真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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週末忙しいので、今日投稿します。
それに伴い、今回も感想返信遅れます。返信できるのは月曜か、火曜です。
明日の早朝に一度確認するので、今日の深夜の感想は返せるかもです。

ようやく、あの子が出せます。
さぁ、どうぞ。


68,水鏡女学院 到着

 あの後、詠殿と樹枝とも無事に合流し、半日(六時間)かかることから集落で一度宿泊するかどうか迷ったが、昼前だったこともあり、軽い軽食を取ってから出発することになった。

 仮に野宿になったとしてもそれなりの準備はしてあるから問題はないし、女学院には日暮れ前には到着できる予定だ。道が悪いことで到着が遅れる心配も多少はあったが、雛里が道を知っていたこともあり、広くはないがどうにか馬車を引いていける道を確保することも出来た。

 それにしても黄忠殿、か。

 前は噂で聞いたり、戦場で遠目から少し見ただけの存在だった。俺が知っている彼女は精々史実の知識でもあり、あの時の役職でもあった五虎将の一角であること。そして、秋蘭と同じ弓の名手だったぐらいだ。

 史実において老将と言われていたことも考えれば相応の年齢の可能性はあったが、そんなことを言ったら孫権殿と曹操(華琳)がほぼ同年代ということがおかしくなるのであてにならないことは確定済みだったしな。

 改めて彼女へと視線を向けると、そこにはこれまで会ってきた近しい年齢だろう舞蓮や馬騰殿とも違う、柔らかな雰囲気を持ったどこか余裕のある大人の女性がいた。

「黄忠殿は現在の大陸について、どの程度情報を知っていますか?」

 長時間黙って見ているのもどうかと思って当たり障りのない言葉を向ければ、雛里を挟んで向こう側に居る黄忠殿の瑠璃色の瞳がこちらへと向けられる。

 華琳と同じ蒼なのに、色の深さで全然印象が変わるんだな。

「黄巾の乱を曹操殿が治めたこと、反董卓連合が逆賊董卓の生死不明によって片が付いた程度ですね。

 それ以降の情報はあまり入ってきていませんでしたけど、洛陽が火に包まれ、二人の御子は行方知れず・・・ 誰の目から見ても大陸が不安定になっているのは明らかですから」

 少しだけ不安そうに顔を伏せつつも、その表情に行動を迷ったり、悲しみなどは見られない。

「だから、隠居を決意されたのですか?」

 現に彼女は俺の次の問いかけにすぐ顔を上げ、真っ直ぐ前を見据えながら言葉を続けていく。

「太守として、この状況だからこそ守らなければと思ったのですが、『守るものが居るのなら、そちらを優先せぃ』とある方に一喝されてしまいました。

 それに加えてある友人は女学院への推薦書をしたため、戦友とも同僚とも言える人が背を押してくれたので、その好意を受けて弓を置くことを決意しました」

 微笑みながら告げられる彼女の選んだ道。

 もし、武人たる者がここに居たら彼女を責めたのかもしれない。いいや、太守としても『それは逃げだ』と非難したかもしれない。

 だが、俺はそんな彼女を強いと思った。

 そして同時に、その強さが眩しすぎて俺は不自然に思われない程度に彼女から目を逸らそうとする。

『あなたの後ろめたさに、私達をいつまでも引き摺らないで』

 その瞬間、どこかで聞いたことのある声が俺の耳元を通り過ぎ、おもわず目を見開く。

『大丈夫、私もあの子達もあなたと会うことを諦めてなんかいないから』

 え? それ、どういう意味だよ?

