真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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活動報告で応援されたら、本当に実行させたくなりますよね?

単純バカでもいい。嬉しいじゃないですか、期待されたり、応援されたら。
読んでくださる方がいるから、書き手は頑張れるんですよ。

いつもありがとうございます。


24,拠点 また 再会

「・・・・城に裏口があればいいのに」

 俺はもうすぐ着く陳留を前にして、思ったことが口から零れ落ちていた。

「冬雲様、裏口などが出来てしまったら、戦略的にはそちらを突かれるのですが?」

 白陽の現実的な意見に少しだけへこみつつ、夕雲にもたれかかる。

 あぁ、自分より大きな生き物の温もりっていいよなぁ。

「んで? 隊長。

 戻ったら何から作れば、えぇんですか?」

 真桜が俺を見て、にやりと笑ってくれたので俺は自分の足元にある木製の鐙を指差した。電車のつり革のような形をした木製のそれは、騎馬隊がまだ少ないからこそ出来た即席の代用品。

 だが、これによって安定感はだいぶあがり、まったく馬の訓練をしていない者であっても鐙がない状態の者に逃げるだけなら十分出来ることがわかっている。

「・・・・大量生産でっか」

 単純作業だと知ると嫌そうに顔をしかめつつ、もう何かを描きだしている真桜に軽く頷く。

「これは型が出来ればあとから楽なんだよ、鉄を流し込めば出来上がるようになれば、効率もいい。

 まぁ、華琳とか、一部の拘る奴らは特注品にするだろうけどな」

「そうやろなぁ、簡単に作れるっちゅうことは、装飾をつけるのも手間次第で自由自在や。

 ウチの腕の見せ所でもあるし、意匠はそれぞれの意見聞きながらやなぁ」

 ぶつぶつ言いながら、歩きながらも次々と書簡に多くのことを書いていく真桜に『あの頃もそれくらい真面目に書類やってくれればなぁ』とか考えてしまった俺は悪くない。どうやら同じことを考えているらしい凪も、苦い顔をしていた。

「それと俺用に仮面を作ってほしい」

 ついでに俺も一つ、注文しておく。

 これは今後のために必要な装備であり、もしかしたら戦場では常に装備するかもしれない。

「はいな、髑髏でえぇでっか?」

 髑髏か・・・ 確かに華琳の髪留めとか、春蘭たちの肩当て、実は他のみんなも髑髏の何かをつけてたりしているんだよなぁ。

 前はそれが少しだけ羨ましかったりもしたんだけど、俺はどの形にするかを決めていた。

「いや、鬼の面にしてくれ」

 真桜がその言葉に少しだけ驚いたようにしたが、察したのかニヤニヤしながら俺を見ていた。

 また見透かされてる気がするんだが・・・ そんなに俺ってわかりやすいのか?

「なら、白陽にも作りまひょか。

 隠密なら、顔は隠した方がえぇやろ?」

 どう見ても楽しんでいる真桜の言葉に、白陽が驚いたのが伝わってくる。

 それが何だか珍しくて、三人は白陽をいい意味で脅かせてくれてばかり。それが微笑ましかった。

「姉と妹たちの分も含め八つ、頼めるでしょうか?」

「まっかしとき!

 個々になんか特徴入れるかどうかも聞きたいし、あとで会わせてや」

「はい、お願いいたします」

 真桜の言葉がよほど嬉しかったのか、白陽は嬉しそうに口元を緩めていた。

「白陽ちゃん、今度お休みの時にでも服屋さんに行こうなのー。

 四人でたくさん、たくさん遊ぶのー」

「えっ? ふ、服屋ですか?

 あまり派手なのは苦手なのですが・・・」

 顔を赤くして、凪に助けを求めるように視線を移す白陽が何だか可愛らしくて、凪もそんな白陽に仲間を見つけたように苦笑いをしていた。

「白陽、諦めが肝心です」

「諦めなのですか!? 凪!?」

 ・・・・凪と白陽は似た者同士なのかもしれないなぁ。

 でも、真桜と沙和が緩んだところは二人がしっかり支えてくれるようになるだろう。

 きっとこの四人は、呼吸の合う最高の仲間になってくれる。

 俺がそう思いつつ四人を見て微笑んでいると、樟夏も笑っていた。

「楽しそうですね? 兄者」

「楽しいさ、白陽があんなふうに笑っているところを俺は初めて見るよ」

 年相応の笑みは俺へと向けてくる者とはどこか違うことが少しだけ寂しくて、嬉しくて、それを出してくれたのが三人であることが誇らしくてたまらない。

「兄者は本当に・・・ 雲のような方だ」

「うーん? そうかぁ?

