真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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 黒き陽と知らぬ者たち 【黒陽視点】

「あら、懐かしい」

 いつ振りかに見る夢の中、私はまるで他人事のように遠くから(それ)を眺める。

 そこに居るのは幼き日の私自身であり、闇に包まれたその場所は私が数年間籠り続けた修練場。夜は知識を詰め込み、昼間はただ闇を模した道場で、刃物を持った大人相手に体術を会得していく日々の一場面。

 血走った眼、鋭い目つき、今よりもっと冷めきった私がそこに居る。そんな幼い私自身を見て、『あぁ、若かった』と思わず笑みがこぼれてしまう。

「ふふっ、愚かな私」

 すぐ下の(白陽)のように耐えることなく、他の妹たちのようにいつか支えたい目標がいたわけでもない。

 周囲の視線も、言葉も、血を残し続けた先祖も、こんな容姿で私達を産み落とした母も、事実を受け止める度量もなく私たちと関わることを避けた父も、全てを憎み、力を欲した。

 幼き頃に抱いた怒りを根源とし、狂気にも似た感情のままにいつか全てを壊すためという執念だけを持って得た、醜い力。そしてそれは皮肉なことに、憎んでいた一族の者を喜ばせるような結果となった。

「まぁ、だからこそ今の立場があるのだけど」

 けれどそんな私にも『運命の出会い』というものが確かに存在し、その出会いがあったからこそ、私は今もここにいる。

 あの日の空と言葉は、よく覚えている。

 あの方の瞳と同じ蒼天の色、太陽は酷く眩しく、そこにある街並みも、幸せそうに暮らす者たちすらも憎む私はあまりにも醜くかった。

「ねぇ、私」

 昔の思い出が繰り返されていく眼前で、私は声の届くことのない自分へと笑い続ける。

「私たちはどれほど陽の光りを浴びても、白くはなれない。

 花々にも、木々にも、大地にも・・・ そして、人々にも豊かな色を注ぐことなど出来はしないけれど」

 暗闇の室内に突然の光りが差し込み、そこに並ぶのは四つの影。

 私にきっかけを与えられた日、夢から覚めていく中で聞こえたのは黒き陽すらも『光』と言った大陸有数の変り者の声。

「司馬伯達、あなたのその憎しみ、怒り、その全てを私が受け止めてあげるわ。

 だからあなたは あなたの持ち得る全てとあなたのこれからを、私に捧げなさい。

 私が往く道の影として、そして黒き陽として、私の傍に在り続けなさい」

 

 

 

「黒陽?」

 聞きなれたその声に私の意識は浮上し、その声の先へと視線を向けると華琳様が微笑んでいた。

「はい、華琳様」

 そうして向ける私自身の声も自然と優しくなり、偽りではない笑みを華琳様へと向ける。場所は執務室、出陣に向けて多くの書簡が重なり、普段ならばここで共に執務を行っている方々もあちこちに飛び、それぞれの仕事に就いている。

「あなたと二人きりは、随分久しぶりね。

 最近は私もあなたも仕事ばかりで、こうして触れ合うこともなかったものね」

 彼女の手が私の体へと伸び、私もそれを拒むこともなく、互いに笑みを深めていく。それが私とこの方の接し方、心酔しきった春蘭や秋蘭にはないこの方の影たる私だからこそ出来る表現。

