真・恋姫✝無双 魏国 再臨   作:無月

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書けましたー。

冬雲の視点だと展開が急すぎるのでワンクッション。



 陳留 会議 【舞蓮視点】

「追い出されちゃったわねー」

 会議が始まることもあって二人揃って部屋から出され、紫苑と共に娘である璃々ちゃんを寝かせるために別室に移動した。

 まぁ、私は別に普通に出歩いてもいいんだけど、紫苑が娘ちゃんを放ってどこかうろつくとかありえないから、その部屋でゆっくりお茶をすることにした。

「当然ですよ、先輩。

 先輩の事情はよくわかりませんけど、私達は軍議には無関係なんですから」

「無関係ってことはないんじゃない?

 だって私達の旦那になる男の生死がかかってくるわけなんだし、私達だって一応武人って言われる部類の人間なんだから」

「私はもう元ですよ。

 それに・・・ 曹操様を始め、あの場にいた方々が旦那様を自ら危険な場へと向かわせるとはとても思えません」

「冬雲のこと、わかってないわね~」

 あの娘達が望んでなくても、やらなきゃいけないことを前にした冬雲は自分で危険な場所へと突き進んでいく。

 それで助けられた私が言っちゃいけないし、紫苑もそのうち気づくでしょうから教えてあげないけど。

「えぇ、先輩。

 私はまだ、何も知らないんです」

 自慢のような私の言葉に対して、紫苑は意外なことに何故か嬉しそうに微笑んだ。

「定められた結婚をして、一足飛びで愛を知った私は恋を知りません。

 だから、知ることの叶わなかった恋を私は旦那様に過ごすことで知っていきたいんです」

「・・・それ、宣戦布告?」

 さらりと決定的なことを言い放つ紫苑に私がお茶菓子を摘みつつ問いかければ、紫苑は微笑んだまま首を振って否定した。

「宣戦布告なんて・・・ 旦那様は旦那様ですから」

「ふふふ、紫苑は変わらないわね。

 もう冬雲を自分の物にしている辺り、流石だわ」

 得物にしている弓と同じで見た目は綺麗で、細く儚げ。とても危なそうには見えないのに、実はしなやかでとんでもない力を持ってまっすぐ進んでいく。

「いえいえ、さらに磨きのかかっている先輩ほどではありません」

 ほら、こういう言葉の容赦のなさとかも、相手の急所を狙ってくる矢みたいじゃない?

「褒められるようなことじゃないわよー。

 ただ好きなように生きて、導かれるようにしてここに辿り着いて、あなたと同じように冬雲に惹かれちゃっただ・け」

 私のしてることなんて大抵は誰かがやってることだし、死んだと思った人間が実は生きてることなんて結構あることよ。多分。

「先輩にとってはそれだけでも死んだと思った人間が目の前に現れれば驚きもします! それに褒めてませんから!!」

「しっー、あんまり大きな声を出すと娘ちゃんが起きちゃうわよ? 紫苑」

「誰のせいで・・・っ!」

 声を荒げて立ち上がった紫苑に寝台の上で眠る娘ちゃんを指差しつつ言えば、紫苑はどうにか席につき、笑顔を貼り付けて私に顔を近づける。

「その辺りもしっかり説明してくださるんですよね? 先輩?」

「えー・・・

 説明するの面倒だし、言いふらしたらまずい内y・・・」

「何度も言いますが私はもう引退した身ですし、この街から出る気もありません。

 それに先輩にだって娘さんが三人いらっしゃった筈ですよね? その子達はどうしたんですか?」

 あー・・・ 説明だけじゃなくて、詳細話した後のことも考えると尚更面倒になってきたわね・・・

 この子、浅葱ほどじゃないけど子どもに対して結構過保護だし。

「ちょっと一度に質問しすぎよ?

 そんなにせかしたって私の口は一つしかないし、いっぺんには答えらないわよ」

「では、質問を絞りましょうか。先輩。

 まず、どうしてここに居るかを答えてください」

 わー、私が話の主導権を持とうとしたのに紫苑が主導権を握って離さないんだけど。まぁ、質問されてる側の私が主導権握るっていうのも無茶よねー。

「前の旦那関連のことで洛陽に探りいれてたら、暗殺集団に殺されかけちゃった」

「何やってるんですか!?

 浅葱先輩もそうですけど、先輩方は自分達が左遷された自覚を持ってください!!」

 頭を叩きながらおどけて見せれば紫苑が私に掴みかからん勢いで迫り、小さくも迫力のある声で私を怒ってくる。

「きゃー、こわーい」

 私達三人が揃って洛陽にいた時もこんな感じだったのよねー。

 浅葱と私が喧嘩して、後輩である紫苑がそれを追っかけてくる。たまに紫苑に怒られたり、止められたり、諭されたりされたのは今となっては良い思い出だわ。

「で、そのか弱い私が殺されそうになった時、颯爽と冬雲が現れたのよ」

「『江東の虎』なんて呼び名がついてる女傑の、どこがか弱いんですか?」

曲張(弓の神様)なんて呼ばれてる紫苑には言われたくないわよ」

 私も浅葱も神様になんて例えられてないし、そこまで有名じゃないもの。ていうか、私のことを虎なんて呼びだしたのも誰かわからないことを考えると、案外中央が虎狩りを行うためにつけた名称だったのかしら?

