また千字近く増えております。
そして、サブタイトル・・・・
これでいいんだろうか。
「刃・・・・ いいえ、ここでならばあなたを一刀と呼んでも問題ないでしょうね。
一刀、あなたは今の自分の現状をどこまでわかっているのかしら?」
場所はかつてのような茶店ではなく、陳留の城の玉座。
そこに華琳は座り、隣にはいつものように春蘭と秋蘭が並ぶ。
その光景の懐かしさに思わず見惚れるが、見惚れてばかりもいられない。
「・・・・・・どこから話せばいいんだろうな?」
俺は頭を掻きながら一つずつ整理していく。
「馬鹿か、貴様は。
知っていることを全て話せばいいではないか」
春蘭が馬鹿を通り越していっそ清々しいほど単純にそう言ってくるが、そんなに簡単に全てを話せたら、人は考えることを放棄していると思う。
「姉者・・・・」
秋蘭も呆れ気味に春蘭を見るが、同時に可愛くてしょうがないとでもいうように笑ってもいた。変わってないことが嬉しいが、今は少し呆れもする。
「私たちの現状は一月前、夜空に落ちた赤い星を見てからのことだったわ。
その星を見て、ここではないここであなたと出会い、過ごし、別れた記憶を思い出した。
春蘭、秋蘭もそうだったことから、ここに居ない彼女たちもそうだったのではないかしら?」
言葉を迷わせた俺に、華琳からこちらの現状と予想が混じったことが話される。そして、風達の様子を見る限りではその予想は当たっている。
正直俺自身、みんなに記憶があることは想定外だったのだから。
風と凛との再会を果たしたときは戸惑いより嬉しさが勝り、頭の隅に追いやっていたが何故みんなに記憶があるのか。
「秋蘭」
「はっ」
華琳が秋蘭を促し、俺はその声に下げていた頭をあげた。
「そして、赤き星が落ちた翌日、管輅はこの占いを世に流したわ」
その言葉と同時に、秋蘭が俺に一つの書を差し出してきた。
『天より二つの星、降臨せん。
一つは白き星。いまだ何も知らず、大器と深き情持ちし天の使い。
一つは赤き星。多くを知り、武と智をもってこの世に再び帰還せし天の使い。
その存在、同一でありながら相違。
抱きし思いは近しく遠く、願いは一つなれどその道は一つにあらず。
行く道違えども見つめる先は等しく、目指すものは唯一つ。
それ即ち、この大陸に生きる者が願う、世の平定なり』
「あ、あいつ・・・ こんな風にしやがったのか・・・」
おもわず表情がこわばり、そう言うのが精一杯だった。
そんな俺を見つつ、華琳は自分の考えを続ける。
「この占いから私が予想できることは、あなた以外のあなたがここに来ていること。
そしてもう一人のあなたは、以前のあなたと同じ何も知らない状況であること。
だけど、私たちと出会ったのはあなた一人、ならば・・・・・・もう一人のあなたは、あの決戦の時に対峙した劉備、孫策のどちらかに今頃どこかで出会っているのではないかしら?」
腕を組んで、俺を見る。
確信に満ちたその目は、俺が知っていることを見透かしているようだった。
「ハハッ、やっぱり華琳は凄いよ」
俺の肩から力が抜けていくのがわかった。
予想だけでここまでいろいろと当てられると、隠す気も失せてくる。
「なぁ、華琳、春蘭、秋蘭」
俺は今一度、三人へと向き直った。
「何かしら?」
「うん?」
「あぁ」
三人のそれぞれの返事を聞きながら、俺は一度深呼吸をした。
「ここから話す全部を、信じてくれるか?」
それでも不安で確認してしまう俺は、なんて臆病だろうか。
「呆れたわね。
信じていないのなら、曖昧な記憶しかないあなたを玉座まで連れてきたりはしないと思うのだけど?」
「うぐっ、それもそうだろうけどさ」
もっともなことを華琳に突かれ、俺は出鼻をくじかれる。
「貴様は馬鹿か?