 触れ合わずとも私はこの方の影であることへの自負、触れ合ってなおも自分はこの方の影でしかないという曖昧な線引き。

「でも、私はいつであってもあなたの影。

 それだけは誰にも変えることは出来ないわ、華琳」

 だからこそこの方と触れ合うことへの背徳感も、二人だけの時にのみ許される呼び方も、押さえきることの出来ない高揚感も、全てが愛しい。

「ふふっ、変わっていないと思っていたあなたも、冬雲に出会って変わっていたのね」

 どこか自慢げに微笑む彼女へと私は肯定も否定もせず、口づけを交わそうと顔を近づける。

 が、感じた気配に私はやんわりと遠ざかり、やや不満げな顔をする我らが主君の額へとそれを落とす。

「残念、虎が来たようです」

 そう言ってから私は素早く扉の横へと移動し、迫りくる足音からその時を待つ。

「かっりーん! 今、暇かしら?」

 私の予想通り、扉を壊しかねないような勢いで『江東の虎』こと孫堅様が飛び込み、私は彼女が一歩入った瞬間を狙って足をかける。

「あら危ない、っと!」

 軽く跳躍されてしまいましたね、残念。

 春蘭ならばこれで盛大に転んでくれるのですが、やはり孫家(野生)の勘と経験には勝てないか。

「何か用かしら? 舞蓮」

 華琳様も私がしたことを咎めることなく、孫堅様へと質問を向ける。私があの時間を奪われたことへからの軽い報復であることを、熟知しているんでしょうね。

「今回はどうするのかと思って、聞きに来たのよ。

 あぁ、それと冬雲を襲うのにちょうどいい頃合いも教えてくれると嬉しいわねぇ?」

 この虎は、そろそろ毛皮にした方がいいかもしれないわね。この直感も、冬雲様を狙っていることも厄介にしかならない。

 が、華琳様はそんな彼女をどうするかもう決めてしまっているようだし、私はただそれを受け入れるのみ。

「どちらも愚問ね。

 というよりも私が何て答えるか、わかって聞いているでしょう?

 あなただったら行うこと、それが二つの問いの答えよ」

「華琳のけちー!

 でも、そうよねぇ。ここは乗るわよね。

 乗らなきゃ、この大陸に生きる力ある者じゃぁないわよね」

 互いに楽しげに笑い、おそらくは王たる器の者たちにしかわからない会話。あるいは王たる器の彼女たちは、自分以外の誰にもわからせる気などないのかもしれない。

 私たちには見えないどこか遠い未来(さき)の展望を見ていながら、その目は常に戦いを見過ごすことはない。千里眼、戦利眼、どちらの目も持つ大陸へと立つ強者たる彼女たちはなんて恐ろしい。

 割って入ってはいけない。入れるような余地などないそこを、私もまたいつものように微笑んで見守る。何故ならそんな王たる者たちに仕える私達は、信頼を乗せられたその恐ろしい目で見られることをどんなことよりも歓喜してしまうのだから。

「あー、華琳にもだけど、司馬朗ちゃんにも一個聞いてもいーい?」

「答えるかどうかは内容によりますが、どうぞ」

「あなたはどうして、華琳に仕えているのかしら?

 あなただけどうにも他の子たちと違って、心酔って感じがしないから不思議だったのよねー」

 笑っていながら、人の核心を突く。この方は本当に掴みどころのない。

 けれど、その問いの答えを誤魔化す理由も私にはなく、この乱世に乗り出す今ならば、華琳様にも聞かれてもかまわない。

 いいや、違う。知っていてほしい。私がかつて持っていた目的を。

「否定はしません。

 私は元譲、妙才と共に最古参の臣として他の方より長く仕えていますが、私の目的はこの方の元でただ殺戮を行うことのみを求めていましたから」

 自分も、周りも、全てを壊すこと。それが私の望みだった。

 強さと理想を持ちながら、そのために手段を選ばないという考えが見え隠れしていたあの頃の華琳様の元でなら、私は目的を果たせるという確信すら抱いていた。

「ですがそれも、もはや過去です」

 そう、それらの思いは全てが過去。もうここに、愚かな復讐心に駆られるだけの私はいない。

 人々を遠ざけるしかないほど力を持った日輪が人々を包み、優しく照らす日輪へと変わったように。

 ただ闇を与えるだけの影も、赤き星が落ちた日に日輪の元に現れた雲から、私は教わった。

 

 

