もう一話はこの後、すぐに投稿します。
あの後、白蓮殿や風達の今後について話し合いも無事終わり、俺には休みという命令が下された。
皆曰く『命令って形じゃないと
「でも、休みなんて性にあわないんだけどな・・・」
皆が忙しい中で休むとか、じっとしてるなんて逆に落ち着かない。
「・・・どうしたもんかな」
そう言いながらも俺の思考の中はこの暇をどう使えば皆のためになるのか、どう動けばいいのかばかりを考えていく。これはもう病気なんだろうが仕方がないし、掛かったことに後悔もない。
「白よ・・・ は今日は休みなんだっけ・・・」
俺同様に白陽も休みをもらったのだが、『近くに
「そう言えば、
同一人物だと明かした時の皆の表情は凄かった。
樹枝は正気を疑うし、樟夏は『兄者は別段、男好きではないでしょう?』なんて言うし、雛里は何故か怒りだした。
何か北郷って、こっちだと評判悪いんだよなぁ。
俺からしてみれば、当時の俺なんかよりずっと出来てると思うんだけど。来たばっかの何も知らなかった俺が君主をやれって言われて、出来たなんて思えないし。
「もう一人の北郷一刀がいても、俺は俺か・・・
そう言えば、あっちはどうするもりなんだろうな」
現状から見ても、彼らが袁紹軍に攻められることはまず確実だろう。それは前と変わらない。
だが、それはつまり多くの民を引き連れ、その背中に追ってくる袁紹軍をも引き付け、俺達に向かってくるということだ。加えて言うならば、かつてと同じということはその後も繰り返される恐れがある。
「逃げてきて対価も無しで通った挙句、袁紹軍との戦の後の対処に回る皆の留守を狙って攻めて来た時は本当に・・・」
俺はあの時を思い出して頭を抱え、当時は劉備殿のやっていることがよくわからなかった。華琳は感心していたけど、戻ってきた皆は怒り心頭だったからなぁ。まぁ、あの後すぐに俺も体調悪くなったりして怒りを露わにする暇もなかったし、戦ってそういうものだってわかるけど・・・ あー、でも秋蘭達の奇襲もあったんだよなぁ。あの時ほど、彼女の理想に疑問を持ったことはなかった。
でも改めて考えてみると、凪達がいまだに別人とはいえ劉備殿達を憎むのも仕方ないのかもしれない。かつて起こってしまった時と近しい状況に近づいて、気が立っているのだろう。
だからこそ、彼らのこれからの行動にかかってくるんだよなぁ。
「史実に近いようで遠いここで、北郷は何を選ぶのかな・・・
・・・ん? 史実?」
そう言えば華琳の両親って、どうしてるんだろう?
史実において父である
「しかし、父親か。樟夏からも話題に出たことがないんだよな。
舞蓮の例もあるし、まず華琳にでも聞いてみるか」
華琳の両親っていうことは俺の家族にもなるわけだし、居るんだったらちゃんと挨拶しないとな。
「ちょっといいかな」
そう言ってお茶を持ちながらいつものように執務室へと入れば、華琳の鋭い視線が俺を射ぬいた。
「休めと言ったでしょう」
絶対零度の言葉が発せられるが、これぐらいで引き返したら華琳の将はやっていられない。
「休みはとるよ。
ただせっかくの休みだから・・・」
「仕事はなしよ」
俺のこれまでの行動が言わせる言葉なのだが、二の句を告げることを許さない華琳は厳しい。
「仕事じゃないって!」
「へー」
「その疑わしい視線もやめてほしいけど、本当に仕事じゃないんだってば!」
「いいわ、そこまで言うなら発言を許しましょう」
ようやく許しを得て、俺は執務室にいる人達にお茶を配ってから華琳の近くにさりげなくよっていく。
「それで何をする気かしら?」
顔には『どうせ、仕事のことでしょう?』と書かれてるーーー?!
「いや、せっかくの休みだし、華琳のご両親に挨拶をしに行こうかと思って・・・」
「ぶふっ!
ごほっ、ごほっ・・・ なん、ですって・・・?」
俺の突然の言葉に華琳が茶を噴きだし、慌てて布巾を取る。
「何って、もう婚約を発表しても問題ないだろう?
