真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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まずは予定通り、視点変更を。

この後、もう一話投稿されます。


 水鏡女学院にて 【樹枝視点】

 水鏡女学院へと出立する数日前、僕と詠さんは華琳様に呼ばれ、執務室の前に立っていました。

「失礼します。華琳様」

 玉座ではなく執務室という辺り、今回のことが公ではないということを示していますし、僕と詠さんが選出されることから大分話の内容が限られてきます。勿論、詠さんもそれを察しているのか、やや緊張した様子で僕と共に部屋へと入りました。

「よく来たわね、二人とも。

 楽にしなさい」

 執務机に座ったままの華琳様が適当な椅子を指差し、黒陽殿によって僕らにもお茶が用意される。

「単刀直入に言うわ。

 あなた達二人には、冬雲と共に水鏡女学院へと向かって貰いたいのよ」

 僕らがお茶を口にし、人心地ついたのを見計らって、華琳様は言葉を飾ることなく言い放ちました。

 というか兄上しかり、華琳様しかり、何でもかんでも単刀直入言い過ぎて言われる側の身にもなってほしいのですが・・・ 揃いもそろって大胆に切り込みすぎなんですよ!

「水鏡女学院って・・・ 何故です?」

 疑問を口にする僕に対し、華琳様は何も言わずにただ詠さんへと意味深な笑みを向けることを答えとしました。僕もそれに従って詠さんへと視線を向ければ、詠さんは一つ溜息を零し、不機嫌そうな目で華琳様を睨みつけ始める。にもかかわらず、華琳様の笑みは崩れることはなく、むしろその笑みを深めていきました。

 いや、おかしいでしょう。どう見ても詠さん不機嫌になってるのに、どうしてそんな風に笑っていられるんですか華琳様?

「月から話を聞いたのね?」

「えぇ。劉弁様達の所在とあなた達が避難しようとしていた場所の詳細。そして、戦場を離脱した呂布達の居場所も全て聞いたわ。

 勿論、劉弁・劉協様の命を保証しこちらで保護すること、こちらから呂布達に一方的な協力関係を仰がないことを前提条件としているけれど・・・ どちらも言われるまでもないわね。

 あなた達に冬雲とは違う、もう一つの重要な任務に就いてもらうわ」

 華琳様はそこで一度言葉を区切り、茶を口にする。

 漢を崩壊させても、皇帝を殺したいわけではない・・・ ということですか。

 まぁ、皇帝を殺しても民に不信感や憎悪を生むだけなので保護するのが妥当という打算的な部分もあるかもしれません。

 って、考えるのは僕があの性悪叔母上に仕込まれたからなんだろうなぁ・・・

 若干鬱になりかけが、こればかりはどうしようもないので諦めるよう努力する。

「冬雲には英雄の立場を建前に御子様達を迎えに行ってもらう一方で、あなた達に二人には呂布達に今の状況を説明しに行ってもらいたいのよ」

「説明、ですか?」

 『勧誘』ではなく、『説明』という言葉におもわず問い返せば、華琳様は静かに頷かれる。

「月との約束があるというのが理由としては大きいけれど、それ以上に呂布という力は扱いを間違えれば非常に厄介な存在だわ」

「月さんと霞さんが居るから大丈夫な気がするんですが・・・ 説得的な意味ではなく、力的にぃ?! 詠さん、何故肘を入れるんですか?!」

 華琳様の言葉におもわず感想を漏らせば、隣の詠さんから肘鉄と共に足を思いっきり踏んでいく。普段他の方から受けている拳に比べれば痛くはないのですが、やはり痛いものは痛いので叫びながら隣を見れば、心底呆れたような視線をいただきました。

「あんたは会話中に一回は茶化しをいれないと気が済まない病気にでもかかってんのかしら?