 あんなに自由なつもりはないけどな」

 俺は笑いながらそう言うと、樟夏は表情を苦笑いに変えたのは何故だろうな?

 そんなやり取りをしながら城へと進みつつ、俺たちは陽だまりと戯れる三羽の烏を見守り続けた。

 

 

 

 俺たちを待っていたのは、門の前に仁王立ちをした桂花を筆頭とした留守番組だった。

 わー・・・ 軍師なのに、どうしてそんなに仁王立ちが似合うんだろうね?

 覇王が従えるのは仁王、鳳凰、大剣・・・ たった三人しか挙げてないのに、誰も勝てる気がしないのは何でだろう?

「兄者、そろそろ現実逃避をせずに進んでください。

 世は無常、それが理なのです」

 そう言って肩を叩く樟夏の悟りきった眼を見て、俺は諦めて歩き出した。

「ただいまぁ?!」

 俺が夕雲を引いて傍まで行くと、桂花がどうやったのかを確かめたくなるような形で飛びついて来た。

「桂花! 今の体勢じゃ俺が倒れた時、お前が怪我してたぞ!!」

 そう注意すると桂花は俺をきつく睨んだが、俺の顔を見てその目には涙によって潤んだ。

「この馬鹿! 何、私たちの許可も無しに、怪我をしてるのよぉ!!」

「あ、いや、その・・・ これには事情が・・・」

 俺の胸をポカポカと叩きながら、泣きながら怒鳴る桂花。その涙に言い返すことも出来ず、俺はとりあえず誤魔化すように桂花の頭を撫でる。

 そうしていると俺を囲むような形で、留守番組の季衣、斗詩、樹枝、灰陽、橙陽、藍陽、緑陽・・・ そして、流琉が立っていた。

「兄上?! そのお怪我は!?

 樟夏! どうして兄上が怪我をしたか教えてもらおうか!」

 俺の顔を見ながら、驚愕の顔をした樹枝が樟夏にほとんど怒鳴るように状況説明を求めていた。

「兄ちゃんに怪我をさせた悪い奴がいるんだね?

 僕がやっつけてあげるよ」

 あぁ、季衣まで怒ってるよ。

 なんか最近、怒り方まで春蘭に似てきたよね?

「兄様、やっと会えたのにどうして怪我をしてるんですか?!

 一体誰が・・・・!!」

 流琉?! せっかく再会できたのに、こんな怪我してごめんな。

 あぁ、でも会えて良かった。

「冬雲さんの顔に傷・・・・?

 冬雲さん! 大丈夫なんですか?!」

 そう言って俺の右側から、顔に触れてくる斗詩の目は涙に濡れていた。

「大丈夫だよ」

 右腕に桂花を抱きしめつつ、左手で斗詩の涙を拭ってから頭を撫でていく。そうした後に流れるような動作で左手は季衣を撫で、流琉を見た。

 桂花も再会を邪魔する気はないらしく、そっと俺の腕から離れた。

「流琉、頑張ったんだってな? 偉いぞぉ」

 再会したとき、季衣にもしたように俺は流琉を持ち上げて、そのまま強く抱きしめた。

「兄様・・・ 兄様ぁ!」

 そのまま流琉をお姫様抱っこしつつ、視線を樹枝に向けると・・・・

 あれ? 門の警備はどこに行った?

