真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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週末に予定があるので、今日投稿していきます。
ですが、感想返信などは行える環境なので感想返信は遅れることはあまりないかと思います。

さぁ、物語が動いていきますよ。


73,迫りくる影 幽州にて 【赤根視点】

 姉様の指示の元に幽州は慌ただしく動き、お姉様の婚約者である曹洪様が来たのはあの号令の一週間後のことでした。

 当然、現状では婚約の祝いは出来ませんし、最悪婚約破棄をされても文句は言えません。

 ですが、姉様の義姉にあたる曹操様も、今回無事旦那様となった曹洪様もそれを理解し、その上で私達を含めた幽州の民を受け入れてくださいました。

 もう私達は曹操様に足を向けて寝れませんね。もっともそれは曹操様だけではなく、幽州の民を快く受け入れてくれた異民族の方々にも言えたことですが。

「今回は本当に・・・ あの方にも、異民族の方々にも一切の利益がありませんからね・・・」

 負けが見えている戦をしないために民をあちらこちらに逃がし、空っぽになった幽州を袁紹軍に明け渡す。

 私達に出来ることは持ちうる材を民の逃げ先となるところへと渡し、人材として価値があることを説明すること。

「幸いだったのは、二陣営共に民を友好的に受け入れてくださったことでしょうか・・・」

 しかし、私達もただ黙って明け渡すわけではありません。

 敵軍の足が少しでも遅れるように、時間稼ぎ用の防護柵や簡易罠を稟お姉様の指揮の元で街のあちこちに配備。罠の配置などを星お姉様が小器用にこなしていき、準備もそう手間取ることもありませんでした。

 戦の火が飛んでしまう可能性をなくすために、異民族の方々の土地とこちらを繋ぐ道は私が最後の交渉を終えた際に岩で道を潰すなどをしてこちらからは通りにくい状況を作りました。道を潰すことについては説明を終えてあり、今後のことについてもあちらは私達を気遣い、受け入れてくれるとすら言ってくださいました。

 ですが、これは私達の同じ言葉を使う民族の問題であり、彼らまで巻き込むわけにはいきません。好意に溢れた優しい申し出を丁重にお断りし、再会の約束を交わして彼らと別れました。

 その間、姉様は曹操様と念入りに連絡を取り合い、民の今後についてや負担にしかならない私達を含めた将兵の受け入れなどの書簡のやり取りを、夜も眠らずに綿密に行っているようでした。

 

 

 

「姉様、ただいま戻りました。

 あちらとの最後の話し合いも無事終わりまし・・・」

「じゃっ、赤根嬢ちゃんも来たし、俺お茶汲みに行ってくるわ!

 ・・・すまね、あと任せた」

 私とは入れ違いに宝譿さんが慌ただしく出て行き、何故か小声で謝罪していきました。

 そしてそこに広がったのは、幽州にいる軍師と将が一同に揃うという朝のままの光景でした。最近は各々担当している仕事のこともあって外に出ていることが多かったので、皆さんの顔が揃うのは本当に久しぶりと言ってもいいでしょう。

 曹洪様・・・ いえ、樟夏お義兄様も姉様がお義姉様への書簡をしたためている時などは他の書簡の雑事を手伝ってくださっていたので私はこの部屋で見かけることは珍しくなかったのですが、風お姉様達は初めてなのではないでしょうか。

 さて、状況説明はこの辺りでいいでしょうか。

 突然ではありますが、ここで皆さんに質問です。

 いえ、質問と言っても向ける対象などなく、私の混乱を治めるために行うものでしかないのですが、質問です。

 

『左は温かで穏やかな陽だまりのような空気、右は極寒の大吹雪のような圧力。

 その間にあるもの、なーんだ?」

 

 これの回答は多少無理がありますが、『季節の秋』だというでしょう。私も普通ならそう答えたいです。

 ですが、大切な点をもう一度申し上げます。これは()の混乱を治めるための(・・・・・・・・・・)ものです。

「あ、赤根。おかえり~」

 とろけるような笑顔で私を出迎えるのは当然白蓮お姉様ですが、その顔は緩んでいた普段以上に締りがありません。その表情はもはや緩むを通り過ぎて、元々あった輪郭すら崩れているようでした。

「赤根ちゃん、おかえりなのですよ」

 私に向けていつものように口にしているにもかかわらず、風お姉様の目は欠片も笑っていません。

「おかえりなさい、赤根さん。

 赤根さんはしっかりと仕事をこなしてきてくださったようですね」

「あぁ、まったくだな!