まぁ、二人揃ってでもいいんだけど、俺達の仕事的にそれは難しいから、とりあえずご両親にだけでも伝えておこうかと思って」
華琳の顔は青くなったり赤くなったりを繰り返しながら、最終的に俺の正気を疑うような顔になった。何故だ。
「そう・・・ それなら必要ないわ」
「必要ないって・・・」
「私の母は、すでに亡くなっているわ。
母はこの街をよく見える丘に弔われ、墓もそこに立てられたのよ」
華琳の言葉に場所の見当がつき、警備などで行き来する際において献花の絶えない場所だったことを覚えている。
「あそこだったのか・・・」
「そういうことだから、挨拶は必要ないわ」
「じゃぁ、父親は?」
舞蓮みたいに女性である可能性も高いからあえて曹嵩の名を口にせず、俺はあからさまに避けられた父親について問うた。
「ちちおや?」
が、口にした瞬間、華琳は冷たい殺気を放ち、これまで見たこともないような般若の形相を露わにした。
こわっ?!
「私に父親なんて、もういないわ」
「え? でも、亡くなったのは母親の方じゃ・・・」
さっきまでの会話を思い出しながら、質問をさらに投げかければ華琳は執務机を強く叩いた。
「私には曹嵩という名の父も、かつて立派に領主を務めていた存在も、もういないのよ!!」
「か、華琳! どうしたんだ?!
一体、曹嵩さんとの間に何があったんだ?!」
「何があった? 何もなかったわよ?
間には、何もなかったわ」
言葉の中に含んだ謎を理解出来ず、俺の頭の中には疑問だけが積み上げられる。
「とにかく、曹嵩について私から話すことは何もないわ。
話題に出すことも避けて頂戴」
「いやでも挨拶・・・」
「しなくていい!!」
ここまでむきになる華琳なんて珍しいなと思いながら、さらに問いかけようとする俺にそれよりも早く華琳は手を打つ。
「私は仕事に戻るから、あなたも任務である休みを謳歌しなさい!」
「でも・・・」
「駆け足!」
「あ・・ あぁ!」
華琳によって執務室を追い出され、少し離れた後とりあえず疑問を一つ吐きだした。
「でも、あれって嫌いってカンジではなかったんだよな。
華琳って嫌いな奴に対しては物を見るような、無機質な感じになるし」
さっきのまるで癇癪を起こした子どもみたいで
「可愛かったなぁ」
「誰がだ?」
「あぁ、勿論華琳だけど」
突然かけられた声に当たり前のことを言いながら、振り向くとそこには秋蘭と春蘭が向かってきていた。
「馬鹿な。
可愛いはむしろ姉者の方だろう?」
「いや、なんでだ。秋蘭」
「確かに春蘭は可愛いよな」
「ぬ、ぬぅ・・・」
だから、そう言う風に照れるのが可愛いんだってば。
と思いながら、同じことを思っているだろう秋蘭へと視線を向ければ、無言で頷かれる。
「それで、休みだというのにお前はどうして執務室の廊下に居るんだ? 冬雲」
「いや、せっかくの休みだから華琳のご両親に挨拶に行こうと思って、華琳にご両親の話を聞きに行ったら追い出されちゃってな」
秋蘭の問いかけに答えれば、何故か二人もそろって顔を硬直させた。
「ご、ご両親・・・ か。
ほ、
「となると、
それが華琳のご両親の真名なのかと思いながらも、何故か言葉にした秋蘭の顔は引き攣り、春蘭は冷や汗を流していた。
華琳に続いてこの二人がこんな表情をするなんて、何があったんだろう?
「だ・・・ だが、役職を退いた曹嵩様には御挨拶なんて必要ないんじゃないかなー?」
「あぁ、そうだ! 姉者の言う通りだ!
隠居され、一般人となったあの方の元に将軍が行くのはよくないだろう!」
「いや、でも華琳と樟夏の父親なんだから、挨拶に行かないと。
二人も何か知っているなら、教えてくれないか?」
どこか気まずそうな二人の言葉に俺は首を振り、さらに情報を聞こうとすれば何故か二人は遠い目をした。
「父かぁー・・・」
「父、だったな・・・」
「父
さらに追及しようとする俺の言葉を遮るように春蘭が叫ぶ。
「おーっと、この後月と一緒に熊狩りに行く予定だったんだーーー!!
