本当は昨日投稿したかったんですけど、うまくまとまりませんでした。
これからもよろしくお願いします。
「や、やっと着いた・・・・」
精神的に削られながらも、俺はどうにか陳留へと辿り着く。
が、一足先に白陽が城に戻っていることを考えると気が重い。
「ほらっ、暗ーい顔してないの。冬雲。
私、噂の曹操ちゃんに会えるのを結構楽しみにしているんだから」
主にその原因を作った舞蓮は弾んだ声でそう言いながら、俺の肩に纏わりついてくる。
「俺がこんな表情をしてるのは、舞蓮のせいだけどな!」
「あらっ、こんな美人に抱きつかれて、嬉しくないの?」
さらにくっついてくる舞蓮を手で遠ざけながら、俺は苦笑する。
戻ってくるまでのしばらくの間を共に過ごしたが、舞蓮の気を許した相手に対して全てを公開するところは嫌いじゃない。むしろきっぱりした物言いは見ていて清々しい。
勘で動くことも多々あるが、それはまったく考えがないというわけではないということも先日蓮華殿との会話からも窺えた。
「そりゃ、嬉しくないことはないけどな・・・・
真名の件もだけど、俺のことをそんなに信頼しきっていいのかよ?」
「私の勘は外れないわ、それに命を救ってもらった相手を疑うなんて不義理にもほどがあるでしょ?
あなたが何故私を助けたのか、それもよくわかっていないのだしね」
珍しく真面目な顔をする舞蓮に、違和感を覚えるのもどうかと思う。
が、それ以外のことに対して疑問に抱き、おもわず問う。
「なぁ、舞蓮」
いや、これは俺が
「何かしら?」
「人が人を助けることに、理由がいるのか?」
「は?」
外套を被っていてもはっきりわかるほどの驚いたような顔をしてから、彼女は腹を抱えて笑い出した。
「あははははははは!
あーぁ、冬雲は本当に面白いわね。それを本気で言っているのなら、相当な変わり者よ?
それとも、天の世界ではそれが普通なのかしら?」
「いいや、向こうでも人は何も変わらないさ。
損得で動く奴だって、そりゃたくさんいる。
けど、綺麗なこと言ってる俺自身の行動だって、欲望そのものだよ」
俺がそう言って街並みに目を移すと、俺へと手を振られ、声をかけられる。
「あっ、曹仁さんだ! おかえりなさい!!
コレ、よかったら貰ってください」
「オイオイ、いいのかよ?
また、おやっさんにどやされっぞ?」
「親父が怖くて、息子がやってられませんよ」
「ははは、ほどほどにしとけよー」
投げられた
「冬雲の欲?
さっきの言葉からも、今の慕われ方を見ても、とてもあるようには思わないわ」
不思議そうに首をかしげながら、李へとかじりつく舞蓮を見る。持っているだけで甘い香りをするそれは美味しかったようで、舞蓮はおもわず笑みをこぼしていた。
その笑みを見て、俺の頬も自然と緩んでいく。
「ほら、今そこに俺の欲があるぞ」
俺がその笑みを指差すが、舞蓮はさらにわからないと言ったように首をかしげた。
「舞蓮がこの甘い李を食べて、笑った」
そう言ってから李にかじりつき、少し硬めだが甘酸っぱくてとても美味い。舞蓮がおもわず笑みをこぼすのも納得してしまった。
「俺はそれを見て、とても幸せな気持ちになった。
ほらな、一つ得したぞ?」
「それをするために、あなたは命をかけたとでも言うのかしら?」
俺の真意を探ろうと見つめてくる舞蓮に、俺はただ笑う。
「いいや、これは偶然の副産物だな。
でも、生きててほしいと思ったのは本当だよ」
『生きているなら死んでほしくなかった』 本当にただそれだけで、俺は彼女を救った。
もし仮に下心があるとしたら、『江東の虎』に借りを作っておくのも悪くないくらい程度。
「・・・ふふ、やっぱりあなたは私の死んだ旦那に並ぶほどのいい男だわ。冬雲。
まぁもっとも、旦那よりもずっと素直に思いを伝えてくれるけどねー」
そう言って腕を組んでくる舞蓮の声は、いつものからかいとは違う何かを宿している気がした。
この後、門から城まで、誰一人として将に会わなかった。
嫌な予感しかせず、俺を迎えてくれた知り合いの兵たちも苦笑か、同情的な視線。しまいには、『頑張ってください。隊長』と激励してくれる者すらいた。
それが示すところはこの事態がすでに帰還している白陽によってありのままにこの数日を報告され、将の全員がこの事態を知っているということだった。
俺・・・・ 終わったな・・・・
玉座までの道のりがこれほど遠くあってほしいと願ったことは、はたしてこれまであっただろうか?
