それではどうぞ。
聖杯の座標に向かってシャドウサーヴァントに隠れながら突き進む悠馬たち。
現在は大橋の下で身を隠していた。
「さすがに隠れながらってのはキツいな。
Dr.ロマン、あとどれくらいなんだ?」
『この大橋を渡ったら大きな洞窟があるはずだ。
そこを通り抜ければその座標にたどり着くよ』
「わかった。
要はあと少しってところだな」
Dr.ロマンとの通信を終えて、所長がおずおずと話かけてくる。
「あなた、こんな状況でよく平然としていられるわね?
とても一般人で採用したマスター候補とは思えないわよ」
「すみませんが、その辺りは俺でも不思議に思ってるんですよ。
こんな、生存者がいるかどうかもわからない街で、それも敵に狙われてるのにどうして落ち着いていられるのかって」
悠馬は頭を掻きながら答える。
本当に自分でも不思議で仕方ないのだ。
元はただの一般人の自分が、普通なら誰もがパニックになってもおかしくないこの状況で平気でいられることが。
まるで、前にもこんなことがあったと言わんばかりに。
だが、それでも前を向いて進む他、今の状況はどうにもならない。
だから悠馬は今の状況に集中しようとした。
その時だった。
「見つけたぞ!」
「全く、手間掛けさせおって!」
2体のシャドウサーヴァントが悠馬たちを囲んだのだ。
片方は薙刀を、もう片方は短刀をそれぞれ構え、獲物を皆殺しにすると言わんばかりに退路を防ぐ。
「先輩!」
「囲まれちゃったじゃない!」
まさかすぐに囲まれるとは思わなかったのか、悠馬は苦虫を噛み潰した様子で左右を見回した。
「やるしかないのか。
マシュ、フォウさんを所長に預けて2体の相手を頼む!
所長はフォウさんを連れて隠れてください!」
「了解です!」
「わかったわ!
ほら、早くこっちに来なさい!」
所長がフォウを連れて瓦礫の中に隠れるのを確認したマシュは盾を構える。
「まずは貴様からだ、サーヴァント擬きの小娘!」
「貴様のようなノロマに、我らの動きが捉えられるものか!」
「くっ!」
2体のシャドウサーヴァントはマシュに猛威を震う。
マシュは攻撃に入ろうとするが目にも止まらないスピードで2体はマシュを翻弄するため中々攻撃に入れず、盾で防ぐことしかできない。
それでもマシュは盾の隙間から相手の情報を得ようを様子を伺っていた。
だが、相手はそんな余裕を与えないよう、盾を弾き飛ばそうと強い衝撃で盾に攻撃を繰り出し、盾で防がれていない体を切りつけじわじわとダメージを与えている。
「ふはははは!
我らを前に手も足も出せないようだな!」
「所詮はただの小娘、我らに掛かれば赤子の手を捻るよりも楽な作業よ!」
「ぐっ!
せ、先輩!」
「大丈夫か、マシュ!
くっ、何とかならないのか!」
「先輩、この二人はそれぞれランサーとアサシンのクラスだと思われます!」
「なっ!?」
「小娘の分際で!!」
シャドウサーヴァントはあれだけ攻撃を食らわせてぼろぼろなのに自分たちのクラスを看破され驚く。
2体とも黒い靄に覆われているが武器やその戦い方を見て看破したのだろう。
「小癪な!」
「くっ!」
「マシュ!」
「おっと、マスターもがら空きだな!」
「ぐあっ!」
ランサーは盾の隙間を縫うようにマシュを蹴り上げ、悠馬の後ろをアサシンが気づかれないように近寄り組み伏せ、悠馬の首筋にナイフを突きつけた。
「さあ愚かなマスターよ、貴様のサーヴァントが惨たらしく絶命するさまを大人しく見ているがいい」
「ぐっ、マシュ!
所長たちを連れて早く逃げろ!」
「でも、そんなことをしたら先輩がうっ!?」
「マスターよりも自分を優先してはどうだ?
最も、今ここで我が薙刀の前で切り捨てられるが」
ランサーが起き上がろうとしたマシュの体を踏みつけ薙刀の刃先を向ける。
「やめろ!
こいつ、放せよ!」
「うるさい小僧だ。
ランサー、そこな小娘を早めに始末しろ」
「ふん、御意」
ランサーは薙刀を振り上げそのままマシュの頭部を突き刺そうとまっすぐ振り下ろす。
「マシュゥゥ!!」
悠馬の叫び声が木霊する。
マシュの頭部に薙刀が突き立つほんの数ミリ。
「アンサズ!」
どこからか呪文と共に炎の玉が二発、ランサーとアサシン目掛けて飛来した。
「ぐはっ!?」
「ぬうぅ!!?」
二体は衝撃に耐えれず距離を離され、マシュと悠馬は自由になった。
「何だ、今のは?」
悠馬は炎の玉が飛来した方向を見る。
そこには何かの文字が描かれた杖を持つ青いフードを被った青髪の男が立っていた。
「随分と卑劣なことしてくれんじゃねえか」
男は悠馬に近づく。
だがその眼は怒りに満ちていてそのまなざしをランサーとアサシンに向けていた。
「何者だ貴様!」
「けっ、誰がてめぇらみてぇな連中に教えてやっかよ。
狂ったサーヴァントの分際でよ」
「なんだと!」
「貴様ぁ!」
怒りを覚えるランサーとアサシンをよそに、男は悠馬に話しかける。
「おい坊主、まだ立てるな?