なぁ、秋蘭!」
「あぁ、そうだとも!
熟成した頃には美味しい熊鍋が食べれるぞぉ! 何もしない舞蓮がたくさん作ってくれることだろう!」
「いやちょっ・・・ 二人ともまっ・・・」
「さらばだ!」
「またな!」
二人は嵐のように走り去って行き、全速力で駆けていく二人の姿はもう背中も見えなくなっていた。
「誤魔化された・・・?」
しかし、華琳もそうだったけど、二人の反応もなんか変だったなぁ。
俺は誰かに聞くのを一度諦め、書物庫で一度曹嵩さんについて調べることにし、足を向けた。
「あっ、桂花」
「アンタ、また仕事・・・」
書物庫の中には踏み台を手にした桂花がいて、華琳と似たような表情をされた。
なので、とりあえずその手にある持っていくだろう資料の書かれた物を奪い、有無を言わさず作業を手伝っていく。
「いや、仕事じゃなくて・・・ 曹嵩様について調べようと思って」
「曹嵩様って、華琳様の御父上の?」
作業を手伝う俺に何かを言うことは既に諦めたのか、互いに声を届く範囲で作業を続けていく。
「前は確か、アンタが来る前に賊に襲われて死んだんじゃなかったかしら?」
「あー、前はそうだったのか」
「というか、今もそうじゃないの?」
桂花すら認識がその程度ということを考えると、やっぱり両親に関して華琳は誰にも語っていないのか。
「ここに来る前に華琳と春蘭達にも聞いてみたんだけど、華琳は怒りだすし、二人はなんだか気まずそうに言葉を濁すだけで死んだとは明言してないんだよ。
だから、残された資料とかからどんな人かわからないかなと思ってさ」
「ふぅん、確かにその反応は気になるわね。
本当に華琳様が特定の個人を毛嫌いしているのなら怒るなんてことはしないと思うけど。それにあの
「だよなぁ・・・」
いくつかの資料を捲っても、個人の情報があるようなものには当たらず、溜息が零れる。個人の書でもなければ、そこまで個人的なことが書かれないから無理はないんだろうが。
「そうね・・・
なら、古参の将にでもあたったら?」
「華琳と春蘭達の同期となると、あとは樟夏と黒陽ぐらいか?」
「アンタの副官もでしょ。
大体、あの色惚け新婚共は二人揃って遠出してるわよ」
色惚け新婚共って・・・ まぁ、わかりやすいし、その通りだけど。
「牛金ってそんなに古いのか?
俺が来る前からいるのは知ってるけど、曹嵩様の現役の頃から働いてるのか」
「詳しくは知らないけど、相当長いみたいよ。
華琳様があいつの真名を呼んでる所を聞いたことがあるぐらいだしね」
俺ですら知らないことを教えられ少し驚くが、次の情報は間違いなく得やすくなった。
「そっか。
ありがとう、桂花」
会話をしながらも、書物庫の中で桂花とこうして二人っきりになるのは久しぶりだなと思うとなんだか心は温かくなった。
「何、にやけてんのよ。この馬鹿」
「いや、やっぱり何気ない日々が宝物だなって再確認してるんだよ」
馬鹿と言ってるにも拘らず、桂花もどこか嬉しそうに見えるのは俺の気のせいなんかじゃないだろう。
桂花の資料探しが終わるまで付き合い、俺は書物庫を後にした。
「あれ? 隊長。
今日は休みなんじゃ・・・ 働くのはなしですよ?」
訓練所について早々に華琳と桂花に言われたことを一般兵にすら言われ、ややげんなりしつつ本題をくりだした。
「お前達までそういうのか・・・
牛金はいるか?」
「はい、今日は樹枝様とも遭遇していないのでまともですよ。
あっちにいます」
あいつの認識も
示されるがまま、その方向を見れば鍛錬の指示を出す雄々しい牛金の姿があった。
樹枝がいなければ頼りがいのある漢ってカンジなんだけど、樹枝といるといろいろとぶっ飛ぶんだよなぁ。
「
「あっ、隊長。
今日は非番ですよ!」
「それはもういい!」
耳に
「だったら、どうしたんですかい?