いや、ない。
というか、こんなこと何度もあったら俺の胃に穴が開く。
「曹子孝、帰還した」
顔を隠すように外套を被せた舞蓮と共に玉座の中央まで歩み、俺だけがその場に跪く。そこには華琳は勿論、凪たちを含めた将の全員が並び立っていた。
嵐の前の静けさ、それがとても恐ろしくてたまらない。
「初めましてー、曹操ちゃん」
そんな俺の気も知らずに軽く挨拶をする舞蓮には、もう慣れたよ・・・
「冬雲、あなたは何でそんなに疲れているのかしら?」
陳留へと着いたときの解放感に似た気持ちはこの事態になることを気づいたときに霧散し、俺はうまく動かない首をどうにかあげて華琳を見る。
そこにはとても眩しい笑顔をし、怒りで眉間を動かす覇王様が降臨していた。
「ヤァ、カリン。タダイマ」
俺は逃げ出したい衝動を抑え、何とかそれだけを言う。
「えぇ、おかえりなさい・・・・・・冬雲。
白陽から事のあらましは聞いたわ、うまくやったようね。
あとで桂花たちも交えて、その辺りの話をするとしましょう。けれど」
必要なことをそれだけにまとめ、華琳は笑みを深める。
怖い怖い怖い?!
「その大虎は、元いた場所に戻してきなさい」
「そんな野良猫や野良犬じゃないんだからさ?!」
怒られているにも関わらず、そんな突っ込みが出来る俺はまだ余裕があるようだ。まぁ、多分諦めたんだろうが。
「その野良猫や野良犬の感覚で、『江東の虎』を拾ってきたあなたがよく言えたわね?」
「華琳並の大物を俺程度が振りきれるわけないだろうが!!」
しかも経験なのか、気質なのかわからないけど、一枚も二枚も
「それでも、もっとうまく出来たでしょう?
終わり次第、とんぼ返りしてくればよかったのよ!」
「しようとしたら、喰らいついてきたんだよ!」
「あはは、可愛いわね。喧嘩しちゃってるー」
俺たちがそう言いあうのをみんなは見守っていたが、やはり空気の読まない舞蓮の一言が入り、ほぼ同時に華琳と睨みつけた。
「「誰のせいだと・・・・!!」」
「まるで夫婦の痴話喧嘩みたいよ?」
「「なっ?!」」
が、その二言目に不意を打たれた。
俺はおもわず熱くなり出す顔を左手で隠し、視線を逸らす。
そこで何気なく指の隙間から華琳を覗き見れば、俺と同じように顔を赤く、その姿を見るとおもわず胸が高鳴った。
あぁ、やっぱり華琳はどんな顔をしても可愛い。
『・・・・・・・・』
しゅ、周囲の視線が痛い!
俺の考えを見透かしたみんなから厳しい目を向けられ、元々低かった体感温度はさらに低くなった気がする。
俺のせいじゃないんだけどね?! いや、元凶を連れて帰ってきたのは俺だけども!
「可愛いわねぇ、曹操ちゃんは」
「いい加減、名乗るぐらいしたらどうなのかしら? 『江東の虎』。
私は曹孟徳、この陳留の刺史をしているわ。
そしてそこに居る曹子孝は、
「ちょっ?! 華琳!?」
何言ってるんですか?
いや、否定する気はないし、俺も同じ気持ちだけどさ?!
「白陽からそれはもう、いろいろ聞いているわよ?