 あれはそう黄巾乱の以前、何かの拍子に偶然の二人きりになった時のことだった。

「太陽がくれる物にだって、影はあるぞ?」

 何気ない会話から、私が自分の名について語った時のこと。

「はい? 何を・・・」

 戸惑う私に、彼は地面に『日陰』と『日影』という二つ字を描く。

「これは同じ『ひかげ』って読みだけど、前者は太陽の光が当たらない場所を意味するんだけど、後者は太陽の光を意味するんだよ」

 そうして語る彼はまるで自分のことのように嬉しそうに笑い、私の髪を優しく触れていく。

「黒陽は華琳の陰(闇)であり、影(光)でもある。

 違うけど同じで、離れることのない絶対の存在。

 俺はそんな黒陽が少し、羨ましいよ」

 

 

「日輪と雲、この二つの下で変わらぬ陽射しなどありません。

 たとえ黒き陽であっても、この方たちの元でなら何かを照らすこともあるでしょう」

 黒き陽すらも受け入れた日輪と、司馬家を肯定してくださった一つの雲。

 たったそれだけが司馬家(私達)をどれほど救い、変えたかなど誰にもわからない。

「って言ってるけど、華琳は知っていたかしら? この子の目的ー」

「私は聖人君子を部下にしたつもりは一度もないわ。

 それに今は、身も心もこの子が私の物であることを私は誰よりも知っているもの。

 ねぇ? 黒陽」

「えぇ、勿論」

 この方が居たから、今の私がある。

 それはどれほどの者に出会ったとしても、変わることなどない。

「こっちが妬けちゃうくらい素敵な絆ねぇ、祭に会いたくなってくるわ。

 あと、司馬朗ちゃんに今夜お酒を付き合ってほしいんだけど、借りても平気かしら?」

「この子だけじゃないでしょう?」

「あら、ばれちゃってる?」

 肩をすくめながら笑う華琳様に、孫堅様も隠す気などないように舌を出して笑う。

「どうせ、駄目と言ってもあなたは勝手にするでしょう。

 これが終わった後もあなたはそうしているつもりなんでしょうし、好きにすればいいわ」

「えぇ、好きにさせてもらうわ。

 ここに居るのはもう『江東の虎』じゃない、一人の恋する女だもの」

 笑みが絶えることも、心地よい緊張感もなくなることはない会話を華琳様と交わすことが出来る存在を、私はあの方以外見たのは初めてかもしれない。

 その時同様に湧き上がる嫉妬心を押さえつつ、私は平静を保ち続ける。

「それじゃぁ、あとでこのお店に来てね。司馬朗ちゃん」

「えぇ、承知いたしました。孫堅様」

 そう言ってあらかじめ用意してきたのだろう店の名前を記した書簡に渡し、その場からさっさと立ち去っていく。本当に掴みどころのない、しかし、それが嫌味とならぬ不思議な方。

「興がそがれてしまったわね・・・」

 溜息を吐いて少々嫌そうな顔をする華琳様へと私は近寄り、顔を近づけて囁く。

「では、今度は夜に」

 私の言葉が想定外だったのか、華琳様は一瞬驚いたような顔をしてからすぐさまいつものように余裕の笑みを浮かべる。

「フフ、この城でここまで私を挑発していくのは、あなたくらいなものよ? 黒陽」

 私も笑い、改めて自分の衣服が乱れていないことを確認する。

 普段の白装束ではなく、昔から彼女が好んで纏う紫を基調とし、春蘭たちと同様にその半身の黒へと変えた衣装。公の場での私の服であり、形としては文官の司馬伯達の姿。

「では、行ってまいります」

「行ってきなさい。任せたわよ、黒陽」

 

 

 

 書簡に記されていたのは華琳様御用達の店であり、彼女が数日前から私たちで話をする気があったということを感じさせられる。

 大方、あの檄文が来たことを勘で察し、民たちが騒ぎ出したことによって確信を持ったという所だろう。

「遅くなりました」

 そう言って入っていくと白陽がすぐさま席を引き、雛里殿が酒を注ぎ、斗詩殿が私にも料理を回す。私はそれらを会釈で返し、席へと座った。

「揃ったわね」

 孫堅様は満足げに笑い、私は改めてそこに揃っていた予想通りの面々へと軽く見やる。円卓を挟んで私の目の前には孫堅様。その右には樟夏殿、白陽。左には斗詩殿と雛里殿が座っている。