 目の前でいちゃつくどこぞのふにゃけた新婚夫婦と違ってな!」

 風お姉様の言葉に続いたのはあえて名指しせずに嫌味を言う稟お姉様と、それとは真逆に怒りを露わにする星お姉様の姿でした。

「そ、そんな新婚夫婦なんて・・・!」

「そ、そうです!

 まだ正式に我々は式をあげておらず、婚約者という段階でして・・・・!!」

 慌てたようにお二人は否定しますが、星お姉様達が言っているのはそこではないと思います。

『もう、勘弁ならねーーーーー!!!』

 御三方は声を揃って拳を振り降ろし、目の前にあった机を破壊しました。

 まぁ、重要な案件は終わり、あとは雑務処理なのでかまわないのですが、それでも備品が・・・

「どどどど、どうしたんですか?! 皆さん!」

「そうだぞ!

 いくら重要なことが終わってるからって机を壊すなんて・・・ まさか何か問題でも?!」

「むしろ、貴様らが問題そのものだーーーー!」

 白蓮お姉様と樟夏お義兄様の揃った言葉に対し、星お姉様が噛みつかんばかりに怒鳴り散らします。

「風達もね、そんな風にお兄さんといちゃつきたいんですよ・・・

 でも、出来ないんですよ? わかります?」

 (ガン)をつけるように風お姉様が白蓮お姉様と樟夏お義兄様を睨みつけ、御二人は再び揃って震えだします。

 何でもかんでもお揃いですか、仲良しというか、ここまで来ると一心同体の域ですね。

「そう、あなた達がしているような書簡仕事で何気なく視線があっただけで照れ合い、手が触れては赤くなり、この後の予定を和気藹々と話し合うことをしたかったんですよ!」

「そうだ! そうだ!

 仕事を終えた後、一杯ひっかけ、良い雰囲気になったところでそのまましっぽり・・・」

「「おめーは駄目だ!」」

 稟お姉様の言葉を流れるように星お姉様が引き継ぎましたが、その言葉は風お姉様と稟お姉様によって遮られ、星お姉様は衝撃的な顔をして身を引きました。

「まさかの裏切りだと?!」

「さらっと風達の妄想に入ってきてるんじゃないですよー」

「経験もない癖に偉そうに」

「経験など、赤の遣い殿でするからいいのだ!」

「「それが駄目だっつってんだろ!!」」

 まだ、諦めていなかったですね・・・ 星お姉様。

 というか、御二人も口調がいつもと違うというか、崩壊していると言っていい域です。

 さて先程の質問の真意を、皆様には御理解いただけたでしょうか?

 では、回答の発表です。

 

 答え、私。

 

 このやり取りを私が出発する早朝にも、二度ほど行っています。

「私達に一体、何が問題あるんだろう?