 わけがわからず怪しまれないように視線だけを彷徨わせるが、俺達の周囲に他の気配はない。

「冬雲様、いかがなさいましたか?」

 白陽が耳元で尋ねてきたので、俺はなんでもないと首を振り、一応周囲の偵察を頼むことにした。

「母は強し、ですね」

 さっきの声はわからないが、腹を痛めることのない男親には想像することなんて出来ないほど母の愛とは強いものなのかもしれない。

「えぇ、強いんです。でも、それは男も女もそう変わりませんよ。

 誰かを愛する者は強い、それをあなたは名で証明されていますから」

「名?」

「え? まさか兄上、気づいてなかったんですか?!」

 黄忠殿の言葉の意味がわからず首を傾げてしまえば、他三人から驚きとも呆れとも取れる視線が集中する。

「樹枝、それってどういう・・・」

「噂であんたの名前が曹操から渡されたもんだってのは知ってたけど、まさか意味を知らないで今までいたことには呆れるわね・・・」

「と、冬雲さんですから。

 それに・・・ 表現が直球すぎだと思います」

 なんか連合でも法正殿に近いことを言われた気がするけど、何故なのかがさっぱりわからない。

 大体『仁』の名だって、俺が咄嗟に『一刀』の名をもじって『(じん)』って名乗ったからであって別に深い意味なんて・・・ ん? 仁? 仁って確か儒教の徳目で・・・

「あ・・・!」

 顔が羞恥で真っ赤に染まり、今更ながら法正殿の言葉の意味を理解して、からかわれていたことを知る。

「あら、耳まで真っ赤になって・・・ ふふっ、曹仁様は随分可愛らしい方ですね」

 本当にやめてください、黄忠殿。俺の体力はもう零です。

「というか兄上、鈍すぎでしょ」

 そして当然のように嬉々として俺をからかいに来る樹枝。

 いろいろ言いたいが、精神的な被害(ダメージ)が多すぎて言い返せない。

「それに、兄上は愛に溢れすぎなんですよ。

 今回、黄忠殿に対しても妙に積極的ですし」

「あら? そうなんですか?」

「えぇ。兄上の周りにはいろいろな女性がいますが、初対面の方で兄上がここまで意識している女性はあまり見たことがありません。

 その中には子持ちの女性もいるんですが、黄忠殿とは比べ物にならないぐらい粗野で凶暴でして・・・ 母親というより母虎ってカンジなんですよ」

 よ、余計なことばっかり言いやがってこの野郎・・・

 ていうか、樹枝とか皆の前じゃ舞蓮ってあの調子のまんまだけど、季衣とか流琉の前じゃ結構料理を振る舞ったりとか、縫い物教えたりとかしてる姿は案外良いお母さんなんだぞ?

 そりゃ鍛錬とか言って春蘭と壁ぶっ壊してる時もあるけど、そっちの方が派手だから耳に入りやすいだけで、娘の意見を尊重する良い母親という印象を俺は抱いてる。

「しかし、そうして兄上と黄忠殿が並んでいるとまるで夫婦のようですね。

 兄上は雰囲気や言動から年齢よりも老けて見えますし、黄忠殿の落ち着いた雰囲気がいい感じですし、ちょうど間に居る雛里はまるでお二人の子どものようですし」

「はい?!

 樹枝! お前、調子に乗るのもいい加減に・・・」

 いつもの仕返しだからしょうがないと黙って聞いていたが、俺と夫婦と言われた黄忠殿だって嫌だろうし、それに雛里を子どもと言ったことも黙ってられずに怒鳴ろうと顔を上げた。

 が、それによって俺よりもはるかに恐ろしい気を放つ雛里が後ろを振り返って、にこやかに笑っていた。

「樹・枝・さ・ん、何を言ってるんですか?

 この中で妻役と言えば、恋人の一人である私ですよね?」

 あぁ、樹枝・・・ お前という奴は自分からどんどん墓穴を掘っていく奴だよな・・・

 内心で学習しない義弟を嘆きながら、何があっても緑陽が居るからきっとついて来れなくなるようなことはないと信じることにし、静かに合掌する。

「いや、体型的にむ・・・」

 更なる言葉を続けようとする樹枝に対して、雛里は静かに馬を下げて樹枝の隣に並ぶ。当然、雛里の行動に全員の意識はそちらを向いているが、雛里は特別何かを取りだすこともなく、口を開いた。

「『温かな午後、一人静かに茶を楽しみながら、僕の心は何故か浮き足立っていた。「薇猩(ラショウ)・・・」 熱のこもった溜息と共に吐き出された名はさらに僕の心を弾ませ、口元を緩ませていく。真名を呼ぶ、ただそれだけでこんなにも温かな気持ちが溢れ、今すぐにでも彼の元へと駆けていきたい衝動に駆られてしまう。あぁ、だが焦ることはない。彼はけして約束を破ることはない。彼の真名が示す通り真っ赤な薔薇のような情熱の籠った言葉と、大輪の笑顔を僕へと向けてくれるのを・・・・』」

「ぷふっ」

「な?! ななな??!!」

 どこから聞こえた可愛らしい噴き出す声と樹枝の驚愕する声に、俺を含めた周囲は困惑する。雛里はそんな俺達の困惑に応えるように朗読と思われることをやめ、それはもう優しげに微笑んだ。

 というか牛金、お前真名まで登場させるのを了承するのってどうなんだよ・・・

「文官の記憶力、舐めないでくださいね?