樹枝ちゃんとの関係は順調ですよ、お義兄さん」
「えーっと、まぁそれは樹枝の心も大切にな?」
「勿論ですぜ!」
まぁ、悪い人間じゃないからいいか。樹枝も自分で何とかするだろうし。
「それはともかくとして、薇猩は曹嵩様について何か知らないか?」
「え?
何であの人のことを?」
「いや、なんでってその・・・ 華琳のご両親だから挨拶をしなきゃと思ってな」
「あー・・・ 自分もそろそろ考えないといけないっすかねぇ。
なんせあの荀家ですし、でも俺は農民あがりにすぎないっすからどうしたもんかと・・・」
当然の問いなので俺も隠すことなく答えると、樹枝にとっては洒落ならない発言が飛び出ていた。
「その相談は今度聞くけど、秋蘭達と同じくらい古株の薇猩なら何か知ってるかと思ってな」
「いやまぁ、確かに華琳様達が幼い頃から曹家に仕えさせてもらってますけど」
「じゃぁ、身分的に曹嵩様のことは知らないか・・・」
「何言ってんすか、隊長もこの間会ったじゃないですか」
「え?」
思わぬ発言に驚き、俺が視線でその先を促せば薇猩は言葉を続けていく。
「あの方は一線を退いた後はかつての屋敷を身寄りのない子ども達に開放して、一緒に住んでるんすよ」
へぇ、篤志家なのか。にしても、孤児院みたいなことを既にやってる人がいるなんてな。
そう言えば実家があるなんて、華琳達の口からは聞いたことがないなぁ。将の皆は城や宿舎に寝泊まりしてるから必要ないと言えばないし、仕事のことを考えればその方が楽だけど。
「だから、街に行けば屋敷があるんで、そっちに行けばいると思いますよ。
あっ、でも・・・ 今日はいない日か」
屋敷に行くことを促されかけたが、その言葉は途中で止まった。
「うん、なんでだ?」
「だって今日はや・・・・ 樹枝ちゃん!」
何かを言いかけ、それは何故か義弟の名に変わった。
「えっ? 樹枝なんてどこにも・・・」
周囲を軽く見渡しても樹枝の姿は見当たらないが、薇猩には何かが聞こえたらしい。
「俺にはわかるんです! 樹枝ちゃんが俺を求めていると・・・
待っててね! 樹枝ちゃん!! では隊長、失礼!」
そう言うが早いか、薇猩は飛び出していく。
「いや、最後まで話していけって・・・ もう居ないか」
まぁ、最後まで聞かなくても屋敷があることは聞いたんだし、この後はあそこに寄ってから屋敷を尋ねてみるかな。
街の中を歩いていったのもあり、途中凪や千重達と交流しながら、花束を抱えて華琳の言っていた墓へと足を運ぶ。
いくつかある花束の中に買ってきた花を捧げ、俺は墓前で静かに手を合わせた。
背後から誰かの気配がしたが、俺以外の誰がいてもおかしくないのだから特に気にかけはしなかった
「何を思って、手を合わせているのかしら?」
隣の人からかけられた言葉に、俺は考える。
伝えなければいけないことはたくさんある。けど、俺がまず華琳の母親である方に伝えたいと思ったことは・・・
「
「あら」
隣に並んだ人へと視線を向ければ、そこには風呂敷を背負ったやや細目の金髪の女性が立っていた。
この人、どこかで見たことがあるような気がする。街で見かけでもしたかな?
「それは喜んでいるでしょうね」
微笑む顔も誰かに似てる気がするけど、気のせいか?
「では、俺は向かう所があるのでこれで」
一礼し、俺はとりあえず屋敷に向かおうとしたが、女性に声をかけられて立ち止まる。
「申し訳ないのだけど、城まで案内してくださるかしら?
知り合いが城で働いていて、渡したい物があるの」
「でしたら、まずそちらの用事を済ませましょうか。
それに俺の用事は、もしかしたら今日は済ますことが出来ないかもしれないので」
今日はいない日とか牛金も言ってたし、また日を改めて尋ねればいいか。
「お知り合いの名前を聞いても?」
「えぇ、曹操ちゃんと曹洪ちゃんなのだけど」
名前に上がったのは想定外の二人だったが、墓にも手を合わせてるし、なんだか似てるから親戚関係かな?
「では、向かいましょうか」
そう言って、俺と女性は城に向かった。