 真面目な話をしてる時ぐらい、黙って聞きなさいよ」

 『そんな奇病、かかってませんよ!』と怒鳴りたい衝動に駆られるが、多分次に同じことをすれば華琳様の後ろに控えている黒陽からの制裁が来そうなので口をつぐむ。

「味方に付いていたあなた達ならわかっているでしょうけど、呂布は一人で軍を相手取ることが出来てしまう。しかも、呂布には陳宮という頭脳と高順という手足が従っている・・・ この事から呂布の欠点である部分はほぼ補われていると言っても過言ではないわ。

 月や霞の話を聞いている限り、その二人は随分呂布に心酔しているようだし、呂布という力の()せ方もよく理解しているでしょうね。

 個として強い呂布が兵を従え、一つの勢力として大陸に名乗り上げればどうなるかなんて、あなた達なら問うまでもなくわかるでしょう?」

「華琳様、お言葉ですが呂布さんにそんなことは出来ません」

 これは恋さんの知り合いだからという、私情からの言葉ではない。

 目指すべき志がない彼女が大陸に名乗り出たところで、行きつくべき未来(さき)がない。

「彼女はあまりにも純粋且つ良い子であり、幼子が偶然に力を持ってしまったような存在です。

 目指すべきものがない彼女が、一勢力として大陸に存在することは出来ないと思われます」

 そんな彼女が大陸に出てしまえば、遠からずして大陸全土が一致団結して彼女を討伐するような事態にすらなりかねない。

 ただの力の塊として、彼女は自分の心すら見失い、多くを失って獣となってしまうだろう。

「樹枝、あんたが言ってることは今後(・・)のことであって、()の論点じゃない。

 そうでしょ? 華琳」

「ふふっ、あなた達だと会話がとても楽だわ」

 今後のことだけど、今のことじゃない?

 なら、今のことから整理していけ、正解に辿り着くということだろう。今の恋さんの状況は連合での争いで戦線を離脱した・・・ つまり、恋さん達の情報はあの時で止まっていて、その上で連合の終わりは・・・

「あっ!」

こいつ(樹枝)って変態なのは前提だけど時々馬鹿なのか、頭良いのか迷うんだけど・・・」

「頭の回転はいいわよ?

 努力を怠ることはなく、密偵として疑われるようなところで職務を全うする胆力もあるわ。変態だけど」

 二人揃って言いたい放題ですが、これぐらいの理不尽には慣れっこですから!

「恋さん達がこのまま月さんが死んだと思い込んでいたら、それこそ大陸に名乗り出る理由になってしまう・・・ だから、僕らが女学院に説明に向かうんですね。

 僕らが行く理由は納得しましたが、華琳様の口から呂布さんを欲しいと出ないのは意外ですね」

 詠さんの方から『アンタ、また余計なことを言って』というような視線が注がれている気がしますが、一度口にした以上は気にしません。えぇ、例え華琳様の眼が怪しく光って、口元を隠すように覆っていても後悔はありませんとも。

「確かに純真な呂布を奪うのも、連合の遠目から見た陳宮と高順を二人揃っていただくのも悪くないわね・・・

 けれど、そちらの欲を優先して私達の最初の目標に支障をきたしてしまうのは、あまりにもお粗末でしょう?」

「どちらも本音であることは隠さないんですね!」

 色欲魔王ならぬ色欲覇王という名が相応しい方だと思っていますが、口にしたら華琳様本人は怒らないでしょうが周囲が怖いです。主に兄上とか、姉上とか、春蘭様とか・・・

「顔に出ていますよ? 樹枝さん」

「バレテーラ」

 いつものように突然現れた黒陽殿がこちらが寒気すら覚えるような気を向けてきたので、僕は冷や汗をかく。

 考えただけでこれなのだから、口になんてした日には命がいくつあっても足りない・・・!

「黒陽、怒らなくてもいいわよ。

 色欲覇王、覇王のもう一つの顔として悪くないじゃない」

 わー、華琳様は完全に僕の考えなんてお見通しじゃないですかー。僕、任務前に生きていられるかな・・・

 この後行われるだろう姉上による鞭の嵐と、大剣との追いかけっこを逃げ切る算段を練りながら、僕は遠い目をして窓の外へと視線を向ける。

「完全に恥だし、悪いに決まってんじゃない! というかむしろ、仕えてる僕が恥ずかしくなるわよ!!