華琳様が聞いている時点で、お前はありのままに話せばいいだけだろう?」
「今回は、姉者の言うとおりだぞ? 一刀」
「ぐうぅぅ・・・」
二人にも追い打ちをかけられ、もう言おうとした言葉がうまく出てこないんですけど。
「まぁ、いいでしょう。一刀、言ってみなさい」
「へいへい」
若干拗ねるようにそう言って俺は、曲がりかけた姿勢を正す。
「まず、俺は天に帰ってからここに戻ってくるまで三十年かけた」
「三十年?!」
「・・・・ほぅ?」
「それで?」
春蘭の当然の反応を気にせずに、俺は続ける。
「天だと、前のこっちのことはたった一夜の夢だった。それが辛くて、虚しくて、俺、一年間何も出来なかったよ。
全部がつまらないし、実感がわかなかった」
軽い口調で続けながら、あの日々を思い出す。
みんなとの出会いが、あの忘れられないほど濃い時間が、たった一夜の夢だったことを知った時の絶望は、他の何にも例えることが出来ない。
食事も、学校も、趣味も、生きて活動している全てのことに現実味がなく、感情が上辺だけしか動かなかった。
みんなの存在が夢で、俺の妄想だったなんて思いたくなかった。
だけど、それを『違う』と証明するものを俺は形のない記憶しか持っていなかった。
「一年、そうしてたら、みんなが夢に出てきてさ」
涙が零れてくるが、笑う。
「全員で俺を怒るわ、励ますわ、罵倒するわ、凄いもんだったよ」
みんなが夢に出てきた日を、俺は忘れない。
俺がここに戻ってくることを決意した日であり、前を向けた日。
そして、その前を向かせたのは間違いなく、人が『所詮、夢だ』と笑った彼女たちだった。
夢だろうと、夢でなかろうと、もうどうでもいい。
ただ、会いたかった。
「それで?
どうやって戻ってきたのかしら?」
華琳が聞きたいのはむしろここからだろう。
俺の思い入れではなく、現状を求めている質問から的外れな答えではあった。俺もそれを理解していたが、伝えておきたかった。
「天で管輅に出会ったんだよ」
彼女と出会えたことが、ここが存在する証明だった。
「? こちらの世界の管輅が、どうして天に居るのだ?」
春蘭が首をかしげながらそう言うと、俺は少しびっくりしていたが話が進まなくなるので放っておくとしよう。
「春蘭でもわかることだけど、そこから説明してもらえるかしら? 一刀」
「あぁ、そのつもりだよ。
それがもう一人の俺がここに居ることにも繋がってくる」
だからこそ、さっき『信じてくれるか』とも聞いたんだけどな。
「前、俺が知ってる歴史とここが違うって言ったよな?」
「えぇ、言っていたわね」
俺が知っている歴史、天の歴史では三国の武将の全ては男だ。そして、歴史通りの部分もあれば、年代的におかしい部分も数か所存在する。
貂蝉が存在しないこと、董卓の死亡がはっきりとしなかったこと、呂布の裏切りがなかったこと、歴史的なことは一つずつ挙げればきりがない。
そして、文化。
真名というものもその一つだし、真桜が使っていたドリルのような武器も、厳顔が使っていた豪天砲もだ。
「どうして、違うのかをずっと考えた結果、俺は一つの結論を出した。
この世界は俺の世界とは別モノで、この歴史の
「それでは何故、お前はあの時消えた?! それでは辻褄があわなくなるだろう!」
意外なことに俺へと怒鳴ったのは秋蘭だった。
その目は険しく、その目を見た瞬間に俺は秋蘭がいつのことを考え、言ったのかを察することが出来てしまった。
俺が消えた後、おそらく秋蘭は気づいてしまったのだろう。俺のあの体調不良が消える前兆だったこと、あるいは自分が死んでいれば俺が消えることはなかったかもしれないと考え続けていたことがその様子から容易に想像することができた。
「その答えをくれたのが、管輅だったよ」
俺の出した結論では、その矛盾は解消されることはなかった。
世界自体が天とは違うのなら、いくら歴史から遠ざかっても俺がここから消えることにはならないし、現に歴史と違うものは多く存在しても消えることはなかった。
それなのにどうして、俺だけが消えたのか。ここから去らなければならなかったのか。