『曹仁様負傷、曹仁様負傷!』

 そう言って数十名の顔見知りの兵たちが町へと駆け出していくのを見て、俺は硬直し、冷たい汗が一筋額から流れていくのを感じた。

 最近多いなぁ、冷や汗。

「ちょ!? お前ら、何しに行きやがる!」

 そして、兵たちの言葉を聞き、注意の声に俺がいることを理解したのだろう民が一斉にこっちを見てくる。

「曹仁様がお怪我を?!」

「一大事じゃ!! 祈祷を!」

「見舞いの品を!」

「薬を!!」

「看病を!」

「これ、持ってって食ってくれよ!」

「酒もだ!!」

 俺は巻き起こりつつある事態に、流琉を抱えつつ決断した。

 

 戦略的撤退は、恥ではない。

 問題はその後、どう事態を丸く治めるかにかかっている。ならば、今は逃げよう。

 

「凪、真桜、沙和、早速仕事だ。

 アレ、任せた」

 うまく動かない顔に笑顔を貼り付けてそう言って、夕雲へと飛び乗った。

「お任せください!」

「冬雲隊、初仕事なの!」

「正式に発足しとらんから、やってえぇんか微妙やけど」

 打てば響くような心地よい凪の返事と、沙和の合いの手、真桜だけが割と現実的な意見を言ったけど、今は知らん。

 だって、この混乱の中心、俺の部隊だもん!

 ていうか、率先して広めてやがるし!

「樟夏、樹枝は桂花たちを安全に城まで護衛。

 俺は一足先に、報告をするために華琳たちのところに戻る」

「もっともな理由を作ってますけど、自分がここから逃げたいだけですよね?! 兄上!!」

「あー! あー! 聞こえん!!」

 樹枝からの正論に声をかぶせ、手綱と流琉を抱いているから手は空いていなかったが流琉が耳を塞いでくれた。

「兄者・・・・ 子どもですか・・・」

 そんな二人とは別の意味で女性陣からは何故か注目を浴びているが、俺は夕雲を撫でて走ることを促した。

 城までの短い距離だったが、流琉が終始顔を赤くして嬉しそうに微笑んでいてくれたから、俺もつられて笑っていた。

 

 

「意外と早かったわね? 冬雲」

 兵士の一人に見られるたびに大騒ぎされ、半ば逃げ込むように玉座の間へと駆け込んでくるとそこには先に帰ってきていた四人が集まっていた。

 しかもなんか全員、笑ってやがるし!?

「華琳、ここまで予測して、わざとやっただろ?」

 流琉をやっと降ろして、俺は荒い息を整えながらそこに座った。

「秋蘭が言ったでしょう?

 これはあなたの反省を促すためのもの、良質な材料がちゃんと効果を発揮した結果よ」

 楽しそうに笑みを浮かべつつ、俺の腰に差した剣を見つめる。

 俺もその視線に気づき、俺は身なりを整えつつ、立ちあがった。

「近辺の村の調査にて、気の使い手、兵の調練および指揮、そして腕に確かな技術を持った三名を確認し、連れ帰ってきた。

 現在は・・・ 俺が負傷したことによって起きた騒動の処理を、試験的に受けさせている」

「フフッ」

「物は言い様でしゅね、冬雲さん」

 俺の言い訳に秋蘭が笑い、雛里も笑みをかみ殺して苦笑している。

「反省したかしら?」

「そりゃもう、たっぷりとな」

 意地悪くそう言ってくる華琳から拗ねるように目を逸らしつつ、俺の脳裏はみんなの泣き顔や辛い顔が思い出される。

 ましてや、仕事や日常の些細なかかわりしかしていない民すらあの反応だ。正直、今から他のみんなに再会するのが嬉しいけれど、同時に悲しませてしまうことがわかっているからこそ辛い。