 樹枝、あんたも現実逃避してないでこの君主に言いたいことをハッキリ言っときなさい!」

 詠さんの言葉を遠くに聞きながら、長期女装(前回)に続いて任された今回の任務も理不尽なんだろうなと思い、僕はその先の思考を放棄しました。

 

 

 

 さて、劉協様と思われる方とどう考えても初対面の筈の兄上がいちゃついている間にも時間は回ります。

 詠さんの戸惑いっぷりから予測するに劉弁様だと思われる方と兄上達が軍を片づけている間、僕らは女学院の方々と接触し混乱を治めたり、恋さん達と接触したり、大型の連弩を片づけたりなどの雑事に追われていました。

「では改めまして、お久しぶりです。恋さん」

 そう言って恋さんに向き直れば、恋さんは何故か首を傾げた。

「変態が!」

「恋殿に!!」

「「近づくなです(でござる)!!」」

 聞き覚えのある二つの声が響く中で僕は機を見計らって後ろを振り返り、こちらへと向かってくる蹴りと拳の位置を把握する。

「ちんきゅーきぃーっく!」

「高! 順! ぱんち!!」

「恋・・・ すとらいく・・・」

 が、完全に予想外の方向からの声によって、移ろうとしていた回避行動にずれが生じる。しかも、刃の方じゃないですけど方天画戟を振るうってマジですか恋さーーーーん!?

「既視感理不尽!

 って、洒落にならないのまで来ているだと?! これは避けなきゃ死ぬ!!」

「叫べてる辺り、あんたも余裕があるわよね」

 叫ぶほどの余裕があるんじゃなくて、もう叫ばないとやってられないぐらいヤバいんですよ!

 前方から落ちるように向かってくる蹴りと腹を射抜くような正拳突き、僕から見て後方左から向かってくる恐ろしいほどの風圧が回避行動を焦らせる。

 どちらも避けることはおそらく不可能。ならば、痛みの少ない方へと走るしかない。

「なら、前に走る!」

 二人に被害が及ばない程度の調節された恋さんによる方天画撃の一撃は上手く回避できたが、当然前方からくる二人の攻撃を避けることは出来ない。つまり・・・

「へぶっ! ごはぁー!!」

 音々音さんの蹴りは顔面へ、芽々芽さんの正拳突きは僕の腹に見事に命中する。

 確かに回数的にはこちらを受ける方が被害が甚大かもしれないが、後方から聞こえてくる木々の薙ぎ倒される音が僕の選択は間違っていなかったことを実証してくれました。

「恋、それを言うならむしろ『呂布すとらいく』じゃない?」

「今、そこは心底どうでもいいですよね! 詠さん!」

 が、再び想定外の方向から出てきた裏切りに、僕は仰向けの状態から飛び起きる。

 詠さんまでボケるとかやめてくださいよ! 主に僕の精神のために!

「ていうか、恋まで参加するなんて珍しいじゃない。

 何かあったの?」

「だって・・・ 恋もやらなきゃ・・・ 寂しい・・・」

 詠さんの問いかけに対して恋さんは少しだけ言いにくそうにしつつ、悪いことをした自覚はあるようで肩を落としてしまいました。

 仲間外れになりたくないから参加したという理由は大変可愛らしいんですが、そんなことで殺されかけてはたまりません。

「恋さんの気持ちはわかりましたが、さっきの攻撃を僕が受けていたらどうなるかわかりますか?」

 なるべく傷つけないように言葉を選びつつ、先程の風圧によって薙ぎ倒された木々の方を指差せば、恋さんも僕の指の先の方向を見てから再び僕を見て首を傾げました。

「・・・ぼろぼろ?」

「正解です。

 危険極まりないので、絶対に人に向かってやってはいけませんからね」

「そうよ、恋。

 樹枝だから避けることが出来たけど、一般兵とかじゃまず避けられっこないんだから」

 言い聞かせる僕の言葉に詠さんが続いてくれますが、『樹枝だから』って何ですか? それじゃ僕が規格外の何かみたいじゃないですか。

「ん・・・ 気をつける・・・

 ごめんなさい・・・」

 怒られた犬のようにしゅんっと頭を下げる恋さんを撫でたい衝動に駆られますが、ここはぐっと我慢です。

 躾の際に重要なのは怒ってることは怒っているとを動物に理解させることであり、可哀想だからと言って頭を撫でてしまえば嬉しいという感情が入り混じって動物はしっかりと覚えることは出来なくなるのです。