「・・・・その答えとは?」
華琳の声が珍しく緊張したもので、俺は少しだけ笑う。
「
俺が来ることは本来、この世界からしてみれば予想外のことだった。
もし俺が来なければ、案外この世界の歴史は天に近いものになっていたのかもしれない。
だが、それも今となってはわからないことだ。何故ならこの世界は、もう俺が来ることが必然の世界へと変わってしまった。
『あの筋肉ダルマどものせいよ』とかなんとか言っていたが、俺自身意味の分からなかったことを今、華琳の耳に入れるべきではないだろう。
「俺が管輅から聞いた大きな可能性は三つ。
劉備に出会う
指を順番に立て、最後に自分自身を逆の手で指差す。
「一つの世界に降り立つのは俺一人。
だけど、世界はいくつかに分かれて並行して行われる」
ここまでわかっているかを確認して、華琳を見る。
「つまりあなたはあらゆる可能性を持っていて、同じだけど違うところであなたは劉備や孫策に拾われていたのね?」
「その通り。
機密事項ってことで詳しくは話してもらえなかったんだけど、終わりだけは教えてもらえたよ。
蜀の
「貴様はいるではないか!! ならばなおさら・・・」
「春蘭! 今は黙っていなさい」
今まで黙って聞いていた春蘭が突然声をあげ、それを華琳が止めた。
そして、春蘭が言おうとしたことは間違っていない。
蜀でも、呉でも、歴史が変わっても俺はこの世界に留まることができていた。
現にこの事実を知った時、俺はさっきの春蘭のように管輅に掴みかかった。
『それならどうして! 魏の俺だけが天へと戻されたんだよ!!』
激しい怒りをぶつけた俺に、管輅が教えてくれた答えは呆気ないものだった。
「この三つが並ぶとき、どうしても世界に負担がかかりすぎるらしくてな。世界にどうしても
この世界に大きな三つの可能性の終わりは入りきらずに、どれかが欠けることでしかこの世界は保っていられないらしい」
経験も、想いも、実績も、積み重ねることで重みを得たそれぞれの可能性。それら全てが完全に幸福な状況で終わりを迎えることはこの世界には出来ない。
そして、その
「だから俺は、蜀の
管輅に頭を下げて、無理やりこの世界に戻ってきたんだ」
三つの可能性があってどこかが欠けるのなら、一つをなくして二つで一つにすればいい。
「三つだったのを二つにすれば、
少なくとも三つが並ぶよりは負担が減る。俺はこの世界から消えないで済むんだよ」
俺が少し熱を帯びて、そう言いきる。
「プッ、アハハハハハ」
華琳は突然、笑い出した。
「? 一体どういうことだ?」
春蘭は首をかしげて、呆ける。
「一刀・・・・・ お前という奴は」
秋蘭は呆れていながらも、笑ってくれた。
「アハハハハ・・・・ 一刀、あなた。
そうまでして、この世界に帰ってきたかったというの?」
華琳は目元に涙すら浮かべてひとしきり笑うと、呼吸を整えながらそんなことを聞いてくる。
「何度も言ってるだろう? 俺は魏に、またみんなに会いたかったんだよ。
どんな方法をとってでも、俺はこの世界で生きたかったんだ」
何度だって言おう、俺はここで生きていたかった。
魏で、みんなと共に生きていたかった。
「その話が本当ならば、私たちがあなたを覚えている可能性なんて欠片もないじゃない。
私たちとの関係は一からやり直し、あなたはそれすら覚悟してここに戻ってきたのね?」
「あぁ!」
おそらくは管輅がしてくれただろう、記憶の操作。予想外のことだったが、それがどんなに嬉しかったかはきっと当人である俺たちにしかわからない。
「あなたは三国一の大馬鹿者よ、一刀」
そう言いながらも華琳は嬉しそうで、俺もそれにつられて笑う。
「春蘭以上かよ?!」
「どういう意味だ! 貴様!!」
俺がそう言うと春蘭が拳を掲げて追いかけてくるが、それすら嬉しかった。
本当にいくら感謝してもしきれないよ、
俺は心の中でこの世界に連れてきてくれた、あの妖艶な美女へと感謝した。
「だが、一刀。この世界にもう一人お前がいるなら、同じ名を名乗るわけにはいかないだろう?
