を言いながら、立ち上がる。用意されている筆と硯を用意して、一本の木片を取った。

「さて、突然だけど一つ頼んでいいか?」

 そう言って俺は次のためへと、一本の書簡を書きだした。

 




共同戦線は次ですね、あんまり次の内容決まってませんが。
作者の思い付き次第で、こっからはかなりオリジナルになりますのでお楽しみください。

誤字脱字、感想等々お待ちしております。

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