真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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なんとか、年内に本編だけでも黄巾の乱を終えることが出来ましたね。

書き上げたばかり且つ、ちょっと冷静に読み直せていない気もしますが多分大丈夫だといいですねー。
あと二つばかり視点変更を書く予定ではあるんですが、次は番外ですかね?
なるべくは視点変更を書きたいです。
ぼちぼち蜀の方も書きだしたいですしね。

読者の皆様、いつもありがとうございます。


32,決戦 終わり

 眠る彼女たちを見守る中で、一体どれほどの時間が経っただろうか。

 外からは大地を揺らすような勝鬨の声が響き、黄巾の乱の終焉を知らせる。

 根元はまだ断ち切れず、彼女たちの傷は癒えないが、『黄巾の乱』という表立った騒ぎは一時的に大陸から消えることだろう。

 本当ならばすぐにでも根元を断ち切りたいが、下手に行動を移して華琳が今まで積み上げたものを壊すことになる。それは絶対に避けなければならない。

「待つしかない、か」

 奴らを殺す時機は必ず来ると信じて、行動をとるしか方法がない。

「くそ・・・・・」

 もうじきここにみんなが本陣(こちら)に戻って来る。

 そうすれば俺は、自然と報告という形で呼び出しをくらい、ここを離れなければならない。

 と言っても、戦が終わってすぐは誰もが忙しく、それらが済み全員が揃い次第これからの話はすればいい。もしかしたら、桂花辺りはもう脳内で次の策を考えているかもしれないが。

 呼び出されるぎりぎりまでは彼女たちの傍に居ることを決め、もし俺が呼ばれたときに備え、天和たちが安心するように一筆残そうと筆をとろうとしたとき寝台で天和がもぞもぞと動き出した。

「うぅ、ん?」

 可愛らしい声を出しながらもぞもぞと動き、寝ぼけた状態で必死に状況を理解しようと辺りを見渡す。その視点は俺の顔でとまり、でもまだ眠いらしいその顔にわずかに安堵が浮かんだ気がする。

「おはよう、天和」

 目が合ったので、笑みを浮かべて挨拶する。

 それを見た天和もわずかに笑みを浮かべてくれたので、俺はさらに目元を緩ませた。

「おはよ、かず・・・ あっ、違うんだよね?

 名前、なんだっけ?」

「姓は曹、名は仁、字は子孝。

 真名は冬雲、だ。冬の雲って書いてな」

「冬雲、冬雲・・・・

 うん、とっても素敵。一刀にぴったりの優しい真名」

 何度か繰り返して、天和は寝台の上で立ちあがった。

 そのままよろよろと二人を起こさないように注意しながら、寝台から移動してこようとしたので、俺はその危ない足取りにおもわず天和を抱き上げる。

「危ないから、な?」

「・・・・あんなに非力だったのに」

「少しは成長してないと、みんなに愛想尽かされると思ったんだよ」

 頬を赤らめる天和に、俺は笑いながらそう答える。けれど嫌がることはなくむしろ俺の肩へと手を絡め、首へと抱きついてくる。

「うぅん、きっと変わってなくても、みんなは歓迎してたよ。

 厳しいことを言う人はやっぱりいただろうけど、きっと華琳様は『なら、鍛えるだけよ』とか言って、勉強漬けにされてたかも」

「想像できるところが怖いな、自分でしてきてよかったよ」

 天和の発言がありありと聞こえ、鍛えていなかった存在していただろう地獄の勉強漬けと、春蘭、秋蘭を始めとした将による鍛錬地獄が脳裏に浮かび、改めて自分で鍛えてきてよかったと実感する。

 自分でしてなかったら、あの時以上に厳しいしごきが待っていたに違いない。考えただけでも恐ろしい。

「おかえり、一刀。

 初めまして、冬雲」

 優しく耳元で囁かれるその言葉は、まるで天使の祝詞。

 さっきまで考えていたことが吹き飛び、心が喜びで満たされる。

「あぁ、ただいま。天和」

 温かな体、優しい声、やわらかな髪、女性特有の甘い香り。

 それら全てが、彼女がここに居ることを示し、生きていてくれることを実感させてくれる。

「ずっと、ずっと待ってたんだよ。

 あの後も、星が落ちるまでは思い出せなかったけど・・・・ きっとこれまでもずっと、ここで待ってた。

 あの時、あそこに居た男も女も関係なく、誰もがあなたを、待ってたの」

 俺がそんな感動に打ち震える中で、首に抱きつく天和は語る。

「あぁ」

 その言葉を受け止め、俺はただ優しく彼女の頭を撫で続けた。

「けどごめんね。

 たくさんたくさん、迷惑かけて、あんなことになっちゃって、ごめんねぇ」

 俺の肩が涙で濡れても、かまわない。

「頑張ったんだな」

 こんな軽くて、小さな体でどれほどの悲しみを背負わなくならなかったのか。

 どんなに苦しかったか、心細かったか、我慢しなければならなかったのか、それらの気持ちがなくなることはなくとも、ほんの少しでも軽くなることを願う。

「私が、私がもっとうまくやれたら、二人だけでも逃がせたのかなぁ?