「・・・それで好きになってしまったんですか?」

「あら? あなたらしくないわよ、紫苑。話が逸れたわ。でも、答えてあげる。

 出会う前から興味を持ってた男が、自分の身分を隠してまで私を助けに来てくれたのよ? これで惚れないなんて、女としてあり得ないでしょ?」

 彼に仕える者(司馬懿ちゃん)に覚悟を見せつけられて、子にも等しい将を守られて、自分の命を守られた。

 なら私は、噛みついてでも離さない。

「だから、中央が潰れた今も帰らないんですか」

 あらあら、向こうの方にいたから情報は疎いと思ってたけど、一緒に戻ってきたことを考えると誰か・・・ 鳳統ちゃんとかに話でも聞いたのかしら?

「そうよー。

 それに娘達も自分の好きな道を選んで歩いていくんだし、その道の中央に私が居ても邪魔でしかないもの」

「ですが、それは・・・」

「わかってるわよ、無責任なんてことは」

 紫苑が次に言わんとしたことを察して、私は言葉を遮る。

 母親としての義務とか、人として無責任とか、浅葱にも散々言われたことだもの。

「でも、浅葱みたいに何でもかんでもつきっきりで教えるのは私には向いてないのよ。

 あの子達の道はあの子達が作っていくものだし、そこに私が敷いた道なんていらない。そうあることを望む娘もいるかもしれないけど、人に作られた道なんてきっといつか限界が来るわ」

 道の最期に『孫堅()』という壁がいて、その壁を超えることが出来ないまま立ち尽くすなんてことはあっちゃいけない。

 なら私は、最初から道なんて作らずに荒野へとあの子達を投げ出すことを選ぶ。

「それでも扱いが雑すぎます。

 現に今、乱世の中で海の方は荒れているじゃないですか。心配じゃないんですか?」

「そりゃ、心配してるわよ。

 だけど、あっちの袁家はいろいろと訳ありだから、あんまり心配してないのよねー」

 流石に美羽のことまで紫苑に教える必要はないから適当にぼかしつつ、私はお茶を手に取って口をつける。

「いろいろ、ですか・・・」

「うふふ、名家には付き物の黒ーい話。

 真っ黒よねー、戦いをしないで内側に籠る系の官僚は」

 全部欲しくなるのは人の性だけど、自分の手を汚さずに欲する者より厄介なのはいないわよねぇ。

「で、他に何かある?」

 私の問いかけに対して、紫苑はお茶を口にした後深い溜息を零した。

「娘さん、苦労しますね・・・」

「いろいろ聞いておいて、それが感想ってどうなのよ。紫苑」

 すぐさま突っ込みをいれると紫苑は頭痛を堪えるみたいに頭を押さえて、また溜息を零す。なんでよ。

「何よー、浅葱の教育方針だって似たり寄ったりじゃない」

 そもそも作った道を行く大前提が、自分を越えるってなんなのよ。それこそ不可能だっつうのよ。

「先輩方の教育論は極論から極論に飛びすぎなんですよ・・・」

「あっ、それは自覚してるわよ。

 でも、中途半端とか、ほどほどっていう答えが私達には出せなかったの。良くも悪くも私と浅葱は加減を知らないのよねぇ」

 私も浅葱もそれを悪いとは思ってないのが一番の問題点だってことはわかってる。

 だけど、私達の理想と娘達の理想なんて遠からずしてぶつかりあうものだし、それが早いか遅いかの違いでしかない。私の場合は最初からぶつかって、浅葱が少し遅いだけ。

「加減をされないで振り回される子達の気持ちに・・・ なんて、私も先輩方のことを言えないでしょうけど」

 寝台の上で眠る娘ちゃんを見ながら、紫苑は複雑そうな表情をする。だけど、紫苑の繊細な感情を察してあげるほど、私は繊細に出来てないのよね。

「紫苑」

 私の道は私の物。それは子どもがいたって、変わらない。

「後悔なんてするだけ無駄よ。

 してる時点で、もうそれはどうしようも出来ないんだから」

 後から悔やむのが後悔なら、もうそれは今となってはどうすることも出来ない。

 どうしようも出来ないなら、考えてるだけ時間の無駄。何かの機会にまとめて捨てて、二度と振り返らないと決断するしかない。

「その子が大きくなった時、何か言われても開き直れるぐらい素敵な時間を送ることを考えなさいよ。

 あんたも、その子もまとめて幸せになって、楽しい時間を送ることだけをね」

 ううん、違うわね。

「あんたと私が惚れた男は、一度背負うって決めたものを幸せにすることばっかり考えてる大馬鹿者なんだから」

 冬雲のことを大馬鹿者って言った私に紫苑は目を丸くし、私も紫苑のそんな表情が新鮮だったものだからいろいろな話をしていく。冬雲が作った行事や料理、この陳留という街で起こった楽しいことの数々を。