 だけど俺はどれほど泣かれると理解しても、みんなの命が自分の命と天秤にかけられた時、この命を投げ出すだろう。

 そうしないための今であったとしても、俺の気持ちはあの頃と変わってはいない。

「なら、この話はこれで終わりよ。

 どうせあなたの性格的に、どうしても変えられない部分もあるでしょうしね」

 溜息交じりのその言葉に雛里たちも同意するように頷いてから、席を立つ。

「では、私たちは桂花さんたちと合流して、他の仕事を片づけてきましゅね。華琳様」

「えぇ、しっかり頼むわよ。

 今回は秋蘭も、雛里たちの方を手伝いなさい。

 春蘭はいつも通り、兵の鍛錬を行いなさい。

 流琉はさっき言った通り、頼むわ」

「はっ」

「はい! 華琳様!!」

「お任せください」

 それぞれに指示を出しつつ、俺も何か手伝おうとその背を追いかけようとすると

「冬雲、あなたには話すことがあるわ。

 ここに残りなさい」

「了解」

 俺はそのまま華琳の横に立つような位置に移動すると、腰の剣へと触れてくる。

「真桜ね?」

「あぁ、作っておいてくれたらしい。

 俺が何を使うか知る筈もないのにな?」

 なんだか照れくさくて、自然と笑みがこぼれる。

 男だろうと、女だろうと大切な人からの贈り物は嬉しいもので、事実斬られた仮面は今も俺の懐に存在している。

「銘は?」

「『連理』だとさ。

 本当はもう一本作りたかったらしいけど、あの感じじゃ作りそうにないなぁ」

「あなたの比翼は、いつも傍にあるもの。不要だわ。

 まぁ、それにしては枝の広い連理で、誰とでも一緒に飛べてしまう比翼だけれどね?」

 真桜と同じ言葉と、どこかいたずらっ子のような笑みを浮かべ言われたその言葉に、俺は苦笑しつつ華琳の手を取った。

「俺と同じくらい枝の広い華琳がよく言うよ・・・

 話すことって、何かあったのか?」

 華琳はそこで地図を広げながら、洛陽から海へと矢印を描くように一見すれば十にも見える動作でそこを指し示した。

「近々、洛陽から海の方へと大風が来るそうよ?」

「・・・・何らかの対策を練った方がいいな、現地に赴いて確認してくるか」

 こちらにも被害が出ないという確証がないのなら、兵ではなく将の確かな目が必要になるだろう。

 だが、大勢ではそれはあまりも悪目立ちしてしまうし、民を怯えさせてしまう。ごく少人数にすべきだ。

「そうね、やるべきことをしっかりやった後、大風が被害を出す前にあなたが行ってくるといいわ。

 海の風は冷たいけれど、陽射しがあなたを照らしてくれるから問題ないでしょう」

 そして、黄色の布が置かれた場所へと×を描く。

「黄巾賊はまだ動きが見えないわね」

 眉間に手を当て、地図を凝視する華琳の目に映っているのはあの三人のことだろう。

 黄巾が騒ぎ出し、今に至るまで三人の情報が一切入ってきていない。

「あっちこっちで動いてるしな・・・ どこも情報が曖昧すぎる」

 あちこちで動いているから、情報が錯綜しているのも勿論あるだろう。が、それにしてはどこか違和感があるような気がしてならない。

 まるで誰かが意図的に情報を弄っているような、妙な統一性があるのだ。

「歌によって集められた兵、村を襲って金銭および食料を奪っていく農民崩れの賊・・・ たったこれしか情報が集まらないのは妙だ」

 民すら知っているようなことしか、情報として集まらない。

「そうね・・・ 誰かが裏で糸を引いている可能性があるわね。

 けれど、兵の数は無限ではないわ。

 この長期的な戦いであちらも疲弊してきたことでしょうし、そろそろ情報にも綻びが生じる筈よ。

 黒陽、白陽」

「フフッ、承知いたしましたわ。華琳様」

「吉報をお待ちください」

 話を聞いていた二人がすぐさま影から飛び出してきて返事をすると、珍しく華琳が黒陽の肩を掴んで制止させた。

「ちょっと待ちなさい。

 今日は流琉が、全員分の食事を作っているのよ?

 出発は明日、食事をちゃんと食べてから行きなさい」

 有無を言わさぬ笑顔を貼り付けて二人を怒る華琳の姿は、まるで子どもを叱る母親のようで俺は笑いを耐えていた。

 

 その夜、行われた食事は『宴』というにはあまりも穏やかで、『ただの食事』というには将全員が揃うというおかしな状態。

 仕事が山積み状態なので酒が入ることも、大騒ぎすることなかったが、何気ない会話が途切れることはなく、幸せな時間を過ごした。

 




次の内容は大筋は決めてあるんですが、一話にまとめられるかがちょっと自信ないですね。

感想、誤字脱字お待ちしております。

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