 はっちゃんに手紙だけじゃなくて、二人も・・・・」

「馬鹿なこと言わないよ! 姉さん!!」

「ちぃ姉さんの言うとおりです!」

 俺が何か言う前に、聞いたらしい二人が言葉とともに天和の横へと立った。

「あの状況で姉さん一人っきりになんて、認めるわけないじゃない!」

 地和は怒鳴りながらもその目に涙を溜めて、天和へと顔を押し付けてポカポカと叩き出した。

「姉さんにもしものことがあったら、私たちはどうすればいいのかわからないんです」

 人和は一歩離れたところから、静かに涙を零していた。

 

 あぁ、この三人はとても弱い。

 だが同時になんて、強いのだろうか。

 俺が知っているどんな三姉妹よりも固い絆で結ばれ、支え合うことが当たり前。

 誰か一人に振り回されるわけでもなく、意見を蔑ろにするわけでもない。

 一見は人和に苦労がかかって見られがちだが、そんなことはない。

 地和が多くの意見をだし、人和がまとめ、天和が最後に決断する。

 偶然とはいえ、武も、智も持たない三人が、この大陸を動かしたのはこの分担がうまく行われたいたからだろう。

 

 一度目は偶然、起こってしまった戦乱。

 二度目は、利用されてしまった戦乱。

 その二度目を止められなかったことで、自分たちの命をかけて責任をとろうとした三人。

 そして、それを利用した者とそれを背後から操り、金と欲に溺れた者たち。

 その者たちに対しても、防ぎきれなかった自分自身に対しても怒りは尽きないが、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 大事なのは、何よりも優先すべきは目の前にいる三人だけ。

「三人とも、無事でよかった」

 手を大きく広げて、三人をまとめて抱きしめる。

 一人ずつ頭を順番に撫でてから、さっきよりも強く抱きしめた。

「でも、もう大丈夫だ。

 三人はたくさん頑張ったんだから、あのことは俺たちに任せてくれ」

「でも、でもちぃたちは・・・・・ そんなこと言って貰うような」

 地和が何かを言いかけたところで、俺は首を振った。

「『権利がない』なんて、言わないでくれよ?

 自分なりに頑張ろうとしてた三人にそんなこと言われたら、俺こそどの面下げてみんなに会うんだよ」

 わざと笑いながら、からかうように言いながら少しでも三人が笑ってくれるように楽しげにすることを心がける。

「俺は三人にまた会えて、幸せなんだ。

 戦いの方は全部俺たちに任せて、大好きな歌を、この大陸のみんなが笑顔になるような声を聞かせてくれ。

 そしてどうか、俺に見せてくれよ。

 あの時は見ることの叶わなかった、三人の大陸統一をさ」

「うん、うん! 今度こそ、絶対だよ。

 どんな仕事も放って置いて、私たちの舞台を見ててね」

 天和が涙を零しながらも、笑ってそう言ってくる。

「だったら、いなくなるんじゃないわよ! バーカ!!

 馬鹿馬鹿! 馬鹿冬雲!!」

 地和がポカポカと叩く対象を俺へと変え、痛くもない拳が何度も振りあげられ、その顔は見えないように胸に押し付けられた。

「冬雲さん・・・・ 約束ですよ」

 人和は姉二人を見守りながら、俺の小指にそっと自分の小指を絡めて何度か上下させる。

「仕事を放って行ったら、華琳達に怒られそうだけどな」

 俺がそう言って笑うと三人も笑い、俺たちはそうしてみんなが来るだろうほんの少しの時間を触れ合って過ごした。

 

 

