真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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この前に一話、投稿しています。

ようやく男装の麗人が明らかに。
彼女の末期的なシスコンをお楽しみください。

来週はちょっと引っ越しでドタバタするので投稿出来ないかもですが、なるべく出来るように足掻きたいと思います。


70,水鏡女学院にて (続)

 樹枝の女装はひとまず置いておき、俺達はその場で黄忠殿と別れ、千重や劉弁様について話し合いをするために女学院の離れを使わせてもらうことにした。

 離れは大きな卓と複数の椅子、そして一段あがった場所には広く開いた壁というなんだか会議室のような造りをしていた。

「えっと・・・ まず、何から話すべきかな」

 そこには劉弁様をどこかで休ませている白陽と、白陽を呼びに行っている緑陽以外の全員が揃っていた。勿論、千重も参加者の一人として俺の隣に座っている。

「あんたと千重様が知り合いっていうのは・・・ 聞いちゃいけないのよね?」

 すぐさまその辺りに触れてくる辺り、詠殿は本当に容赦がない。

 だがもっともな疑問でもあるため、説明しようと立ち上がろうとした千重を手で遮って、俺は静かに頷いた。

「あぁ、それを含めて俺の口から皆に説明する機会は作るけど・・・ 今は無理なんだ」

「そっ。

 なら、次は千重様にお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」

 詠殿は興味をなくしたように俺から視線を外し、千重を見る。

「詠さん、そんなにかしこまらなくていいですよ。ここに居るのはただの千重ですから。

 勿論詠さんだけではなく、鳳統さんも、荀攸さんも、私のことは気軽に千重とお呼びください」

 が、詠殿の言葉に対して千重はにこやかにそう答え、何故か視線を樹枝で止める。まぁ、女装をしてる男がいれば目を止めても仕方ないんだが。

「荀攸さんは気軽に『お義姉ちゃん』と呼んでくださいね」

「気軽すぎでしょう!

 ツッコミどころが多すぎですけど、まず兄上。会って四半刻も経たないうちに劉協様を誑し込んだですか? 人が呂布さんにぼろぼろにされかけたり、純粋な子達に精神をガリガリ削られている間に、あんたって人は女性を誑し込んだっていうんですね! コン畜生!!」

 千重の発言に驚いたのは当然樹枝だけなわけがなく、俺もおもわず首をそちらに向けてしまった。間抜けな顔をしているだろう俺を見て、千重は幸せそうに笑って口元に指を立てながら悪戯気な笑みを向けてきたのでおもわず俺は苦笑する。

 変わってないようで変わってて、その変化に困ってるのに嬉しいなんて・・・ 矛盾だろうか?

「兄上! 人の話を聞いてないでしょう!!」

「樹枝、冷静に考えろ。

 普段お前が飛んでる理由の五割は確かに理不尽だが、もう五割は自業自得だ。つまり、半分の確率でお前は何かをやらかしている可能性がある。

 現にお前は、あれだけ嫌がってる女装を今もしている。それは確かに理不尽かもしれないが、着替えた時点でお前は自業自得に足を突っ込んでるぞ?」

「理路整然と反論されただと?!

 この服装に関しては兄上の三羽烏の一羽が無駄な技術力を発揮したことと、あの用途のよくわからない秘技の所為なのですが?!」

 沙和・・・ 警備の途中で書簡を持ってるなと思ったら、やっぱ衣服関連の仕事だったか・・・ 秘技の所為ってところから察するに、あの技を教え込んでいつの間にか着替えさせられたんだろう。