 これは動物に限らず人にも言えることであり、育てる者としてだけではなく上に立つ者が覚えておくと非常に有効なものだと思っています。

「その・・・ 大丈夫・・・?」

 僕が良心と戦っていると、怒られていた側の恋さんが気遣うように僕を見上げてきてくださいました。あぁ、やっぱり恋さんは優しいなぁと思って心配を取り去るように頭を撫でていると、恋さんは言葉を続けました。

 

「服・・・ 違うけど、大丈夫?」

 が、その口から紡がれたのは僕の想像の斜め上を爆走するものでした。

 

「恋サン、アナタハ何ヲオッシャッテイルノデショウカ?」

 やや離れたところから爆笑する緑陽の声が聞こえる気がしますが、僕は驚きと精神的な衝撃が強すぎて、そちらを向くことは勿論怒鳴る余裕すらありません。

「だって千里・・・ 樹枝はいつもの格好(女装)じゃないと具合悪くなるって・・・」

 千里さん!? あなたという人は純粋な恋さんになんて言うことを教え込んでいるんですか! 仕込みが厳重且つ丁寧すぎて、予想することすらできないとか! あなたは間違いなく、雛里と同門ですね!!

 というか、ま た あ な た か。

「なんと! それはまことでござるか?!」

「つい、いつもの習慣でお前を見つけて反射的に制裁を加えてしまったですが・・・ すまなかったのです。

 何か辛い事があったのなら、話ぐらいは聞いてやるのです」

「然り。

 どこか体の具合が悪いのならば、医者にかかることをお勧めいたす」

 これまで聞いたこともないお二人の優しく、気遣いに溢れた言葉は温かくも心地よい筈なのに・・・

「無垢な視線が辛い・・・!」

 仕組んだ千里さんが悪いのであって、彼女達は僕のことを心配してくれているのがわかるからこそ怒ることも出来ませんし、怒鳴るなんてもってのほか。でも、だからこそ辛い!

「こんな純粋な方々の期待には、応えるほかありませんね。樹枝殿」

 いや、それはおかしい。

「応える必要なんて全くありませんから!!

 というか、どこから這い出てきました?! 隠密は隠密らしく影に侍っててくださいよ!」

「隠密が常に足元ばかりいるわけではないのですがそれはさておき・・・ お着替えしましょう、樹枝殿」

 僕の魂の叫びを軽やかに無視し、一つの衣服を僕に見せるように広げました。

「何故、それをあなたが持っているんですか?!

 というか、僕は廃棄した筈なんですけど?!」

 緑陽が広げた服は、僕がかつてこの女学院を訪れた際に姉上によって着替えられた制服でした。

「確かに樹枝殿が以前使用した制服は桂花様にすら気づかれることもなく、廃棄することが成功しました。

 ですが、樹枝殿の制服姿を見たいと切望する数名の有志の懸命な努力により、千里様と沙和様に協力の元、こうして新しく生まれ変わったのです。ただ再現にするのはあまりにも芸がないという製作者(沙和様)のこだわりにより、樹枝殿の動きやすいように工夫を凝らさせていただきました。

 腕周りには余裕を持たせ、腰のりぼんは薄手で細かな細工の入った紐に変更。膨らんだような使用のすかーとの内部には得物を仕込めるように細工し、長い靴下で足を覆うことで・・・」

「無駄に高性能ということはわかりましたが、技術と時間の無駄遣いですから!

 僕はそんな(制服)、絶対着ませんからね!」

 というか、そこまでこだわって作られていると捨てにくい!

いや、断固として着ませんし、捨てますけども!! つーか、有志って誰だよ!?

 ツッコむところが多すぎて、凹んでる暇すら与えられない。

 だが、緑陽からの口撃はやむことがなく、最後の留めだと言わんばかりにニッコリと笑う。

「この目を見ても、同じことが言えますか?」

 そう言って緑陽が退いた先に居たのは、僕を気遣うような恋さん達の眼差し。ひ、卑怯な・・・!