 その後まもなくして、俺たち四人は華琳の元へと呼び出された。

「華琳、入るぞ」

「えぇ、入りなさい」

 軽く扉を叩き、華琳の返事と共に先に扉を開いて三人を入れてから俺も入室する。

 三人の顔を見て、華琳は笑みを見せる。だが、その目は三人の怪我も映っており、表情のどこにも出されていない華琳の怒りを俺は察した。

「天和、地和、人和」

「は、はい」

「なによ」

「はい、華琳様」

 呼びかけながら華琳は笑みを見せることなく、真剣な表情で三人を見つめた。

「言いたいことは多くあるけれど、とりあえずはあなた達のこれからのことを話しましょう。

 けれど、現状の報告はいらないわ。おそらく私の方が、あなた達が知らない情報を持っている可能性が高い。それに今のあなた達から話を聞くほど、急いではいないもの。

 もう少し落ち着いてから、茶会でも開いてその時にでもしましょうか」

 起こったことの全てを外側から見ていた俺たちと、混乱の中央にいた三人では情報が違う。が、中央にいたからと言って、利用されていただけの三人が何かの情報を掴んでいる可能性は低い。

 華琳自身もっともらしい理由を述べてはいるが、それは建前だ。実際は、三人への配慮だろう。

「それで?

 俺はともかくとして、三人まで呼び出すなんてどうしてなんだ? 華琳」

「あなたを呼び出すことも本来はないのだけれどね、今回のあなたの独断専行と思われている行動は私の許可の下で行われていた。

 それに今回、あなたの独断専行と思われた行動が功を成したと言っていいわ」

 えっ・・・ それってあれじゃね?

 功を成してなかったら、他を納得させるためとか言って、何らかの方法で罰を与えられてたっていう意味じゃね?

 恐る恐る影にいるだろう黒陽へと確認の視線を送ると、いつものように笑っていた。だけど、気持ち楽しげに笑っているので事実だったのだろう。

 そして、何をする気だったんだ。華琳。黒陽が楽しそうな罰って・・・・

「『功を成した』って、俺は好き勝手にしただけだぜ?

 あいつらに怒りを抱いて、許可を貰えたから考えなしに突っ込んでいった。白陽の援護だって、正直予想外だっ・・・・ いでぇ?!」

「失礼、冬雲様。

 着地を失敗いたしました」

 突然天井からまっすぐと()ってきた白陽が、俺の頭へと激しい衝撃を与えて俺の背後に降り立った。

 謝っている割には涼しい顔をしているので、おそらくわざとだろう。

「あなたの失言ね」

「わかってるよ・・・・

 それで? どういうことなんだよ?」

 痛む頭を軽くさすりながら、俺は華琳に説明を求める。

 勿論、三人もそれがどういう事かもわかっていないためか、神妙な顔で華琳の言葉を待っていた。

「冬雲、あなたは知っているでしょうけど、今回の乱で彼女たちについての情報は『三人の歌姫が兵を集めている』というものだけだった。

 顔も、名も、場所も、その姿すらも何一つとして明かされることはなかったわ」

「あぁ」

 俺たちが三人を事前に助けられなかったのはそのためであり、恐ろしい位取れていた情報統制と管理のせいで今回の戦いが起きるまでは首謀者の一人である馬元義の名すらわからなかった。

 小競り合いを続けた程度の者たちはほとんど何も知らず、『戦いに参加すれば飢えずに済む』程度の認識だったのだ。

「そして今回の戦を行う際、私は兵たちにこう言ったの。

 『奴らは何の罪もない歌姫たちを利用し、曹子孝はそれを救うべく、一人で本陣へと突貫した』とね。

 それに加え、戦闘中の戦場のあちこちで黒陽たちの妹たちに同様の内容をあちこちで叫ばせた。今頃はあちこちの村々へと走っていることでしょうね?」

 『今のあなたなら、これだけ言えばわかるでしょう?』とでもいうように華琳は笑い、あの状況でそんなことを瞬時に決断し、すぐさま行動に移すことの出来た華琳にただ驚かされた。