 それでもどこかで着替えてくればよかったんじゃないかと思ったが、ツッコまない方がいいだろう。この会議の真っ最中に着替えられても困るしな。

「それで詠殿が千重に聞きたいことって何なんだ?」

「・・・あんたならさっきの僕の様子で予想ぐらい出来たかもしれないけど、僕が知っている劉弁様と今の劉弁様は全くの別人なのよ」

「そうなのか?」

 前どころか今すらも御子に会う機会がなかった俺には全く分からずおもわず問い返すと、詠殿は頷いた。

「少なくとも僕が知っている劉弁様は『人形姫』と呼ばれるぐらい感情が希薄で、主張もほとんどしない方だったわ。

 確かにある程度の武も、学も収められていたけど、それを表だって振るうようなこともなかった。ましてや、人を従える才能なんてその片鱗すら見受けられなかったのよ」

 なるほど。表情のない人形だった人が突然宝譿みたいに活発になりゃ、こんな反応にもなるか。

「詠さんのおっしゃる通り、姉様はとても物静かで、心に真っ直ぐ芯を持つような方でした。

 ですが、水鏡女学院の生徒の皆さんに『お姉様』と呼び慕われるようになってから、姉様は少しずつ変わってしまったんです」

 千重もどこか気まずそうに目を逸らしながら、遠くへと視線を向けていく。

 

「千重よ、私の最愛なる妹よ。そこまででいい」

 その言葉と同時に中庭に面していた窓が開かれ、そこから入った何かが卓の上に立った。

「そこから先は、私自身が語るとしよう。

 この大陸の全ての女性の姉である、この私が!」

 鞘に収められたままの刺突剣を額に当て、足を揃えた姿勢を取った女性はまぎれもなくたった今、話題に上ったばかりの劉弁様であった。

 

 が、彼女の眼はその場にいた全員 ――― いや、おそらく正確には女性陣だけ ――― を認識した瞬間大きく見開かれ、我慢できぬように両手で顔を押さえつけた。

「ここは理想郷か?!」

 狂喜という言葉が相応しい喜び様に、その場にいる誰もが言葉を失う・・・ 筈だが、俺の義弟がこの程度で黙っているわけがない。

「第一声も残念だというのに、続いた言葉も残念極まりない!

 最初に見た時も思いましたけど、なんですかこの人?! 華琳様なんですか?!」

「違うぞ、樹枝」

 予想通り、黙ることのなく且つ言いたい放題の樹枝の言葉の中には間違ったこともあった。

「何がですか?!

 そりゃ、胸とか身長とか服装とか振る舞い方とかいろいろ違いますけど、そんな指摘だったら怒鳴りますからね!」

 もう怒鳴っている上に華琳が地味に気にしていることを口にしたのは後で制裁を加える(殴る)として、ひとまず俺は首を振った。

「華琳なら『ここは私の花園ね』って言うに決まってるだろ?」

「遭遇した奇跡を喜ぶのではなく、既に自分の物にしているだと?! 華琳様、凄すぎる! 器が違う!!」

 華琳の恐ろしい所は自信満々で言い切るうえに、実行に移してしまう所だと思う。だが、それでこそ華琳。

「だが、男も混じっている上に一人女装をした変態男が混ざっているだと?!

 おのれ! 女の花園に紛れる変態だけではなく、自らを装ってまで侵入してくるなど・・・ この変態共が!!」

 なんだろう、ここまで直接的な罵倒は久し振りすぎて懐かしさすら覚える。

 そして、ついさっきも少しやり取りをしていてわかってはいたが、この方は男嫌いであり、その中でも特に俺を嫌ってるよな。

「兄上!

 僕は初めて、初対面の方に男と認識されました!!」

 樹枝は樹枝でどこかずれた感動をしているし、役に立ちそうにない。

 だが、このままだとこの人絶対刺突剣抜き出すんだよなぁ。今は公には死亡扱いにされている劉弁様とはいえ、御子である方をそう何度も気絶させるのはいかがなものだろうか。それに白陽の気配も・・・ 

「だが安心してくれたまえ、私の最愛なる妹達よ。

 この不逞の輩はこの私が直々に引導を渡し、今すぐにこの女学院から・・・」

「八重お姉様、今すぐに私の旦那様もとい冬雲さんに向けている剣を降ろしなさい」

 俺がこれまで聞いたこともないような千重の言葉が静かに響き、詠殿までも声の主がわからなかったようでわずかな間首を振って声の主を探していた。

「またそれか?! あの赤い星が落ちた時から千重はそればかりだ!