 何か心当たりはあるか? 樟夏」

「さて、皆目見当が・・・」

 白蓮お姉様達は朝から変わらず原因を探求しているようですが、何も答えは出ないようです。

 当たり前ですよね、自分達の何気ない触れ合いに対して怒りを抱いていることなんて、気づけるわけがありません。

「では、樟夏お義兄様、白蓮お姉様。

 私が留守をしていた間、ここでなさってたことをご説明いただけますか?」

「え? 赤根、なんでそんなことを聞くんだ? 仕事に決まってるだろ」

 えぇ、白蓮お姉様ならそうおっしゃると思っていました。

 ですが、先程風お姉様達が言っていたこと以外にもしでかしている可能性は大いにあるので、まずは状況を整理しましょう。

「いえ、行いから見直せることもあるのではないかと」

「それはそう、ですね。

 では、赤根殿が出発して以降から考え直しましょう」

 二人揃って顔を近づけ、うんうんと悩む姿すら妬ましいのか風お姉様達が片隅で歯ぎしりをしています。

 が、口とは別に体はちゃんと壊した机の後片付けに動いてくれているので、とりあえずよしとしましょう。そうたとえ、じきに破壊した机の破片が天井に届きそうになっていても

「では、まず先程から離れることもなく、繋がれたままのお二人の手はなんですか?」

「は?! これは無意識でして・・・!

 すみません、白蓮」

「そ、そんな謝られることじゃ・・・

 それに私は・・・ その、嬉しい」

「そんな・・・ 嬉しいだなんて」

 二言三言(ふたことみこと)言葉を交わし合うだけで顔を赤くし、いちゃつきだす御二人の姿を見て私はおもわず額に手を当ててしまいました。

 これを逃げ場のない室内で延々と半日も、ですか・・・

 あぁー、これはうざい。

「風お姉様達が怒るのも無理はないですね・・・・」

「「え?! 何が!?」」

「まさにそれですよ・・・」

 真面目なお二人のことですからやるべき仕事は滞りなく行っていたのでしょうが、このやり取りを仕事の真っ最中にたびたびされれば臨界点も突破するでしょう。

 朝に二度行われていたのも初々しい朝の姿やら、食事風景という何気ない婚約者のやり取りに対し、甘ったるい空気に耐え切れなくなった御三方が怒り狂った結果でした。

 それらを懇切丁寧に御二人に説明しても、無意識の産物は直しようがないので事態の解決は不可能でしょう。

「し、しかし、いちゃつくと言っても兄上のような行動をとっているというわけではないのですが・・・・」

「ほぅ、それは気になりますねぇ。

 どんなことをしているんでしょう? 少しお聞かせ願えませんかねぇ?」

 今一瞬、風お姉様の眼が怪しい光りを放った気がします。

 誰が言うまでもなく、明らかに墓穴を掘った音がしました。

「何というか・・・ 兄上は空気を吸うように触れ合い、口説き、女性を増やし、襲われ、連れ込まれ、攫われ、常に女性のことを考え、それら全てを仕事をしながら、日常的にこなしています」

 『英雄、色を好む』と言いますが、その言葉を体現するような方なのでしょうか。というか、半数は本人の行動ではなく、周囲にされていることのような気が・・・

「ほうほう。

 ・・・おのれ、風達が居ない間に好き放題しているようですねぇ」

「いちゃつき放題ですか、そうですか。

 私達だって、あんなことやこんなことをしたいのに! 連合の時も寝込みを襲うのを我慢していたというのに・・・ なら、次は私達の番ですよね?」

 風お姉様達が危険な気を放ち始めていますが、これは本当に大丈夫なのでしょうか?

「ふむ、ならば私の番もあるな」

 星お姉様、少ししつこいです。

「「一生ねーよ!!」」

「一生?!」

 そして、御二人も一切容赦がありません。

 かといって恋愛を希望しているわけでもなく、誰かに恋慕の情を抱いているわけではない私はこの会話に入ることが出来ません。実際、異民族の方と何度か見合いの話もあったのですが、幽州のことや姉様の婚約のこともあったので先延ばしにしていました。

「恋愛、ですか・・・」

 風お姉様に聞いたことはありますが、長い惚気の末に出た答えは『一緒に居たら楽しい人』。

 稟お姉様は顔を赤くし、鼻血を噴きだし、最後にようやく出してくださった答えは『功績でも、理屈でもなく、全てを好きと言える人』。

 星お姉様と白蓮お姉様は、どちらも経験が浅そうだったので聞いていません。

「「そこは聞こう()! 赤根!」」

 私が何も言っていないにもかかわらず、お姉様と星お姉様が私に掴みかからんばかりの勢いで声を上げました。

「私は経験が浅いのではない!