 

 

 

「舞蓮、紫苑殿、入るぞ?」

「あら? 会議が終わるの早くない?」

 扉の向こうからかけられた冬雲の言葉に私と紫苑がほぼ同時に顔をあげて、お昼寝から起きて紫苑の膝に乗っていた娘ちゃんが誰よりも早く扉へと駆け出して行く。

「お兄ちゃん!」

「おはよう、璃々ちゃん」

 走ってきた娘ちゃんを受け止めてすぐに抱き上げるとか、さっきもちょっと見てて思ったけど冬雲って子どもの扱い慣れてるわよねー。

「随分楽しそうだったけど、二人で何の話をしてたんだ?」

「ちょっと昔話とか、最近の話とか、冬雲がこの街でしてる楽しい話とかいろいろねー」

「そっか。

 旧友との楽しい時間が過ごせたならよかった」

 紫苑へと娘ちゃんを手渡しつつ、冬雲は軽く部屋を見渡す。

「紫苑殿、住居の件は鳳統があとで来るのでその時に。

 暮らしやその他のことは鳳統と一緒に来ることになってる楽進と李典、于禁の三人に聞いてくれ」

「ありがとうございます」

「本当は俺が出来ればいいんだろうけど、俺はまた陳留を留守にするから何かあったら賈詡殿や荀攸を頼ってくれ」

 紫苑にあれこれ言いつつ、部屋に足りないものを書いてるのか、書簡と矢立を手に何かを忙しなく書きこんでいってる。

 本当に忙しい人よねー、冬雲って。

「勿論、私も連れていってくれるわよね? 冬雲」

「舞蓮、頼むから勘弁してくれ・・・」

 私の無茶振りに冬雲は予想通りの困り顔を見せてくれるもんだから、私は満足して笑うと影から白陽ちゃんが出てきて凄い目で睨んでくる。きゃー、こわーい。

「で? 次はどこで女をひっかけてくるのよ?

 紫苑の次はどんな美少女・美女を連れて帰ってくるのか、私すんごい楽しみにしてるの」

「・・・・・」

「貴様が言うか、発情虎」

 冗談で言ったのに冬雲が苦い顔してるのはなんでかしらねー? まさかの図星?

 ていうか、司馬懿ちゃんの私の扱いがどんどん粗雑になっていくわよねー。

「無事に帰ってくるなら、それでいいけどね」

 冬雲の肩を叩きながら扉へと向かって、一つやりたいことがあったことを思い出して振り返る。

「あ、そーだ。冬雲。

 この間の私の企画書、見てくれた?」

「あぁ、あの件か・・・

 警邏隊との話し合いも必要だし、作るとしたら今度から俺より先に華琳に話を持ちかけてくれよ・・・ 俺、別に街の企画案とかの専門じゃないからな?」

「違ったっけ?」

 まっ、そうよねー。

 街のことだし、軍とはまた違った意味で力を持つ集団作っちゃうわけだから、華琳に話を持ちかけた方がよかったのかもしれないけど。

「私が言うより、冬雲の方が確実でしょ?

 で、結果はどうだったの?」

「この期日内に、近隣の荒くれ共をまとめることが条件だとさ。

 使いそうな道具の案は俺から真桜に渡しとくから、後は自分で真桜と冬桜隊に話をつけてくれ」

「はーい」

 冬雲から投げられた書簡を受け取りつつ歩き出すと、私はもう一つ忘れたと思って振り返る。振り返った先では、紫苑が冬雲に深く頭を下げているところだった。

「お早いお帰りをお待ちしています。旦那様」

・・・なーんか、面白くなーいわよね。後輩に出し抜かれてばっかりなんて。

「冬雲!」

「ん?」

 冬雲の体を目指して真っ直ぐに飛びかかりながら、その顔を近づける。勿論、司馬懿ちゃんも紫苑も私を警戒するけど、そんなことは気にしない。けどこれは、二人が考えてるだろう口づけをするためなんかじゃない。

 だって私、着地に必要な手も足も伸ばしきってるから♪

「ちょっ、舞蓮! 危ないだろうが!!」

 当たり前のように私を受け止めて、叱ってくれる。そんな当たり前が嬉しくて、顔のにやけが収まらない。

「ふふっ、その危ない目にあったおかげで冬雲の腕の中を奪うことが出来たのよ? 安いもんじゃない」

 紫苑、恋って凄いわよ?

 こんなことで、こんな些細なことで幸せになれる。そしてもっと・・・

「さっさと終わらせて帰ってきたら、私と晩酌でもしましょうよ」

 幸せになりたいって、強欲になるのよ。

 




次も本編書きたいですが、番外も書きたい。でも忙しい・・・
週一投稿は守りたいと思います。

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