 何があったかは知らないが、お姉ちゃんは女を複数囲うような男との交際は認めません!!」

 が、そんな異常事態に慣れているらしい劉弁様が黙ることはなかった。

「恋愛とは誰かに認めて貰うものではなく、内にある想いを自らが認めるものです。そして私はあの赤い星が落ちた時からずっと・・・ この想いを認めていました。

 ましてや、異性に恋をしたこともない女未満のお姉様の口出しなんて無用です!」

「ごはぁ!」

 俺はおそらくは赤くなっているであろう顔に手を当てて誤魔化しつつ、惚気と『無用』の二字によって崩れ去る劉弁様を見ていることしか出来ない。いつもならここで何かしら救いの手を伸ばすんだが、正直劉弁様には俺が何を言っても藪蛇にしかならない気がする。

「いや、女未満って・・・ 劉協様ご自身も十歳前後だった気がするのですが・・・」

「知らないんですか? 荀攸さん。

 女とは、恋を知った時から少女から女になるんですよ?」

 樹枝の余計な一言にすら律儀に答える千重には感心するが、気のせいでなければ詠殿からの視線が厳しくなった気がする。あと、雛里と気配が戻った影からの生温い視線がちょっと辛い。

「ふ、ふふ・・・ 私は恋なんかしなくても大丈夫なんだ。

 大陸にいる全ての可愛らしい妹達に愛を捧げ、全てを守り、平等に愛を振りまきながら私はこの大陸の姉となる・・・ そう、これは間違っていない・・・ 博愛主義こそ正義・・・!」

「いやかなり歪んだ博愛主義ですよね、それ!?

 あと、男以外という重要な部分が抜けていますよね?!」

 立場を理解しているにもかかわらず、ツッコミだけは誰に対しても平等な樹枝にある種の敬意を抱きつつがあるが、いずれにせよ藪蛇になりかねない俺が言いださなきゃ話が進む様子が見られない。

「ふっ、私の主義が歪んでいるのではない。

 霊帝と呼ばれ、聡明と謳われた母様の御世ですら歪みはあった。ならばその歪みは、最早一つの大陸の形であり、今の乱れた状況すら正常なのだ」

 だが、再び想定外の言葉が劉弁様から飛び出し、劉弁様は俺達のことなど目に入らないかのように言葉を続けていく。

「皇帝がいなくとも世界は回り、天下の支配者など形ばかりだということが証明された。

 だが、無意味と証明されたにもかかわらず『御子』の肩書きは私と千重を戦乱から無縁にさせてはくれまい。安全と謳われた学院が攻め入られことがその証明であり、いずれにせよ私達はここに長く滞在することも望ましくはないだろう。

 誰も彼もが皆、好き勝手に舞い踊り、欲に向かって邁進する。大いに結構!

 それでこそ栄華と衰退を繰り返せし、我らが母なる大地! あぁ、本当に素晴らしい!!

 ならば私も、この乱世を舞台として勝手に踊るとしようじゃぁないか」

 ついさっきまで膝をついて倒れた筈の彼女は立ち上がり、軽やかな足取りで卓の周りを踊りだす。鞘に収まれたままの刺突剣を杖のように振りながら、床と踵をぶつけ合わせ音をたてながら楽しそうに彼女は歩む。

「では劉弁様、我が主曹操様の元へ参られませんか?」

「誰が貴様の所になど行くか!」

 あっ、やっぱりそう返すんですね・・・

 俺の所っていうか華琳の所なんだけど、俺に対する表情が警戒心の強い猫みたいな感じなので俺もどうしたもんかと悩む。

「姉様?」

「ぬ・・・ だ、だが、私がどう言っても千重はそいつの所に行くのだろう?!」

 踊りながらもさりげなく千重の隣に来る辺り、本当に千重が好きで大事なんだと思うと同時に俺のことなんて可愛い妹につく虫か何かだと思っていることを実感する。

「当たり前です。

 私はもう冬雲さんのお傍を離れる気なんてありません」

「ほら見ろ!