 並ぶ誰もが表情をどこか硬くしているが、それも仕方がないこと。何故ならこの面々は、自分たちがどんな共通点を持っているかを既に理解している。そしてそれを、ここに居る誰よりも部外者である彼女から追及されることを恐れている。

 だからこそ、私がこの場に居る。

 華琳様と孫堅様、あの二人のやり取りを誰よりも傍で見ていた私が、この場を任された。

「孫堅様、あなたがこの話し合いに参加し、こちらに踏み込むということを本当にわかっていらっしゃいますか?」

 あくまで冷ややかに、向ける言葉に殺意を乗せて、それでも顔には笑みを絶やすことなく、虫すら殺せぬ菩薩のように。

 たとえ華琳様が許していても、彼女は明確な形で我々に示さなくてはいけない。

 彼女が今、どの立場で発言し、誰としてここに在るのか。

 答えによってはどうなるかなど、敏いこの方には言葉にする必要もない。

「えぇ、勿論よ。

 なんなら真名にでも誓ってあげましょっか?」

 それでもこの方は変わらない。どこまでも飄々と、『真名に誓う』ことすらどうということでもないかのように。

 けれど、口よりも、行動よりも雄弁に私から逸らすことのない目が、偽りではないことを語っていた。

「それほどまで、何故あなたは・・・・・」

「私は」

 樟夏殿の問いを遮り、彼女は杯へと酒を注ぐ。そして、円卓の中央へと伸ばすように掲げ、まっすぐな瞳を私達へと向けた。

「一度失敗して後悔したから、次は愛した人とくどいくらいたくさんの思い出を作りたいのよ。

 愛した者の全てを知りたいって思うことは、自然でしょう?」

 どこまでも堂々と、恥などどこにもないように。

 『それが己の生き様だ』と歩む姿は、野生の虎が悠然と縄張りを歩く姿を幻視させた。

「それは・・・・ 今の立場を捨て去ってでも、ですか?」

 控えめに漏れた発言をたどれば斗詩殿がどこか厳しい目で彼女を見ていて、それが他の者たちの思いでもあることは明らかだった。

 あの(・・)袁家で彼女がどんな苦労をし、檄文を送られたことに関してもおそらくは彼女が一番袁家の状況を理解している。あの家もまた少々複雑だものね、彼女の性格から言っても思う所だけでなく、後ろめたさがあるのかもしれないけれど。

「何かを守るのに立場は必要だけれど、誰かを愛することに立場なんていらないわ。

 それとも、あなた達が愛している相手は立場なんか気にするかしら?」

 孫堅様のその言葉にそこに居る全員がほぼ同時に溜息を吐き、呆れと、喜びと、先程まで占められていた空気が彼の影が見えた途端に緩み、優しくなってゆく。

 冬雲様、やはりあなたはとても変わった方ですね。

「では、そろそろ話を進めましょう。

 出陣も近く、ここに居る者は一人を除いて暇ではない筈です」

「は、白陽さん・・・ 流石にそれは酷くないでしゅか?」

「事実ですから」

 妹がこんなに強かになったのは、あなたの影響かしら。

 いえ正確には、あなたに恋をして積極的になってしまった周りの影響が正しいかもしれないわね。

「ていうか言い返さないんですか?! 孫堅さん」

「もー、舞蓮でいいわよ。顔良ちゃん。

 いつまでもみんなかたっ苦しいんだから、それとも華琳が話してくれるその時まで、あなたたち全員真名を許してくれないのかしら?」

 今度は私と発言した孫堅殿以外の全員がその場で固まり、彼女から出た発言を信じられないかのように目を疑っている。まぁ、無理もないでしょう。彼女が華琳様のことを真名で呼ぶことを知っているのは、常にお傍に居る私ぐらいだったのだから。

「姉者は、あなたにそこまで言ったのですか?」

「そうよ?」

 そう言った後、樟夏殿は天井を仰ぎ、深く溜息を吐く。見れば斗詩殿と雛里殿も同様の表情をし、頭を抱える、苦笑いなどそれぞれの表現をしていますね。

「我が姉ながら、本当に何を考えているのかわからない方だ・・・

 黒陽、白陽殿、あなた達ならば姉者たちが我々に隠し、そして話すと誓ってくださったことの全貌を知っているのではないのですか?

