聖杯の座標が記された場所に向かった悠馬たちは、クー・フーリンと契約し、洞窟の中を進んでいた。
「確かこの洞窟抜けたら聖杯なんだてな。
おい坊主、さっきから考え事か?
険しい顔してるぞ」
「・・・俺さ、不思議に思ってたんだよ。
この時代に来たってのにどうして落ち着いてられるかってな」
「ほぉ、まるでこの手のことには慣れてるみてえな感じだな」
クー・フーリンはまるで悠馬の心情を見透かすように言う。
クー・フーリンから見て悠馬はマスターとしても魔術師としても未熟だ。
だが、それでも目の前の現実に向かおうと歩みを進めようと動いているのが感じた。
それに、悠馬はマスターでありながらサーヴァントを助けようとマシュに必死に呼び掛けていたのだ、自分が首もとに短刀を突きつけられているのにも関わらず。
ならば悠馬がこうも冷静かつ慣れたような様子なのはまさか・・・とクー・フーリンは考えるが何かに気付きその思考が止める。
「おい坊主に嬢ちゃん、前にシャドウサーヴァントがいるぜ」
クー・フーリンに言われ、悠馬たちは前を見る。
そこには黒い靄がかかった赤い外套を纏った男が岩影から現れたのだ。
「やれやれ、誰かが聖杯に近づく気配を察したので来てみればキャスターじゃないか」
「ちっ!
やっぱりてめえかよ、アーチャー!」
「こいつが、アーチャーなのか!?」
「あぁ、気を付けな。
こいつは勝つためなら平気でマスターを裏切るいけすかねえ野郎だ!」
「私は称賛の高い方を選んだだけだ。
最も、その結果が君が言ったことになってしまったんだがね」
クー・フーリンが犬歯をむき出しにしながら悠馬に言い、アーチャーはやれやれといった様子で理由を付け加える。
「今回は君たちにこの道を譲ってやりたいのが山々なんだが、あいにく私の体は今は自由が利かないんだ」
「つまり、お前を倒さないとその道は通れない、て言いたいのか?」
「話が早いマスターだ。
その通りだ、今の私の役割はここの門番なんでね。
故に、ここに君たちが来てしまった以上、ひとり残らず始末しなければならないんだ」
アーチャーは両手から白と黒の剣を出現させる。
「所長!
フォウを連れて後ろに隠れてくれ!」
「わかったわ!」
「フォーウ!!」
所長がフォウを連れて後ろの岩陰に隠れたのを確認した悠馬は、マシュとクー・フーリンに戦闘準備を指示する。
すると、アーチャーが剣を構え真っ先に悠馬に目掛けて走る。
「先輩、危ない!!」
マシュが盾を構え、アーチャーの攻撃を防いだ。
「こいつ、坊主に目掛けてきやがったな!?」
「当然だ。
マスターが死ねば、サーヴァントは魔力の供給ができなくなり霊基は消滅してしまうのだから」
「っ!
この野郎!」
クー・フーリンは指先でルーン文字を描き、アーチャーを悠馬から遠ざけた。
「最初はこんなことしなかったのに今回はそこまで手に染めやがったな。
それとも、シャドウサーヴァントになっちまった影響で性根が腐っちまったのか?」
「それは少し違うな。
この状態だと私はどうしても悪性に働くようになっているのでな。
まぁ、自分の体を見えない糸で操り人形として動かされてる気分だ」
悠馬はアーチャーの動きを見る。
よく見ると、少しだけ震えていた。
その震えは、勝手に動く体を自分の精神で止めているのだろう。
「ちっ、気に入らねえ上にめんどくせぇな。
まぁ、シャドウサーヴァントになっちまったからにはどっちにしても倒すしかないだろ?」
「そうだな。
そうでなければ、お前たちは聖杯にはたどり着けないのだからな」
アーチャーは剣の刃先を悠馬たちに向ける。
「マシュ、クー・フーリン、相手は油断ができない。
マシュは俺の前で防御を、クー・フーリンは俺達から距離を離せるようアーチャーに攻撃してくれ!」
「了解です!」
「おう、任せな!!」
マシュは悠馬の前で盾を構え、クーフーリンは杖にルーンの文字を描き、炎を纏わせ槍のように構える。
「ふん、今はランサーではないのに、槍兵の真似事かね?」
「うるせぇ、こっちだって本当ならランサーとして現界したかったんだっつの!!」
クー・フーリンは杖を構え走りだした途端に消えた。
それと同時にアーチャーも一歩踏み出したと同時に消える。
二人が消えた瞬間に、何かがぶつかり合う強い衝撃を悠馬たちは感じた。
その衝撃の中に、クー・フーリンとアーチャーの姿があった。
二人がつばぜり合いしているのだ。
だが、明らかにクー・フーリンが押されていた。
「く、ぬぅう!」
「なるほど、ランサーの時ほどの速さは出ないか。
おまけに力も弱くなってるぞ?」
「寝言は寝てから言えってんだよ!」
クー・フーリンは距離を離し、地面に手を付け文字を描く。
すると、アーチャーの足場から火柱が吹き上がる。
しかし、アーチャーは吹き上がる寸前に後方に飛び距離を空け手に弓矢を出現させる。
「お前のはこの程度だったな」
アーチャーは矢をクー・フーリンに放ち吹き飛ばす。
「ぐは!?」
「クー・フーリン!」
「おっと、よそ見とは余裕だな」
悠馬がクー・フーリンが吹き飛んだ方向に目を向けた隙を見るなり、アーチャーは剣を構え悠馬を斬りかかろうと走り出す。
「先輩!!」
「なっ!?」
マシュが盾でアーチャーの剣を止める。
だが、マシュには眼中にないとでも言うかのようにマシュの脇腹を蹴り倒す。
「あう!」
「マシュ!!」
「さて、そろそろ終わりにしようか」
剣で悠馬の心臓を捉え凄まじい速度でアーチャーは突き刺そうとする。
悠馬は反射的に白羽取りで剣を取り、アーチャーの動きを止める。
「ほぉ、ただのマスターかと思ったが、身体能力はそれなりにあるんじゃないのか?」
「敵に誉められたところで嬉しくもねぇよ!」
悠馬は掴んだ剣を引っ張りアーチャーを引き寄せ、腹部に蹴りを入れ怯ませるように距離を空けた。
「ふむ、それを見る限り人間にしてはそれなりの修羅場をくぐり抜けて来たのではないかね?」
「それがどうした!