 そうして仲睦まじくなって、はてには最愛の妹とその男が子作りするところを私に見ろというのか?!」

「見なければいいと思いますよ? お姉様」

 二人のやり取りを聞きつつ、俺と詠殿と雛里は目で合図を送り、二人には水鏡女学院の方に出立の日時などを伝えに行ってもらう。当然、白陽達には手での合図で荷造りをやっておいてもらうこととする。

「いや劉協様、論点が近いんですが若干ずれています。

 覗く前提がそもそもおかしいんですよ?」

 二人の相手は樹枝に任せつつ、俺もその様子から目を離すことはしない。

 劉弁様がこちらに来ることを拒んだ以上、どこに行くかぐらいは見届けなくてはならない。必要なら司馬八達の誰かを傍に侍らせることも考えなければならないし、この様子では水鏡女学院に留まるとも思えない。

 公に死亡扱いとはいえ劉弁様は劉宏様に似ているとの情報から考えると、下手に大陸に出てしまえば正体が判明する事態にもなりかねない。

「ならば私は傷心の身を抱え、恋達という愛する妹達を連れて旅立つしかない!」

「いや、その発想はおかしい!」

 ありがとう、樹枝。俺もまったく同じことを思った。

「うるさい黙れ! この女装の変態が!!」

「僕だって男装の変態には言われたくありませんよ!」

 『異なる二つの変態が揃い踏み』なんて言ったら、流石に俺であってもボロボロにされかねないので黙っていよう。

 そして劉弁様は千重越しに指差し、淡い緑の瞳が何かの魔法のように怒りに揺れながら俺のことをきつく睨んでいた。

「よいか、赤の遣い。私はけして千重とお前の仲を認めはしない!

 私はお前の周りよりも魅力的な娘達を妹にし、その上でお前の恋人達を私の妹にしてみせる!!」

「姉様、人を指差さない!」

 そう言って彼女は再び卓の上に飛び乗り、窓へと飛びながら最後の言葉を言い放った。

「私を『義姉(あね)』と呼ぶことは、死を意味することと思えーーー!!!」

 相手の返答を求めないで一方的に言い捨てていく完璧な捨て台詞を叫びながら、劉弁様は俺達の元から去った。

 が、何故か隣に居た千重は体を震わせていた。

「千重?」

 どうしたのかを俺が聞くよりも早く、千重は固く拳を握りしめながらつかつかと劉弁様が出て行った窓の方に向かい、窓の冊子に手をかけ思いきり息を吸い込み、叫ぶ。

「八重お姉様なんて、大っ嫌い!!!」

 最愛の妹からの大音量の大っ嫌い宣言。

 でも、走り去った後だから流石に聞こえてないだろうと思った。

が・・・

「う、うおぉぉぉーーーーん! それもこれもあの赤の遣いの悪い! 私の最愛の妹の心を奪ってしまった!!

 私は今日この日、既に死したこの名(劉弁)を捨て、大陸で私を待つ多くの妹達へと愛を振りまく愛の伝道師となる道を選ぼう! いつか再び千重を取り戻すその日まで、私はけして諦めない!!」

「恋殿を降ろすのです! この男装変態がーーー!!」

「恋殿おぉぉぉーーー!」

 どうやらばっちり聞こえた上に、先程の宣言通り呂布殿を道連れにしていくらしい。

 まぁ、呂布殿がついているなら大丈夫だろうが、黄巾の乱の時のような勢力にならないかだけが不安が残る。なので、白陽に今後どこにいるかぐらいの情報を拾うように頼んでおく。

 まるで嵐のように過ぎ去っていった彼女を見送った後、樹枝が長い溜息を吐いてから、言葉を零した。

「なんですか、あのヘタレた華琳様みたいな人」

 




次も本編。その次は視点変更。
そして徐々にこの章で書きたかったところへ突き進んでいきます。

書きたいシーンが山積みですが、一話ずつ確実に進めていきたいと思います。

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