 多くの資料や知識を詰め込んだ頭ですから、自分の書いたことを覚えてるぐらいとっても簡単なんですよ?」

 普段の雛里の口調が崩壊しているが、それすらも恐ろしくて指摘できない。

 俺は見なかったことにしようと思い、雛里と共に話題に出た黄忠殿へと視線を向け直せば、黄忠殿は何故か林檎のように頬を赤く染めあげていた。

 少女のような初心な反応に戸惑いながらも、羞恥が伝播し俺の顔も熱くなる。俺、さっきから顔赤くしすぎだろ・・・!?

「ご、ごめんなさいね。

 亡くなった夫とは定められた結婚だったので、こうして冷やかされたりすることにはあまり経験がなくて・・・」

「い、いえ! こちらも義弟が失礼な発言をしてしまって申し訳ない!」

 なんとなくお互いに気まずい雰囲気が流れてしまい、そんな俺達の間に溜息を零しながら詠殿が割って入ってくれた。

「はぁ・・・ あんたらは義兄弟揃いも揃って、何してんだか・・・

 黄忠は今の大陸の情勢が知りたいんでしょ?

 僕も後ろに居るのは耐えられないし、説明しながら行くわよ」

 

 

「冬雲様、戻りました」

 詠殿によって大陸の情勢が話し終わり、一度小休止に馬を降りた頃になってようやく白陽は偵察から戻ってきた。

「何かあったのか?」

 偵察というにはあまりにも戻ってくることが遅かったことから、俺は何かあったことは予測していた。何かあっても深追いは禁物だが、白陽がその辺りの加減を間違えるとは思っていないので俺はただ帰還を信じて待つのみだった。

「周囲を偵察したところ、行軍の形跡がありました」

「っ!」

 この先にあるものは女学院のみ。

 だが、形跡を確認したにしては帰りがあまりにも遅すぎる。

「白陽、それを女学院に伝えてきたのか?」

「はい、千里殿からの情報にあった通り、飛将が水鏡女学院に居るのならば伝えた方がいいと判断しました。

 あちらの信頼に足るものは何もありませんでしたが、司馬微は私達司馬家の本来の姿(隠密であること)すら知っているようでした。『あなた方が来るまでの間、相応の準備をもって持て成す』とのことです」

 本当に末恐ろしい人だな、司馬微殿。

 でも、そうでなければこんな辺境でただの私塾が成り立つわけもないか。

「勝手な行動をとり、申し訳ございませんでした」

「その判断に間違ったところなんて何もないよ。むしろ、何も準備しないで女学院が襲われた方がまずかった。

 よくやってくれた、白陽」

 司馬微殿の言葉から察するに何らかの準備もあるようだし、呂布殿がいるならひとまずは安心だろう。だが、俺達も急いだ方がいいことに変わりはない。

「白陽、あとの詳細は行きながらみんなに説明を頼む」

 白陽の頭を一撫でしてから、俺は急いで行動を開始した。

 

 

 

 娘さんの安否を心配し先頭を行こうとする黄忠殿(弓使い)を必死に説得し、剣を使う俺を先頭に樹枝が続き、一応弩を持ってきてもらっている詠殿と非戦闘員の雛里を中央にし、後衛に黄忠殿という順で馬を走らせていく。

 そもそもどこかの軍が女学院に攻めてくることなんて一度もなかったため生徒であった雛里ですら学院の防衛方法は知らず、むしろ混乱状態にならないように説明しながら『呂布殿がいる』という情報のみが心の支えにし、雛里の表情も黄忠殿と同じで険しいものだった。

 そして、どうにか水鏡女学院に辿り着き、入り口正面からではなく側面から俺達を見たものは・・・

 

「はーはっはっは!

 貴様らのような愚かで、欲に(たか)る汚らしい男達などに! 私の最愛の妹達を触れさせはしない!!」

 西洋風の男物の衣服に過剰なほど装飾を付けた華美な衣装を纏い、刺突剣(スティレット)を手にした女性が舞い踊るように兵達の間を通り抜けていく。

 というか、この世界に来た時から思ってたけど、文化とかいろいろおかしくないか、

「アン・ドゥ・トロワ!」

 淡い桃色の緩く波打った髪を風に躍らせ、透き通るような緑の瞳を輝かせながら、戦っているとは思えないほどの優雅さに背後に薔薇すら幻視する。

 

「はぁ?!」

「何ですかー・・・ あの人。

 ていうか、最愛の妹が複数いるってあれですか? まさか、『大陸の可愛い女性は私の妹』とでも言うんですか? どっかに居ましたよね、そんな人」

 ただ一人奇声をあげて驚く詠殿と、呆然としながらも言いたい放題の樹枝の言葉によって我に返り、俺も参戦するために躍り出ようとする。

「冬雲様、お待ちを」

 白陽の制止の声に止まった俺の目の前を、いくつかの棒らしきものが飛んで行った。

 

「皆、一度頭下げて。

 狙いなどつけなくてかまわないので、準備が出来たらまた一斉にいきますよ」

「恋、出る・・・」

「某も出陣いたす!」

「あなた方まで出たら、生徒達の心に多大な被害を与えてしまいます!