今はまだ真名は言えねえが俺はキャスターのサーヴァントだ。
お前とそこの嬢ちゃんに加勢するぜ」
「・・・わかった。
じゃああのアサシンを頼む」
「おう!
じゃあランサーの相手が嬢ちゃんってことか!」
「あぁ、マシュ頼めるか?」
「大丈夫です!
ここから反撃と行きましょ、先輩!」
マシュはヨロヨロとぼろぼろの体を盾で支えながら立ち上がり鼓舞するかのように叫びながら返事する。
「行くぞ!
マシュ、相手は速い、なら動きを見て隙を突け!
キャスター、近づけさせないように攻撃を!」
「了解です!」
「あぁ!」
悠馬の指示を受けたマシュとキャスターは戦闘態勢に入りそれぞれの相手に集中する。
アサシンがキャスターに攻撃を仕掛けようと目でも追えない速度で懐に近づき短剣を突きつけようとする。
「ぐお!?」
キャスターとほんの数センチの足場から炎が吹き出し、アサシンは燃えながら後退りする。
「おいおい俺はキャスターだぜ?
事前に罠を張らないとでも思ったのか?」
「おのれぇ!
ならば、これならどうだぁ!」
アサシンは包帯の巻かれた右腕を突き出し、包帯をほどく。
すると右腕が異常に長くなり魔力を込め、キャスターの心臓を抉り出そうと高速の突きを放つ。
「そんなもん、俺の魔術のほうが速えよ」
キャスターは前面にルーンの文字を描き、そこから炎を発生させて発射し、自分に直撃するよりも速くアサシンを吹き飛ばした。
「うおおバカなぁ!!」
アサシンは炎に包まれ成す術もなく消滅する。
「どうだい、俺の魔術は。
って、もういねえか。
おっと、嬢ちゃんも終わりそうだな?」
キャスターは消滅を確認したあと、マシュの様子を見る。
「ふん!」
「なぜだ、なぜ当たらぬ!
拙僧の薙刀が小娘に届かぬ!?」
ランサーは焦っていた。
先ほどアサシンと共にいたぶったマシュに自分の攻撃が一切読まれていることに。
それもそのはずだった。
マシュはただ攻撃を防いでいたわけではなく、防ぎながら動きを見ていたからだ。
「こんな小娘風情にいぃっ!!!」
ランサーは薙刀を矢鱈と振り回し、今度は隙を見せないように切り刻もうとした。
すると、その衝撃に耐えれず、盾が上空に弾き飛ばされた。
だがマシュは盾が弾かれた瞬間、ランサーの胴体に体当たり、ランサーの体は後方に飛ばされる。
「ぬおあ!?」
ランサーが倒れ込んだ隙を見て、飛んだ盾をジャンプしてキャッチし、そのまま重力と体重を盾に乗せるようにランサー目掛け急降下する。
「これで、倒れてっ!!」
「ぐおおおぉ!!?」
ランサーは成す術もなく押し潰され消滅した。
「戦闘終了です。
先輩もキャスターさんもお怪我はありませんか?」
「よお、嬢ちゃんも終わったみてえだな」
「ああ、俺も大丈夫だ。
二人ともありがとう」
三人は互いの無事を確認したあと、マシュは瓦礫に隠れている所長とフォウを呼びに行った。
「何だよ他の奴も連れてたのかよ。
おい坊主、そういえばさっき会った時からお前から妙な力の気配を感じんだが、何なんだ?
まるで何か持ってるような感じだがよ」
「妙な力?
あんたが言ってんのって、これのことか?」
悠馬はポケットの中から教会で拾ったほこりに塗れたバックルとカードケースを取り出した。
キャスターはそれらをしばらく見つめた後、何か確信したのか納得した様な顔になった。
「なるほどな。
坊主、こいつはお前が持っておけ。
近い未来、お前にとって重要になるからな」
「重要に?
・・・今の俺にはまだわからないけど、これはこのまま持つよ」
悠馬はバックルとカードケースをポケットの中に戻して再びキャスターを見る。
「それと、俺たちを助けてくれて、ありがとな」
「おいおい、よせよ。
お前らが初心者みたいに戦場で健気に戦ってるの見て、放っておけなかったんだよ。
・・・そうだ、忘れるところだったな。
俺はキャスターだが、真名はクー・フーリンってんだ。
本当ならランサーとして召喚されたかったんだがな」
「そうか、この時代だけかもだけどよろしくな、クー・フーリン」
「おう、俺からもよろしく頼むぜ坊主」
二人は固く握手を交わした。
そして、悠馬たちは所長とフォウと合流し聖杯の場所へと向かった。