見た目もその白髪で多少違うとはいえ、隠さなければまずいのではないか?」
俺と春蘭が追いかけっこしている中で秋蘭がふとそう言い、俺も走りながらそれを聞いていた。
「秋蘭の言うことはもっともね、顔は隠しましょう。
とりあえず、真桜と再会するまではこれを被りなさい」
投げられたのは仮面舞踏会で使いそうな、目元だけを隠す木彫りの仮面。
うまく受け取りすぐさまつけようと、紐を後ろで縛るなんて走っている最中にできるか!
「って、逃げながらこれ無理だろ?!」
「一発くらいは、殴られておあげなさい。
それから、あなたの名前だけど『曹仁』はどうかしら?
『刃』ではなく『仁徳』の『仁』、そして、曹は私の曹。字は子孝」
「それならば、拾われた際『天に居た』ということ以外の記憶がないとするのはどうでしょう? 華琳様」
なんか恐ろしいくらい順調に、今の俺の設定が決まっていく?!
いや、必要なことだけどさ! それよりも助けてくれると嬉しいなぁ!?
「真名は・・・・・・さすがに即興では決められないわね。
これは後日、改めて決めましょう」
華琳と秋蘭はそう言って頷き合う中で、春蘭と俺は玉座の間を舞台に盛大に追いかけっこを続けていた。
「だー! 何でもいいから、春蘭を止めてくれよ!?
春蘭!? 七星餓狼抜くのは卑怯だろ! 俺は何も持ってねぇんだぞ!!」
俺は追い詰められないように、壁のぎりぎりで方向転換を繰り返してなんとか逃げ回る。
「うるさい! ならば、ちょこまかと逃げないで大人しく一発殴られろー!!」
春蘭の動きは一撃で仕留めてくる気満々だからこそ、直線的だ。それをうまくかわすよう逃げればいいんだけど、これは絶対戦場じゃ出来ない。
何故ならこれに殺気が混じり合い、鋭い視線が混ざれば相手は蛇に睨まれた蛙のごとく動けなくなる。って、そんなことは今はどうでもいい!
「絶対一発じゃ済まないよね!?
ついでに今のお前じゃ、斬りかねないだろうが!」
本気で互いに逃げて、怒っているというのに俺も、春蘭も、見ている華琳と秋蘭も笑っていた。
こんな馬鹿なことがまた出来ることが、ただ嬉しかった。
俺の名が『北郷一刀』から、『曹子孝』へと変わっためでたい日。
その日は俺が、春蘭が疲れ果てるまで追いかけっこをして、無事に逃げ切った日にもなってしまった。
改行しすぎたでしょうか?
そして、この考えで意味が通っているといいなぁ。
『貂蝉がいないこと』と書きましたが、歴史的に正確に言うならば『貂蝉らしき存在がいない』でしょうね。
歴史上に『貂蝉』らしき存在はいたらしいですが、存在しないですから。