 あの方と出会うために、始めてを取っておいたのだ!!

 さながら、白雪に初めて足を踏み込む時のように、最初の一歩は彼と決めていたのだ!」

 と、最初の一歩を勢いよく踏み出した星お姉様がその後も何かを言い連ねていますが、まず初めに言いたいのはこれです。

「まともに顔を覚えてもらってるのかも怪しいのに、受け入れてもらえる前提ですか。

 凄いですね、星お姉様」

「ぐはっ?!

 あ、赤根、いつもよりも口が悪くないか・・・」

 倒れ伏した星お姉様を見下ろしながら、私は特に気にせず迫りくるお姉様へと視線を向けます。

 一仕事を終えて帰ってきたらこの騒動。挙句、逃亡者一名。

 口ぐらい悪くなると思います。

「赤根、聞いてくれ!

 確かに私と樟夏の付き合いはまだ短く、出会いはとんでもないものだった。

 だけど、私はちゃんと樟夏に恋をしているんだ!

 そして、これから毎日二人で日々を積み重ねていき、お互いのことをもっと知って・・・ そしていつかは、お義姉様達のようなご夫婦になるんだ!!」

「うざいです」

『ばっさり言ったーーーー!?』

 皆さんの絶叫に等しい感想が響き渡りますが、このやり取りが一度目なら私も聞き入っていたことでしょう。ですが、お姉様のこの言葉は樟夏お義兄様と婚約してから何度も聞かされており、正直耳に胼胝(タコ)が出来そうです。

 というかもう、キレていいですよね?

 

 

 

「袁紹軍、来たぞーーー!」

 

「今、取り込み中だ! すっこんでろ!!」

「あっ、すみません」

 怒りに任せて叫んだ私に、扉を開いた宝譿さんが反射的に謝罪し、扉を閉めました。なので私は引き続き、私の前に並んだ五名に説教をしようと腰に手を当て直すと・・・

「じゃねーだろ?!

 袁紹軍来たんだよ、大事(おおごと)だろうが!!」

「そんなことより、この馬鹿共の説教が先だ!!」

「そんなことじゃねーだろ?! つーか、赤根嬢ちゃんキャラ違くね?!

 だけど、予定通り逃げねーと・・・」

「ちっ、しゃーねーな。

 説教はまた今度だ」

 苦々しく舌打ちをしながら、私の言葉に皆さんが立ち上がっていく。そして、宝譿さんへと振り返った皆さんの後ろに立って、いつものように告げました。

「さぁ、お姉様。

 幽州太守として、最後の号令を」

 私の言葉にお姉様が頷き、室内に居ながらに幽州全土に響くように叫ぶ。

 

「愛すべき郷里よ! 我が守るべき幽州よ!! どうか私を恨んでくれ!!!

 この地を捨て去ることを! 見捨てることを!

 足掻くこともなく背を向ける、この無力な太守である私をどうか憎んでくれ!!」

 後ろから見ている私にはわからない。

 今のお姉様の表情も、想いも、この場にいる私達()では欠片も理解することは出来ない。

「そしていつか、再びこの地を私が踏んだ時、その恨みと憎しみの全てを、私の生涯を懸けて償おう!!

 今日、この戦ともいえぬことで失った全てを、何十年という時間をかけて再びこの地に築き、数百年という時間をかけて私の子が守ろう!」

 数百年という先すらもこの土地に縛られることを、幽州を守るという誓いを、一時代の太守でしかない存在が口にする。それがどれだけ愚かな行為かなんて、子どもにだってわかる。

 けれど、その誓いを嗤う者はここには一人もいない。

「将・兵・民、一切の身分の貴賤なく、私は命を粗末にすることを許さない!! 皆、根にかじりついてでも生き残れ!

 私達はこれより、幽州から離脱する!」

 その号令の元、私達はただ静かに走り出した。

 




次も本編を予定しています。
正月番外は書きたいですが、基本は本編優先で行きます。

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