冬雲は私たちのものであり、寝込みを襲うなんてこの忙しさのせいで私ですら出来ていないことをやりかけたらしいじゃない?」
『・・・・・? ・・・・・!!』
華琳のその言葉によってその場に一瞬沈黙が訪れ、音が爆発した。
「隊長?! それはどういうことですか!!」
「そんな羨ましいこと、沙和たちですら出来てないのー!」
「まったくや! 羨ましすぎるで!」
凪、沙和、真桜が怒りを露わにしながら叫ぶ。
「おのれぇ! 『江東の虎』ぁ!! 私たちを差し置いてそんなことを・・・」
「あぁ、どうしたものかな。こんな思い、そう抱いたことがない」
春蘭はもう隠すこともなく正直に思いを吐露し、秋蘭は何かを押さえこむに胸を押さえる。
「冬雲の寝込みを襲ったですって?! この発情虎ぁ!!」
「冬雲さん・・・・ 襲われちゃったんですか・・・・?」
桂花がどこからか鞭を出しかけ、雛里が悲しげに目を潤ませる。
「と、斗詩さん?! 武器を出すのはまずいです!! 季衣も止めるの手伝って!」
「えー、だってあの人攻撃しても、片手で押さえそうじゃん?」
「止めないでください! 流琉ちゃん!! 一発だけ、一発だけですから!」
斗詩が本当に(いつ持ってきたかを聞きたい)大槌を振り上げかけ、流琉が止めようとしている。季衣は季衣で冷静に舞蓮の強さを理解してるし。
「兄者は大変だな、樹枝」
「笑っている場合か!? 内部崩壊するわ!」
樟夏はいつものように悟りを開いたように穏やかに笑い、樹枝はその状況下に正しい言葉を叫ぶ。
舞蓮・・・・ お前はとんでもないものを盗んでいきました。
それは、俺の平穏です。
いや、本気で洒落にならない。
「・・・・白陽、逃げていいか?」
俺はその場で頭を抱え、影へと語りかけた。
「かまいませんが、事態が悪化するだけと思われるので推奨は致しかねます」
まったく、その通りですねー。
華琳の目は『あなたが原因なのだから、うまくまとめて見せなさい』と語り、俺もそれに苦笑した。
多分、これが罰なんだろうなぁ。
俺は騒ぎ出すみんなの元へ歩き、とりあえず一番危なそうな斗詩の頭を撫でてその手からそっと『金光鉄槌』を奪う。
「俺は何もされてない。だから、大丈夫だ」
そう言ってから大きく手を広げて、なるべく全員を包み込むようにして抱きしめる。
「落ち着けって、な?」
全員が驚いたようにしてから、しばらく俯いて頷くのを確認する。
「大体、歴戦の猛者である『江東の虎』が俺如きを相手にするわけないだろ?
からかわれてるだけだよ」
俺がそう言うと全員が目を三角にして、じとっと睨んでくる。
ていうか、背後の舞蓮からも睨まれているような気がするのは何故だ?!
「むぅ~、お前のそういう所は好きだが、嫌いだー!」
「そうやなぁ、春蘭様の言う通りやで」
「隊長の優しさは、まるで媚薬のようです・・・・」
春蘭が子どもの様に叫べば、真桜が同意し、凪が付け足す。
だから、何故だ?!
「あのなぁ・・・・ 俺は思っていることを言ってるだけだし、誰にでもそうするわけじゃな・・・」
『それは嘘
俺がその大合唱を聞いて戸惑っていると、背中にはすっかり慣れてしまった感触と肩に美しい褐色の肌にまだ斬り残してある紅梅色の髪が揺れた。
「・・・・ちゃんとしたところで散髪しなおさないと、綺麗な髪がもったいないな」
肩に降りてきた髪を掬うようにして、何気なく呟くと・・・・ また驚いたような顔をした舞蓮がいた。
「沙和、どっかいい店知らないか? 近いうちに連れてってやってくれよ。
それから凪、しばらくは居るだろうから、警邏隊にも伝達を頼む。
あと桂花、どっかに手頃な空き家なかったっけ?」
とりあえず、現状での舞蓮の場所は決めたほうがいい。
それも最終的に決めるのは華琳だが、身近なものは町で安く手に入れたいしなぁ。住居も探しておいて損はないだろうし。
「え? あ、うん! わかったのー。
沙和、行きつけのお店を紹介するの!」
「はっ!」
「そうね・・・
けれど、匿っている形になるのなら、下手に家とかは用意しない方がいいわ」
仕事のこととなると空気を換えてくれるから、助かるなぁ。
「流石は兄上!
突然話題を何気ない且つ仕事に関わることに変えることにより、自分への被害を削減させるのですね!!」
「私たちにはとてもではありませんが、出来ない避け方です。
今後、この教訓をうまく活かしていきたいと思います」
どうしよう、俺も春蘭たちが樟夏たちを殴る理由がわかった気がする。
「あの、秋蘭様」
「どうかしたのか? 流琉」
流琉が秋蘭の裾を引き、俺もこんな時にどうしたのかと思い耳を傾ける。
「あの、もしや樟夏さんと樹枝さんって男の方なのでしょうか?」
「「?!」」
・・・・ちょっと待て。
流琉が知らないってことはまさか?