 そして、僕が怯んだその一瞬の間が命取りとなった。

「藍姉様直伝」

 瞬きを一つする間、僕の横を通り過ぎていく緑陽が口にする言葉が異様に響いて聞こえる。

「印象替え」

 その瞬間、僕の服は制服へと切り替わった。

「なっ・・・ 緑陽ーーー!」

 むしろ教え込んだ藍陽の名を叫ぶべきかもしれませんが、司馬姉妹は僕に何か恨みでもあるんですか?!

「「何故、音々()が変態の心配をする必要があるのですか?!」」

「理不尽!」

 突然我に返った二人が再び蹴りと拳の準備をし、再び見舞われつつ、もう一度参加した恋さんによって木々が薙ぎ倒されていく。

 あぁもう、誰でもいいから助けてください・・・

 

「あんた達、そろそろいい加減にしなさいよ?」

 

 ずっと黙っていた詠さんの一喝が響き、恋さんですらその場で動きを止めてしまう。

 時に月さんすら叱り飛ばす詠さんの怒気に全員がぎこちなく首を動かして、声の主である詠さんへと視線を向けました。

「全員、そこに正座!」

『はい・・・』

 怒れる魔王の知恵袋の言葉に逆らえる者が居るわけがなく、全員が綺麗に並んで正座をし、説教を受けることと相成りました。

 

 

 

 無事(?)説教を終わり、ついでに詠さんの口から月さん達の安否なども伝えられ、恋さんは安心したようで大きな木の下で一眠りし始めてしまいました。

「恋殿も話を聞いて安心したようでござるな」

「ですな」

 音々音さんと芽々芽さんはそんな恋さんに優しい視線を送りつつ、すぐさま集まってくるセキト達も相変わらず元気そうだった。

「音々達は今後どうするか、決めてる?」

「決めてはいませんが、月達や華雄がいるからという理由で他の陣営につく気は音々達にはないのです」

「右に同じく。

 某達の主は恋殿唯一人、恋殿が選ぶ道を某達は尊重し、共にあるでござるよ。たとえそれが戦いと無縁なこの地で過ごすことであっても、某は一向にかまわん」

 恋さん次第でどこにでも行くとも取れる内容の返答ですが、この二人の考え方は姉上や春蘭様達に非常に近しく感じられました。

「変態であっても樹枝の義兄たる者が悪い者だとは思わぬし、現に今も水鏡女学院へと加勢し、月殿達を救ってくれたのも間違いなく彼の御仁の真の姿であろう。

 恋殿は物事の本質を見抜く。故に敵対するのであれば、見つけ次第首を狩っていたでござる」

「しかし、義理とはいえ樹枝(変態)の兄なのです。

 隣に劉協様を連れているにもかかわらず、さらに女性へと声をかけるほどの節操なしとは・・・・」

「はい?!」

「しかも、いずれの女性もあからさまにあれでござるな」

 まともな話が流れるようにずれるのを見て、音々音さんが指差す方向を振り返ってみれば、確かにそこには兄上と黄忠殿が並び、その隣には劉協様が並んでいました。

「兄はそう言う人ですけど、僕は違います」

「寝言は寝て言うものなのです」

「鈍感は罪でござるよ、樹枝」

 似ているところだけはしっかり訂正するが、どうしてか信じられないような目を向けられた後、二人は兄上の所へと再び視線を戻しました。

「樹枝。

 ここは僕がいるから、あんたは冬雲に報告してきなさいよ」

「どうして、詠さんが不機嫌なんですか?!

 大体、兄上はまだ黄忠殿達と話している真っ最中で・・・」

「いいから、行きなさいってのよ!」

 何故か詠さんから理不尽な蹴りを貰い、僕はその場を追い出されるようにして兄上の元へと向かうことになりました。

 

 

 

「自覚がないのは誰の所為でござろうな?」

「言うまでもないのです。

 屈折した愛を持つ千里と、素直になれない詠に決まっているのです」

「同意。

 しかも、先程の隠密も千里に近しい愛の形を持っているようで・・・ いやはや、樹枝も妙な愛の形を持つものばかりに好かれるでござるな」

「流石、変態なのです」

「なので詠、さっさと素直になることを勧めるでござるよ。

 そうでもしなければあの朴念仁(変態)は振り向くどころか、恋情に気づくことすらないでござるよ」

「うっさいわねぇ! 大きなお世話よ!!」

 


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