「どういうことなんですか? 華琳様」

 状況の掴めない三人を代表して、人和が華琳に問う。

 華琳は楽しげに笑いながら、言葉を続けた。

「戦いが終わり、兵たちが帰還してからも、『本陣へと一人突貫し、歌姫を救った将が居る』と口々に家族に語るでしょうね」

「民は美談を愛します。

 大陸中に、黄巾党によって利用された歌姫を救った一人の男の話が語られ、それを誰もが一切の疑いもなく信じることでしょう。

 冬雲様の起こした独断専行とも言われる行動は戦功よりも得難い徳を生み、それは我らに得となって還ってくることでしょう」

 華琳の言葉を黒陽が引き継ぎ、楽しげに笑って俺を指差した。

 今回俺たちはあらゆる面で後手に回らざる得ない状況だったというのに、表立った戦功という手柄を捨てながら、華琳は自分に欲しいものの全てを得てしまった。

 それでもまだ不思議そうな顔をする三人へと、華琳はわかりやすく最後に付け足す。

「つまりね、天和、地和、人和。

 あなたたちは名を捨てる必要はなく、張角、張宝、張梁として、この大陸にその歌声を日々聞かせることが出来るのよ」

「え・・・・ 歌っていいの?」

「あたしたちの名を、隠すことも、捨てることもなく、堂々と・・・?」

「夢みたい、です」

 驚きの中には確かにある喜び、それを見ていた俺と天和の目が合い、天和は笑みを深めた。

「全部、全部冬雲のおかげ!」

「ちょっ?!」

 飛びついて来た天和を受け止め、倒れかけた背は白陽が優しげな笑みを浮かべて支えてくれた。

「俺はただ腹立って、突っ込んでいっただけで美談にされるようなことはしてないから!

 ていうか、あの状況下で瞬時にその判断をとった華琳にこそ礼を言うべきだから!!」

 まさか、ほとんどありのままの事実を流すことで三人を救うなんて、俺なら考えられなかっただろう。

 黒陽たちにも何らかの礼をしないとなぁ、情報等のことだからもしかしたら黒陽から出した案もあるかもしれないし。

「でも、一番に飛んできてくれたのはアンタだもん!

 ちぃたちのだーい好きな旦那様」

「気が早い!?」

 そう言って右腕に絡みついてくるのは地和、『旦那様』発言辺りで華琳たちの目が怖くなってるし!?

「もう絶対に離しません」

 左腕を占領し、寄り添ってくる人和はやっぱり二人に比べれば控えめだが、当分離れてくれそうにないです。

 そんな俺を華琳は嫉妬とは違う、真剣な目で見つめていた。

「冬雲、『黄巾の乱の英雄』の名は重いわよ。

 背負う覚悟はあるかしら?」

「あるさ」

 即答してから、俺は笑う。

 俺よりもはるかに重いものを背負って立つ『王』であり、その『英雄』すらも手放す気のない強欲な少女がそこにはいた。

「俺よりもずっと重たいものを背負って生きて、それでも諦めようともしないで自分の夢を叶えようと努力をやめない奴が目の前にいるんだ。

 そんな『英雄』の名如きで潰れてたら、愛想尽かされちまうだろ?」

 華琳だけじゃない。きっと舞蓮も、劉備も、孫策も、蓮華殿も、なんらかの夢を持って、それを叶えるために多くの覚悟を決めただろう。

「それに・・・・ こんな俺を支えたいと思ってくれる奴って、なんかいっぱいいるらしくてさ。

 俺もそんなみんなを支えたい。『英雄(この名)』が錘じゃなく、支える力の一端になったら最高だな」

 『英雄(この名)』すらも踏み台にして、華琳を、みんなを支えられるような男になりたい。

 俺のその答えに華琳は満足げに笑い、一つの書簡を投げられた。

「それでいいわ。

 次が起きるまではいろいろと大変になりそうだけど、そちらの覚悟はいいかしら?」

 書簡を開かずに懐に納め、俺はうんざりしながらも頷く。

「はぁ・・・ また書類とにらめっこか」

「えぇ、それが政を行う者の責務よ」

 そう言った後、華琳は手を叩き、全員の注目を集める。

「天和、地和、人和。

 あなた達は怪我が治るまでの間だけでも、どうかゆっくり休みなさい。

 活動をするのにも、いろいろ必要なものがあるのだし、状況的にはすぐに準備できそうにないわ」

 事務的なことを言ってから、華琳は改めて三人へと微笑んだ。

「よく帰ってきてくれたわ。

 あとの問題は私たちに任せ、あなた達は思いっきり歌いなさい。」

「「「はい」」」

 綺麗に揃った声に頷いてから、すぐさまその目はジト目に・・・・ 何故?!

「最後に、冬雲を独占するのはほどほどにするように」

「出来ませーん」

「それは無理ね」

「華琳様の言葉でも、それだけは聞けません」

 ・・・・・・・うん、逃げよう。

 即断即決、俺は脱兎のごとく仕事が残っているだろう自分の部隊の元へと走り去った。

 




もしかしたら、視点変更増えるかもですね。
戦いが終わった後の誰かの視点・・・・ 沙和とか、季衣あたりでしょうか?
当初の予定通り、星視点、恋視点も書きたいですし、番外も書きたいですね。

感想、誤字脱字お待ちしています。

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