「え? 二人とも女の人じゃないの?」
「そやそや、樹枝なんか一部の男衆からやたら人気やし。男なわけないやろ?」
「女性の方、ですよね?」
沙和、真桜、凪の順番でさらに追い打ちをかけていき、二人は『嘘だと
「「「「「ブフゥ!」」」」」
その質問に対して、残りの桂花、雛里、斗詩、春蘭、季衣が吹き出し、天井からもわずかに笑い声が聞こえる。
うん、みんな。そこまで笑ったら、むしろ大声で笑ってやった方がかえって傷つかないんだぞ?
「・・・一か月ほど共に仕事をしていて、男だと気づかれない。あぁ、世は無常だ。
フフ・・・ あの高飛車な幼馴染に女装させられ、『光栄に思いなさい! この
いつもと同じ悟りを開いた目は、遠いどこかを見ていた。
・・・というか、その口調はどこかで聞いたことがあるんだがまさか?
「樟夏! 戻ってこい!
世は理不尽ばかりだが、立ち向かわなければ相手の思うツボだぞ!
うん? ちょっと待て。
・・・今、お前が懐から出した書簡は何だ?」
樹枝の言葉の最中に樟夏は懐から書簡を取り出し、目を細めていた。
「これか? これは関平殿からの文だな」
「はっ?」
「あぁ、心配することはない。姉者も内容は確認しているし、大した内容ではない。
日々のちょっとした悩みを聞いている程度だ」
「この裏切り者があぁぁーーー!!」
そんな二人を見ながら、俺は華琳の元へと近づき定位置になりつつある傍らに立って問う。
「なぁ、あれってまさか・・・?」
「えぇ、樟夏は気づいていないけれど、恋文よ。
彼女、なかなか可愛らしい乙女よ。
あなたがいなかったら、おもわず樟夏から奪ってしまいたくなるほどね」
本気の目で語る華琳は心底楽しげで、同時に樟夏を見る目は姉らしい温かな眼差しでもあった。おそらくは本気と冗談が半々なのだろう。
「・・・・何ていうか、華琳らしいよ」
王であり、姉であり、女の子であり、俺の愛しい人でもある華琳。
人は、関わる人の数だけ多くの『自分』があり、でも結局たった一人の『自分』。
今の華琳は姉たる彼女で、俺にとってはそれすらも愛する彼女の一部でしかない。
「面白いわね、ここは。
気に入ったわよ、曹操ちゃん!」
「それは何よりだわ、孫堅」
そう言いながら華琳の元に近づいてくる舞蓮は、やっぱり笑っていた。
「真名、許してくれないのかしら?」
「そこまで許し合う仲かしらね?
あなたが王座に着く可能性も残っている今、私たちの関係はそこまで親しいものであってはいけないと思うのだけど?」
短い言葉と、交わした視線が語り合う二人の間から俺はその場を離れない。
連れてきた俺がこの会話を聞かずにいるのはあまりにも身勝手で、まだざわつく将たちもこちらに注意を向けていることはわかる。
「大丈夫よー。
だって私、仮にこの事態が早く収まってももう面倒だから二番目の娘に押し付ける気満々だもの」
軽く言われたその言葉に、俺はおもわず蓮華殿に対して同情する。
今頃、向こうも苦労してるんだろうなぁ・・・
「・・・本当かしらね?」
「何なら一筆書くわよ?
それに私、もう恋した相手とはくどいくらいたくさんの思い出を作るって決めてるのよね」
華琳が疑うのも無理はないし、舞蓮もそれは納得しているようだ。
蓮華殿、今度何か物でも贈っておくか。
一筆まで書かれたら、苦労することは確定しているだろうしな。
きっと今も苦労しているのだろうし、出来る範囲で協力をすることを心に誓う。
この程度しかできないが、何もしないよりはマシだと思いたい。
「是非、そうして欲しいわ。
けれど、冬雲を渡す気なんてさらさらないわよ?」
「私、好きなものは奪ってでも手に入れる主義なの」
・・・・うん、聞かなかったことにしよう。
俺はとりあえず一段落したことがわかり、近くにあった椅子に腰かける。
本来なら眠りにはつけないような騒がしい中、俺は眠気に襲われ瞼が下りていく。
みんなの声と気配に包まれて、俺は穏やかな気持ちで眠りへとついた。
黄巾の乱も終わりが見えてきまましたね。
あと数話ですね、多分。
次はこの前の話の蓮華視点を投稿したいと思っています。
今週中に書けるといいのですが・・・
感想、誤字脱字お待ちしています。