 お願いですから、出ないでください!!」

 

 聞こえてきたやり取りに俺と樹枝が顔をあわせ、雛里と詠殿を指差した後に樹枝を指差し、黄忠殿の肩を軽く叩いてから自分を指差し、最後に舞い踊る男装の女性を指し示した。

 全員が無言で頷くのを確認してから左腰にある連理を引き抜き、空いている左手の指を三本立てて徐々に減らし、零にすると同時に俺は飛び出していく。

「曹子孝、水鏡女学院に助力する!」

 俺が飛びだすと同時に右側を矢が通過し、そのまま女性の戦いの邪魔にならないよう移動してから右腰の西海優王を抜き放った。

「ふむ、男にしては良い判断だ。

 私の間合いに入った場合、例え味方であろうと男ならば容赦はしない!」

 物騒なことを言われるが、刺突剣の間合いは広げようと思えばいくらでも広げられるので注意が必須だろう。

 これで再び怪我をして帰ったら、皆に何をされるかわかったものじゃない。

「赤の遣いよ。

 後方に居る射手共々、私の舞台に花を添えよ!」

 刺突剣にて兵を相手取りながら告げられたその言葉は、生まれながらに持ち得る人を従える才能が宿っているようだった。

「御身がお望みとあらば」

 俺も芝居がかった彼女に応えるように、向き合った者達に連理を突き付けた。

 

 

 剣技と矢が行き交う舞踏会を無事終了し、逃げていく兵達を追うことはせずに放っておく。

 どこの所属の兵かはあとで白陽達に調べてもらうが知識以外何もないと思って油断しきってかかった女学院に足止めされた挙句、俺が出たことによってその背後に誰がいるか(華琳)を示せたのだから十分すぎるだろう。もっとも正確には華琳じゃなく荀家なのだが、そこをあえて訂正する必要性も感じない。

 剣の血を軽く払って鞘に収めてから後方を振り向けば、どこかそわそわした様子の黄忠殿に女学院を行くように促す。黄忠殿もわかってくれたようで、一礼した後は急ぎ足で女学院へと駆けて行った。

「さてっと・・・」

 背後から迫る音を測りながら、迫ってきた刺突剣を振り返ることで避ける。そこには先程まで共に戦っていた男装の麗人がおり、にやりと笑った。

「貴様が私のことをどう知っているかは知らんが、私は貴様のことをよく知っているぞ。赤の遣い」

 笑っているにも関わらず、その目は怨敵を見つけた復讐者のようにぎらついていた。

「貴様が、貴様がぁーーー!」

 刺突剣が何度も俺の急所を刺そうと迫りくるが、避けるだけなら剣をまともに持つようになる前から親しんだ無二の友だ。

 それに詠殿のあの驚き具合とかを見るにこの人って・・・

「やめてください! お姉様!」

 女学院の方から聞こえてきた懐かしさを覚える声に振り向けば、かつて出会ったあの方の姿があり、彼女は殺意と刺突剣を俺へと向ける男装の麗人へと木桶を投げつけた。

「最愛の妹からの攻撃は避けない!」

 それを何故か避けようともせずに仁王立ちになり、顔面へとくらう男装の麗人。

「ぎゃふん!!」

 女性とは思えないような声をあげて、彼女は倒れた。

 そんな喜劇(コント)のような一連の流れに戸惑いながら、こちらへと駆け寄ってくる少女に気づく。

 水鏡女学院の制服を纏い、先程の女性より濃い桃色の髪と空色の瞳の少女は俺の前で立ち止まり、居住まいを正した。

「再び降り立ってくださいましたね。

 おかえりなさい、今は曹子孝となった一刀さん」

 そこに居たのは、まぎれもなく俺があの日に出会った劉協様(千重)だった。

 




男装の麗人は一体誰なのか?
樹枝は再び女装をしなければならないのか?
さらっと出た牛金の真名。
紫苑さんを一喝した存在・推薦書をしたためたある友人とは?
というか、司馬微は何者だ?!

とりあえず、来週も本編です。
待て、次回。

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