 特に黒陽。姉者の影であるあなたに、知らないことなどありはしないでしょう?」

「否定はしないわ。

 あの方が話すと言った以上、私からその内容を話すことは出来ないけれど・・・ そうね」

 私自身、あの話の真偽はどちらでもよく、受け入れてしまった事実。なおかつ私達も、ここにいる面々同様に推測の域を抜け出してはいない。話を聞いていても、明確に経緯を語られたのは冬雲様があの玉座にて名を授かった時のみだったし、わからないところはいまだ多くある。

 でも、私が驚き、どうすることも出来ずに戸惑わせたことは一つだけあった。

「自分がここに居ない世界を、あなた方は想像できますか?」

「なっ?!」

「ましゃか・・・?!」

「え?」

「へぇ?」

 各々、何かを理解したような顔つきになり、私は視線を白陽へと向ける。

 表情を変えず・・・ いいえ、むしろ微笑んですらいる妹は、私が何を言ってほしいかを察しているかのようだった。

「白陽、あなたはどう思う?」

「仮に私が居ない世界があったとして、何か変わるのでしょうか?」

 素朴な疑問のように一言置いてから、白陽は席を立って、酒瓶を持ちながら勢いよく呷った。この子はあまり酒を好んで飲むようなことはしないから、とても珍しい。誰の前であっても己から酒を飲むことはなく、一杯付き合う以外は酒を飲まないのがこの子の飲み方。

 白い顔をわずかに赤くしながら、白陽はこれまで見たことないほど優しく穏やかな顔をする。それは、華琳様が冬雲様と共に居る時の表情によく似ていた。

「あの方が私にくださったものはけして幻などではなく、あの方への想いはここに在ります。

 想いを、居場所を、友を、生きる意味をくださったあの方と共に居られる。

 これ以上幸せな現実が、どこにありますか?」

 それまで全てがなかったかのような物言いを、家族である私すら否定することは出来ない。この子にとって生きることは、それほどまでに無意味で辛いだけの日々だった。

「ありませんよね・・・ ないですよね」

 白陽の言葉に斗詩殿がまだどこか不安げに、何か別の悩みを抱えた瞳で同意する。

「その通りです!!」

 雛里殿も強く同意し、立ち上がる。

「兄者たちが何を知っていようとも、何を抱えていようと私たちが何をするかは変わりません。

 ここに繋がりし(えにし)に感謝し、共に我らが仕えし日輪の道を創らん」

 樟夏殿、あの誓いから何も変わりはしないことを誇らしげにしている。

 そして私は、最後に孫堅様へと目を向けた。

「アハハハハハ、ほんっとうにあなた達は気持ちのいい子たちね!

 嫉妬するのも馬鹿らしくなってくるくらい素敵な絆、と言うわけで私は今から冬雲とそんな絆を作ってくるわね!」

「「「させませ(しぇ)ん!!!」」」

 飛び出していく孫堅様を三人が追い、私は笑みを浮かべて見送る。冬雲様も大変ね。

「兄者の貞操が?!」

 一呼吸遅れて、樟夏殿も追って行き、私一人がその場へと残される。乗り遅れてしまいましたが、のんびり行くとしましょうか。

「あぁ、なんて世界は愛しい」

 黒しかなかった私に、色がつく。優しい色が、音が、人が溢れていく。

 もう、眩しくなどない。憎くなどない。壊したくなどない。

「共に在りましょう。

 日輪と雲、その影として」

 これからどんなことがあろうとも、この思いは永久に変わることなどないのだから。


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