俺にはそんな覚えはねぇぞ!」
「どうだか、ここに来るまでにそのようなことがあったのではないかね?」
「そ、それは」
アーチャーに言われ、悠馬は思わず黙りこんでしまう。
この時代に来てからそうだった。
街は燃えてるし、人は生きてるかもわからない、そんな地獄のような現実を目の当たりにしてるのに、そこで落ち着いてる自分がいた。
まるで、以前にもこのようなことがあって慣れてしまったように。
だが、この時代に来る前に、カルデアに来る前の日常ではそんなことは一切なかった。
なら、あの夢は、この経験は、この矛盾は、一体何なんだ?
「何だ、自分でもわからないのか?
ならばもういい、ここで消えるが良いさ」
アーチャーは悠馬に斬りかかる。
「殺らせねぇよ!!」
「ぐっ!」
間一髪のところでクー・フーリンが炎を纏った杖でアーチャーの剣を弾き返し炎の玉をくらわせる。
「ぼさっとしてんじゃねえぞ坊主!」
「先輩大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ、大丈夫だ」
「無茶すんじゃねえよ、お前さっきあの野郎に俺と似たようなこと聞かれたんだろうがよ」
「そ、それは」
悠馬は思わず口つぐんでしまう。
「今そんなこと考えても仕方ねえだろうが!
今はあいつを倒して聖杯を取りに行くんだろ!
辛気臭えこと考えてないで、前を向きやがれ坊主!」
「そうですよ先輩!
確かに自分でもわからないことがあるかもしれません。
ですが、マスターである先輩が混乱しては、私たちはどうなるんですか!?」
「・・・・」
クー・フーリンとマシュの叱責で、悠馬は今までを思い出す。
確かに、今の自分にこの時代以外に悲惨かつ過酷な現状はなかったのに、自分はそれを当たり前のように順応していた。
そんな矛盾に満ちた経験が悠馬の脳裏にあった。
でも、だからってこんなところで立ち止まるわけにはいかない。
聖杯を探し出し、この時代の原因を探らないといけないのだから。
だから、自分は前に一歩踏みしめていかなければならないのだ、と。
「そうだな、確かに今はそんなことをしてる暇じゃないんだよな」
悠馬は前を見据え、アーチャーをにらみつける。
その瞳は、ただ前に進もうと光に満ちていた。
「俺は、俺たちは諦めれない!
だから、お前を倒して、先に進ませてもらうぞ、アーチャー!!」
「ほう、ポジティブにも希望にも抱いたかのような言い方だな。
なら、その希望を抱いたまま溺死しろ!
穿て、『
アーチャーは即座に螺旋状の剣と弓を出し、剣を矢のように放つ。
「マシュ、あれはやばい、俺を連れて避けろ!」
「いえ、ここは私が食い止めます!
『
マシュは悠馬の前に立ち盾を突き立て巨大な結界を出現させる。
その瞬間アーチャーの矢が結界に激突し、悠馬たちは衝撃に耐える。
「バカな、あの矢を防ぐだと!?」
「よし、よくやってくれたぜ嬢ちゃん!
行け
矢を防がれ動揺するアーチャーをよそに、クー・フーリンは杖を振るい炎吹き荒れる巨大な藁人形を召喚し、その拳でアーチャーの体を叩きつけた。
「ぐはあ!!」
アーチャーはあまりの衝撃に耐えれず、体の至るところから光の粒子があふれ出した。
「・・・驚いたな、まさかその娘にはそんな宝具があったとはな。
私の負けだな」
光の粒子がアーチャーの体を蝕み、手の先から足の先から徐々に消えだした。
「私は見ての通りこのざまだ。
お望み通り、この道を通るがいい」
「ああ、言われずともそのつもりだ。
わかったなら、大人しく消えやがれってんだ」
「ふん、もとよりそのつもりだ。
だが、この先の者には気を付けるがいい。
私のようにはいかんぞ?」
「おい待てよ、それって一体どういうことなんだ!?」
悠馬が聞こうとするも、アーチャーは光の粒子になり消滅した。
「ちっ、最後は焦らして消えやがったか。
だが、何にしても止まるわけにはいかねえよな、坊主」
「・・・そうだな、行こう!」
悠馬たちはすぐに所長とフォウと合流し先へと向かった。